2021-11-27 WHOが南アフリカで初めて検出された新たな変異株 (B.1.1.529) をVOCに指定しオミクロンと命名した [参照 crisp_bio記事 https://crisp-bio.blog.jp/archives/28041610.html]
2021-03-22 南アフリカ由来変異株B.1.351感染者は、他の変異株に有効な抗体を帯びている
2021-03-09 10:20 am B.1.351変異株はモノクローナル抗体と回復者およびワクチン接種者の血清を免れる [出典] Evidence of escape of SARS-CoV-2 variant B.1.351 from natural and vaccine induced sera. Zhou D, Dejnirattisai W, Supasa P, Liu C, Mentzer AJ [..] Mongkolspaya J, Ren J, Stuart DI, Screaton GR. Cell. 2021-02-23 [Journal Pre-proof]. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0092867421002269
B.1.351変異株はヒト受容体に結合する領域のスパイクタンパク質に L18F, D80A, D215G, L242-244 欠失, R246I, K417N, E484K, N501Y, D614G, およびA701Vの変異を帯びているが、今回は、L18FとR246Iの2種類の変異を帯びていない英国版B.1.351変異株と、武漢株に近いVictoria株 (SARS-CoV-2/human/AUS/VIC01/2020) の血清とモノクローナル抗体に対する回避性を比較解析した。
回復者血清 (B.1.351が登場する以前の2020年6月までに分離) 34名の血清, B.1.1.7感染者11名の血清, ファイザーとビオンテックBNT162b2 二回接種25名の血清, およびオックスフォード-アストラゼネカ AZD1222 2回接種25名の血清の中和活性、および血清由来モノクローナル抗体とRegeneron社とアスロラゼネカの抗体の中和活性を分析した。
その結果、英国版B.1.351変異株において、 回復者血清, B.1.1.7感染者血清およびBNT162b2またはAZD1222の接種血清のいずれについても、中和活性が有意に低下することを見出した。また、回復者血清由来するモノクローナル抗体のうち強力な20種類のうち14種類の中和抗体価が低下し、リジェネロン社の抗体の中和抗体価も大きく減じたが、アストラゼネカ社の2種類の抗体は英国版B.1.1.7株に対してもVictoria株に対するとほぼ同等の中和活性を示した。
加えて、B.1.1.7株のスパイクたんぱく質に特有の変異の中で、ヒト受容体結合ドメイン内のE484K, K417NおよびN501Yが協働してモノクローナル抗体からの逃避能をウイルスに付与し、N末端領域の欠損がモノクローナル中和抗体からの逃避を可能にすることも見出した。
2021-03-22 南アフリカ由来変異株B.1.351感染者は、他の変異株に有効な抗体を帯びている
[出典] "SARS-CoV-2 501Y.V2 (B.1.351) elicits cross-reactive neutralizing antibodies" Moyo-Gwete T, Madzivhandila M [..] Moore PL. bioRxiv. 2021-03-11 [査読無し投稿]. https://doi.org/10.1101/2021.03.06.434193
南アフリカ由来変異株B.1.351が免疫回避能を備えていることを報告していたNational Institute for Communicable Diseases of the National Health Laboratory ServiceのPenny L. Mooreが率いる研究グループは今回、B.1.351感染者に誘導された抗体が、他の変異株に対して有効であることを発見した。
- 南アフリカ由来変異株が注目を集めたのは、南アフリカで2020年始めに感染の第1波を浴びた地域が2020年後半にアウトブレイクに襲われ、また、それまでのSARS-CoV-2株に有効であったいくつかの抗体を回避する変異を帯びていたためである。Penny L. Mooreらはまた、B.1.351が、第1波の感染者に誘導された抗体も回避すること見出していた。
- 南アフリカでの感染の90%以上をB.1.351 (501Y.V2)が占めていた2021年初めに入院したCOVID-19患者89名が、B.1.351に対する強固に結合し中和する抗体を帯びており、かつ、抗体は、第1波感染を引き起こしたB.1.351が由来したオリジナルの変異株に対しても交差反応することを、発見した。
- 先行研究において、オリジナル変異株に感染した患者由来の血清のB.1.351に対する中和活性が大きく減弱したのと対照的に、B.1.351感染患者由来の血清は、オリジナル変異株に対して交差反応した。
- B.1.351感染患者由来の血清はまた、ブラジル由来変異株P.1に対しても中和活性を示した。
- B.1.351のゲノム配列に基づいて設計されたワクチンは、SARS-CoV-2株に対して広域中和活性を示す可能性が示唆された。
