[出典] "Enhancing CRISPR deletion via pharmacologicaldelay of DNA-PKcs" Bosch-Guiteras N, Urdu T, Guillen-Ramirez HA [..] Johnson R. Genome Res 2021-02-11.https://doi.org/10.1101/gr.265736.120
    University of Bernの研究グループの成果 [テキスト中の括弧内は原論文の引用論文表記]
 CRISPR-delは、Cas9と一対のsgRNAs (pair of sgRNAs, "pgRNAs")を利用して標的領域の両端2ヶ所に二本鎖DNA切断 (DSBペア)を入れ、細胞内在の非相同末端結合 (NHEJ) による修復を介して標的領域を削除する手法であり、10 bp - 1 Mbpまでの削除が報告されている [Canver et al. 2014]。また、数千のpgRNAsのレンチウイルス・ライブラリーをベースとして、ハイスループットなCRISPR-delスクリーニングも実現されている。
 CRISPR-delによって、遺伝子調節領域やlncRNAsなどの同定や機能解析が進んできたが、標的アレルの削除効率が、0%-50%, しばしば20%未満, と低いことが課題であった。また、同一領域を標的とする削除効率がpgRNAによって多く変動することも最近報告された [Thomas et al. 2020]。
  • DSBぺアのNHEJ修復のシナリオは4種類考えられる: (1)中間領域が削除されNHEJを介してDSBペアのサイトが結合する; (2) DSBペアが互いに独立にNHEJによる修復され、両サイトにそれぞれ小規模なindelsが誘導される; (3) 中間領域がフリップされて修復が完了し、逆位が残る; (4) 姉妹染色体をテンプレートとする相同組み換え修復 (HDR)が進行し, 再びCRISPR-Cas9システムの標的になる。
  • この中で、DSBペアは主としてシナリオ(2)で修復され、CRISPR-delの本来の目的を実現するシナリオ(1)はそれに次ぐ頻度であることが明らかにされてきた [Canver et al. 2014; Antoniani et al. 2018]。研究グループはこの現象を、DSBペアの切断に時間差があることから、NHEJを介した修復が互いに独立に進行してしまうことにより発生するとし、2ヶ所のDSBがNHEJ修復が進行する以前に"ほぼ同時に"進行するような手法を開発した。
  • はじめに、プラスミドではなく内在遺伝子をベースとするCRISPR-delの定量的レポーターCRISPR DeletionEndogenous Reporter (CiDER)を開発した。遺伝子としては諸条件を勘案しプレキシンD1タンパク質をコードするPLXND1 を選択して、その第1エクソンの両側のノンコーディング領域を標的とするpgRNAsをPLXND1 発現をフローサイトメトリーで評価した。
  • CiDERを利用することで、NHEJ過程の初期段階で機能するDNA依存性プロテインキナーゼ (DNA-dependent protein kinase; DNA-PK)の触媒サブユニット (DNA-PKcs)を一時的に阻害してNHEJの進行を遅らせることで、DNA削除の効率が17倍まで向上することを同定した。
  • この手法は、細胞株 (HeLa, HCT116, およびHEK293T), デリバリー法, 市販の阻害剤, およびgRNAsの如何にかかわらず有効であった。
  • さらに、DNA-PKcs阻害はプール型CRISPR-delスクリーンにも適用可能であること、DNA-PKcs阻害によってプール型機能スクリーンの感度が向上すること、を実証し、従来法では見逃していたであろうポジティブ・ヒットの検出にも成功した。
[注] 本論文についてはbioRxiv投稿版を2020-02-12に数行で紹介: CRISPRメモ_2020/02/20 (11件)2. DNA依存性プロテインキナーゼ (DNA-PK)を一時的に阻害することで、CRISPR-Cas9による遺伝子削除を亢進 https://crisp-bio.blog.jp/archives/21985702.html