[出典] "An engineered CRISPR-Cas12a variant and DNA-RNA hybrid guides enable robust and rapid COVID-19 testing" Ooi KH, Liu MM, Tay JWD, Teo SY, Kaewsapsak P [..] Tan MH. Nat Commun. 2021-03-19. https://doi.org/10.1038/s41467-021-21996-6
 2018年にCas12aをベースとする超高感度な核酸検出システムDETECTR [Science, 2018 https://doi.org/10.1126/science.aar6245]が開発され、Cas13をベースとするSHERLOCKとともに、CRSIPR技術をベースとする次世代診断ツールCRISPRdx [crisp_bio 2018-04-27 https://crisp-bio.blog.jp/archives/8859629.html]の開発が加速し、2020年にはPOCT (簡易迅速検査)への展開も可能なSARS-CoV-2検出システム [crisp_bio 2020-09-17更新 http://crisp-bio.blog.jp/archives/22844567.html]が提案されるに至った。
 南洋理工大学/A*STARを主とする研究グループは今回、改変したAsCas12aによって、60~65℃のLAMP法での増幅を経て野生型に加えて変異型のSARS-CoV-2の検出を実現した。
  • SARS-CoV-2は感染拡大の間に変異を蓄積し、英国由来変異株のようにそれまでのqRT-PCRの設定をすり抜ける変異体も現れている。CRISPRdxに対しても、設計したsgRNAをすり抜ける変異が現れる可能性がある。また、ウイルス感染に対するヒトの自然免疫応答の一部であるADARとAPOBECデアミナーゼによるSARS-CoV-2 RNAの編集も誤判定を誘導するリスクをもたらす。
  • これまでのSARS-CoV-2 CRISPRdxの多くに、変異がもたらす課題の他に、技術課題も存在する: 判定時間に40分以上を要すこと;感度向上のために組み合わせるRT-LAMP法の適温が60-65 °Cであるのに対してCasヌクレアーゼの適温が~37 °C [*]であるため、2種類のヒートブロックを必要とすること;患者由来の検体からのRNAの抽出と精製が必要であること;ウイルス量が微量なことがもたらす偽陰性を排除するために必要なコントロールが組み込まれていないこと (DETECTRではウイルスRNAとコントロールを別々の反応試験管で分析する) [*] AapCas12bとTtCsm複合体を除く。
  • AsCas12aの改変体 enAsCas12a (AsCas12a E174R/S542R/K548R 変異体) [crisp_bio 2019-02-12 https://crisp-bio.blog.jp/archives/15642277.html]に2種類のsgRNAsを組み合わせることで、SARS-CoV-2変異株に見られるSNVsの影響を受けることなく、他のコロナウイルスに対してSARS-CoV-2の特異的検出を可能とするVaNGuard (Variant Nucleotide Guard) を開発した。Cas12a Fig. 1
  • 予備実験の結果に基づき、Cas12aの中でenAsCas12aを選択し、標的としてSタンパク質をコードする配列のS2部位とS6部位を標的とする2種類のsgRNAsを選択し [Fig.1 引用右図参照]、変異体対応と感度向上の観点からRT-LAMPのプライマー, ポリメーゼおよび添加化合物を選択した。
  • sgRNAの一部をDNAに置換したハイブリッドDNA-RNAガイドを利用することで、オンターゲットからのシグナルを向上させ、オフターゲット編集からのシグナルを無視可能なレベルまで抑制することに成功し、検査時間30分以内を実現した。
  • enAsCas12aの作動温度域が、意外にも、37-65°Cと広いことから、RT-LAMP-CRISPRのワークフローを全て単一温度 (65°C)、単一ヒートブロック、で動かすことが可能になった。
  • 2μLのUniversal Transport Medium (UTM)を利用することで、RT-LAMP-CRISPRと独立な前処理としての鼻咽頭 (NP)検体からのRNA抽出・精製を不要とした。
  • ACTB を標的とするプライマーを選択することで、ヒト遺伝子由来のコントロールを同一反応試験管に導入した。
  • COVID-19患者72名と健常者57名の臨床サンプルを利用して、精製したRNAと未精製NP検体について、それぞれ、50コピー/反応と1,000コピー/反応 (または、2コピー/μLと40コピー/μL)の感度を達成し、また、特異度と陽性適中度いずれも100%を達成した。Cas12a Supple Fig. 49
  • ラテラルフローアッセイのディップスティックを読み取るアプリケーションも開発した [Supplementary Fig. 49引用右図参照]。