[注] 2022-09-15以後は新型コロナウイルス: ワクチンに関する雑感と専門家からの情報 (2)に続く
2022-09-15 デルタ株流行期・オミクロン株流行期における新型コロナワクチンの有効性評価 ( 日本のデータ):[出典] 国立感染症研究所研究情報 2022-08-04 https://www.niid.go.jp/niid/ja/basic-science/epidemi/11369-epi-2022-02.html; [論文] "COVID-19 vaccine effectiveness against symptomatic SARS-CoV-2 infection during Delta-dominant and Omicron-dominant periods in Japan: a multi-center prospective case-control study (Factors Associated with SARS-CoV-2 Infection and the Effectiveness of COVID-19 Vaccines Study) Takeshi Arashiro et al. Clinical Infectious Diseases 2022-08-03 https://doi.org/10.1093/cid/ciac635
 新型コロナワクチンの有効性に対して、免疫の減衰や免疫逃避能をもつ変異株の出現が懸念されている。そこで、国内16医療機関の協力のもと、症例対照研究を実施し (感染者 2,595人、非感染者3,200人,)、有効性(発症予防効果)を検討した。推定された有効率は、デルタ株流行期 (8月-9月, 2021年)においては、2回接種後14日-3ヶ月では88%(95%信頼区間(CI)82-93)、2回接種後3-6ヶ月では87%(95%CI 38-97)であった。
 オミクロン株(BA.1/BA.2)流行期 (1月-3月, 2022)においては、2回接種後14日-3ヶ月では56%(95%CI 37-70)、2回接種後3-6ヶ月では52%(95%CI 40-62)、2回接種後6ヶ月以降では49%(95%CI 34-61)であった。3回(ブースター)接種後14日以降では74%(95%CI 62-83)まで回復した。
 重症化リスクの高い者(65歳以上または基礎疾患あり)に限定した解析およびマスク着用状況とリスク行動の有無でさらに調整した解析においても、結果は同様であった。
 
2022-09-08 中国政府はCanSino Biologics (康希諾生物股分公司)社の吸入式ワクチン「Convidecia Air」をブースターワクチンとして承認 - 中国、米国の先を越した
2023-02-03追記 -------------------
インドも経鼻ワクチンを承認 
[出典] "China and India approve nasal COVID vaccines — are they a game changer?" Waltz E. Nature 2022-09-07. https://doi.org/10.1038/d41586-022-02851-0
 インドの経鼻ワクチンは中国の経鼻ワクチンと異なり、鼻への滴下により投与される。また、中国版はブースター接種用に承認されたが、インド版はの2回接種する一次ワクチン接種用として承認されている。なお、他にイランとロシアで承認され経鼻ワクチンもあるが、有効性のデータがほとんど見られない。
--------------------- ------------------- 
[出典] 
 CanSinoBIOのConvidecia Airは同社の注射式COVID-19ウイルスベクターワクチン (Ad5-nCoV) [The Lancet 2022-01-15/2021-12-23; NCT04526990]をベースにしており、オミクロンをはじめとする変異株に対するブースターワクチンとして、Sinovacの不活性化ワクチン(注射式)よりも有効であるとされている。Convidecia Airは、吸入器 (nebulizer)を介して、エアロゾル状の薬剤を吸入し、15秒間呼吸を止めることで薬剤を肺に止めることを想定している。
 Convidecia Airは、経口・経鼻ワクチンの一種であり、SARS-CoV-2が体内に侵入する口や鼻の粘膜において免疫細胞を刺激し、ウイルスが肺へと拡散する前に迅速に阻止する粘膜ワクチンの一種である。COVID-19筋注ワクチンは、重症化や入院のリスクを下げるのに効果的であるが、軽症や感染を下げるには粘膜のレベルでウイルス侵入抑制効果を期待できる粘膜ワクチンの方が有利である。
 粘膜ワクチンはこれまでに、ポリオウイルス、インフルエンザ、コレラなどの病原体に対して、少なくとも9種類の承認され、このうち8種類が経口で、インフルエンザに対する1種類が経鼻で投与される。
 COVID-19粘膜ワクチンは、世界中で100種類ほどが開発されており、そのうちの約20種がヒトでの臨床試験に達し、さらにそのうち少なくとも4種 (インド、イラン、と中国の2種)は、安全性と他のワクチンとの比較効果を調べるための第3相試験を完了、または実施中である。しかし、ヒトを対象とする大規模な治験が完了するのは欧米ではこれか1~2年を要すると見られている [Nature の記事では、CanSinoBIOの他に、中国 Codagenix, 中国 Beijing Wantai Biological Pharmacy, インドBharat Biotech, 米国Meissa Vaccines, 米国CyanVac,  米国 Icahn School of Medicine at Mount SinaiとメキシコLaboratorio Avi-Mex,  英国アストラゼネカとオックスフォード大学, およびキューバのCenter for Genetic Engineering and Biotechnology による粘膜ワクチン開発が紹介されている]。

2022-09-04 モデルナとファイザー・ビオンテックのオミクロン対応スクリーンショット 2022-09-04 9.14.03ワクチンの解説図 (Eric Topolツイートから引用)
 右図のツイートにあるように米国では各地の薬局で入手可能 (available)になったようだ。日本では、4回目接種の対象となっている高齢者など重症化リスクの高い人や医療従事者らから、9月半ばにも接種を始めることを決まったようだ [9月2日付けの共同通信]

2022-09-02 
オミクロン・ブースターワクチン接種について知っておくべきこと
1.  [出典] "CDC recommends new booster shots to fight omicron" Greenhalgh J, Stein R. NPR News 2022-09-01 5:50 PM ET. https://www.npr.org/sections/health-shots/2022/09/01/1120560488/cdc-advisers-back-new-booster-shots-to-fight-omicron
 米国FDAが8月31日に、モデルナおよびファイザー・ビオンテックのオミクロン変異株を標的とするブースターワクチンの緊急使用を承認した。
 FDA承認の翌日CDCも諮問委員会の評決 (賛成13 対 反対 1)を受けて、モデルナとファイザー・ビオンテックのブースター・ワクチンの接種をそれぞれ、18歳以上と12歳以上に推奨するとした。ただし、ワクチン初回またはブースター接種から2ヶ月経過後とされている。一方で、ワクチンの専門家の多くが、最大の効果を得るために、CVOID-19感染または最後のワクチン接種から少なくとも4ヶ月経過してからの接種が望ましいとしている。
 FDAは今回、急速に進化するウイルスに対抗するために、マウスの免疫応答を引き起こす性能で判断し、ヒトでの治験を伴わないまま承認した。開発会社とFDAは安全性と感染拡大抑制効果に懸念は無いとしているが、CDCのアドバイザーの一人は、すでにウイルス接種を躊躇する層が存在することから、ヒトでの治験が必要であるとしている。一方で、他のCDCアドバイザーは、インフルエンザワクチンは、ヒトでの治験を伴わないまま毎年アップデートされていることをあげて、今回のCOVID-19ワクチンのアップデートに懸念は無いとした。

2. [出典] "Omicron booster shots are coming - with lots of questions" Vogel G. Science 2022-08-31 13:30. https://doi.org/10.1126/science.ade6584
 本記事の2022-08-16の項および前項と重複するところがあるが、Science 誌はQ&A形式で、オミクロン対応ブースターワクチンについて「知っておくべきこと」をまとめている [出典には項番は振られていない]。
(1)オミクロン対応ブースターワクチンには何が含まれているのか?
 武漢株のスパイクタンパク質のmRNAとBA.1またはBA.4/BA.5のスパイクタンパク質のmRNAで構成されている。これまでのmRNAワクチンよりも低量に設定されており、今回の接種対象はワクチンの既接種者に限定され、未接種者は対象外である。
(2)製造会社はどのようなデータを揃えたのか?
 BA.1を標的とするブースターについてはヒト治験データがあり、6月のFDA諮問委員会には副反応として先行mRNAワクチン同様の接種部位の痛みと倦怠感を伴うこと、および、武漢株とBA.1株に対して強い抗体反応を示すこと、および、BA.1ブースターワクチンが、BA.4とBA.5に対して、BA.1に対するよりは低レベルではあるが、有意な抗体反応を誘導することが、報告された。
 BA.4とBA.5を標的とするブースターについては、実験動物でのデータのみで、ヒトでのデータは得られていないが、ファイザー・ビオンテックのデータでは、BA.1、BA.2、BA.2.12.1、BA.4、およびBA.5に対して抗体反応を強化した。
 製造会社は、緊急使用承認ではなく完全承認を目指して、また、将来の更なるアップデートに備えるために、来月からヒト治験を開始し、中和抗体のレベルと評価するとしている。ただし、膨大なコストを要する感染または重症化に対する有効性の評価は行わない模様である。
(3)FDAはヒト治験のデータが無いワクチン承認を検討の対象にできるのか?
 インフルエンザワクチンの例では、その年の秋冬に流行すると想定される株に対抗するために、春にそれまでのワクチンからアップデートされる。その際に、ワクチン製造方法に大きな変更が無い限り、ヒトを対象とする治験は求められて来なかった。FDAとCDCは、新型コロナウイルスのmRNAワクチン製造方法のアップデートも、インフルエンザウイルスワクチンのアップデートと同様に扱うことができると判断している。
 一方で、ヒト治験のデータが無いブースターワクチンについては、一般社会での受容性を下げ、ひいてはワクチン接種率が低下することは、結果的に、ワクチンの効果を損なうリスクを伴う。
(4)BA.4/BA.5ブースターワクチンになぜ、祖先株を標的とするmRNAが含まれているのか?
 オミクロン変異株の次に来る変異株は、オミクロン変異株よリは武漢株に近い可能性があり、一価ワクチン出はなく二価ワクチンを接種する意味がある。
(5)変異株特異的mRNAワクチンはより有効なのか?
 査読前のmedRxiv 投稿 (Khouryら, 2022-08-26)によると、武漢株、ベータ変異株、デルタ変異株およびオミクロンBA.1変異株を標的とするワクチンを比較したところ、どのような種類のブースターワクチンであってもその接種によって中和抗体レベルが11倍までになり、武漢株ワクチン接種者における変異株対応ワクチン接種による中和抗体レベル向上は1.5倍に留まった。
 変異株特異的ワクチンの評価は、対象とする集団の特徴に依存する。その86%が重症化リスクから保護されている集団では、武漢株ブースターワクチンで98%が重症化から保護され、オミクロン変異株ブースターワクチンによって98.8%が重症化から保護される計算になる。変異株対応ワクチンは、病床が逼迫しているような大きな集団に対して十分接種する意義があると考えられる。
(6)効果が限定的だとすれば、このブースター接種は必要なのか?
 前項の考察と重複するが、FDA諮問委員会でオミクロン変異株特異的ワクチン開発計画に反対した2名の委員のうち一人は、費用対効果が低いこと、また、感染を収束させることを目的とする手段として、他のウイルスに比べて潜伏期間が短い新型コロナウイルスに対してはワクチンは有効ではない [*]、と指摘した [*] 一定量のウイルスを吸い込んだ感染者は、その時点で中和抗体のレベルが十分高くなっていない限り、第三者へ感染させるだけのウイルス量を排出可能になる。
 一方で、アップデートされたワクチンによって、免疫応答を広域化しておくことは、将来の変異株への備えとして費用対効果があるとする見方もある。

2022-08-31 ワクチン接種は、その後オミクロン株に感染した際の他に感染を広げるリスクを抑制する
[出典] NEWS “COVID vaccines slash risk of spreading Omicron — and so does previous infection”Scully RP. Nature 2022-08-26. https://doi.org/10.1038/d41586-022-02328-0
 UCSFとUC Berkeleyの研究チームが2022-08-09にプレプリントサーバーmedRxiv に投稿した"Infectiousness of SARS-CoV-2 breakthrough infections and reinfections during the Omicron wave"をベースとした記事。
 研究チームはオミクロンの第一波が米国を襲い始めた2021年末から5カ月間、カリフォルニア州の35ヶ所の成人刑務所でSARS-CoV-2感染が確認された2万2000件以上のデータを分析した。この波はBA.1亜種から始まり、4月末にはBA.2亜種がそれを凌いだ。この投稿に先立つ研究からは、ワクチン接種者がその後デルタに感染した場合、ウイルスを広げる可能性が低いことが示唆されていた。
 研究チームは、ワクチン未接種の囚人に比べて同房者に感染させる確率が、少なくとも1回のワクチン接種を受けた囚人は24%低いこと、感染経験のある囚人は21%低いこと、さらに、ワクチン接種をし感染経験もある囚人では41%低いことを、発見した。また、ワクチンを接種するごとに、ウイルスを感染させ
るリスクが平均で12%減少するという用量反応関係も発見した。一方で、ワクチンを接種時期も感染させやすさを左右し、最後にワクチンを接種してから5週間経過するごとに、同房者に感染させるリスクが6%増加することも発見した。

