[出典] PREVIEW “Structuromics”: another step toward a holistic view of the cell. Levy ED, Vogel C. Cell. 2021-01-21. https://doi.org/10.1016/j.cell.2020.12.030; PERVIEWの対象論文 "Dynamic 3D proteomes reveal protein functional alterations at high resolution in situ" Cappelletti V [..] Picotti P. Cell. 2021-01-21. https://doi.org/10.1016/j.cell.2020.12.021
 科学研究、なかでも生物研究は、観察から始まった。タンパク質研究もその例外ではなく、刺激に応じて顕れてくる活性、構造、ダイナミクス、相互作用、および修飾を観察することから始まる。
 これまでに、ゲノミクスの進展を受けてタンパク質の同定が可能になり、プロテオミクスの発展を受けてタンパク質の相対量を捉えることが可能になった。
 次いで、タンパク質の限定分解と質量分析 (limited proteolysis coupled to mass spectrometry, LiP-MS)により、細胞内外からのシグナルに応じたタンパク質の構造、分子間相互作用、翻訳後修飾、およびコンフォメーションの変化を、シミュレーションに加えて、細胞溶解液のような複雑な溶液中で数千のタンパク質を対象として網羅的に実験観察することも可能になった。すなわち、genomicsとproteomicsにつづいいて"strucutomics"が可能になった。
  • LiP-MSは、「タンパク質の3次元構造の中で、翻訳後修飾、特定の分子との相互作用、あるいは、他の部分構造からの縛りを受けている残基は、そうした縛りを受けていない残基に比べて、プロテアーゼによる消化から保護されている」という想定に基づいて開発された手法である [Figure 1. Toward a structural view of proteomesのA参照]。ETH Zurichを主とする研究グループは今回、このLiP-MSの手法を大幅に拡張した。
  • LiP-MSによって、出芽酵母 (Saccharomyces cerevisiae)と大腸菌 (Escherichia coli)のプロテオームを対象として、ストレスまたは栄養素の変化に対する構造変化の同定に成功した。
  • 続いて、この構造変化を、翻訳後修飾, 酵素活性, 凝集, または他の分子との相互作用の既存データにマップした。
  • その結果、タンパク質の量ではなく構造の変化が、酵素活性, 代謝物結合, リン酸化, 凝集, およびタンパク質間相互作用の変化を含むタンパク質の機能制御の基盤となっていることを発見した。
  • 例えば、大腸菌を異なる炭素源を含む培地で培養しLiP-MS分析を行うことで、炭素源に依存して数百種類のタンパク質の構造が変動すること、その変動の一部が酵素活性の変動に対応すること、及び、LiPペプチドの検出強度(量)がそれぞれの酵素の反応フラックスに応じて変動することを同定し、タンパク質の構造変化と機能変化を紐づけることに成功した。
  • 一方で、タンパク質の構造の変化と量の変化とは相関しなかった。出芽酵母では、熱ショックまたは浸透圧ショックに対して数分以内でプロテオームの10-20%に構造変化が顕れたが、量が変化したのは~1%にとどまった。大腸菌では、炭素源の違いに応じて、プロテオームの15-25%が構造変化を見せたが、量の変化を見せたのは3-13%にとどまった。
  • 現時点でLiP-MSの限界は、他の構造の変化をもたらす機構がリン酸化なのか、凝集なのか、酵素活性化などから特定できない点と、プロテオーム全域をカバーするには至っていない点である。