(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/01/14)
- 半数のヒトがんで腫瘍抑制因子p53にミスセンス変異が起こり、p53の腫瘍抑制機能が失われている.変異p53集団は、その割合は不明であるが、アミロイド様状態へと自己凝集している.今回、Sanaz MemarzadehとDavid S. EisenbergらUCLAの研究チームは、変異p53の凝集を阻害することで腫瘍を抑制可能なことを示した.
- 変異によって不安定になったp53が粘着性が高いセグメントを露出して自己凝集するという仮説のもとに、凝集を誘起するセグメントを特定した上で凝集を阻害するペプチドを設計した.続いて、そのN末端にポリアルギニンを融合し、細胞透過性を付与して核内移行可能にしたペプチドをReACp53と命名した.
- ReACp53は、全般にp53変異が起きている高悪性度漿液性卵巣癌(high-grade serous ovarian carcinomas: HGSOC)由来の細胞株、ならびに、オルガノイド中のp53が変異している細胞において、期待通りp53の凝集を抑制し、p53の腫瘍抑制機能を回復し、細胞増殖を抑制し、細胞周期を停止し、細胞死を亢進した.
- ReACp53は、マウスに移植した卵巣癌に対しても増殖を抑制さらに縮小効果を示した.
- ReACp53は、p53の変異の中でミスセンス変異R175とR248からの腫瘍抑制機能回復をもたらす.ReACp53は他の変異に対しても有効と考えられるが、この2種類の変異は米国のがん患者〜80,000人に起きている.
コメント
コメント一覧 (4)
コメントありがとうございました。
ここでご紹介した研究は「ヒト癌の半数でp53にミスセンス変異が発生し、変異p53の集団の一部(割合は不明)がアミロイド様状態へ自己凝集している」を前提として始めらたものです。
p53の突然変異(塩基変異)とタンパク質の関係を以下に整理してみました:
1. p53をコードする遺伝子における突然変異は他のタンパク質と同じように、文字通り有利でも不利でもなく中立に発生する。
2. その中に、アミノ酸を変える変異が含まれる可能性がある。
3. アミノ酸を変える変異の中に、p53(その他のタンパク質も)の自己凝集を引き起こす変異が含まれる可能性がある。
4. 自己凝集の結果、p53が腫瘍抑制因子として機能しなくなる。
5. こうして発生したp53変異と凝集は次世代には遺伝しないが、次世代でもp53をコードする遺伝子の突然変異が確率的に発生する (#1に戻る)。
ReACp53をhttps://clinicaltrials.govを検索した結果はヒット無しでした.筆頭著者のAlice Sorganiの研究室ウェブサイトに,「前臨床・臨床試験についての問い合わせ先はこちら」とされていたADRx, Incに問い合わせたところ,以下のような回答が届きました:ReACp53の臨床試験は現在おこなっておらず,また,その分子を使った臨床試験の計画もしていない.
> 唐突に失礼致します。ReACp53の臨床試験結果を拝見したいのですが、もし、ご存知でしたら第Ⅰ相やⅡ相臨床試験の結果が記載されているリンクをご教示いただけますと幸いです。