Nature Biomedical Engineering誌が2021年2月12号のEditorial [*a]とNews & Views [*b]にて、Cas9 mRNAのインテグラーゼ欠損型レンチウイルス粒子によるデリバリーを介した一過性のCas9エンドヌクレアーゼ活性により、オフタゲーット編集を伴わない眼疾患の遺伝子治療が可能なことを示した同誌掲載論文 [1]とNature Biotechnology論文 [2]を取り上げた。Cas9 mRNAをAAVでデリバリーすると、Cas9の発現が持続し、Cas9をタンパク質としてデリバリーする場合と同様に、宿主の免疫応答を誘起するリスクを伴う。
 網膜や角膜は免疫応答や炎症反応が起こりにくい免疫特権組織であり、加えて、CRISPR-Cas9を局所的にデリバリーできる組織であることから、単回の一過性遺伝子編集因子デリバリーによる遺伝子治療に、一際適している。
[*a] "Transient editing catches the eye" Nat Biomed Eng 2021-02-12. https://doi.org/10.1038/s41551-021-00695-z
[*b] NEWS & VIEWS "'Hit and Run' therapy averts macular degeneration" Bubeck F, Grimm D. Nat Biomed Eng 2021-02-12. https://doi.org/10.1038/s41551-021-00690-4

[1] "Lentiviral delivery of co-packaged Cas9 mRNA and a Vegfa-targeting guide RNA prevents wet age-related macular degeneration in mice" Ling S, Yang S [..] Cai Y. Nat Biomed Eng 2021-01-04. https://doi.org/10.1038/s41551-020-00656-y
 上海交通大学と復旦大学を主とする研究グループは、Cas9 mRNAとVEGFAを標的とするgRNAの双方を組み込んだインテグラーゼ欠損型レンチウイルス粒子を作出し、滲出型加齢黄斑変性モデルマウスの網膜下に単回注入することで、オフターゲット編集やCas9に対する免疫応答を誘発することなく、網膜色素上皮においてVegfaを44%ノックアウトし、脈絡膜新生血管形成を63%抑制し、一過性CRISPR/Cas9活性を利用した滲出型加齢黄斑変性治療の可能性を示した [NEWS & VIEWSのFig. 1参照 https://www.nature.com/articles/s41551-021-00690-4/figures/1]。

[2] "Targeting herpes simplex virus with CRISPR–Cas9 cures herpetic stromal keratitis in mice" Yin D, Ling S [..] Hong J, Cai Y. Nat Biotechnol. 2021-11-11. https://doi.org/10.1038/s41587-020-00781-8

[以下、crisp_bio記事"2021-01-16 単純ヘルペスウイルスを標的とするCRISPR-Cas"から、自己免疫性ヘルペス角膜炎マウスを治癒を転載]
 単純ヘルペスウイルス1型 (HSV-1)が、感染性失明の主因であるが、これまでの治療法では、ウイルスを感染部位から排除することも、三叉神経節に潜伏しているウイルスを除去することも不可能である。
 上海交通大学と復旦大学を主とする研究グループは、SpCas9 mRNAとHSV-1遺伝子 (UL8UL29)を標的とするgRNAsとをレンチウイルス粒子を介してデリバリーする手法 HELP (HSV-1-erasing lentiviral particles)を開発し、HSV-1の複製と自己免疫性ヘルペス角膜炎 (herpetic stromal keratitis)を効果的に阻害可能なことを示した。
  •     HELPは、角膜から三叉神経節へと逆行輸送することで、潜伏ウイルスを除去する。
  •     HELPはまた、ヒト由来角膜において、オフターゲット活性を示すことなく、ウイルス複製を阻害する (WGSで確認)。