2022-08-30 mRNAワクチンを巡る特許係争
 国内外の報道によるとモデルナが26日にCOVID-19ワクチンをめぐる特許侵害でファイザーとビオンテックを提訴した。損害賠償を求め、販売停止は求めず [NHK NEWS WEB 2022-08-27 6:58 AM

2022-08-26
経鼻粘膜ワクチンを光速で [*]開発すべし
 筋肉内注射のmRNAワクチンを介した全身免疫の誘導加えて、呼吸器粘膜で強固な免疫を誘導する経鼻粘膜ワクチンへの期待 [*] モデルナのmRNAワクチンの開発には、米国政府のワープ・スピード作戦からの資金も貢献した。
[出典] EDITORIAL "Operational Nasal Vaccine - Lightning speed to counter COVID-19" Topol EJ, Iwasaki A. Sci Immunology 2022-08-12. https://doi.org/10.1126/sciimmunol.add9947 [著者所属] Scripps Research, Yale University School of Medicine
 Science Immunology 誌から刊行されたTangらによる新しい報告 [*]は、mRNAワクチンの弱点であるヒトのオミクロンに対する呼吸器粘膜での免疫応答を実現できないことをハイライトしつつ、経鼻ワクチンでそれを達成できることをマウスで実証し、オミクロン変異株に対しては、mRNAワクチン接種に加えて呼吸器粘膜での免疫応答を誘導するワクチンのブースター接種が必要であるとした。
  • 臨床開発中の経鼻ワクチンは少なくとも12種類あり、4種類が第3相ランダム化プラセボ対照試験に到達している。
  • 4種類のうち3種類はウイルスベクター (Bharat Biotech、Codagenix、Beijing Wantal Biological)で、組み換えスパイクタンパク質やRBD (受容体結合ドメイン)、または弱毒化ウイルスを使用し、残る1種類はタンパク質サブユニットワクチン (Razi Vaccine and Serum Research Institute)である。
  • このうち、Codagenixは、オミクロンBA.2に対して強い細胞性免疫と粘膜抗体反応を示すという良好な結果をプレスリリースし、このワクチンをWHOの多施設臨床試験ネットワークに組み込むと発表している。
  • また、現時点では第1相試験に留まっているが、Astra Zenecaのワクチン(ChADOx1/AZD1222)がマカクザルとハムスターで、D614G変異体に対して強い粘膜反応を引き起こし、また、鼻腔内投与の方が筋肉内投与よりも良い体液反応を引き起こすことも報告されている。
 [*] "Respiratory mucosal immunity against SARS-CoV-2 following mRNA vaccination" Tang J, Feng C [..] Liu S-L, Sun J. Sci Immunol 2022-07-19. https://doi.org/10.1126/sciimmunol.add4853
[著者所属] University of Virginia, Mayo Clinic, The Ohio State University, Chung-Ang University, Fred Hutchinson Cancer Research Center, University of Pennsylvania, Indiana University School of Medicine, University of Texas Medical Branch.
 ワクチン接種者とCOVID-19入院患者の気管支肺胞洗浄液 (Bronchoalveolar Lavage Fluid:BALF)および血液中のSARS-CoV-2 S特異的総抗体および中和抗体反応,BおよびT細胞免疫について比較検討した。
  • ワクチン接種者は、血中のスパイク (S)特異的抗体反応が強い一方で、BAL中のD614G変異株、デルタ株、オミクロン株 (BA.1.1)に対する中和抗体レベルが回復者に比べて有意に低かった。
  • mRNAワクチン接種者では、血中のS特異的B/T細胞免疫が誘導されたが、回復者と対照的に、BALにはこれらの応答が見られなかった。
  • マウス免疫モデルにおいて、mRNAワクチン接種単独では弱い呼吸粘膜中和抗体反応が誘導されるに過ぎないが、粘膜ワクチンを組み合わせることで、祖先ウイルスに加えてBA.1.1に対しても強い中和抗体反応が誘導されることを見出した。
 [経鼻ワクチン関連crisp_bio記事]
2022-08-16 英国、モデルナ社のオミクロン対応ワクチンの使用を承認
[出典] Press release "First bivalent COVID-19 booster vaccine approved by UK medicines regulator" Medicines and Healthcare products Regulatory Agency (UK), 2022-08-15. https://www.gov.uk/government/news/first-bivalent-covid-19-booster-vaccine-approved-by-uk-medicines-regulator
 英国の医薬品医療製品規制庁(MHRA)が、2020年時点の新型コロナウイルスと、オミクロン変異株の双方に有効なモデルナ社の二価ワクチンSpikevax bivalent Original/Omicron’の使用を承認した。
 この二価ワクチンの半分 (25 μg)が2020年株を標的にし、もう半分 (25 μg)がオミクロン変異株を標的としている。臨床試験では、2020年株とオミクロンBA.1に対して強い (strong)免疫応答を誘導し、探索的分析から、BA.4とBA.5に対しては良好な (good)免疫応答を誘導するとされている。
 安全性は、モデルナ社の従来のブースター接種と同レベルであり、重篤な副作用は見られなかった。
[参考] 二価ワクチンmRNA-1273.214に関するモデルナ社のプレスリリース 2022-07-11 
"MODERNA'S OMICRON-CONTAINING BIVALENT BOOSTER CANDIDATE, MRNA-1273.214, DEMONSTRATES SIGNIFICANTLY HIGHER NEUTRALIZING ANTIBODY RESPONSE AGAINST OMICRON SUBVARIANTS BA.4/5 COMPARED TO CURRENTLY AUTHORIZED BOOSTER"
 ブースターとして50μgを、既接種者およびブースター接種者に投与した1カ月後に,オミクロン亜型のBA.4およびBA.5に対する中和抗体反応が,既感染状況や年齢(18歳以上,65歳未満,成人)にかかわらず,現在認可されているブースター(mRNA-1273)と比較して有意に高くなった。
 
 なお、2022年6月23日刊行のThe Lancet Infectious Diseases 論文によるとCOVID-19ワクチンは接種開始年に2000万人に及ぶ人の命を救ったと算定されている。

2022-08-12 5~17歳の小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方 (日本)

[出典] 公益社団法人「日本小児科学会」2022年8月10日 http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=451
 日本小児科学会予防接種・感染症対策員会が「小児におけるCOVID-19の重症化予防に寄与することが確認されたことをふまえ、メリット(発症予防や重症化予防等)がデメリット(副反応等)を更に大きく上回ると判断し、健康な小児へのワクチン接種は『意義がある』という表現から、『推奨します』という表現に変更する方針としました。」と発表した.上記ホームページにその理由と考え方が詳細に述べらている.

2022-08-12 5歳未満のCOVID-19ワクチン接種について,保護者が知っておくべきこと (米国)

[出典] "COVID-19 Vaccines for Kids Under 5: What Parents Need To Know" Macmillan C. Yale Medicine 2022-06-19. https://www.yalemedicine.org/news/covid-19-vaccines-kids-under-5
 米国FDAがファイザー・ビオンテックとモデルナのワクチンの幼児への緊急使用を承認したことを受けて,イエール大学のプレスが,大学の専門家の見解をまとめて以下のQ&Aの形式で公開した:

  • 現在、どのCOVIDワクチンが幼児に認可されていますか?
  • COVIDワクチンは幼児に安全ですか?
  • COVIDワクチンは有効ですか?
  • 子供のためのCOVIDワクチンの用量は、大人のためのものと同じですか?
  • 幼児はいつ,どこで,COVIDワクチンを接種することができますか?
  • 夏が来て,子どもたちはより外に出るようになりました.秋まで接種を遅らせてもよいですか?
  • 子どもがすでにCOVID-19に感染していた場合はどうすればよいですか?
  • オミクロン特異的なワクチンが開発されるまで、待つべきでしょうか?
  • COVIDブースターが必要ですか?
  • 6ヶ月未満の子供用のCOVIDワクチンはあるのでしょうか?
2022-05-25 6ヶ月未満から5歳までへの3回目接種と,成人4回目接種に関する報告 (2件)
1)ファイザー・ビオンテックの新型コロナワクチンBNT162b2,6ヶ月から5歳未満を対象とする3回接種の第2/3相試験で好成績
[出典] PRESS RELEASE "Pfizer-BioNTech COVID-19 Vaccine Demonstrates Strong Immune Response, High Efficacy and Favorable Safety in Children 6 Months to Under 5 Years of Age Following Third Dose". 2022-05-23 18:45 EDT. https://www.pfizer.com/news/press-release/press-release-detail/pfizer-biontech-covid-19-vaccine-demonstrates-strong-immune
 オミクロン株が優勢になっていた時期に,6ヶ月から5歳未満の小児1,678人に,2回目の投与から少なくとも2カ月後に3回目の接種 (3 μg: 成人接種量の~10分の1)をした試験から,緊急使用許可 (EUA)に十分とみられる高い免疫原性,高い有効性,および高い安全性 (プラセボと同程度)を示すトップラインデータが公表された.有効性は80.3%と出たが,これは,3回目接種後7日以後,2022年4月29日までに発生した10例の症候性COVID-19に基づく値であり,のべ21例が発生した時点での値が評価されることになる.
 なお,青年、5歳以上の小児,青年,および成人を対象とした試験では,3回接種により,2回接種と比較して予防効果が高まることが引き続き示された.
 
2)BNT162b2とmRNA-1273の4回目接種による免疫強化は3回目接種による免疫強化よりも強い
[出典] NEWS "Fourth COVID-19 vaccine dose provides stronger immunity boost than third dose, shows UK study" Oxford Vaccine Group 2022-05-16. https://www.ovg.ox.ac.uk/news/fourth-covid-19-vaccine-dose-provides-stronger-immunity-boost-than-third-dose-shows-uk-study
 オックスフォード大学病院NHS財団トラストで実施されたCOV-BOOST試験において,「4回目のmRNAワクチン接種が安全で,3回目接種より抗体レベルを高める効果が高いこと」を Lancet Infectious Diseases 誌から発表した [*]
 4回目の接種は,英国の10施設において,2021年6月にファイザー/ビオンテックまたはアストラゼネカの初回接種 (2回)に続いて3回目の接種を受け,それから約7ヶ月後の2022年1月11日から1月25日の間に,4回目接種としてBNT162b2の全用量またはmRNA-1273の半量を受けるように無作為に割り付けられた166名 (年齢中央値 70.1歳)からのデータである.
 いずれのmRNAワクチンも,4回目接種による抗スパイクタンパク質IgGの濃度上昇の度合いが,3回目接種後のそれを有意に上回った.また,BNT162b2とmRNA-1273の4回目接種後のT細胞応答も,投与前の,それぞれ,5-32倍と6-22倍になった.
 副反応として,接種部位の痛みと疲労が最も多く見られたが,ワクチンに関連する重篤な有害事象はみられず,4回目接種が安全で忍容性が高いことが確認された.
[*]
"Safety, immunogenicity, and reactogenicity of BNT162b2 and mRNA-1273 COVID-19 vaccines given as fourth-dose boosters following two doses of ChAdOx1 nCoV-19 or BNT162b2 and a third dose of BNT162b2 (COV-BOOST): a multicentre, blinded, phase 2, randomised trial" Lancet Infect Dis 2022-05-09. https://doi.org/10.1016/S1473-3099(22)00271-7.

