2021-03-01 追記 ヒトiPS細胞から誘導した肺オルガノイドと大脳オルガノイドをベースとして, 新型コロナウイルスの組織特異的感染の機序を探ったStem Cell Reports掲載論文を引用
[出典] "Revealing tissue-specific SARS-CoV-2 infection and host responses using human stem cell-derived lung and cerebral organoids" Tiwari SK [..] Rana TM. Stem Cell Reports 2021-02-11.
https://doi.org/10.1016/j.stemcr.2021.02.005
  • UCSDの研究グループは今回、ヒトiPSCsから肺オルガノイド (LORGs), 大脳オルガノイド (CORGs), 神経前駆細胞 (NPCs), ニューロン, およびストロサイトを誘導した。
  • 上皮細胞と肺胞細胞I型とII型を含むLORGsはACE2とTMPRSS2 [1]を高発現し、SARS-CoV-2感染への感受性を示し、その感染によって、インターフェロン, サイトカイン, およびケモカインが誘導され、主要なインフラマソーム・パスウエイ遺伝子群が活性化した。また、スパイクタンパク質阻害剤 (EK1ペプチド [2])とTMPRSS2阻害剤 [1] (カモスタット/ナファモスタット)が、LORGsへのウイルス侵入を阻害した。
  • 一方で、CORGs, NPCs, アストロサイト, およびニューロンでのACE2とTMPRSS2は低発現であり、SARS-CoV-2感染への感受性は低いが、神経系細胞への感染は、TLR3/7, OAS2, 補体系, アポトーシスの遺伝子群を活性化した。
 [関連crisp_bio記事]
  1. [20200330更新] 新型コロナウイルスの感染は、ヒト細胞のACE2とTMPRSS2に依存し、慢性膵炎治療薬で阻害される. https://crisp-bio.blog.jp/archives/22172007.html
  2. 2020-03-23 新型コロナウイルス:スパイクのサブユニットS2の構造と、細胞融合・感染を阻害する脂質化ペプチドの合成. https://crisp-bio.blog.jp/archives/22344105.html
2021-02-05 Cell 誌からプルーフ完了済み論文として出版されたことを受けて、出版日とDOIを追記
2021-01-12 初稿
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[出典] "Multi-organ Proteomic Landscape of COVID-19 Autopsies" Nie X, Qian L, Sun R, Huang B, Dong X, Xiao Q, Zhang Q [..] Zhu Y, Via J, Hu Y, Guo T. Cell 2021-01-05 [Journal Pre-proof]. > Cell 2021-01-09/2021-02-04;184(3):P775-791.E14. https://doi.org/10.1016/j.cell.2021.01.004

 COVID-19患者において呼吸器疾患以外の臓器にも損傷が及ぶことが明らかになっており、また、臓器オルガノイドをベースとした多臓器損傷の分析も行われてきたが [1-3]、精密な治療法の研究開発に必要な多臓器損傷の分子病態 (molecular pathology)は未だ不明である。
  1. crisp_bio 2020-07-18 新型コロナウイルスがヒトの各器官に与える損傷を、ヒトの気管, 肺, 血管, 腎臓, 肝臓, 腸のオルガノイドで見た
  2. crisp_bio [20201219更新] 新型コロナウイルスは神経細胞にも浸潤する
  3. crisp_bio [20200914更新] 新型コロナウイルス感染症COVID-19の重症化への三段階
 華中科技大学 (武漢)と西湖大学 (杭州)を主とする研究グループは今回、この分子病態解明を目指して、COVID-19患者19例からの7種類の器官, 肺, 脾臓, 肝臓, 心臓, 腎臓, 甲状腺, および精巣, の解剖検体をプロテオーム解析 (プロテオミクス)し、プロテオミックス・アトラス [*]を作成した [* 論文ではランドスケープが使われアトラス(atlas)という表記は使われていない]
  • 対照群 (COVID-19以外の疾患患者56例からの74種類の手術検体)に対して、COVID-19患者由来検体では、プロテオミックスで定量した11,394種類のタンパク質のうち、5,336種類のタンパク質が、少なくとも一種類の器官で異常を示した。
  • COVID-19患者の肺において、ACE2よりもカテプシンL1の発現が有意に上昇していた。
  • 多臓器に、全身性の炎症亢進、グルコースと脂肪酸の代謝異常見られた。
  • 多臓器にて、低酸素応答、血管新生、血液凝固、および繊維化に重要なタンパク質の異常も見られた。
  • 精巣において、ライディッヒ細胞の減少、およびコレステロール生合成と精子の運動性の抑制などの障害が発生していた。
 今後、対象臓器を広げ、サンプル数も拡大した解析に基づくプロテオミクス・アトラスが待たれる。