2021-07-31 関連crisp_bio記事へのリンクを追加: 2021-07-31 新型コロナウイルス・デルタ変異株: 感染力は水疱瘡と同レベル; ワクチン接種完了者にも感染しかつ他に感染を広げるリスクあり.
https://crisp-bio.blog.jp/archives/27046648.html
2021-06-24 NIHのアンソニー・ファウチ博士は,6月22日のホワイトハウスでのブリーフィングで"デルタ変異株が米国新規感染例の20.6%を占めるに至り,その比率は週ごとに倍増している"と指摘した.
また、米国CDC (疾病対策センター)所長のロッシェル・ワレンスキー博士は、デルタ型変異株のリスクとして,それ自体の感染拡大に加えて"広がれば広がるほど、さらに危険な変異体が進化する可能性が高くなる"点を指摘した.
[出典] "Fauci Warns Dangerous Delta Variant Is The Greatest Threat To U.S. COVID Efforts" Stein R. npr 2021-06-22 16:25. https://www.npr.org/sections/health-shots/2021/06/22/1008859705/delta-variant-coronavirus-unvaccinated-u-s-covid-surge 
 デルタ・プラス株 (正式名AY.1): インド保健省は,デルタ株にベータ株とガンマ株に見られる変異 (K417N)が加わった新しい変異株デルタ・プラス株について、感染力が高く、肺胞に取り付きやすく、モノクローナル抗体療法を免れる可能性があるとし,インドにおけるVOC (憂慮すべき変異株)に指定した.この株は今年4月に3つの州で初めて22件報告があり,そのうち16件は感染が最もひろがっていたマハラシュトラ州で見つかった。しかし,VOC指定に対して,ウイルス学者はそれを支持するデータは未だ出ていないとしている.
[出典] "新たな変異株「デルタ・プラス」 どれほど注意すべきか" スーティク・ビスワス、インド特派員. BBC NEWS | JAPAN. 2021-06-23. https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-57577545
2021-06-15 デルタ株 (インド由来変異株B.1.617.2)に関するスコットランドからの報告 - デルタ株感染の入院リスクとワクチンの有効性
[出典] "SARS-CoV-2 Delta VOC in Scotland: demographics, risk of hospital admission, and vaccine effectiveness" Sheikh A, McMenamin J, Taylor B, Robertson C (on behalf of Public Health Scotland and the EAVE II Collaborators). The Lancet. 2021-06-14. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(21)01358-1
 スコットランド全域を対象としたCOVID-19サーベイランス・プラットフォームであり,スコットランドの総人口のほぼ99% (~540万人)をカバーするEAVE IIをベースとして,2021年4月1日~6月6日間を対象として,COVID-19患者の人口統計学的プロファイル (demographic),COVID-19による入院リスク,および遺伝子陽[*]のSARS-CoV-2感染による入院を予防するという観点からのワクチンの有効性を分析した.[*]遺伝子,OR 遺伝子およびN 遺伝子を検出するThermoFisher's TaqPath RT-PCRで判定; アルファ株はS遺伝子陰性で,デルタ株の99%がS遺伝子陽性; スコットランドでは,S遺伝子陽性株の97%がデルタ株であった]
  • スコットランドにおけるデルタ株感染は、主に若くて社会経済的に恵まれた (affluent)グループに見られた。
  • デルタ株感染者のCOVID-19による入院のリスクは、アルファ株感染者の〜2倍であり、特に,5種類以上の共存症を持つ人で増加した。
  • オックスフォード・アストラゼネカ社とファイザー・バイオンテック社のCOVID-19ワクチンは、SARS-CoV-2感染リスクとデルタ株感染者の入院リスクの抑制に効果があった.また,これらの効果が、アルファ株感染者の場合より低いように見えた.
  • デルタ株感染患者のSARS-CoV-2感染予防効果について、オックスフォード・アストラゼネカ社のワクチンは、ファイザー・バイオンテック社のワクチンよりも低いようであった。
  • なお,今回の報告は観察研究に類することから、ワクチンの有効性の推定値は慎重に解釈する必要がある.
