[出典] "Genome-wide CRISPR-Cas9 screen identified KLF11 as a druggable suppressor for sarcoma cancer stem cells" Wang Y, Wu J, Chen H, Yang Y, Xiao C, Yi X [..] Ge J, Zhou W, Chu X, Chen C, Zhou X, Wang L, Guan K, Qu L. Sci Adv 2021-01-27. https://doi.org/10.1126/sciadv.abe3445

 骨肉腫 (Osteosarcoma)は若年者に多く見られ、転移性患者の5年生存率は20%にとどまる。治療法はこの30年変わることなく外科手術と化学療法であったが、治療反応性が低いことや再発が高頻度であることが課題であった。

概要
  • 南京大学を主とする研究グループは今回、自己複製能を帯び腫瘍の形成、癌の再発、治療抵抗性を担うとされているCSCs癌幹細胞 (cancer stem cells, CSCs)を調節する因子に注目した。CSCs阻害剤を化学療法と併用する療法が骨肉腫にも奏功することを期待できるからである。
  • 研究グループはゲノムワイドCRISPRスクリーンと、in vitroおよびin vivoでの機能解析から、クルッペル様因子11 (KLF11)が、骨肉腫CSCsの主要な抑制因子 (a key negative regulator)であり、KLF11の発現低下がCSCsの幹細胞らしさ(stemness)を強化することを発見した。
  • また、肉腫 (sarcoma)患者において、KLF11の低発現と、予後の不良や化学療法に対する抵抗性とが相関し、KLF11をチアゾリジンジオンによる活性化することで化学療法に対する感受性が回復することも見出し、KLF11が骨肉腫の治療標的として有望であることした。
補足

ゲノムワイドCRISPRスクリーン [Fig. 1参照]
  • 遺伝子ノックアウトがCSCsの増殖に与える影響を、ヒトOct4エンハンサーの三量体で駆動するEGFPレポータ (eOct4-EGFP)で読み出した。
  • eOct4-EGFPを導入したMG63骨肉腫細胞集団から選別したeOct4-EGFP(-)の細胞集団を、CRISPR GeCKO v2のレンチウイルスライブラリーによるスクリーンにかけ、EGFP(high)とEGFP(low)の細胞亜集団を切り分けて、ディープシーケンシングでsgRNAの分布を判定し、CSCを制御する既知の因子を含む因子群を同定した。例えば、正に制御する因子としてSox2と Pou5f1、負に制御する因子として Gsk3β, Arid3a, およびGli3である。
  •  その上で、siRNAsでの抑制がeOct4-lucレポーターに及ぼす作用に続いて、Oct4の発現と自己複製能に及ぼす作用を見て、KLF11をCSCsを負に制御する主要な因子と判定した。
KLF11が抑制因子として機能する分子機序 [Fig. 7を引用した下図参照]2021-01-31 10.14.29
  • KLF11は、ゲノムDNAにYAP/TEADと隣接する部位に結合し直接相互作用する。KLF11は、SIN3A/HDACをリクルートしてYAP/TEADの転写を抑制し自身の転写を促進する負のフィードバックループを形成している。
  • CSCsでは、KLF11がエピジェネティックスを介して抑制されていることから、この負のフィードバックが効かなくなり、YAPの活性化が持続し、腫瘍増殖を促進する。