- B.1.351のスパイクタンパク質の配列に基づいたmRNAワクチンはすでにモデルナ社によって開発 [*]され、治験が開始されている。また、ファイザーとビオンテックも同様の治験を計画している [*crisp_bio 新型コロナウイルス: モデルナ社, 南ア変異株ワクチン候補mRNA-1273.351作出. https://crisp-bio.blog.jp/archives/22059084.html; NEWS "Rare COVID reactions might bold key to variant-proof vaccine" Callaway E. Nature 2021-03-19. https://www.nature.com/articles/d41586-021-00722-8 'Pseudovirus' surpriseの項の第4段落]。
B.1.351変異株はヒト受容体に結合する領域のスパイクタンパク質に L18F, D80A, D215G, L242-244 欠失, R246I, K417N, E484K, N501Y, D614G, およびA701Vの変異を帯びているが、今回は、L18FとR246Iの2種類の変異を帯びていない英国版B.1.351変異株と、武漢株に近いVictoria株 (SARS-CoV-2/human/AUS/VIC01/2020) の血清とモノクローナル抗体に対する回避性を比較解析した。
回復者血清 (B.1.351が登場する以前の2020年6月までに分離) 34名の血清, B.1.1.7感染者11名の血清, ファイザーとビオンテックBNT162b2 二回接種25名の血清, およびオックスフォード-アストラゼネカ AZD1222 2回接種25名の血清の中和活性、および血清由来モノクローナル抗体とRegeneron社とアスロラゼネカの抗体の中和活性を分析した。
その結果、英国版B.1.351変異株において、 回復者血清, B.1.1.7感染者血清およびBNT162b2またはAZD1222の接種血清のいずれについても、中和活性が有意に低下することを見出した。また、回復者血清由来するモノクローナル抗体のうち強力な20種類のうち14種類の中和抗体価が低下し、リジェネロン社の抗体の中和抗体価も大きく減じたが、アストラゼネカ社の2種類の抗体は英国版B.1.1.7株に対してもVictoria株に対するとほぼ同等の中和活性を示した。
加えて、B.1.1.7株のスパイクたんぱく質に特有の変異の中で、ヒト受容体結合ドメイン内のE484K, K417NおよびN501Yが協働してモノクローナル抗体からの逃避能をウイルスに付与し、N末端領域の欠損がモノクローナル中和抗体からの逃避を可能にすることも見出した。
2021-03-09 8:30 am/9:15am [和文概要追加] いわゆる南アフリカ変異株501Y.V2 (B1.351) 変異体を2020年12月に投稿したmedRxiv 論文の第2弾にあたるNature Medicine 論文の書誌情報とリンクを追加: "Sixteen novel lineages of SARS-CoV-2 in South Africa" Tegally H, Wilkinson E [..] de Oliveira T. Nat Med. 2021-02-02. https://doi.org/10.1038/s41591-021-01255-3
南アフリカは、2020年3月5日に初めて新型コロナウイルス感染を確認し、3月26日まで完全なロックダウン下にあった [Oxford stringency index of 90 *]。この迅速対応にもかかわらず、2020年11月には感染者が785,000名を超えた。[*] Webサイト: "COVID-19 Government Response Tracker" Blavatnik School of Government, University of Oxford. https://www.bsg.ox.ac.uk/research/research-projects/covid-19-government-response-tracker; 日本は, 2020年1月22日の2.78から始まって, 2020年4月30日前後に47.22になり、夏の間30~40、2020年12月9日に48.15に上昇し、それ以後2021年3月5日まで48以上と、表示されている。
研究グループは今回、1,365株のほぼ完全ゲノムを決定し、2020年3月6日から8月26日までの間に分離した株から16種類の新たな系統を同定した。
研究グループは今回、1,365株のほぼ完全ゲノムを決定し、2020年3月6日から8月26日までの間に分離した株から16種類の新たな系統を同定した。
- これらの系統のほとんどがこれまで同定されていなかった変異を帯びていた。
- またそのうち3つの系統 (B.1.1.54, B.1.1.56 および C.1)が第1波の間に感染が広がり、当時の南アフリカの全感染の~42%を占めていた。
- C.1系統は、2020年8月末までに南アフリカ内で地理的に最も広がった系統であったが、武漢株に対して、スパイクタンパク質上のD614Gのアミノ酸変異に相当する変異を含む16ヌクレオチドの変異を帯びていた。
- 2020年4月に同定されていた初期の南アフリカ特有の系統B.1.106は、KwaZulu-Natal州における院内感染を抑制した後、消滅した。
2021-01-30 crisp_bio 2021-01-29 新型コロナウイルス: 英国変異株と南アフリカ変異株の傾向と対策 (6報)へのリンク追加 https://crisp-bio.blog.jp/archives/25441681.html
2021-01-24 忽那賢志「再感染やワクチン有効性低下の懸念も 南アフリカやブラジルの変異株の何が問題なのか」YAHOO!ニュース 2021-01-24 9:46 am へのリンクを追加。https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20210124-00219000/