[参考] 英国ジョンソン首相は6月21日に予定していたロックダウン解除を7月19日まで延期すると発表した. デルタ株による感染再拡大を受けての判断のようである [Morton B, Lee J. BBC News 2021-06-14 BST https://www.bbc.com/news/uk-57464097]

2021-05-24 インド由来変異株に対してファイザー/ビオンテックのワクチンとオックスフォード大/アストラゼネカのワクチン2回接種が有効
[出典] Press release "Vaccines highly effective against B.1.617.2 variant after 2 doses" Public Health England. 2021-05-22. https://www.gov.uk/government/news/vaccines-highly-effective-against-b-1-617-2-variant-after-2-doses
 英国公衆衛生庁は5月22日に,4月5日から5月16日の間のB.1.617.2有症感染者1,054人のデータをもとに解析し,入院と死亡に対するファイザー/ビオンテックのワクチンBNT162b2とオックスフォード大学/アストラゼネカのワクチンVaxzevriaの有効性を判定した:
・1回接種後3週間
 いずれのワクチンも有効性は~33% (B.1.1.7の場合~50%)
・2回接種後 (カッコ内はB.1.1.7の場合)
 BNT162b2の有効性 88% (93%): 2回接種してから2週間後
 Vaxzevriaの有効性 60% (66%) [*]
[*] BNT162b2に比べて2回目接種が遅れたこと,中和活性が最大になるまでより長期間を要することから,BNT162b21の有効性よりも低くなったことが示唆されている
2021-05-19 (2) インド由来の2種類の変異株は,ワクチン誘発中和抗体と治療用モノクローナル抗体をある程度回避するが,ワクチンを無効にするには至らない
[出典] "The Spike Proteins of SARS-CoV-2 B.1.617 and B.1.618 Variants Identified in India Provide Partial Resistance to Vaccine-elicited and Therapeutic Monoclonal Antibodies" Tada T, Zhou H [..] Landau NR. bioRxiv. 2021-05-16. https://doi.org/10.1101/2021.05.14.444076
 レンチウイルスベクターのエンベロープタンパク質を変異株のスパイクタンパク質で置き換えた [*]シュードウイルス (pseudo-virus/偽ウイルス)で,COVID-19回復期患者由来の血清,ファイザー/ビオンテック社のワクチンBNT162b2,モデルナ社のワクチンmRNA-1273,リネジェロン社のカクテル抗体医薬REGN-CoV2 (2種類のモノクローナル抗体REGN10933とREGN1098のカクテル)の中和活性に対する抵抗性を分析した.変異株図解
[*] インド由来変異株 B.1.617 (L452R-E484Q, L452R-E484Q-P681R, L452R, E484Q, P681R), およびインド由来変異株 B.1.618 (Δ145-146-E484K, Δ145-146, およびE484K)に加えて,ユニバーサルな変異D614G, 英国由来変異株B.1.1.7, および南アフリカ変異株B.1.351についても検証 [右図はスパイクタンパク質上の変異参考図]
  • B.1.617およびB.1.618のスパイクタンパク質を帯びたシュードウイルスは,中和に対して部分的に抵抗性を示し,回復者血清中の抗体およびBNT162b2とmRNA-1273に誘発される抗体に対するIC50が,平均してそれぞれ3.9倍および2.7倍と悪化した.
  • この中和活性に対する抵抗性は初期のB.1.351およびニューヨーク由来変異株 B.1.526 (E484K)と同程度であり,また,L452R, E484Q, そしてE484Kの各変異によってもたらされることが見えて来た.L452RおよびE484Q変異が、スパイクタンパク質とACE2との結合親和性を高め、ひいては変異体の感染性を強めていると思われる.
  • インド由来の変異株はいずれもリジェネロン社のカクテル抗体のうちREGN10933に耐性を示した.また,B.1.617タンパク質を持つシュードウイルスはREGN10987にも部分的耐性を示し,カクテル抗体の中和活性を4.7倍低下させた.
  • BNT162b2とmRNA-1273に誘発される抗体の中和力が3〜4倍低下したが,平均力価が1:500におよび,回復者血清が示す力価をはるかに上まわり,いずれかのワクチンを接種した人は,2種類のインド由来変異株から保護されると考えられる.
2021-05-19 (1) インド滞在日本人の帰国にあたって必要なPCR検査証明書について,日本大使館は当初「PCR検査証明書を発行可能な医師をお知らせしている」としていたが,帰国日本人専用のPCR検査所を用意 [*]したようだ.これで直航便で帰国し易くなったようだ.
 [*] NHK NEWS WEB. 2021-05-17 19:24. https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210517/k10013036061000.html]
2021-05-14 22:40 濱田篤郎東京医科大学特任教授は,インド在留の日本人の帰国について「(日本入国には)72時間以内にPCR検査で新型コロナに感染していないことを証明する書類が必要とされているが,インドでそうした証明書を得るのは現実的でなくなってきている.希望者を募ってチャーター機で一度に帰国させ、特定の宿泊施設で2週間の隔離をすることも想定しておいた方がいい」と述べた[新型コロナ変異株の特性以外にも問題が―インド感染爆発. 時事メディカル. 2021-05-13. 05:00 https://medical.jiji.com/topics/2124]
2021-05-14 18:10 都内で「インド型」市中感染 [*]を確認 国内初. テレ朝NEWS 2021/05/14 16:47. https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000216148.html; [*] 海外渡航歴はなく,感染経路は不明.スクリーンショット 2021-05-14 23.35.38
2021-05-11
10日(月曜日)にWHOが,インド由来変異株B.1.617を4番目の"世界的に憂慮すべき変異株" (Variant of concern (VOC 右図参照) at a global level)に指定したが,同時に"既存のワクチン,診断法,および療法は有効"と発表した.[出典]"WHO classifies India variant as being of global concern" Nebehay S, Farge E. Reuters. 2021-05-11 04:34 JST. https://www.reuters.com/business/healthcare-pharmaceuticals/who-designates-india-variant-being-global-concern-2021-05-10/
2021-04-28
日本人の60%に特有なタイプの細胞性免疫とL452R変異株との戦い
 日本人はインド由来変異株とカリフォルニア由来変異株に見られるL452Rには弱いかもしれないと思わせる論文が4月5日にbioRxivに投稿されていた:"An emerging SARS-CoV-2 mutant evading cellular immunity and increasing viral infectivity" Motozono C [..] The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan) consortium, Nakagawa S, Ueno T, Sato K. bioRxiv. 2021-04-05 [プレプリント]. https://doi.org/10.1101/2021.04.02.438288
 東大医科研の佐藤准教授が主催する新型コロナ研究コンソーシアム (The G2P-Japan)からの投稿: 
  • ヒトは,ウイルスなどの病原体に対して抗体 [*]を介した液性免疫とT細胞やマクロファージ などの細胞を介した細胞性免疫で対抗する.[*]  COVID-19感染からの回復者やワクチン接種者の血清には,多くの場合,SRAS-CoV-2を中和する一連の抗体 (中和抗体)が存在する.
