[出典] "Type III-A CRISPR immunity promotes mutagenesis of staphylococci" Mo CY [..] Marraffini LA. Nature. 2021-04-07. https://doi.org/10.1038/s41586-021-03440-3
 バクテリアとアーケアに内在するCRISPR遺伝子座とcas は,感染した接合性プラスミドやバクテリオファージのゲノムから短いDNA断片 (スペーサーと呼ばれる)を獲得することで,宿主細胞に免疫機能をもたらす.CRISPRアレイに蓄積されたスペーサーは,小型のCRISPR RNAs (crRNAs)へと転写・成熟し,このcrRNAsによってヌクレアーゼが侵入核酸内の相補的な標的 (プロトスペーサーと呼ばれる)を認識・破壊する.
 CRISPR-Casシステムはcas 遺伝子の構成によって,6種類のタイプ (I-VI)分類されているが,タイプIII CRISPR-Casシステムが最も複雑な核酸分解機構を帯びている.タイプIII CRISPR-Casシステムは,標的配列の転写をベースとして効果的な免疫機能を発揮する.
 タイプIII CRISPR-Casシステムでは,侵入核酸の転写物におけるプロトスペーサをcrRNAにガイドされたCas10複合体が認識し,Cas10内の2つのドメインを活性化する.HDドメインがssDNAを無差別に切断することで,侵入核酸を破壊する.加えて,PalmドメインがATPを環状のテトラ-またはヘクサ-アデニレート (サイクリック・オリゴアデニル酸)へと変換し,これが二次情報伝達分子として機能し,Csm6またはCsx1の非特異的リボヌクレアーゼが活性化される.続いて,Cas10複合体のサブユニットのCsm3またはCmr4が,標的転写物を切断し,Cas10の2種類の酵素活性が停止するに到る.このCas10の活性停止の最終段階が,Cas10とCsm6それぞれの非選択的ssDNaseとRNaseの活性継続が宿主に及ぼす障害を抑制するとされている.
 Rockefeller Universityの研究グループは今回,ブドウ球菌のタイプIII-A CIRPSR-Casシステムの非特異的DNase活性が,宿主ゲノムに突然変異を誘発し,Staphylococcus aureusStaphylococcus epidermidis に抗生物質耐性をもたらすことを同定した.
 これらの突然変異がDNA損傷に対するSOS応答の誘導を必要とし,そのパターンが独特であることも見出した.
 したがって,タイプIII CRISPR-Casシステムは,可動遺伝因子を介した遺伝子の水平伝播の抑制と変異誘発の2種類の機構を介して宿主ゲノムの進化を調節することが示唆された.

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