2022-05-22 
モデルナワクチンはファイザー・ビオンテックのワクチンよりも強い免疫応答を誘導する
[出典] "mRNA-1273 and BNT162b2 COVID-19 vaccines elicit antibodies with differences in Fc-mediated effector functions" Kaplonek P, Cizmeci D [..] Alter G. Sci Transl Med 2022-05-18. https://doi.org/10.1126/scitranslmed.abm2311 [著者所属] Ragon Institute (of MGH, MIT, and Harvard), Harvard Medical School, Seromyx Systems Inc, The Scripps Research Institute, Icah School of Medicine at Mount Sinai, Space Exploration Technologies Corp, Brigham Women's Hospital, MIT
 COVID-19に対して現在承認されている2種類のmRNAワクチン,モデルナのmRNA-1273とファイザー・ビオンテックのBNT162b2は,臨床試験に続いて実社会でも有効性を示している.いずれのワクチンも,SARS-CoV-2のスパイクタンパク質の全長をコードするRNA配列をベースとするなど,その設計と構成は類似しているが,実社会での接種が広がるにつれて両者の間の効果の違いが見え始め,mRNA-1273とBNT162b2が,微妙に異なる免疫応答を引き起こすことが示唆されてきた.そこで,Kaplonekらは今回,病院職員の集団を対象として,mRNA-1273 100 μg (28人)またはBNT162b2 30 μg (45人)の2回接種者の免疫原性がピークに達した時の液性免疫応答を比較した.
 両ワクチンとも懸念される変異株 (VOCs)を含むSARS-Co2-Vに対して,機能的に強固な液性免疫応答を誘導したが,ワクチンが誘導する抗体のプロファイルには差が認められた.
 mRNA-1273接種者では機能的抗体のみならず,スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン (RBD)およびN末ドメイン (NTD)に特異的な免疫グロブリンA (IgA)がより高レベルであった.さらに、RBD特異的抗体の枯渇により,濃度は異なるものの、両方のプラットフォームで展開される非RBD特異的抗体エフェクター機能の存在が明らかになった.mRNA-1273接種者は,好中球の貪食を誘発する抗体やナチュラルキラー細胞の活性化についても,BNT162b2接種者よりも増加した.
 
2022-04-10 実社会でのワクチン4回目接種の結果が報告され始めた.
1.3回接種後のブースター接種の効果 - 英国のCOV-BOOSTランダム化試験
[出典] "Immunogenicity and Reactogenicity of BNT162b2 and mRNA1273 COVID-19 Vaccines Given as Fourth Dose Boosters in the COV-BOOST Randomised Trial Following Two Doses of ChAdOx1 nCov-19 or BNT162b2 and a Third Dose of BNT162b2" Munro APS et al. Preprints with THE LANCET. Posted 2022-04-06. https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=4076824
  • 2022年1月11日から25日にかけて,BNT162b2を3回接種した参加者166名が無作為化され,4回目のワクチン接種を受けた.
  • 年齢中央値は70.1歳(四分位範囲:51.6-77.5), 3回目と4回目の接種間隔の中央値は208.5日(四分位範囲:203.25-214.75)であった.
  • BNT162b2およびhalf-m1273 (50 μg)の局所および全身性の有害事象は,疼痛および疲労が最多であった.4回投与後に3例の重篤な有害事象が報告されたが,いずれもワクチンとの関連はなかった.
  • 4回目の投与前後の抗スパイクIgGの増加倍率は、BNT162b2およびhalf-m1273群でそれぞれ12.19 (95%CI:10.37-14.32)および15.90 (95%CI:12.92-19.58),3回接種後のピークの1.59倍 (95%CI:1.41-1.78)と2.19倍 (95%CI:1.90-2.52)であり,T細胞反応もブーストされた.
2. BNT162b2の4回接種の効果 - オミクロン株が優勢になっていたイスラエル
[出典] "Protection by a Fourth Dose of BNT162b2 against Omicron in Israel" Bar-In YM et al. NEJM 2022-04-05.  https://doi.org/10.1056/NEJMoa2201570
  • イスラエルでは,2022年1月2日に60歳以上へのBNT162b2ワクチン4回目接種を開始
  • イスラエル保健省のデータベースを用いて、SARS-CoV-2のB.1.1.529(omicron)変異型が優勢だった期間(2022年1月10日から3月2日)に、60歳以上で4次接種対象者である125万2331人のデータを抽出
  • 4回目投与後8日目からの感染確定率および重症Covid-19の発生率を,3回のみの投与者(3回投与群)および3〜7日前に4回目の投与を受けた者(内部統制群)と比較
  • 10万人日あたりの重症Covid-19の発生数(未調整率)は,4回投与集約群で1.5,3回投与集約群で3.9,内部統制群で4.2であった。
  • 4回目の接種後6週間は,重症化に対する予防効果は低下しなかった
  • 4回目投与後4週目の感染確定率は,3回目投与群より2.0倍(95%CI, 1.9~2.1 )低く,内部統制群より1.8倍(95%CI, 1.7~1.9 )低いことが確認された.しかし、この保護作用は4週経過後の週には弱くなった
2022-03-14 コミナティーのブースタ接種 (3回目接種)によって,高齢者のCOVID-19重症化防止効果が向上:[出典] "High vaccine effectiveness against severe Covid-19 in the elderly in Finland before and after the emergence of Omicron" Baum Y, Polka E, Seino T, Kelp T, Nohynek H, Palm AA. medRxiv. 2022-03-13 [プレプリント]. https://doi.org/10.1101/2022.03.11.22272140
 Finnish Institute for Health and Welfareからの報告.
  • フィンランドの70歳以上の全住民を対象として,2020年12月27日から2022年2月19日まで,COVID-19関連の入院およびICU処置を,追跡照査を行い,2022年1月1日以降の観察結果を,オミクロン変異株特異的ワクチン効果として評価した.
  • コホートの規模は897,932人の規模となった.
  • COVID-19関連入院を予防するコミナティー (BioNTech/Pfizer)の有効性は,2回目接種後14-90日および91-180日でそれぞれ93% (95%信頼区間[CI]: 90%-95%)および87% (CI: 84%-89%),3回目接種後は14-60日まで96% (95%-97%)に増加した.他の同種・異種の3回投与の接種の効果も同程度であった.
  • ICUでの治療を必要とする重症のCOVID-19に対する予防効果はさらに良好であった.
  • 2022年1月1日以降におけるコミナティーの有効性は,2回目接種後14-90日および91-180日後にそれぞれ91% (CI: 79%-96%)および76% (56%-86%),3回目接種後14-60日後に95% (94%-97%)へと増加した. 
 フィンランドからの報告は,高齢者の重症化を予防するワクチン接種の有効性は,2回目の接種後やや低下するが,3回目の接種で回復し,また,オミクロン変異株出現後も,重症化に対する高い有効性が維持されることを示した.このところ連日報告される都内死亡例のほとんどが70代以上であり,高齢者へのブースター接種を2回目摂取後8ヶ月に固執することなく6ヶ月後に始めていれば,と思わされる.
 
2022-03-11 4回目接種 (ブースター接種2回目)について
 各種報道によると,日本でも,mRNAワクチンの3回目接種6ヶ月以上経過後の4回目接種の検討が始まったようだ [朝日新聞デジタル 2022-03-09 15:00; 讀賣新聞オンライン 2022-03-11 06:41]
 イスラエルでは1月2日に3回目接種から4ヶ月以上経過した60歳以上の成人,医療従事者および免疫不全患者への4回目接種を正式に承認した [JETROビジネス短信2022-01-06].その後,1月17日にイスラエル最大の病院
シェバ・メディカル・センターが初期段階の解析から「抗体の量は増えたものの、オミクロン株の感染を防ぐ効果は十分には得られない可能性がある」と発表した.[NHK 特設サイト 新型コロナウイルス 2022-01-18]
 EUは1月に4回目接種の準備に入り[青田秀樹 朝日新聞DIGITAL 医療サイト 朝日新聞アピタル 2022-01-22 08:31] ,米国も秋以後の4回目接種の検討を開始した [CNN.CO.JP 2022-02-20 12:54 JST]
 2月24日のNature Medicine 誌掲載News & Views記事は,互いに独立な4種類のブースター接種の解析結果を「mRNAワクチンを追加接種することがオミクロン変異株に対する中和抗体の生成に重要であること,一方で,より優れた治療用抗体が必要である」とまとめた上で,第4回接種 (2回目のブースター接種)が,新型コロナウイルスに対する免疫応答を増強する可能性を示唆した [Figure 1参照].
 ここで,イスラエルと日本の「日別感染者数と日別死者数」,および,「ワクチン接種回数,少なくとも1回接種した比率,当初指定の回数のワクチンを接種した比率(以下,接種完了)とブースータ接種の比率」を,Our World in Dataのサイトをベースにして比較してみた.2021年12月1日から2022年3月9日までの間のそれぞれの推移グラフを,左下図と右下図に引用した.左下図では,ワクチン接種で世界に先行していたとされるイスラエルの死者数が,1月から2月にかけて日本の10倍以上 (2022年2月4日時点 7.87 vs 0.53)に達したことが示されている.また,右下図では,12月1日以後,少なくとも1回ワクチン接種と接種完了のいずれも,日本がイスラエルを先行していたことが示されている.
スクリーンショット 2022-03-11 11.57.12  スクリーンショット 2022-03-11 11.57.25
2022-03-04 オックスフォード・アストラゼネカ(ChAdOx1)とモデルナ (mRNA-1273)の異種混合接種によって,より高くより広い免疫応答を獲得できる
[出典] "Broad anti–SARS-CoV-2 antibody immunity induced by heterologous ChAdOx1/mRNA-1273 vaccination" Kaku CI [..] Walker LM. Science. 2022-02-10. https://doi.org/10.1126/science.abn2688
 米国Adimab, Dartmouth College, Adagio Therapeutics,および,スエーデンのUmeå Universityと
Karolinska Institutetの研究グループが,同種 (ChAdOx1:ChAdOx1)または異種 (ChAdOx1:mRNA-1273)プライム・ブースト・ワクチン接種を受けた人のSARS-CoV-2 スパイク (S) タンパク質特異的血清反応およびメモリーB細胞 (MBC)を縦断的にプロファイリングした.
  • ChAdOx1が野生型Sタンパク質 (野生型S)を発現するのに対し,mRNAワクチンのmRNA-1273はヒト細胞に融合する前の状態 (プレフュージョンコンフォメーション)に安定化されたSタンパク質 (プレフュージョンS)を発現する.
  • 同種接種に対して異種接種が,野生型のSARS-CoV-2および懸念される変異株 (variants of concern, VOC)に対してより強力かつ広域な血清中和抗体およびMBC反応を誘導した.
  • ChAdOx1による野生型Sの発現が,プレフュージョンSに存在する標的部位に対するB細胞応答を回避させ,同種ブースター接種が,この非中和特異性をさらに拡大させるように見える.
  • mRNA-1273はChAdOx1と比較して,プレフュージョンSに対してより高い親和性とより広い反応性をもってB細胞を活性化することが示された.
  • 同種と異種の差異をもたらす要因として,野生型Sに対するS-2P (SのS2サブユニットにおける連続したプロリン置換)の細胞表面発現の差,ChAdOx1を送達するアデノウイルス粒子とmRNA-1273を送達する脂質ナノ粒子に対する自然免疫刺激特性に関連している可能性があるが,差異をもたらす分子機構の詳細は不明である.
  • 異種接種は,同種接種に優る免疫原性を示すが,誘導されるB細胞応答は非中和抗体によって支配されているため,中和抗体の大部分がオミクロン株を認識しない結果となる.
  • 受容体結合ドメインおよびS2サブユニット内に保存されたエピトープに対して,B細胞応答を集中させるように合理的に設計された免疫原が,SARS-CoV-2および今後の新たな変異株やおよび潜在的なβ-コロナウイルスに対する効果を高めるであろう.
[参考図] FIG. 1引用左下図とFIG. 4引用右下図参照:FIG. 1 血清中IgGの新型コロナウルスへの結合親和性と中和活性;FIG. 4 プライム・ブースター,同種接種と異種混合接種,が誘導する抗体が結合するSARS-CoV-2の変異株の広がり[被験者血清の80%がオミクロン株に対しても低いが検出可能な中和活性を示した]
 スクリーンショット 2022-03-04 10.56.22 スクリーンショット 2022-03-04 10.57.13
2022-03-02 WHO,低・中所得国が自国でワクチンや治療法を製造できるよう訓練するハブを南アフリカに続いて韓国に設置
[出典] "WHO announces 2nd hub for training countries to make COVID vaccine" Maddipatla M. Reuters 2022-02-24. https://www.reuters.com/business/healthcare-pharmaceuticals/who-plans-second-hub-training-countries-make-covid-vaccines-2022-02-23/
  • 南アフリカのハブは,COVID-19ワクチン製造のノウハウやライセンスを提供し,アフリカの企業によるmRNAワクチン製造を目指している [Reuters 2021-06-22].
  • ソウル郊外の新しいハブは,ワクチン,インスリン,モノクローナル抗体などの製品の製造を希望するすべての国にトレーニングを提供する.
  • 韓国の施設はすでに韓国に拠点を置く企業のための訓練を行っており,今後は他の国からの訓練生を受け入れることになる.
[crisp_bio 注] 日本はまだ国産ワクチンが実現していないが,といって,低・中所得国でも無い [国際協力機構: 主要国所得階層別分類]
 
2022-02-22 コミナティ2回接種者の第3回接種におけるコミナティとスパイクバックスの有効性と安全性 (コミナティはファイザー・ビオンテック製ワクチン;スパイクバックスはモデルナ製ワクチン)
[出典] 第76回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検 討部会、令和3年度第28回薬事・食品衛生審議会薬事分科 会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催)  2022年2月18日 資料1-8 ファイザー社ワクチン初回接種者に対する 3回目接種後中間報告(3) https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000899481.pdf: 新型コロナワクチン追加接種(3回目接種)にかかわる免疫持続性および安全性調査(コホート[*]調査)  
順天堂大学 コロナワクチン研究事務局作成提供資料.p. 34「まとめ」
[*] コミナティーを2回接種していた医療従事者を対象に,3回目コミナティー接種は2021年12月1日から開始し,2022年1月28日15時現在、2,826人が3回目接種済み,3回目スパイクバックス接種は2021年12月17日 から開始し,2022年1月28日15時現在、773人接種済み;SARS-CoV-2 ワクチン追加接種(3回目接種)者の接種4週後までの安全性.