変異株に関して、査読なしジャーナルへの投稿、また、センセーショナルとも思われる記者発表や記事が相次ぐ中で、英国変異株VOC 202012/01に続いて、南アフリカ変異株501Y.V2とブラジル変異株P.1の流行状況, 特徴, 及び、双方が日本に与える影響が、冷静に[*]まとめられている [* crisp_bioの主観]。
変異株に関して、査読なしジャーナルへの投稿、また、センセーショナルとも思われる記者発表や記事が相次ぐ中で、英国変異株VOC 202012/01に続いて、南アフリカ変異株501Y.V2とブラジル変異株P.1の流行状況, 特徴, 及び、双方が日本に与える影響が、冷静に[*]まとめられている [* crisp_bioの主観]。
2020-12-30 "COVID-19ワクチン に関する提言 - 第1版" 日本感染症学会ワクチン委員会 2020-12-28: PDF https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/2012_covid_vaccine.pdf
[注]この項は2020-12-30に、他の情報を加えた別記事へと移動しました:
crisp_bio 2020-12-30 新型コロナウイルス: ワクチンに関する雑感と専門家からの情報
2020-12-29 3:45 PM 12月19日に南アフリカから成田空港に到着した1名に南アフリカ変異株感染が見られた [出典] 新型コロナウイルス感染症(変異株)の患者の発生について. 厚労省Webサイト 2020-12-28. https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_15819.html
2020-12-29 11:31 AM mRNAワクチンとウイルス感染症 [crisp_bioの雑感]
[注]この項は2020-12-30に、他の情報を加えた別記事へと移動しました:
crisp_bio 2020-12-30 新型コロナウイルス: ワクチンに関する雑感と専門家からの情報
2020-12-28 国立国際医療研究センター忽那賢志 感染症専門医が、イギリスの変異種, 南アフリカの変異種, なぜ変異が起こったのか?などについて解説したYahooニュースへのリンクを以下に追記:
Yahooニュース 2020-12-27イギリスと南アフリカ、それぞれの新型コロナ変異種の現在の状況は?https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20201227-00214749/
2020-12-24 初稿
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[出典] "Emergence and rapid spread of a new severe acute respiratory syndrome-related coronavirus 2 (SARS-CoV-2) lineage with multiple spike mutations in South Africa" Tegally H, Wilkinson E, Giovanetti M, Iranzadeh A [..] Bhiman JN, Williamson C, de Oliveira T. medRxiv. 2020-12-22. [プレプリント] https://doi.org/10.1101/2020.12.21.20248640
英国から報告された変異株はSARS-CoV-2がヒト細胞の受容体ACE2に結合するスパイクタンパク質に、
H69V70削除, Y144削除, N501Y, A570D, P681H, T716I, S982A, およびD1118H
の変異を帯びていた [crisp_bio 20201222更新]。一方で、南アフリカでも独特の変異株が発生し感染が拡大したことが報道されていたが、KwaZulu-Natal Research Innovation and Sequencing Platform (KRISP), Universidade Federal de Minas Gerais, Fundacao Oswaldo Cruz, University of Cape Town, National Institute for Communicable Diseases of the National Health Laboratory Serviceなど南アフリカとブラジルを主とする研究グループからの投稿がmedRxivから12月22日に公開された。今回報告された南アフリカの変異株 (501Y.V2)のスパイクタンパク質には、世界各地で拡がったことが知られているD614G変異に加えて
L18F, D80A, D215G, R246I, K417N, E484K, N501Y, およびA701V
の8種類の変異が加わった。英国変異株とは、N501Yが共通の変異である。
[注] 2020年12月23日の英国政府発表によると、22日に英国において南アフリカ変異株501Y.V2 (英国名B1.351)感染が2例発見されたとのこと。いずれも南アフリカからの帰国者と接触 [出典] "Confirmed cases of COVID-19 variant from South Africa identified in UK" Public Health England. 2020-12-23.
