[出典] "A genome-wide atlas of co-essential modules assigns function to uncharacterized genes" Wainberg M, Kamber RA, Balsubramani A [..] Bassik MC, Kundaje A. (bioRxiv 2019-11-01). Nat Genet. 2021-04-15. https://doi.org/10.1038/s41588-021-00840-z
  Stanford Universityを主とする研究グループの報告.
  • 細胞ひいては生物の複雑なフェノタイプは遺伝子間相互作用によって生み出されている.長年にわたり遺伝子間相互作用と機能モジュールを同定する工夫がなされてきたが,それらをゲノムスケールでマッピングすることは,遺伝子間相互作用の数があまりに膨大になる組合わせ爆発のため,実現していない.2万種類ともいわれるヒト遺伝子ペアだけでもその相互作用を同定するためには,2億種類を超える読み出しが必要になる.そもそも,個々の遺伝子の機能を同定する技術が近年急速に進展してきたが,それでも,何百もの遺伝子の機能が不明である.
  • 酵母では遺伝子ペアの二重変異体のフィットネスを定量化することで,一対の遺伝子間相互作用同定が実現された (以下,二重摂動マッピング).酵母の手法を適用不可能なヒトの場合は,CRISPR-Casシステムの登場により,遺伝子ペアのノックアウトを介した二重摂動マッピンが可能になったが,組合わせ爆発の課題を解決するに至っていない.これまでに得られた最大のヒト遺伝子相互作用マップは222,784遺伝子ペアを網羅しているが,すべての遺伝子間相互作用の~0.1%をカバーするに留まっている.
  • 組合わせ爆発を回避する相補的な手法に,多重な条件にわたって単一遺伝子のフィットネスを測り,対応するフェノタイプ・プロファイルとの相関関係から,機能的相互作用をマッピングする"co-essentiality mapping"と呼ばれる手法である.Supplementary Data Fig.1 Extended Data Fig. 1 Co-essentiality profiling and the limitations of Pearson’s correlation https://www.nature.com/articles/s41588-021-00840-z/figures/7 に,機能的に関連している遺伝子ペアは一連の細胞株において双方とも必須であるが,それ以外の細胞株では双方とも必須でないというコンセプトと,シミュレーションのモデルが示されている.
  • 一組みの遺伝子ペアのノックアウトを介したフェノタイプの変化を見る遺伝子間相互作用解析によって,細胞型特異的機能的相互作用を捉えられるが,"co-essentiality mapping"によって,種々の細胞型にわたり成立している相互作用を捉えることができる.このところ,種々の癌細胞株を対象とする"co-essentiality mapping"によって,一連の遺伝子のパスウエイへの割り当てと新たな遺伝子機能の同定が実現されている [原論文参考文献 #21-#26].
  • "co-essentiality mapping"にも限界はある.二重摂動マッピングにおいてノックアウトの対象になる遺伝子ペアは互いに独立であるが,二種類の細胞株を対象とする"co-essentiality mapping"における細胞株は互いに独立とは限らない.例えば,由来する組織または細胞系譜を共有している場合がある.次に,sgRNAの毒性やsgRNAに対する感受性が,細胞株によって変動することも課題であったが,これについては,解決法 [*1]が提示されている.研究グループは今回,これまでの"co-essentiality mapping"考慮されて来なかった細胞株間の非依存性を明示的に考慮可能とする統計的手法を開発することで,前者の課題を解決した: [*1] crisp_bio 2017-11-30 News and Views] CRISPR必須遺伝子スクリーニングにおける多コピー遺伝子の偽陽性を判別可能に. https://crisp-bio.blog.jp/archives/5409862.html
  • 新手法を,485種類の癌細胞株を対象としたゲノムワイドCRISPRスクリーニングの結果 [*2]に適用し,"co-essential modules"のゲノムワイド・マップを生成した: [*2] crisp_bio 2017-08-06 癌細胞必須遺伝子リスト https://crisp-bio.blog.jp/archives/3181585.html [第1項] 癌細胞必須遺伝子のゲノムワイド・スクリーニング (Broad Inst., DFCI, BWH, HMS, HHMI).
  • 新手法によって,既知のパスウエイとタンパク質複合体の同定に加えて,これまで機能がほとんど分かっていなかった108種類の遺伝子の機能予測も可能になり,その中で,二種類の遺伝子の機能について実験検証した.
  • 一つはTME189遺伝子であり,これが,長年探索の的になっていたプラズマローゲン脂質 (https://ja.wikipedia.org/wiki/プラズマローゲン)の合成に必要なオーファン酵素プラズマニルエタノールアミンデサチュラーゼ (plasmanylethanolamine desaturase: PEDS)をコードする遺伝子と特定した.
  • もう一つは,C15orf57がAP2複合体に結合しクラスリンで被覆されたピットに局在し,トランスフェリンの効率的取り込みを可能にする機能を帯びていることを同定した.
  • クラスリンを介したエンドサイトーシスを制御する役割を果たしていることを発見した。最後に、さらなる生物学的発見を促進するために、共必要な遺伝子ペアやモジュールを視覚化して分析するインタラクティブなウェブツールを紹介します。
  • 新手法で得られた"co-essentiality"プロファイルを利用可能にする対話型Webツールを公開した: http://coessentiality.net