[有効性]
  • 3回目追加接種28日後の幾何平均抗体価はコミナティ 20,219U/mL,スパイクバックス 30,164U/mL (幾何平均抗体価倍率はそれぞれ54.1倍,67.9倍)と,スパイクバックスの方が高かった.抗体価につい ては,性年齢を調整した上で,スパイクバックスの方が統計学的有意に高値であった.
  • 3回接種前の抗体価は,抗N抗体が陰性の629人において年齢が高くなるにつれて低い傾向が見られたが,3回接種後は,幾何平均抗体価倍率が年齢とともに増加し,結果として1か月後の幾何平均抗体価は年齢ごとの差はなかった.
  • コミナティでは3回目接種後1週間(Day8)までの日誌が回収できた2,626人では,37.5°C以上の発熱が39.8% (38°C以上は21.4%)にみられ,局所反応は疼痛が91.6%にみられた.スパイクバックス筋注では3回目接種後1週間 (Day8)までの日誌が回収できた437人では,37.5°C以上の発熱が68.0%(38°C以上は49.2%)にみられ、局所反応は 疼痛が93.8%にみられた.
[副反応] 
  • 発熱の発現頻度は、スパイクバックスの方が,コミナティよりも高かった.接種1日後の発現頻度が最も高く,接種 3日後にはほぼ消失していた。高齢者の方が、発熱の発現頻度は低かった。
  • 発熱,頭痛などの副反応はコミナティの3回目接種に比べて,スパイクバックス筋注の3回目接種は頻度が高かった.なお 両ワクチンとも腋窩痛,リンパ節症(リンパ節腫脹),リンパ節痛の頻度は2回目接種後に比べて3回目接種後の方が高かった.
  • 3回目接種後,接種翌日を中心としてコミナティでは8.83%,スパイクバックスでは10.30%の被接種者が病休を取得していたが,大差はなかった.病休日数は、病休を取得した人のうちほとんどが2日以内であった。
  • コミナティ追加接種において,2件のPMDA (Pharmaceutical and Medical Devices Agency/医薬品医療機器総合機構)への副反応疑い報告 (予防接種法上の報告義務になっている心筋炎が疑われた2症例は、重篤ではなく,既に軽快が確認されている),1件の因果関係のないSAE (Serious Adverse Event/重篤な有害事象)が認められた.スパイクバックス追加接種においては,PMDAへの副反応疑い報告,SAEとも認められなかった.
 [参考] 3回目モデルナ製の交互接種、抗体価の上昇率が高いと報告 厚労省部会 副反応も多く出る傾向 [対照表にまとめられている].東京新聞 TOKYO Web 2022-02-10 06:00
 
2022-02-18 
ブースター接種の効果の経時変化:昨日 (2月17日)投稿の出典である感染研報告の参考文献#9から補足: UK Health Security Agency COVID-19 vaccine surveillance report Week 6 10 February 2022 [挿入図のグラフ参照]. スクリーンショット 2022-02-18 17.28.56
 オミクロン株に対する発症予防の有効性が,ファイザー/ビオンテック2回接種にファイザー/ビオンテックまたはモデルナのブースター接種後2〜4週間で約65または75%へと低下し,10〜14週間後に役45%または約65%へと低下する.
 入院予防の有効性については,ファイザー/ビオンテック3回接種では4~9週間後と10-14週間後でそれぞれ約85%と約75%,ファイザー/ビオンテック2回にモデルナのブースター接種では5~9週間後で90%以上の有効性が維持されていた (10~14週間後のデータは無し) 
 なお,感染研のブースター接種のデータ22例 (陽性 7例; 陰性15例)の3回目接種からの日数は中央値16日 (範囲 3-37日)であったが,経時変化のデータは見当たらなかった.感染研の報告は,英国の報告を引用し,ブースター接種の有効性について"今後も解析を適宜行い、経時的に評価していくことが重要"としている.

2022-02-17 新型コロナワクチンの有効性 (国立感染症研究所報告から抜粋)
[出典] 2022-02-15 新型コロナワクチンの有効性を検討した症例対照研究の暫定報告(第三報)
  • 関東において上旬にはオミクロン株が9割以上を占め、下旬にはほぼ全ての検出株がオミクロン株であったと想定される2022年1月3日以降の調査における暫定結果の報告
  • 発熱外来受診者(陽性 547名; 陰性 805名)を対象 
  • 発症から14日以内で、37.5℃以上の発熱、全身倦怠感、寒気、関節痛、頭痛、鼻汁、咳嗽、咽頭痛、呼吸困難感、嘔気・下痢・腹痛、嗅覚味覚障害のいずれか1症状のある者に限定して解析
  • 調整オッズ比を元にワクチン有効率 (発症予防効果)を算出
   2回接種0-2ヶ月後では71% (95%CI 36-87)
   2回接種2-4ヶ月後では54% (95%CI 29-70)
   2回接種4-6ヶ月後では49% (95%CI 25-65)
   2回接種6ヶ月以降では53% (95%CI 16-74) 
   3回接種後では81% (95%CI 41-94)
   [注] 95%CI (信頼区間)が広いことに留意 

 考察の部分で,ワクチン接種の重症化予防効果について海外のデータを引用しつつ,「未接種者へのワクチン接種と,ブースター接種を勧める」とされている.

2022-02-01 ワクチンは感染予防,重症化予防に加えてロングCOVID (後遺症)を予防する効果がある
[出典] NEWS "Long-COVID symptoms less likely in vaccinated people, Israeli data say
Keien F.  Nature 2022-01-25. https://doi.org/10.1038/d41586-022-00177-5
 
 ロングCOVIDでは,SARS-CoV-2感染後,数週間,数ヶ月,あるいは数年間も,疲労,息切れ,さらには集中力の欠如といった症状を経験し続け,入院経験のない人も含めて感染者の30%が症状を持続していると推定されている.
 ロングCOVIDに対するワクチンの効果についてはこれまで諸説あったが,今回,Bar-Ilan Universityを主とするイスラエルの研究グループが,ワクチンはロングCOVID防止にも効果があるとする報告をmedRxiv (2022-01-17)に投稿した.
 2021年7月から11月にかけて3,388人 (SARS-CoV-2感染者 951人; 非感染者 2,437人)を対象として,ロングCOVIDの症状の有病率 (自己申告)とワクチン接種状況を比較した結果,ファイザー・ビオンテックのmRNAワクチンを2回接種したCOVID-19感染者は,ワクチン未接種者に比べて,疲労,頭痛,脱力 (weakness),および筋肉痛を訴える確率がそれぞれ,64%, 54%, 57%, および68%低いことを見出し,2021年9月の英国の報告 (Lancet Infect Dis, 2021)「ワクチン接種によってロングCOVIDのリスクが半減する」と整合するとした.

[注] オミクロン株に対応するワクチン接種については,crisp_bio記事
"新型コロナウイルス:南アフリカ由来変異株オミクロン (B.1.1.529系統)"参照.

2021-12-26 ノババックスのタンパク質ワクチン,WHOとEUが承認.EUでは,2022年1月から供給開始.https://crisp-bio.blog.jp/archives/25468044.html
2021-12-05 国産ワクチンに賭けたキューバ,今や輸出も開始https://crisp-bio.blog.jp/archives/28085465.html
2021-11-03
米国5-11歳へのワクチン接種,FDAに続くCDCの推奨 (recommend)*を受けて,実施へ
[出典] CDC Recommends Pediatric COVID-19 Vaccination for Children 5-11 Years. 2021-11-02.
https://www.cdc.gov/media/releases/2021/s1102-PediatricCOVID-19Vaccine.html
2021-10-30 [5-11歳への接種] FDA, ファイザー・ビオンテックのCOVID-19ワクチンの緊急使用を承認
[出典] FDA NEWS RELEASE "FDA Authorizes Pfizer-BioNTech COVID-19 Vaccine for Emergency Use in Children 5 through 11 Years of Age" 2021-10-29. https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/fda-authorizes-pfizer-biontech-covid-19-vaccine-emergency-use-children-5-through-11-years-age
  • [米国での感染状況] 18歳未満の感染者の39%が5-11歳であり,〜8,300人の5-11歳が入院し,10月17日時点で18歳未満のCOVID-19による死亡者17,691人のところ,5-11歳の死亡者は146人であった.
  • [処方] 12歳以上は30μg接種のところ,5歳から11歳には10μgを3週間おいて2回接種する.
  • [有効性] 5歳から11歳の免疫反応は,16歳から25歳までの免疫反応と同等であり,感染予防の有効性は90.7%であった.
  • [安全性] ワクチンを接種した約3,100人には,これまで重篤な副作用は見られなかった.
  • [今後の予定] CDCの諮問委員会が来週火曜日に開催され,さらなる臨床上の推奨事項を議論し,その後,実施に向けた最終的な結論に至る.
2021-10-06 ファイザー・ビオンテックmRNAワクチン完全接種から6ヶ月後の有効性
[出典] "Effectiveness of mRNA BNT162b2 COVID-19 vaccine up to 6 months in a large integrated health system in the USA: a retrospective cohort study" Tartof S et al. Lancet 2021-10-04; NCT04848584 
 米国内の3,436,957人を対象とするレトロスペクティブスタディー
 ・SARS-CoV-2感染に対する有効性: 6ヶ月後 73% [72-74%]
 ・デルタ変異株感染に対する有効性: 1ヶ月間 93% [85-99%]; 4ヶ月後 53% [39-65%],
 ・デルタ変異株以外の変異株に対する有効性: 1ヶ月間 97% [95-99%], 4~5ヶ月後 67% [45-80%]
 ・SARS-CoV-2感染に伴う入院に対する有効性: 6ヶ月後 90% [89-92%]
 ・デルタ変異株感染に伴う入院に対する有効性: 6ヶ月後 93% [84-96%]
2021-10-03 ナノ粒子ワクチンと新たなタンパク質ワクチンの臨床試験が進んでいる [crisp_bio記事2件]:
 ・タンパク質ワクチンは四葉のクローバか
 ・ナノ粒子ワクチンは汎コロナウイルスワクチンにまで手が届くか?
2021-10-01 植物由来ワクチンとは?
[出典] 田辺三菱製薬ニュースリリース「新型コロナウイルス感染症ワクチン候補MT-2766の日本における臨床試験の開始について」2021-09-30. https://www.mt-pharma.co.jp/news/2021/MTPC210930.html; [参考] DNA・mRNA・ベクター… 多様なワクチンの違いは?. 日経バイオテク. 2020-07-27 22:30. https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61944150X20C20A7000000/
  • MT-2766は,連結子会社であるMedicago Inc. (カナダ)が開発した新規ワクチンである.遺伝子操作によってウイルスのゲノムを含まない外殻たんぱく質だけで構成されるウイルス様粒子(Virus Like Particle, VLP)を細胞内で生成させ,効率的に抽出・精製する技術によって生産させる.
  • ワクチンの製造工場として,微生物や昆虫細胞,哺乳類細胞などが利用されてきたがMT-2766は植物細胞を工場として利用したことから,植物由来ワクチンと呼ばれていることになったようだ.今回は,植物の中で比較的増殖が早いタバコ属を利用している.
  • 処方:VLPワクチン3.75μgとGSK社のアジュバントを併用し21日間隔で2回投与する.
  • 2020年11月から開始したカナダ, 米国, 英国, ブラジル, アルゼンチン, およびメキシコで約24,000人を対象にした第2/3相臨床試験 [NCT04636697]の第3相パートの投与を終了し,データ解析中である.
  • 2021年10月2日から日本において145名 (20歳以上)を対象とする第1/2相臨床試験 [jRCT2051210093]を開始する.
  • 2022年3月までの承認申請を目指している.
2021-09-21 ファイザー・ビオンテックのワクチンは5歳から11歳にも安全かつ有効 (crisp_bio "GoogleのCOVID-19感染予測 (日本版)を見て思うこと (7)" の2021-09-21 18:54の項. https://crisp-bio.blog.jp/archives/27401248.html); 
2021-09-20 ワクチンのブースター接種について(3報). crisp_bio 2021-09-20. https://crisp-bio.blog.jp/archives/27463955.html
2021-09-12 
ワクチンがデルタ変異株に対して,入院や救急受診,および,重症化を予防する
[出典] NEWS RELEASE"Vaccines effective against Delta variant" Regenstrief  Institute. EurekAlert! 2021-09-10. https://www.eurekalert.org/news-releases/928139
 米国米国疾病管理予防センター (CDC)のVISIONグループ [*1]の一員であるRegenstrief  Instituteが,VISIONグループからの臨床試験の結果ではなく実社会におけるワクチンの効果に関する中間報告 [*2]を集約してニュース配信した.
  • VISIONネットワークは,デルタ変異株が優勢になった2021年6月, 7月, 8月に,9つの州の32,000件以上の医療受診を分析した.
  • COVID-19ワクチン未接種者は,ワクチン接種者と比較すると.救急治療や入院を必要とする可能性が,5~7倍に及んだ.この傾向は,デルタ変異株以前の新型コロナウイルスに対するワクチンの効果と同じ傾向であった.
  • ただし,効果のレベルはワクチンの種類によって異なった:

