2021-04-15 ワクチン接種後の血栓発生を受けて,J&J製ワクチンの一時的使用停止を"
念には念を入れて"勧告
- 米国では4月12日までに,680万人 [*]以上がJ&J製ワクチンの接種を受けた [*] 緊急使用許可の根拠となった治験の規模は,~4万人 (ワクチン接種と偽薬接種ほぼ半々).
- その中で,血小板減少症を伴う脳静脈血栓症 (cerebral venous sinus thrombosis: CVST)が6例報告された.
- 6例は18歳から48歳の女性であり,接種後6日~13日に症状が現れた.
- この血栓症は希なタイプであり,通常適用されるヘパリン治療は危険であり,他の療法を施す必要がある.
- J&J製ワクチン接種後3週間以内にひどい頭痛,腹痛,下肢痛,または,息切れを感じた場合は,診察を受けるように.
- J&J社からの関連プレスリリース: Johnson & Johnson Statement on COVID-19 Vaccine. 2021-04-13. https://www.jnj.com/johnson-johnson-statement-on-covid-19-vaccine
[crisp_bio注] J&J製ワクチンは,非増殖型アデノウイルス26ベクターをベースとしている.アストラゼネカ製ワクチンは,複製欠損性チンパンジーアデノウイルスをベースとしている.
2021-02-28 FDA, 参加者43,783名 (ワクチン接種 21,895名; 偽薬接種 21,888名)の第3相試験からのデータに基づきAd26.COV2.Sの緊急使用許可 (EUA)を承認 [crisp_bio注: 一回接種と2°C-8°Cで保存可能な点 (9°C−25°Cでも12時間以内なら可)が、接種を進める上でファイザー/ビオンテックとモデルナのmRNAワクチンに優る] [出典] FDA Issues Emergency Use Authorization for Third COVID-19 Vaccine. FDA News Release. 2021-02-27 (現地時間)
https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/fda-issues-emergency-use-authorization-third-covid-19-vaccine; ブログ記事タイトルを、「新型コロナウイルス: ジョンソン・エンド・ジョンソン (J&J) ワクチンEUA申請, 日の丸ワクチンは?]から「新型コロナウイルス: ジョンソン・エンド・ジョンソン (J&J) ワクチンEUA承認, 日の丸ワクチンは?」に改訂; 02-26投稿中の有効性 (重症予防)の数値を修正
日本ではなぜこうした委員会を公開できないのだろうか。
2021-02-26 現地時間26日に開催されるAd26.COV2.Sの緊急使用許可 (EUA)を審査するFDA ワクチンならびに関連の生物製剤に関する諮問委員会(Vaccines and Related Biological Products Advisory Committee, VRBPAC)の審査資料公開 [*] , 以下に文書冒頭の要約から一部引用した。
非増殖型アデノウイルス26ベクターに新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の遺伝子情報を組み込んだワクチン; 18歳以上, 1回接種, ~40,000人規模 (ワクチン接種と偽薬接種 1:1)の第3相試験のデータ
有効性
接種者の間で変動するが、国や年齢などのバックグラウンドによる有意差は無い (信頼区間が重なる)。
中等症と重症予防 14日後 66.9% (95% CI 59.0, 73.4) - 116 vs 348; 28日後 66.1% (95% CI 55.0, 74.8) - 66 vs193
重症予防: 14日後 76.7% -116 vs 348 14 vs 60; 28日後 85.4% - 66 vs 193 5 vs 34
副反応・安全性
2021-01-22までの時点 (接種後の中央値 2ヶ月)で、18歳以上の接種者43,783名に見られた副反応は接種部位の痛み、頭痛、疲労感、筋肉痛などであり、重大な問題は発生していない。
COVID-19が原因の死亡例 (2021-02-05の時点): ワクチングループ 無し; 偽薬グループ 7名
治験中に感染したウイルスに含まれていた変異体の割合
ゲノムシーケンシングした限りで、米国でWuhan-H1 D614G変異株が96.4%, 南アフリカでB.1.351 (20H/501Y.V2)が94.5%, P.2系統がブラジルで69.4%を占めた。B.1.1.7またはP1系統は、2021-02-12までの時点で発見されていない。
[*] "FDA Briefing Document公開: Vaccines and Related Biologucal Products
Advisory Committee Meeting Febryary 26, 2021. FDA Briefing Documnet.
