[出典] NEWS EXPLAINER "COVID’s toll on smell and taste: what scientists do and don’t know - Researchers are studying the sensory impact of the coronavirus, how long it lasts and what can be done to treat it. " Marshall M. Nature. 2021-01-14. https://doi.org/10.1038/d41586-021-00055-6
COVID-19パンデミックの初期から、SARS-CoV-2 (以下、ウイルス)の感染者は他の症状が無くても、嗅覚や味覚を失うことが明らかになったが、PCR検査で陰性になってから一年近く経過しても回復しない事例が認められ始めた。
嗅覚を失う割合は?
COVID-19パンデミックの初期から、SARS-CoV-2 (以下、ウイルス)の感染者は他の症状が無くても、嗅覚や味覚を失うことが明らかになったが、PCR検査で陰性になってから一年近く経過しても回復しない事例が認められ始めた。
嗅覚を失う割合は?
- 定量的データはまだ不十分であるが、これまでに、COVID-19患者8,438例の41%、同じく100例の96%に機能障害が見られ18%は嗅覚を失ったといった報告があり、今では、COVID-19患者に共通の症状 (a common symptom)の一つと見られ、SARS-CoV-2感染の指標として有用とされている。
- なお、嗅覚異常は突然発生し、また、風邪ウイルスなどに見られる鼻詰まりが原因では無いことが確認されている。
- その分子機構は未だ詳らかになっていないが、鼻腔内の神経細胞を支持する細胞 (sustentacular cells/支持細胞)へのウイルスの感染が原因とする報告がある。当初、鼻腔の奥に位置する嗅細胞にウイルスが感染し、脳内の嗅球にそのシグナルが伝わる経路が想定され、ウイルスの脳への侵入が危惧されたが、死後組織の解析からウイルスが脳に達するのは稀であることが示された [*注]。
- [*注] ウイルスが脳神経細胞に侵襲することが最近の論文で示されている: crisp_bio記事 "新型コロナウイルスはマウスとヒトの脳神経細胞にも侵襲する"参照 https://crisp-bio.blog.jp/archives/24277763.html。
- ウイルスに対する受容体ACE2が、支持細胞表面には高密度であるが、嗅細胞表面では低密度であることから、支持細胞感染は合理性がある仮説であるが、支持細胞への感染と別の経路も論じられている。嗅覚消失時期が炎症性サイトカインのインターロイキン-6の血中レベルの上昇時期と一致すること、死後組織において、脳内の嗅球に漏出血管などの炎症の兆候が見らたことから、ウイルス感染に伴う炎症を介した経路が提案された。
- ウイルス感染に伴う味覚消失の分子機構の手がかりは現時点では殆どない。
- 数週間で回復する例が多い。これまでに、COVID-19患者の嗅覚と味覚が1ヶ月後に回復した割合がそれぞれ 72%と84%という報告や、202例の49%が1ヶ月で完全に回復、41%が改善とした報告がある。
- 一方で、機能が回復・改善しなかったCOVID-19からの回復者は嗅覚や臭覚を錯誤するなどの症状に悩まされる。例えば、何についても腐臭を感じることが数ヶ月続き、COVID-19からの回復期に嗅覚のシグナル伝達経路が改変されたことが疑われている。
- 視覚や聴覚の異常に比べて化学感覚の異常と消失については、ヒトにどのような影響があるのか研究が行われてこなかったが、軽視できない影響があると見られている。
- 無嗅覚症には研究例があり、腐った食品を摂るなど日常生活のリスクが高まることが報告されているが、ヒトとヒトとのコミュニケーションなどにも嗅覚が重要な役割を果たしており、嗅覚を失うことは相当な心理的負担をもたらすと考えられる。
- これまでの嗅覚と味覚の研究には特効薬を開発する手がかりは未だ見えてこないが、嗅覚訓練 (smell training), 嗅覚の再学習, が一つの手段である。
- また、感染初期に嗅覚異常が起こった際に、鼻腔細胞の炎症が原因であった場合は、ステロイド剤が有効な可能性がある。
- 長期的には、嗅覚センサーを埋め込む手法が候補になるが、それには、ウイルス感染が嗅覚を失わせる分子機構の解明が前提となる。
- crisp_bio 2021-01-15 新型コロナウイルス: 1,733名の回復者の73%に半年後もなんらかの後遺症 https://crisp-bio.blog.jp/archives/25313933.html
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