    ワクチンの種類

    救急受診を予防する効果

    入院を予防する効果

    mRNA- 1273 (モデルナ)

    92%

    95%

    BNT162b2 (ファイザー・ビオンテック

    77%

    80%

    Ad26.COV2 (ジョンソン・エンド・ジョンソン)

    65%

    60%

    ワクチン接種者は,発症したとしても,重症化しない傾向がある.

    75歳以上は相対的にワクチンの効果が低いという結果が出たが,高齢者はワクチン接種から今回の調査までの期間が相対的に長かったことなど様々な要因を評価する必要がある.

  • [*1] CDCが資金提供しているVISIONネットワークは,COVID-19ワクチンの効果を知るために,米国の医療・健康管理システムからのデータを提供しかつ分析する7つの組織で構成されている: Regenstrief Instituteのほかに,Columbia University Irving Medical Center, HealthPartners, Intermountain Healthcare, Kaiser Permanente Northern California, Kaiser Permanente Northwest およびUniversity of Colorado.
[*2] "Interim Estimates of COVID-19 Vaccine Effectiveness Against COVID-19–Associated Emergency Department or Urgent Care Clinic Encounters and Hospitalizations Among Adults During SARS-CoV-2 B.1.617.2 (Delta) Variant Predominance — Nine States, June–August 2021" CDC Morbidity and Mortality Weekly Report (MMWR). Early Release / September 10, 2021 / 70. https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/mm7037e2.htm 
2021-09-09 ミュー変異株:スパイクタンパク質を組み込んだシュードタイプウイルスでの比較実験で,ミュー変異株がCOVID-19回復者とBNT162b2ワクチン接種者の血清に含まれる中和抗体に対して,他の変異株よりも高い抵抗性を示すというbioRxiv 投稿 [*]と報道があったが,このデータは,ミュー変異株がワクチンを無力化することは意味していない.ワクチンは中和抗体誘導に加えて,細胞性免疫応答を誘導し,後の感染に対して迅速応答する免疫記憶を残すからである [* "Ineffective neutralization of the SARS-CoV-2 Mu variant by convalescent and vaccine sera" Uriu K. Kimura I [..] Sato K, G2P-Jpapan. bioRxiv. 2021-09-07. https://doi.org/10.1101/2021.09.06.459005]
 また,crisp_bio記事「新型コロナウイルス:変異株ギリシャ語アルファベット表記の一覧」の2021-09-03の投稿で紹介したように,ミュー株の感染はデルタ株の感染拡大と異なって収束に向かっている.
2021-09-08 [ニュース] 新型コロナウイルス:インドから初のDNAワクチン "ZyCoV-D" https://crisp-bio.blog.jp/archives/27366269.html
2021-08-27 20:50 ワクチン接種後の抗体価の変動

2021-08-27 20.46.31 臨床試験からの報告とは別に,実社会での接種が広がってから,mRNAワクチン二回接種後に抗体価が急上昇することが共通認識になってきたが,その後,抗体価の変化については,データが蓄積つつあるところのようだ.最近,国内において,第二回接種してから日をおいて抗体価レベルが急激に上昇し,その後低下する傾向が,個人 (n=1名)と医科大 (n=209名)から報告された [右図参照].
 この件については,個人の例でいうと126日 (~4ヶ月)以後,医科大の例でいうと3ヶ月以後,抗体価のレベルが維持されるのか,そのレベルで感染予防効果があるのか,免疫記憶 (メモリーB細胞とメモリーT細胞)による感染予防効果が十分かつ長く続くのか,こうしたデータがこれからも蓄積・公開されることを期待する.
[crisp_bio注]「個人の例」の接種後30日までのデータは,本ブログ記事の2021-07-25の稿にて引用させていただいていた.
2021-08-24
米FDA,緊急使用許可 (EUA)のワクチンから初の正式承認を発表
[出典] "Comirnaty and Pfizer-BioNTech COVID-19 Vaccine" FDA 2021-08-23. https://www.fda.gov/coronavirus-disease-2019-covid-19/comirnaty-and-pfizer-biontech-covid-19-vaccine; "FDA、ファイザー製コロナワクチン正式承認 米で初" ロイター. 2-21-08-24 12:20. https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-usa-pfizer-idJPKBN2FO1G7
 FDA (食品薬品安全局)は2021年8月23日に,EUA承認のベースとなった臨床試験以後のより大規模長期間のデータで安全性と有効性が再確認されたことから,「Pfizer-BioNTech COVID-19 Vaccine」を(正式)承認し,今後,「COMIRNATY [koe-mir’-na-tee/コマーナティー (CNBCのニュースではこう聞こえる)]として16歳以上の個人におけるCOVID-19予防と目的として販売されることになった.12歳から15歳までの個人への投与と特定の免疫不全者への三回目の投与 (二回接種から28日後に0.3 mL)は,EUAのもとで,継続される」と発表した.
 COMIRNATYおよびその他のワクチンが,FDAの厳格で科学的な基準を満たしたとして緊急使用許可のもとで接種も広がってきたが,今回のCOMIRNATYの正式承認によって,改めて,安全性,有効性,製造品質の高い基準を満たしたと広く一般に認識されて,ワクチン接種が加速されることを期待している.
 なお,最近米国での3歳児の重症化が報道されたが,FDAのJanet Woodcock長官代行は,12歳以下の接種は原点では推奨しないと述べた.

COMIRNATYの由来
 [出典: FORTUNE 2021-08-24 01:12 "Pfizer wants you to call its COVID vaccine Comirnaty. How the name came abouthttps://fortune.com/2021/08/23/pfizer-covid-vaccine-comirnaty-how-it-got-its-name/]
 パンデミックと,研究者が想像を超える速さでワクチンを開発することを可能にした画期的な技術を表現するために,「COMIRNATY/コミルナティとは,COVID-19,mRNA,コミュニティ,イミュニティという言葉を組み合わせたもので、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンが初めて承認されたことと、この成果を可能にした世界的な共同作業を強調しています」とファイザー社は昨年,EUでの承認の際に発表した.COMIRNATYを分解すると,COはCOVID-19から,“MIRNA”は mRNAの"an adulterated version", “-TY”は,コミュニティティー (community)と免疫 (immunity) の意が込められている. 
 なお,一般名のtozinameranは,WHOが求めるプレフィックス"tozina-"と,mRNAワクチンに求められるサフィックス"meran"の合成語であった. 
2021-08-22 スクリーンショット 2021-08-22 12.53.16厚生労働省, 8月18日に国内ワクチン開発の状況を更新[*1] [一覧表を右図に引用] : 塩野義製薬/感染研/UMNファーマ,第一三共/東大医科研,KMバイオロジクス/東大医科研/感染研/基盤研, およびVLPセラピューティクスの4グループが,第III相試験を2021年内に開始する意向を示し,残るアンジェス/阪大/タカラバイオグループは,当初よりも用量を高めた製剤で2021年8月から改めて第 1/2 相臨床試験を開始 [*2].塩野義製薬の開発動向については2021-08-04の項を,第一三共の開発動向については2021-07-12の項も,参照されたい.
[*1] 厚生労働省Webサイト「健康・医療 開発状況について」のWebページから https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00223.html
[*2] アンジェス株式会社 2021年8月17日プレスリリース https://www.anges.co.jp/pdf_news/public/QVKyShgFmbUEZ2P2ExojV8NrOxI9EWWe.pdf
2021-08-15 新型コロナウイルスのワクチン耐性株の出現を阻止するには,集団でのワクチン接種が完了するまで,感染抑制行動を緩めてはならない.
[出典] Rates of SARS-CoV-2 transmission and vaccination impact the fate of vaccine-resistant strains" Rella SA, Kulikova YA, Dermitzakis ET, Kondrashov FA. Sci Rep. 2021-07-30. https://doi.org/10.1038/s41598-021-95025-3
 Institute of Science and Technology Austria, Banco de España, およびUniversity of Geneva Medical Schoolの研究グループが,ワクチン接種率とウイルス感染率の変化の関数として,耐性株の出現確率をシミュレートするモデルを,人から人へ直接伝搬する感染症の流行動態を捉えた基本的な数理モデルであるSIRモデル [*]に基づいて構築し,ワクチン接種が進む中でも,感染抑制行動を続けることが重要であるとした.[* SIR [感受性(susceptible),感染性(infectious), ならびに隔離/回復(removed/recovered)]: 感染症の数理モデルと対策. 鈴木絢子, 西浦博. 日本内科学会雑誌 109 巻 11 号 (2020). https://www.naika.or.jp/jsim_wp/wp-content/uploads/2020/11/nichinaishi-109-11-article_4.pdf]
  • ワクチンは、感染症に対する最も効果的な公衆衛生対策の一つであり,新型コロナウイルスもワクチン接種によって間もなく制圧されると期待され,主張されている.これに対して現時点では,ワクチン供給と接種率が低いことに加えて,ワクチンに対して大なり小なり耐性を帯びた感染率が高い変異株の出現が,懸念材料になっている.
  • これまでに,ワクチン耐性株の集団内での感染拡大のダイナミクスを考慮したモデルは数多くあったが,集団内の接種率と感染率が耐性株の発生と定着にどのような影響を与えるかを示すモデルは存在していなかった.
  • 研究グループのモデルのモデルの模式図とパラメーターについて,それぞれ,Figure 1Table 1  を参照.
  • 予想通り,モデルは,ワクチンの接種率が高いほど耐性菌の出現確率が低下することを示した.
  • モデルは一方で,ほとんどの人がワクチンを接種した時点で.感染抑制行動を解除すると,耐性株の出現確率が大幅に上昇することを告げた.
  • すなわち,ワクチン接種キャンペーンが完了する間際に,ウイルスの感染率を低下させることで,耐性株の発生確率を大幅に低下させる必要があり,政策立案者や個人は,ワクチン接種が完了するまで,ソーシャルディスタンスを厳密に守るといった感染抑制行動を維持すべきである.
2021-08-06 報道によると [*1],モデルナ社が8月5日に「二回接種してから6ヶ月後からデルタ型などの変異株に対する予防効果が低下し始めることから,冬のシーズン前に三回目の追加接種 (ブースター接種)が必要になる」との見解を示したとのことである.[*1 日本経済新聞 2021-08-06 09:31更新 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN05DEN0V00C21A8000000/]
 一方で,Nature 誌は8月5日の"COVID vaccine boosters: the most important questions" [*2]と題した記事の中で,ワクチン未接種の人々が多数残されている中で,ブースター接種を急ぐべきではないとする意見も紹介しつつ,複数の専門家の見解と進行中のブースター接種の臨床試験からのデータと実社会でのワクチン接種効果のデータを参照しながら,現時点では,高齢や免疫不全などの高リスクな人々以外の全てのひとにブースター接種が必要か否か,科学的には明確になっていないとした.[*2 NEWS FEATURE "COVID vaccine boosters: the most important questions" Nature 2021-08-05. https://doi.org/10.1038/d41586-021-02158-6]
 また,
新型コロナウイルスのワクチンについて米国CDCのワレンスキー所長が8月5日[*3],新型コロナウイルスのワクチンについて、接種を完了した人でもウイルスを人に感染させることがあるとし「... 引き続きデルタ株によく効いている。重症化や死亡に関しては防止できる。だが,もはや感染を防ぐことはできなくなった」と指摘し,ワクチン接種完了者にもマスク着用を訴えた [*3 CNN 2021-08-06 11:50. https://www.cnn.co.jp/usa/35174910.html].
2021-08-04 塩野義製薬の新型コロナワクチン開発遅れる
[出典] 塩野義製薬、コロナワクチン、製剤見直し 抗体価上がらず 年内実用化は困難に. 化學工業日報. 2021-08-03
 同社は8月2日に,「2020年12月に第1/2相試験を開始したが,細胞性免疫による予防効果と安全性を確認できたが,中和抗体による液性免疫が上がらないため,アジュバントを変更したワクチン製剤の再開発を開始し改めて第1/2相試験を行い,年度内の実用化を目指す」と発表した.2021年5月の時点では,同社は「条件付き早期承認」のような特例が認められれば、年内の供給開始が可能との見通しを示していた。
2021-07-25 2021-07-25 7.53.24mRNAワクチンの有効性が維持される期間については,三回目の接種の必要性も含めて,議論があるが,一回接種では十分ではなく二回接種が必須であることが種々の報告で明らかになってきた.ツイッターでは,"叢雲くすり(創薬ちゃん)@souyakuchan" さんが二回接種後,日々自ら採血して抗体価 (IgG抗体)を測り投稿なさってきた.その推移グラフが5月21日にツイートされたので右図に引用した [ツイッターのアカウントを紹介することで引用可].一回接種の危うさと二回接種の効果が一目瞭然.
2021-07-12 第一三共のmRNAワクチン, 2020年度の実用化へ向けて前進
[出典] "第一三共コロナワクチン 数千人規模の臨床試験年内にも実施へ" NHK NEWS WEB 首都圏 NEWS WEB. https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20210712/1000067175.html厚生労働省「ワクチン開発と見通し」Webサイト https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00223.html M&M Online 2021-03-25. https://maonline.jp/articles/daiichisankyo_kmb_anges_shionogi20210325
年内に数千人規模の臨床試験を「非劣性試験」で開始
 第一三共は国内第1/2相臨床試験を進めているが,「非劣性試験」で最終段階 (第3相試験)を進める模様.非劣性試験では,一般への接種が進んで実績がある既存のワクチンがもたらす抗体価と比較する.こうして,有効なワクチンが存在するにもかかわらず,対照群にプラセボ (偽薬)を投与するという倫理的問題を回避する.
国内では4社が臨床試験を進めている
 第一三共に加えて,塩野義製薬 (タンパク質ワクチン)と明治ホールディングス傘下のKMバイオロジクス (不活化ワクチン)も第1/2相臨床試験を進めており,アンジェス(スパイクタンパク質をコードするプラスミドDNAワクチン)は第2/3相試験の接種を2021年3月10日に完了している.
mRNA製剤の将来
 第一三共の籔田バイオロジクス本部長は「mRNAは非常に速いスピードで医薬品開発ができるので、いまは新型コロナが最優先だが、今後、ほかのワクチンや遺伝子治療、がん領域でも開発を推進していきたい」と述べた.
2021-07-08 イスラエルから.デルタ変異株の感染予防に対するファイザー/ビオンテックワクチンの有効性低下の報道あり: crisp_bio 2021-07-08 新型コロナウイルス: イスラエル,デルタ変異株に対するワクチンの感染防止の有効性低下を受けて,3回目の接種を検討. https://crisp-bio.blog.jp/archives/26848494.html
2021-07-02

