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 実験医学2019年6月号[1]のテーマは「細胞内のタンパク質や核酸分子を整理し、反応の場を作り、生命を駆動する相分離」であった.その前年の2018年には,液-液相分離 (liquid–liquid phase separation: LLPS)を経て形成されるcondensates (以下,液滴)を光で誘導する手法を,Corelet [2] とCasDrop [3] ,をBrangwynneが率いる研究グループがCel l誌に発表していた.遅ればせながら2論文を紹介したCell 誌Preview [4]Nature Methods 誌 Research Highlight [5],およびCasDrop論文 [3] を読んでみた: 
  1. 実験医学2019年6月号 https://www.yodosha.co.jp/jikkenigaku/book/9784758125208/1368.html
  2. Corelets: "Mapping local and global liquid phase behavior in living cells using photo- oligomerizable seeds" Bracha D [..] Brangwynne CP. Cell. 2018-11-29. https://doi.org/10.1016/j.cell.2018.10.048
  3. CasDrop: "Liquid Nuclear Condensates Mechanically Sense and Restructure the Genome" Shin Y, Chang Y-C [..] Brangwynne CP. Cell. 2018-11-29. https://doi.org/10.1016/j.cell.2018.10.057
  4. Preview "Mechanobiology of Protein Droplets: Force Arises from Disorder" Welsh TJ, Shen Y, Levin A, Knowles PJ (U Cambridge). Cell 2018-11-29. https://doi.org/10.1016/j.cell.2018.11.020
  5. Research Highlights "Optogenetic tools light up phase separation" Tang L. Nat Methods. 2019-01-30. https://doi.org/10.1038/s41592-019-0310-5
LLPSと液滴について
  • 細胞内において生体分子が然るべく配置されていることが,生体機能の維持に必須である.脂質膜に結合した区画によって生体分子の空間配置が制御されると考えられてきたが,近年,脂質膜のガイドが無くても,天然変性タンパク質 (intrinsically disordered proteins: IDP)を含む生体分子の多くが,LLPSを介して,空間的に明確な区画を自発的に形成することが明らかにされた.すなわち,LLPSは,細胞質内の均一な溶液が高密度な液滴へと相転移する機構であり,形成された液滴はRNAのような第二の分子によって制御される系が細胞内に出現するに至る.
  • 脂質膜を伴わない液滴の生物機能は,細胞内での分子の輸送から,RNAプロセッシングの触媒環境を形成するまで,極めて多様であり,正常な細胞機能を担っている.液滴は一方で,神経変性を引き起こす凝集体へと固相化する傾向を帯びていることも,明らかにされてきた.こうして,LLPSならびに液-固相転移 (liquid-solid phase transition)の機構,および,それらが細胞の恒常性とその破綻をもたらす機構への関心が急速に高まってきた.
  • Brangwynneらが発表した技術は,脂肪膜で規定される区画と異なり極めてダイナミックであり,細胞内の特定の空間で急速に分解する液滴の動態を解析可能とした.
Corelet
  • 光照射を介て,よく知られている一連のIDPsのオリゴマー化を実現し, オリゴマーが単量体の間よりも強く相互作用することで,LLPSが進行することを明らかにした.
CasDrop
  • CasDropは,細胞核内の特定の遺伝子座に核小体, 転写クラスター, その他の核内構造体が会合した液滴が形成される機構解明を目的として開発された.
  • CasDropは2種類の人工因子で構成されている: (1) 標的遺伝子座での液滴形成を促すスキャフォールドを形成する因子 'dCas9-SunTag-GFP-iLID (improved light inducible dimer)'; (2) IDPを因子(1)に結合させる因子 'IDP-mCherry-SspB (iLIDに結合)' [参考: CasDrop論文 Figure 1 The CasDrop System Enables Liquid Condensation of Transcriptional Regulators at Target Loci. https://els-jbs-prod-cdn.jbs.elsevierhealth.com/cms/attachment/17dbec76-d5bf-4e05-9f4e-6fa96211b861/gr1_lrg.jpg]
  • CasDropにより,CRISPR-dCas9のsgRNAを発現させないコントロール細胞と,sgRNAを発現させた細胞における液滴形成を比較した.
  • コントロール細胞においては,液滴が,クロマチンが低密度な'柔らかい'領域にIDRを含むさまざまな液滴が形成され成長する傾向を示し,クロマチンが密な'固い'領域には液滴が成長しなかった.
  • 一方で,sgRNA発現細胞では,互いに遠位の遺伝子座が一つの液滴を形成し,隣接する遺伝子座であってもsgRNAの標的ではない遺伝子座は液滴形成に関与しなかった.すなわち,液滴形成・成長が,クロマチンの三次元構造を改変し,細胞の分化や遺伝子発現の調節を制御する可能性が示唆された.
  • クロマチン・マトリックス内での液滴の成長にあたって,形成当初の液滴は周囲のクロマチンを自らの周囲から排除する傾向を示すが,液滴が合体して表面張力を最小化する傾向を帯びており,この気候によった合体した液滴が結合しているクロマチン領域を近接させていくことが示唆された.
     [参考: PERSPECTIVE Figure 1. Controlled Liquid-Liquid Phase Separation Mechanically Alters the Spatial Arrangement of Chromatin. https://marlin-prod.literatumonline.com/cms/attachment/03a9f384-fb66-4022-b786-a5cdc9901bb1/gr1_lrg.jpg].