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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[出典] PROTOCOL "Generation of neighbor-labeling cells to study intercellular interactions in vivo" Ombrato L [..] Malanchi I. Nat Protoc. 2020-12-11. https://doi.org/10.1038/s41596-020-00438-5

 細胞は生体内で絶えず相互作用をしており、この細胞間相互作用が、病理学的プロセスと同様に多くの生理学的プロセスを形作っている。細胞間相互作用の多くは、生体組織の中で物理的に近接した細胞間で発生すると考えられる。

 癌細胞はその周囲に多様な細胞や因子が混在する不均質な腫瘍微小環境 (TME)を形成し、癌細胞がTMEとの相互作用の中で生存・増殖し薬剤耐性を獲得することから、TMEは癌生物学と癌治療の観点から研究対象となってきた。しかし、TMEの不均一性と、TMEが癌細胞に適した環境を提供する機構を完全に解明するに至っていない。

 The Francis Crick Instituteを主とする研究グループは先行研究 [*]で、乳癌細胞が形成したTMEの細胞の空間的配置を同定し、乳癌細胞と相互作用する幹細胞様の特徴を示す実質細胞を発見するに至った。著者らは今回、その際に開発した"Cherry-niche"の実験プロトコルを詳述した。[* "Metastatic-niche labelling reveals parenchymal cells with stem features"  Ombrato L [..] Lee JH, Malanchi I. Nature. 2019-08-28. https://doi.org/10.1038/s41586-019-1487-6]

 "Cherry-niche"は、関心のある細胞に、その細胞に物理的に近接している細胞群を標識する機能を持たせる技術である。GFP*陽性の癌細胞に分泌型ペプチド (secretory peptide: S)とTATκペプチドLPで修飾したmCherryタンパク質 (sLP-mCherry)を発現させ、この癌細胞が分泌するsLP-mCherryが、近接細胞群によって取り込まれCD63陽性の後期エンドソーム (multivesicular bodies: MVB)内に維持され、その結果、近接細胞群が標識されるに至る。取り込まれたmCherryのin vitro 半減期は~40時間に及び、組織内での標識可能範囲は最大で20 - 80 μmの範囲に止まる [Fig. 1参照]。 [* GFPであることは必須ではない]

 マウス乳癌細胞4T1を乳癌組織において近接細胞を標識する細胞 (以下、4T1標識細胞)としてプロトコルを詳述したが、4T1標識細胞が肝臓癌のTME解析に有用であり、さらに、ML-1を標識細胞とすることで"Cherry-niche"が骨髄ニッチの研究にも有用であることを示した [プロトコルの詳細な図解 Fig. 2 Schematic overview of the protocol 参照]。"Cherry-niche"の利用は、標識細胞の作出に2~3週間、標識性能の評価に1~2週間の実験となる。
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