  1. 緊急使用を承認された種類のmRNA ワクチンはいずれも,実環境下で,成人の新型コロナウイルス,実環境下で,成人の新型コロなウイルス感染予防に非常に有効なことが示された; 3,975人の前向きコホート研究において,感染者数が,完全接種 (2回ワクチン接種後14日以上経過)で5 人,部分接種 (1 回目の接種後 14 日以上〜2 回目の接種後 14 日未満)で11 人,ワクチン未接種で156 人であった; ワクチンを接種したにもかかわらず感染が拡大した人のウイルス RNA 量 (40%),発熱症状のリスク (58%),および罹患期間 (数日)を有意に減じた;  [出典] "Prevention and Attenuation of Covid-19 with the BNT162b2 and mRNA-1273 Vaccine" Thompson MG et al. NEJM. 2021-06-30. https://doi.org/10.1056/NEJMoa2107058
  2. NOVAVAXのワクチン第3相試験での好成績が,NHEJ論文にて報告された: [20210702更新] 新型コロナウイルス: J&Jに続いてノババックス (NOVAVAX)のNVX-CoV2373ワクチンも第3相試験で好成績. https://crisp-bio.blog.jp/archives/25468044.html 
2021-06-26 ドイツのCureVac社のmRNAワクチン'CVCoV'での挫折と'CV2CoV'による再挑戦に関するcrisp_bio記事投稿: 2021-06-26 新型コロナウイルス: 期待外れの第3のmRNAワクチンに学ぶ https://crisp-bio.blog.jp/archives/26740386.html
2021-06-21
COVID-19の品質管理の重要性を論じた「展望/Perspective」を,"crisp_bio 2021-06-21"にて取り上げた: "COVID-19ワクチンの生物学的特性評価とバッチリリースを考える"
https://crisp-bio.blog.jp/archives/26695990.html
2021-06-16 新型コロナウイルス: ワクチンブレイクスルー感染 (3報) - ワクチン接種を1回または2回済ませても感染する事例が報告されている (各種臨床試験の結果で有効性が100%になっていないことに符号すると言えば符号する).https://crisp-bio.blog.jp/archives/26642380.html
2021-06-15 09:01 ノババックス (Novavax)のワクチンNVX-CoV2373, 米国とメキシコでのPREVENT-19第3相試験でも好成績 [crisp_bio 2021-06-15更新記事 https://crisp-bio.blog.jp/archives/25468044.html]
2021-06-14 13:43 日本医師会/公益信託 武見記念生存科学研究基金COVID19有識者会議資料「SARS-CoV-2変異株の特徴とワクチン開発の動向」(2021-06-11 18:40)へのリンクを追加:  https://www.covid19-jma-medical-expert-meeting.jp/topic/6522
[著者] 古澤 夢梨 (京大ウイルス・再生医科学研), 山吉 誠也 (国立国際医療研究センター研), 河岡 義裕 (国立国際医療研究センター研/東大医科研)
[概要] 国内で特例承認された3種類のワクチンとジョンソン・ジョンソンのワクチンの特徴,変異株の特徴とワクチンの有効性がまとめられ  [*],また,日本国内におけるワクチン開発についても触れられている;[*] アルファ株 (B.1.1.7系統), ベータ株 (B.1.351系統), ガンマ株 (P.1系統), およびカッパ株およびデルタ株 (B.1.617.1およびB.1.617.2系統)に対する既存ワクチンの有効率が低下する傾向にあるが,一定の効果を示し,特に,変異株に感染した場合に高い重症化予防効果を期待できる.
2021-06-14 11:41 "mRNAワクチンの有効性と安全性"の解説ビデオ (12分50秒) [岩崎明子イエール大学医学部免疫生物学部門教授/ハワード・ヒューズ医学研究所生研究員 制作]へのリンクを追加.mRNAワクチンではないが話題になっていたアストラゼネカのワクチン接種後の血栓症のリスクが,新型コロナウイルスへの感染や喫煙が血栓症もたらすリスクよりも桁違いに低いことなどにも触れている.
2021-06-11 23:07 BNT162b2は,インド由来変異株とナイジェリア由来変異株も中和する: crisp_bio記事「ファイザー社とビオンテック社のmRNAワクチン'BNT162b2' 」https://crisp-bio.blog.jp/archives/24484684.html 参照.
2021-06-11 21:01 crisp_bio記事へのリンクを追加:  2021-06-11 新型コロナウイルスは,どのようにして変異して,変異株として出現するのか. https://crisp-bio.blog.jp/archives/26607130.html [米国での専門家へのインタビュー記事から.一般向け]
https://crisp-bio.blog.jp/archives/26607130.html
2021-06-07 有効率50.4%のワクチンを住民の70-75%に2回接種した段階で,接種未完了グループのCOVID-19発症率が低下した [crisp_bio 2021-06-07 https://crisp-bio.blog.jp/archives/26577226.html]
2021-06-01 
 プレプリントサーバーから「アストラゼネカワクチンの含まれる不純物が,有害事象に関連している可能性がある」「製造過程での品質管理が必要」とする研究報告が公開された [詳細: 2021-06-01 アストラゼネカのワクチンに含まれている不純物が有害事象をもたらす可能性がある.https://crisp-bio.blog.jp/archives/26521621.html]
2021-05-31
ワクチンに限らず新型コロナウイルス感染症全般について解説した記事へのリンクを追加: 忽那賢志「症状、予防、経過と治療… 新型コロナウイルス感染症とは? 現時点で分かっていること (2021年5月)」YAHOO!ニュース. 2021-05-30 06:00. https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20210530-00240373/
 コロナウイルス [SARS-CoV-1, MERS, SARS-CoV-2 (COVID-19)], 変異ウイルス [英国, 南ア, ブラジル, インド], 感染拡大の状況 [世界, 日本],症状の進行 [*],重症化しやすい人,後遺症,種々の検査法 [PCR, 抗原, 抗体]の特徴,症状の進行に応じた治療法,ワクチンの特徴の解説に続いて「発症3日前~5日後が最も感染性が強い」のグラフに続いて,「新型コロナはインフルエンザなどと違い、発症する前の状態から人にウイルスをうつすことがあります。そのため、症状がない人も含めて屋内ではマスクを着用することが推奨されています。」と結びへ.
[*]  「発症してから1週間程度は風邪のような軽微な症状が続き、約8割の方はそのまま治癒しますが、約2割弱と考えられる重症化する人は発症7日目前後から徐々に肺炎の症状が悪化して入院に至ります。」
2021-05-28 関連crisp_bio記事へのリンクを追加: 2021-05-28 新型コロナウイルス:「選択と集中」から漏れた研究成果がmRNAワクチンをもたらした.https://crisp-bio.blog.jp/archives/26487894.html
2021-05-24 14:10 高齢者の場合,ファイザー/ビオンテックのワクチンの1回目と2回目接種の間隔を延ばすと,抗体価は上昇するが,細胞免疫応答は低下する
[出典] "Extended interval BNT162b2 vaccination enhances peak antibody generation in older people" Parry H, Bruton R, Stephens C, Brown K, Amirthalingam G, Hallis B, Otter A, Zuo J, Moss P. medRxiv 2021-05-17 [プレプリント]. https://doi.org/10.1101/2021.05.15.21257017
 バーミング大学と英国公衆衛生庁からの投稿.
  • 2021年1月,英国医薬品・医療製品規制庁 (UK MHRA )は,新型コロナウイルスの感染状況が悪化する中で,ファイザー/ビオンテックのmRNAワクチンBNT162b2の第1回接種を加速するために,第2回接種までの間隔を,臨床試験での3週間から12週間に延ばした.
  • 研究グループは,80歳以上172人の参加を得て,99人には3週間の間隔で,73人に11~12週間後に2回目の接種を施し,2回接種後2週間の時点で,両グループのスパイクタンパク質特異的な抗体と細胞免疫反応を比較した.後者については,血液細胞をスパイクタンパク質特異的なペプチドで一晩刺激した後,T細胞から放出されるIFN-γレベルを測定した.
  • その結果,12週間グループにおける抗スパイクタンパク質抗体値のピークは3週間グループの3.5倍に達したが,細胞免疫応答は低下した.
2021-05-24 13:28 インド由来変異株に対して,ファイザー/ビオンテックとオックスフォード大/アストラゼネカいずれのワクチンも2回接種が有効 [参照: crisp_bio 新型コロナウイルス :インド由来変異株の2重変異または3重変異とは https://crisp-bio.blog.jp/archives/26169166.html]
2021-05-23 
新型コロナウイルスの混合接種は有効か ?
 2021-05-23 Nature 誌のニュース [*1]によると,スペインでのCombicvacS trialから「アストラゼネカのワクチンの第1回接種から8週間以上経過したのちに,ファイザー・ビオンテックのワクチンを接種したところ,より強力かつより安定した抗体反応が誘導された」というオンライン発表があった.
 英国ではCom-COV Study Group [https://comcovstudy.org.uk/home]が,同じ組み合わせの'異種混合'の安全性に関する中間報告をLancet誌に発表 [*2]し,その際に,免疫応答に関する結果については今後発表するとしていた.
[*1] NEWS "Mix-and-match COVID vaccines trigger potent immune response" Callaway E. Nature 2021-05-19. https://doi.org/10.1038/d41586-021-01359-3
[*2] "Heterologous prime-boost COVID-19 vaccination: initial reactogenicity data" Shaw RH [..] Snape MD & Com-COV Study Group. Lancet. 2021-05-21. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(21)01115-6
2021-05-19 「世界トップレベルのワクチン研究開発拠点へ」政府提言案判明. NHK NEWS WEB. 2021-05-18 18:31. https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210518/k10013037871000.html
 この報道では「国産ワクチンの開発が後れをとった理由として、研究機関の機能と人材の不足や研究費の配分の不足、それに開発・生産を担う国内産業のぜい弱性などをあげています。」とされているが,社会的受容性の課題も理由に含まれているのだろうか.
2021-05-11 22:18 crisp_bio記事 "新型コロナウイルスワクチン (ファイザー・ビオンテック・ワクチン)接種者の約9割に,各種変異株に対する中和抗体が誘導されていた"へのリンクを追加. https://crisp-bio.blog.jp/archives/26346516.html
2021-05-11 12:09 
米FDA、12~15歳へのファイザー製ワクチンの緊急使用を許可. BBC NEWS | Japan. 2021-05-11. https://www.bbc.com/japanese/57035456
2021-05-10 2021-05-10 12.03.49
Scripps Research Translational InstituteのEric Topol [*]がツイート (2021/05/10)した「各種変異株 (英国, 南ア, ブラジル, 米国, およびインド由来)に対する各種ワクチンの有効性を,各種資料からまとめた表」を一部和訳し右図に掲載した [* https://en.wikipedia.org/wiki/Eric_Topol]
 オリジナルの表には参考文献が付されていなかったが,カタールでの評価については,crisp_bio記事「新型コロナウイルス: ファイザー社とビオンテック社のmRNAワクチン'BNT162b27'」https://crisp-bio.blog.jp/archives/24484684.htmlの"2021-05-10 BNT162b2の接種国のカタールでの評価"の項参照.
 
