[出典] "X-ray screening identifies active site and allosteric inhibitors of SARS-CoV-2 main protease" Sebastian Günther S, Reinke PYA [..] Meents A. (bioRxiv, 2020-11-12) Science 2021-04-02. https://doi.org/10.1126/science.abf7945 
 DESY (Deutsches Elektronen-Synchrotron https://photon-science.desy.de/ドイツ電子シンクロトロン施設)のSebastian GüntherとAlke Meentsが率いた研究グループは,DESYの第三世代放射光施設PETRA III (https://lightsources.org/lightsources-of-the-world/europe/petra-iii-at-desy/)のビームラインP11を利用して,5,953種類の薬剤を対象とするX線構造解析スクリーンと新型コロナウイルス感染細胞での実験を経て,新型コロナウイルスのメインプロテアーゼ (Mpro)を標的とする2種類の薬剤をCOVIDー19治療薬候補として特定し,前臨床試験を開始した.
 [crisp_bio注] DESYがYouTubeで公開している非専門家向けに公開している解説動画 [*]に準じて,課題設定からのワークフローを以下にまとめた.[*] COVID Proteins in X-ray vision (2 m 42 s). https://www.youtube.com/watch?v=GKO0F1MGAyQ
  1. 治療薬の有力な標的はウイルスにとって必須のタンパク質である.
  2. ヒト細胞内に侵入したSARS-CoV-2は,RNAゲノムからポリペプチド鎖を生成し,タンパク質を形成していくが,その中で,主要なペプチド結合加水分解酵素 (メインプロテアーゼ: Mpro)が自らペプチド鎖を切断することで,新たなウイルス粒子が生成される (ウイルスが増殖する).
  3. したがって,Mproを阻害すれば,ウイルスの増殖を阻止できる.
  4. 研究グループは,X線構造解析によるスクリーンを進めるにあたり,薬剤と混合し結晶化した.
  5. タンパク質と薬剤の結晶を成長させ,PETRA IIIのP11ビームラインを利用してその構造を解析した.
  6. 結晶サンプルの自動交換装置を利用することで,サンプルあたり測定時間3分でX線解析は進んだ.
  7. 結晶サンプルをビームに対して回転させることで,結晶の全ての面にX線を照射した.
  8. X線回折パターンから,結晶構造をコンピュータプログラムを利用して再構成した.
  9. 結晶構造から,薬剤がMproに結合するか否か,結合するとすればどのように結合し,Mproを阻害する可能性があるか,を判定し,Mproに結合する薬剤43種類を特定し,十分な量を確保できた37種類について実験評価に進んだ.
  10. Mproに結合する薬剤の阻害効果と忍容性を,ウイルス感染細胞 (Vero E6細胞)で実験評価し,Mproの活性を阻害する薬剤7種類を特定した.
  11. その中で抗ウイルス活性が最も高くかつヒト細胞の忍容性が確認できた2種類 (CalpeptinとPelitinib) [*]について,前臨床試験を開始した.[*] それぞれFig. 3とFig. 4を引用した下図左右を参照Fig.3 2021-04-08 11.53.02 2021-04-08 12.25.51

  12. 今回のスクリーンでは,COVID-19治療薬候補を特定したことに加えて,これまで知られていなかったMproの薬剤結合部位を発見した.
 [構造情報] 
  • PDB IDs [PDBj https://pdbj.org]: 
  • 6YNQ, 6YVF, 7A1U, 7ABU, 7ADW, 7AF0, 7AGA, 7AHA, 7AK4, 7AKU, 7AMJ, 7ANS, 7AOL, 7AP6, 7APH, 7AQE, 7AQI, 7AQJ, 7AR5, 7AR6, 7ARF, 7AVD, 7AWR, 7AWS, 7AWU, 7AWW, 7AX6, 7AXM, 7AXO, 7AY7, 7B83 および7NEV
 [新型コロナウイルスのメインプロテアーゼ関連crisp_bio記事]