Janssen Ad26.COV2.S Vaccine for the Prevention of COVID-19. Sponsor:
Janssen Biotech, Inc".
https://www.fda.gov/media/146217/download2021-02-05 J&J, 「傘下のヤンセン (Yanssen Biotech)が, 第3相試験ENSEMBLEの好成績を受けてFDAにEUA (緊急使用許可)を申請し, 欧州医薬品庁に"Conditional Marketing Authorisation Application"を数週間のうちに申請予定; EUAを承認され次第, 2021上半期に1億回分を米国内に供給予定」などと発表した (注: ブログ記事タイトルを「...わクチンも来た ...]を「... EUA申請 ...」に改訂)
2021-01-30 初稿
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2021年1月29日付でジョンソン・エンド・ジョンソン (J&J)は傘下のヤンセンファーマ (Janssen Pharmaceutical)にて開発したSARS-CoV-2ワクチンAd26.COV2.S (別名 JNJ-78436735またはAd26COVS1)が、第3相試験で好成績をあげたと発表した。
Ad26.COV2.Sの効果は接種後14日後から見え始めるが、接種後49日以後観察期間中、重傷者はゼロ(有効性 100%)という効果を示した。また、今回の治験には南アフリカ変異株が蔓延している南アフリカでの結果が含まれていることも注目点である。Ad26.COV2.Sはその取り扱いについても、ファイザー/ビオンテックのBNT162b2やモデルナのmRNA-1273に対して、
単回接種で済むという利点があり、また、BNT162b2と異なり、
従来のワクチンと同様な手段で輸送可能である。発表資料から治験の規模や有効性などを以下の表*にまとめた
[* 文末に引用したYale大学岩崎明子教授のツイートに触発されて作成]。
第3相試験 ENSEMBLE
NCT04505722
43,783名 (感染 468名)
18歳以上 (60歳以上 13,610名)
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Johnson & Johnson Janssen COVID-19ワクチン Ad26.COV2.S 有効性
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接種から28日後
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接種から49日以後
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中等症と重症防止
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重症防止
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重症防止
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米国
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72%
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85%
(入院と死亡 100%)
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100%
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ラテンアメリカ
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66%
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南アフリカ
(変異株が95%を占めている状況)
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57%
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副反応
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有害事象 (serious adverse event)偽薬接種グループより低頻度; アナフィラキシー発症例無し
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保存と輸送
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保存期間は, -20°C (-4°F)で2年間, 2-8°C (36°F–46°F)で少なくとも3ヶ月の見込み;
これまで流通していたワクチンと同様な条件で輸送可能
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米国での緊急使用承認
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2021年2月に申請予定
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日本での臨床試験
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2020年11月16日付のヤンセン社のプレスリリースによれば2020年10月12日に第1相試験開始
https://www.janssen.com/japan/press-release/20201116-2
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[*] 重症の定義
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SARS-CoV-2ウイルス陽性で, 重篤な全身性疾患, ICUでの治療, 呼吸不全, ショック症状, 臓器不全, または死亡などから1つ以上該当
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[*]中等症の定義
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SARS-CoV-2ウイルス陽性で, 肺炎, 深部静脈血栓症, 息切れ, 血中酸素飽和度異常 (93%以下), 呼吸数異常 (20回以上), またはCOVID-19と思われる2種類以上の全身性症状から1つ以上該当
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AdVac®テクノロジープラットフォームで開発したワクチンの中で、エボラワクチンは2020年7月にECで承認され、コンゴ共和国とルワンダで利用されている。また、HIV、
RSウイルス、およびジカウイルスに対するワクチン候補が作出されている。
新型コロナウイルスに対しては、前述のワクチンと同様に複製不能な組換えアデノウイルス血清型26
(Ad26)をベクターとして、安定化したスパイクタンパク質全長をコードする遺伝子を組み込んだ [参考 Interim Results of a
Phase 1–2a Trial of Ad26.COV2.S Covid-19 Vaccinel. Sadoff J
et al. (
medRixv 2020-09-25)
NEJM 2021-01-13.
https://doi.org/10.1056/NEJMoa2034201]。
日の丸ワクチン開発状況
[出典]
第50回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和2年度第9回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催)資料3「新型コロナウイルスワクチンの副反応の収集・評価について」スライド
15ページ. 2020-12-25.
https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000710377.pdf
開発機関
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種類
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臨床試験の進行と予定
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塩野義製薬/感染研/UMNファーマ
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組換えタンパク質ワクチン
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2020年12月第1/2相試験開始
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第一三共/東大医科研
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mRNAワクチン
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最短で2021年3月から臨床試験開始の意向
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アンジェス/阪大/タカラバイオ
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DNAワクチン
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第1/2/3相試験進行中;
大規模第3相試験を2021年内に開始の意向
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KMバイオロジクス/東大医科研/感染研/基盤研
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不活化ワクチン
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最短で2021年1月から臨床試験開始の意向
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IDファーマ/感染研
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ウイルスベクターワクチン
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最短で2021年3月から臨床試験開始の意向
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[注] 資料3の表に書き込まれているAMED (国立研究開発法人日本医療研究開発機構)からの予算を合算すると47.4億円となった。
いわゆるアベノマスクの経費は、当初の466億円から、233億円、154億円 (調達費 90億円 + 運送・梱包費64億円)と徐々に下がってきたが、AMEDのワクチン開発への投資額のレベルまでには達しなかったと思われる (Wikipedia アベノマスクの項参照)。
引用ツイート
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