2021-05-07 ブースター接種と若年者への接種
  • 英紙タイムズは、英国では新型コロナの脅威をクリスマ スまでに完全に排除することを目的として,秋に50歳以上を対象に3回目の 新型コロナウイルスワクチン接種 (ブースター接種)を実施する見通しだと伝えた。3回目の接種には,変異株対応版のワクチン,または,ファイザー ・ビオンテック,オックフォード・アストラゼネカ ,またはモデルナのいずれかを,想定している.[出典] "Third Covid vaccine for over-50s before winter" Dunn TN. THE TIMES. 2021-05-05 09:00 BST. https://www.thetimes.co.uk/article/third-covid-vaccine-for-over-50s-before-winter-jhpj57g0d
  • カナダ政府はファイザー ・ビオンテックのワクチンの16歳以上への接種を承認していたが,第3相試験の成績に基づいて,5日,12~15歳への接種も承認した [出典] BBC NEWS JAPAN. 2021-05-06 JST.  https://www.bbc.com/japanese/57004644
  • モデルナ社,mRNA-1273の2回接種に加えて,mRNA-1273または変異株対応mRNA-1273.351を接種 (ブースター接種)することで,SARS-CoV-2とその変異株 (B.1.351とP.1)に対する中和力が増加すると発表した.また,12~17歳を対象とするTeenCOVE第2/3相試験 [https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04649151] の最初の解析結果から,有効性96%で重大な安全性の事象は確認されていないと,プレス発表した [出典] "Moderna Reports First Quarter Fiscal Year 2021 Financial Results and Provides Business Updates" Moderna. 2021-05-06. 07:03. Moderna. https://investors.modernatx.com/news-releases/news-release-details/moderna-reports-first-quarter-fiscal-year-2021-financial-results
2021-04-29 ワクチンの有効性について2報
1. 米国にて,〜5万人近いコホートで,mRNAワクチンの有効性 >96%を確認
[出典] "Effectiveness of mRNA COVID-19 vaccines against SARS-CoV-2 infection in a cohort of healthcare personnel" Swift MD et al. Clinical Infectious Diseases. 2021-04-26. https://doi.org/10.1093/cid/ciab361
 Mayo Clinicの研究グループが,米国でファイザー /ビオンテックまたはモデルナのmRNAワクチンを接種した医療従事者49,220人の大規模なコホートにおいて,有効性が96%以上であったと報告した.第3相試験から報告されていた有効性が実社会で実証されたことになる.
2. 英国公衆衛生庁 (Public Health England, PHE)の調査結果をBBCが報道
[出典] "Covid: One dose of vaccine halves transmission - study" BBC NEWS. 2021-04-28. https://www.bbc.com/news/health-56904993
 ファイザー/ビオンテックまたはアストラゼネカ/オックスフォード大のワクチンを1回接種し,その後の3週間でCOVID-19に感染した人々を調べ,ワクチン接種者は他に感染させる確率が,ワクチン非接種者よりも38〜49%低いとの結果を得た.また,この感染拡大抑制効果は,ワクチン接種から2週間ほどで確認できた.
2021-04-15 新型コロナウイルスワクチンのWikipedia日本語版記事が何時の間にか充実していた:
https://ja.wikipedia.org/wiki/トジナメラン (ファイザー・ビオンテック製)
https://ja.wikipedia.org/wiki/AZD1222 (オックスフォード・アストラゼネカ製) 
2021-04-07 新型コロナウイルスのmRNAワクチンは,一般への接種が始まってからも,第3相試験での有効性と安全性をほぼ再現している. 例えば,米国CDCからのニュース[*]によると.医療従事者,ファーストレスダーおよびエッセンシャルワーカーなど,感染リスクが高い人々への接種後の経過から,一回接種から2週間以後感染リスクが80%減,2回接種から2週間以後感染リスクが90%減
[*] CDC Real-World Study Confirms Protective Benefits of mRNA COVID-19 Vaccines. CDC Newsroom Releases. 2021-03-29 11:00 ET. https://www.cdc.gov/media/releases/2021/p0329-COVID-19-Vaccines.html
 SARS-CoV-2のゲノム配列が公開されてから専門家の当時の予想を良い意味で裏切って極めて短期間で緊急使用許可を獲得するまでに至ったmRNAワクチン開発に関するcrisp_bio記事へのリンクを改めて,ここに記載した:[20201118更新] 新型コロナウイルス: 新興感染症に備えてきたmRNAワクチン開発から産まれたモデルナのmRNA-1273. https://crisp-bio.blog.jp/archives/23810396.html

2021-04-05  ファイザー社が3月31日から4月1日にかけて「(mRNAワクチンBNT162b2について12-15歳に有効性100%; 6ヶ月後の有効性91.3%; 重症予防効果 95.3%; 南ア由来変異株にも有効」とプレス発表 [参照: [20210405更新] 新型コロナウイルス: ファイザー社とビオンテック社のmRNAワクチン'BNT162b2' - 2021-04-05の投稿参照 https://crisp-bio.blog.jp/archives/24484684.html]
 
2021-03-23 日本医学会連合会*「COVID-19 ワクチンの普及と開発に関する提言」2021年3月22日
[*] 日本感染症学会, 日本集中治療医学会, 日本救急医学会, 日本内科学会, 日本呼吸器学会, 日本血液学会, 日本循環器学会, 日本糖尿病学会, 日本老年医学会, 日本リウマチ学会, 日本外科学会, 日本血栓止血学会, 日本移植学会, 日本小児科学会, 日本産科婦人科学会, 日本精神神経学会, 日本消化器内視鏡学会, 日本産業衛生学会, 日本疫学会, 日本呼吸療法医学会, 日本口腔科学会
https://www.jmsf.or.jp/uploads/media/2021/03/20210322161544.pdf
<目次>
はじめに
1. COVID-19 の感染制御に、ワクチンが期待されています。
2. COVID-19 ワクチンのはたらきについて理解が必要です。
3. COVID-19 ワクチンの有効性の確認が重要です。
4. COVID-19 ワクチンの安全性の確認が重要です。
5. mRNA ワクチン接種後のアナフィラキシーについて注意と検証が必要です。
6. 長期的なワクチンによる有害事象の観察が必要です。
7. ワクチンの有効性に影響を与える「変異株」のサーベイランスが重要です。
8. 高齢者等の優先接種者へのすみやかな接種が望まれます。
9. 安全なワクチン接種体制を準備しておくことが必要です。
10. 接種する医師・看護師は適切な筋肉内注射の方法を熟知する必要があります。
11. 適切なワクチンリスクコミュニケーションが重要です。
12. ワクチン接種後も基本的な感染対策が重要です。
13. 安全で有効な国産COVID-19ワクチンの開発が求められます。
おわりに

2021-03-22 17:50
変異株とワクチンに関するcrisp_bio投稿へのリンクを以下に追加:
2021-03-22 07:10 Cell Host & Microbeを出版しているCell Press社がツイートした「ウイルスが変異を介してヒト細胞に接着・侵入・増殖・攻撃する能力を高める図」を以下に引用: 変異によってスパイクタンパク質RBDのコンフォメーション(形状)が変化 - ACE2への結合親和性が高まる - 免疫回避能が高まる - 細胞への侵入性が高まる - 体内での複製(増殖)能が高まる -  病原性が高まる - ヒト集団内での伝播性が高まる, 致死率が高まる; どの特性をどの程度獲得するかは変異株によって異なり、また、ワクチンのバージョンアップの必要性も変異株によって異なる。2021-03-21 19:45 Centre de Recherche du CHUM (モントリオール)の研究者が、新型コロナウイルスの変異体と、ワクチンが誘導する免疫応答、回復者血清内在免疫応答、あるいは抗体分子がもたらす免疫応答からの回避能の相関関係を、Cell Host & Microbe誌から最近相次いで刊行された3論文を中心に11論文をベースとしてレビューし、再感染、ワクチンの有効性、および免疫療法に影響を及ぼず新たな変異体に備え制御するために、SARS-CoV-2変異体のサーベイランスが重要であるとした。
[出典] PREVIEW "The great escape? SARS-CoV-2 variants evading neutralizing responses" Prévost J, Finzi A. Cell Host & Microbe. 2021-03-10. https://doi.org/10.1016/j.chom.2021.02.010 