- 南アフリカにおいて2020年3月5日から2020年11月25日の間に集積した2,589本のウイルスゲノム配列を解析したところ, 10月15日の時点で海外から持ち込まれたと思われるD614G変異に加えてD80A, D215G, E484K, N501YおよびA701V のアミノ酸変異をもたらす塩基の非同義変異が同定され、さらに、11月末までにL18F, R246IおよびK417Nの3種類の変異が加わったことが明らかになった。
- この8種類の変異のうち、N501Y, E484K, そしてK417Nの3種類がスパイクタンパク質のヒト受容体ACE2に結合するドメイン (RBD)に位置していた[Erik Topolのツイートのリツイートを以下に引用]。
CRISP_SCIENCE@ScienceCrisp
medRxiv 2020-12-22
2020/12/24 08:23:45
https://t.co/0Qs2UdEsxN https://t.co/rkCqYqSKjh - なお、l242_244Lの3アミノ酸残基が欠失した変異株も存在したが、501Y.V2の系統に共通の変異と断定するには至っていない。
- GISAIDに登録されている2019年12月4日から2020年11月14日の142,037本の高品質なゲノム配列には5,964種類の変異型 (ハプロタイプ)が見られるが、これらと比較するとE484とN501の変異が中立的な変異を超えて正の選択を受けてきたことが示唆された。その中で、N501Yは南アメリカと英国で高頻度に見られたが、E484Kは南アメリカ以外では殆ど見られなかった (ゲノム配列の <0.02%)。
- 予備的な実験からヒトACE2の結合親和性に関して、N501Y変異は強める、E484Kはそこそこに強める、K417N変異の影響は最小限、であることが示唆されている。
- 多重変異は、長期間療養を続けた患者の体内で蓄積された可能がある。米国にて、152日にわたる治療を受けていた免疫不全患者において、スパイクタンパク質およびそのRBDに多重変異が発生し、その中で、128日目にN501がY501に変異した例が報告されている (Choi B et al. NEJM)。しかし、今回の解析で、多重変異に至る中間的な変異型が発見されていることから、多重変異を起こした個人がスーパースプレーダーとなって拡散したとは考えにくい。
- 研究グループは今後、ACE2への結合と中和抗体への結合に各変異が及ぼす影響をアッセイし、臨床データを付き合わせることで、各変異が症状の進行と重症化に及ぼす影響を解析し、南アフリカ全土にゲノム分子疫調査を広げていく。
[新型コロナウイルスに発生する変異の意味 (medRxiv投稿のイントロダクション部分から引用]
世界各地で発見されるSARS-CoV-2株のゲノムには、武漢株には存在しなかった変異が多数見られるが、各変異の生物学的意味 (感染性、増殖性、重症化など)はほとんど明らかになっていない。
- その中で、世界各地に拡がっているスパイクタンパク質におけるD614G変異については、伝播性 (transmissibility)を高めるが重症化はもたらさないことが複数の研究*によって示唆されてきた [*] Korber B et al. Cell , Volz E et al. Cell, Plante JA et al. Nature , Yurkovetskiy L et al. Cell; [参考] crisp_bio 20201218更新 新型コロナウイルスのスパイク(S)タンパク質D614G変異体の構造・機能解析
- 欧州と米国でそれぞれ独立に発生とされているスパイクタンパク質のN439K変異については、モノクローナル抗体と血清 (ポリクリーナル抗体)の中和活性回避と相関するという主張があった (Thomson EC et al. bioRxiv 2020 査読なし投稿)
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