[出典] "Accelerating target deconvolution for therapeutic antibody candidates using highly parallelized genome editing" Mattsson J [..] Nilsson B. Nat Commun. 2021-02-24. https://doi.org/10.1038/s41467-021-21518-4
 抗体医薬 (therapeutic antibody)が悪性腫瘍や自己免疫疾患の治療を変革しつつある。抗体医薬としては、癌細胞や免疫細胞上の一つの抗原を特異的に認識するモノクローナル抗体 (mAb)が主流であるが、二重特異性を帯びた抗体の開発や、抗体カクテル療法の開発も進んでおり、新型コロナウイルスに感染した米国トランプ大統領の治療にはリジェネロン社 [*1]の未承認カクテル抗体医薬が利用された [*1 [20201210更新] トランプ大統領に処方されたリジェネロン社の抗体カクテル療法に緊急使用許可. https://crisp-bio.blog.jp/archives/24386275.html]
 抗体医薬開発にの課題は第一に、新たな標的細胞上の抗原の特定である。また、抗体医薬の開発が既知の抗原に集中する傾向があり、標的細胞が既存の抗体医薬に同じ耐性を帯びた場合、改めて新たな抗原を探索する必要がある。
 抗原を特定する事で、その構造情報や特性に合わせて抗体を合理的に設計する事が可能になる。しかし現実にはこれまで、一連の抗体候補に対する標的細胞が示すフェノタイプから抗原を同定していくという逆方向の抗体医薬開発戦略 [phenotypic discovery (PD) strategies] が取られてきた [本論文ではこの戦略を指して"抗原のdeconvolution (デコンボリューション)"と呼んでいる]
2021-03-10 13.03.14
 Lund UniversiyのBjörn Nilssonらは今回、プール型CRISPR-Cas9スクリーンに、セルソーティングと超並列1分子シーケンシングを組み合わせる事で、フェノタイプから細胞表面抗原を高速かつ安定して特定可能なことを示した [Fig. 1引用右図参照]。
  • この手法により、39種類のmAbs[*2]のうち97%の38種類について抗原特定 (デコンボリューション)に成功した。この効率は、これまでの手法を遥かに凌ぐ高い効率であった。
  • また、これまでの手法に比べて、スケール拡大が容易で作業量が少なく、主要組織適合遺伝子複合体を対象とする抗体を安定して同定する事ができた。
 本研究によって、CRISPR/Cas9技術が、抗体の標的の高効率なデコンボリューションが実現し、抗体医薬開発に直ちに展開可能なことが示唆された。
 [*2] 39種類のmAbs
  • 研究グループが癌治療のための抗体医薬開発を目的として3種類のPDプログラムで開発し、n-CoDeR抗体ファージディスプレイライブラリー [Söderlind et al. 2000. https://doi.org/10.1038/78458]から分離した抗原不明のmAbs 37種類と抗原既知 (CD2とCD45)のmAbs 2種類
  • PDプログラム1 (Treg 抗体):  JurkatまたはH9-T 細胞株またはCD4陽性T細胞に結合する23種類の抗体
  • PDプログラム2 (腫瘍随伴マクロファージ/TAM 抗体): 腹水から分離した初代TAMからのPDで発見した抗体であり, 単球細胞に結合する6種類の抗体
  • PDプラグラム3: 前立腺癌細胞株DU145に結合する8種類の抗体であり、たまたま、Jurkat細胞またはH9細胞にも結合