2021-03-21 14:20 
南アフリカ由来変異株とブラジル由来変異株は、ヒトACE2を帯びていないマウス肺で増殖する: [出典] "The B1.351 and P.1 variants extend SARS-CoV-2 host range to mice" Montagutelli X [..] Simon-Loriere E. bioRxiv 2021-03-18 [査読無し投稿] https://doi.org/10.1101/2021.03.18.436013
 フランスは3月20日から、英国由来変異株B.1.1.7が猛威を振るい一日当たりの新規感染者が3万人を超えパリなどで3回目のロックダウンを始めた [*1]。フランスではまた、従来のPCR検査では陰性判定になってしまう変異株が報告された [*2]。
 Institute Pasteurを主とするフランスの研究グループは今回、新型コロナウイルスの感染例が報告されていなかった研究室マウスに南アフリカ由来変異株とブラジル由来変異株が感染し、増殖することをbioRxivに投稿した。
  • 地球規模でのSARS-CoV-2の蔓延は多様な変異株の発生を伴っている。その中には、伝播性や免疫回避能 [*3]が高まり、中には致死性も高まった一連の"懸念される変異株/Variants of Concern (VOC)"が含まれている。
  • [*3] ワクチンBNT162b2または感染が誘導する中和抗体を回避: "SARS-CoV-2 variants B.1.351 and P.1 escape from neutralizing antibodies" Hoffmann M [..] Pöhlmann S. Cell 2021-03-20. https://doi.org/10.1016/j.cell.2021.03.036; ワクチンが誘導する液性免疫を回避: "Multiple SARS-CoV-2 variants escape neutralization by vaccine-induced humoral immunity" Garcia-Beltran WF [..] Balszs AB. Cell 2021-03-12. https://doi.org/10.1016/j.cell.2021.03.013; crisp_bio 2021-03-15 新型コロナウルス変異株7種類に対するmRNAワクチン接種の効果. https://crisp-bio.blog.jp/archives/25840577.html
  • 研究グループは今回、英国由来変異株B.1.1.7、南アフリカ由来変異株B.1.351、およびブラジル由来変異株P.1、いずれもマウスACE2を発現する細胞に感染し、その中でB.1.351とP.1についてはマウス成体の肺において高力価まで複製されることを発見した。
  • ただし、変異株感染マウスは無症状であり体重の減少も見られなかった。
  • 今回の報告では、マウス間の感染およびマウスとヒトの間の感染は特定されておらず、マウスが、変異株のリザーバになるか否かは不明である。
[注] 
  • 3種類のVOCはいずれもウイルスのヒトACE2への結合親和性を高める変異N501Yを帯びB.1.351とP.1は免疫回避能 [*]に貢献するとされるE484K変異を帯びている
  • B.1.1.7は、致死性を高めると報告されている。
  • 野生株 (いわゆる武漢株)はマウスACE2には結合しないとされている.
2021-03-13 忽那賢志感染症専門医 "今後新型コロナの流行は、ワクチン接種の進み具合と、変異株の拡大との勝負になりそうです" とツイート:2021-03-09 University of Texas Medical Branch, Pfizer Vaccine Research and Development, およびBioNTechの研究グループが、BNT162b2ワクチンは、英国変異株 (B.1.1.7系統), 南アフリカ変異株 (B.1.351系統), およびブラジル変異株 (P.1系統)に対して有効とNEJM誌にて発表した [出典] "Neutralizing Activity of BNT162b2-Elicited Serum" New Engl J Med. 2021-03-08. https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2102017]。
 2020年1月とパンデミックの初期に分離されたUSA-WA1/2020株のスパイクタンパク質に、英国変異株 (B.1.1.7系統), 南アフリカ変異株 (B.1.351系統), およびブラジル変異株 (P.1系統)の変異をそれぞれ見られるスパイクタンパク質の変異を導入した組み換え体 (B.1.1.7-spike, B.1.351-spike, およびP.1-spike) と、B.1.351系統の変異の一部を導入した組み換え体2種類 (B.1.351-∆242-244+D614GとB.1.351-K417N+E484K+N501Y+D614G)を作成し、それらに対するBNT162b2接種がもたらす血清の中和活性を比較した。
  • はじめに、5種類が全てmLあたり10の7乗のプラークを形成することを確認した。
  • 治験参加者15名から、2回接種から2週間後または4週間後に採取した血清について、50%プラーク減少中和試験 (50% plaque reduction neutralization test,  PRNT50)を行った。
  • 全ての血清が、USA-WA1/2020と変異体モデル5種類全てに対して中和活性を示した。 幾何平均抗体価 (geometric mean titer, GMT)は、USA-WA1/2020, B.1.1.7-spike, P.1-spike, B.1.351-spike, B.1.351-∆242-244+D614G, and B.1.351-K417N+E484K+N501Y+D614Gに対して、それぞれ、532, 663, 437, 194, 485, および331となった。
  • 中和活性を示しつつも南アフリカ株モデルB.1.351-spikeでの低下幅が大きいこと、および、ヒト受容体結合ドメイン (RBD)上の変異 "K417N+E484K+N501Y"の影響が比較的大きなことが見えて来た。
  • 本投稿の最終段落は、この実験の限界を論じながら、臨床分離株での検証が必要と結ばれている。
  • [crisp_bio注] このNEJM投稿は、少なくともB.1.351変異株については、オックスフォード大学を中心とするグループが、Public Health Englandから入手したSARS-CoV-2/B.1.351株を感染させたVero細胞で行った実験からの結論、「B.1.351は、回復者血清とワクチン接種血清から逃避する」と整合しない: "Evidence of escape of SARS-CoV-2 variant B.1.351 from natural and vaccine induced sera" Zhou D, Dejnirattisai W, Supasa P, Liu C, Mentzer AJ [..] Mongkolspaya J, Ren J, Stuart DI, Screaton GR. Cell. 2021-02-23 [Journal Pre-proof]. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0092867421002269; [20210309更新] 新型コロナウイルス: 南アフリカに特有の変異株 - 2021-03-09 10:20 amの項
    https://crisp-bio.blog.jp/archives/25121488.html
2021-03-06 専門家による新型コロナウイルス全般とワクチンに関する情報提供サイトへのリンク追加
  • 忽那賢志ブログ: 感染症専門医。2004年に山口大学医学部を卒業し、2012年より国立国際医療研究センター 国際感染症センターに勤務。感染症全般を専門とするが、特に新興再興感染症、輸入感染症の診療に従事し、水際対策の最前線で診療にあたっている
    https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/
  • COVーNav:「こびナビ」は新型コロナウイルス感染症や新型コロナウイルスワクチンに関する正確な情報を皆さんにお届けするプロジェクトです。https://covnavi.jp/manager/
  • これでわかる! 新型コロナワクチン情報: 最前線でコロナと闘う専門家が、“わかりやすさ”と統計情報にこだわってコロナのワクチンを易しく解説します。https://medicalnote.jp/covid19-vaccine/
2021-02-07 ワクチンの有効性の観点からも関心を集めている英国, 南アフリカ, およびブラジル由来の変異株に関して、Scripps Research Translational Institute所長Eric Topolのツイートと忽那賢志感染症専門医のYahoo'ニュースへのリンク [*]を以下に追加
  • Eric Topol所長の一連のツイートの#8に変異株の特徴が一覧表にまとめられている:
2021-01-31 2021-01-31 16.52.49COVID-19ワクチンを打たない手はない:
 参照データとして, 米国ブラウン大学公衆衛生大学院学部長Ashish K. Jha博士のツイートと、それを聖路加国際病院QIセンター感染管理室マネジャー坂本史衣博士が和訳したツイートを、右図に引用。
 また、ワクチン接種は、接種を受けた当人を保護するだけでなく、集団全体の保護に貢献することにもなることでもあり。

2021-01-01 日本RNA学会のWebサイトから公開されたmRNAワクチンに関する会報記事2本の紹介とリンクを以下に追加:
  1. mRNAワクチン:新型コロナウイルス感染を抑える切り札となるか? 飯笹 久 (島根大学医学・看護学系)  - mRNAワクチンをもたらしたブレークスルー, ファイザー/ビオンテック社とモデルナ社のmRNAワクチンの違いに加えて共通の課題 (温度管理, アレルギー, 自己免疫疾患)について解説。なお、アレルギーと自己免疫疾患について、mRNAワクチンは最終的には体内で分解されることから、頻度は稀としている。
  2. <走馬灯の逆廻しエッセイ> 第28話「コロナウイルスへのメッセンジャーRNAワクチン」古市康宏 (元ロシュ研究所/ジーンケア研究所) - mRNAワクチン製造技術について, RNA学の研究成果と照らし合わせながら詳細に解説, 2種類のmRNAワクチン, 12月30日に英国が緊急使用を承認*したアストラゼネカ社とオックフフォードが共同開発したウイルスベクターワクチンAZD1222 (AstraZeneca Press Release 2020-12-30)などについても簡潔に解説。
  3. [*] 中国は12月31日にシノファームが有効性79%とした不活性化ワクチンを条件付きで承認した (NHK Web 2020-12-31)
2020-12-31 「新型コロナウイルスワクチン開発ストーリ」の項を文末に追加
2020-12-30 初稿
 本記事は、ファイザー社/ビオンテック社とモデルナ社のmRNAワクチンやSARS-CoV-2変異体に関する本ブログの記事内に書き込んだ標題雑感を抜き出し、日本感染症学会の提言と、イェール大学の岩崎明子教授らによるCell誌掲載コメンタリーの引用記事へのリンクを添えて、独立の記事として投稿し直したものです。
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2020-12-29 11:31 a.m. 新型コロナウイルスのmRNAワクチンとウイルス感染症 [crisp_bioの雑感]
  • モデルナ社のワクチンもファイザー社とビオンテック社のワクチンもいずれも、ウイルス変異株のゲノム配列が特定され次第、従来のウイルスの弱毒化や不活性化から始まるワクチンに比べれば、極めて短期間で開発することが可能である。
  • 今回の開発で、mRNAワクチンに関する開発・評価・大量生産に加えてロジスティックスのノウハウが蓄積され、また、今後、安全性のデータが蓄積されていくことから、仮に、現行mRNAワクチンに対する耐性を帯びた新型コロナウイルスの変異株が発生したとしても、緊急使用可能なmRNAワクチンの迅速生産を期待できそうである。
  • いずれにしても安全性の観点からは、SRAS-CoV-2に対するmRNAワクチン (mRNAワクチンそのものと、それをヒト細胞へ送り組むために利用されている脂質ナノ粒子*の双方)のヒトに対する影響を数十年にわたって追跡していくことが必須と思う。 [* ]参考crisp_bio記事 mRNA癌ワクチンに一歩近づく脂質ナノ粒子を開発
  • また、新型コロナウイルスに限らず再興・新興感染症に対して"強靭な"社会を作り上げていくことも必要かと思う。例えば、野生生物から人へのウイルス感染を抑制する社会システムや、新たなウイルス感染症や変異株を短期間に発見し拡散を抑制する技術と体制の整備が必要と思う。これは、津波や氾濫に備えて防潮堤や堤防を築くことや、敵国からの攻撃に備えてイージス艦や戦闘機を備えるに似ているが、そのコストは、今回計上された予備費の規模で賄えていけるのではなかろうか。
2020-12-30 "COVID-19ワクチン に関する提言 - 第1版" 日本感染症学会ワクチン委員会 2020-12-28: PDF https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/2012_covid_vaccine.pdf
  • 開発状況
  • 作用機序: 生ワクチンと不活性化ワクチン; mRNAワクチン; ウイルスベクターワクチン
  • 有効性: 評価方法; COVID-19ワクチンの有効性/有効率
  • 安全性: 有害事象と副反応; 臨床試験における有害事象/COVID-19ワクチンの臨床試験における1回目接種後の有害事象の頻度; COVID-19ワクチンの臨床試験における2回目接種後の有害事象の頻度; 長期的な有害事象の観察の必要性
  • 国内での接種の方向性: 優先接種対象者; 予防接種法の改正[*];接種体制の確保 [* ... COVID-19ワクチンの接種類型は臨時接種となり、国が接種を勧奨するとともに、国民には努力義務が課せられることになりました。費用の自己負担はなく、健康被害に対する救済も高水準で実施されます。....]
  • 終わりに [ワクチンも他の薬剤と同様にゼロリスクはあり得ません。病気を予防するという利益と副反応のリスクを比較して、利益がリスクを大きく上回る場合に接種が推奨されます。.......].
2020-10-17 ワクチンはなぜ効くのか
[出典] Commentary "Why and How Vaccines Work" Iwasaki A, Omer SB (Yale U. School of Medicine). Cell 2020-10-15. https://doi.org/10.1016/j.cell.2020.09.040
2020-12-31 新型コロナワクチン開発ストーリー
  • crisp_bio [20201130更新] 新型コロナウイルス: 超速のタンパク質構造解析, ワクチン開発も https://crisp-bio.blog.jp/archives/22970447.html
  • crisp_bio [20201118更新] 新型コロナウイルス: 新興感染症に備えてきたmRNAワクチン開発から産まれたモデルナのmRNA-1273 https://crisp-bio.blog.jp/archives/23810396.html
  • ロックフェラー大学の船引宏則教授ツイート22本: 米ファイザーと独BioNTechの新型コロナウイルスに対する革命的なmRNAワクチンの接種が明日から始まるが、このワクチン開発にいたるまでの経緯が実に感慨深いので紹介してみる。まさに、大逆転ストーリー