  • 病原体に対抗するには,病原体を自己と異なる異物であることを認識する必要がある.
  • ヒトは,ヒトの主要組織適合性複合体 (MHC)であるHLA (Human leukocyte antigen:ヒト白血球抗原)によって,異物を認識する.
  • HLAには膨大なタイプがあり,人類集団としても個人としても多様なタイプのHLAを帯びている.
  •  [*] 日本人の60%が帯びているとされるHLA-A24のタイプは,新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を細胞性免疫において強く認識することを発見した.
  •  [*] ところが,(インド由来変異株とカリフォルニア由来変異株に共通している) L452Rの変異を帯びた新型コロナウイルスはHLA-A24を介した細胞性免疫を免れる (HLA-A24がL452Rを異物として認識しなくなる)ことを発見した.
  • L452Rは,液性免疫から免れるという報告もあり,細胞性免疫も免れるということになれば,一際やっかいであるが,細胞性免疫の観点からは,HLA-A24単独ではなくいくつかのタイプのHLAのセットを帯びていることから [*],必ずしも日本人の60%がL452R変異株に"弱い"ということにはならないと思われる.[*] "なぜHLA型は、約16,000種類もあるのか? 猪子秀俊東海大名誉教授インタビュー. "https://keystone-lab.com/feature/0011/0011.html
2021-04-27 7:30 国立感染症研究所2021-04-26公表の「SARS-CoV-2の変異株B.1.617系統の検出について」から引用 [https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov.html]
  • 2021年1月9日より、全ての入国者に対し、入国時に新型コロナウイルス検査をしている.
  • すべての陽性検体について国立感染症研究所でゲノム解析を実施している.
  • 20例を,インド由来変異株 (B.1.617)と判定した.
  • B.1.617株は,スパイクタンパク質にL452RとE484Qの二重変異を帯びているものと,E484の変異を帯びていないものが,存在しているが,20例はいずれも二重変異を帯びていた.
2021-04-26 15:54 26日午前に加藤官房長官が「二重変異株,国内21件 (空港検疫で20件,国内で1件)」と発表. ロイター編集 2021-04-26. 13:08. https://jp.reuters.com/article/kato-covid-variant-idJPKBN2CD0AW; 22日の時点では5件 (空港検疫4件と国内 (都内)1件)であった.国内件数が増えていないかったのは良かったが.
2021-04-26 12:21 CSIR Centre for Cellular & Molecular BiologyのDivta Tej Sowpati [*1]が,代表的なインド由来変異株を,B.1.617 (二重変異),B.1.617 + S:V382L (三重変異),ならびにB.1.618 (Bengal variant)に整理し,ツイートした [*2].そのスレッドでまた,B.1.617 + S:V382Lの頻度は低く,現時点 (4月23日時点)では,英国・南ア・ブラジル由来変異株のようなVariants of Concern (VOC)ではなくVariants fo Interest (VOI)に止まっているとした.B.1.618の特徴は,スパイクタンパク質上でE484K (英国変異株およびブラジル変異株と共通)とD614Gの他にH146欠損&Y145欠損を帯びており,西ベンガル州で感染拡大しつつある.
[*1] "SARS-CoV-2 genomics: An Indian perspective on sequencing viral variants" Srivastava S, Banu S, Singh P, Sowpati DT, Mishra RK. J Biosci. 2021-02-20. https://doi.org/10.1007/s12038-021-00145-7
[*2]  本ブログ記事の2021-04-22の初稿で取り上げたForbesの4月12日の記事の著者 W. A. Haseltineもインド由来変異株情報を更新し,V382LW152Lの二種類の変異に言及した [*3]2021-04-26 12.33.18また,新規感染者の7日間移動平均で見ると,3月初めの約15,000件から4月下旬には30万人近くと感染拡大が〜20倍に達した [右図参照]ことを捉えて,変異株B.1.617がこの感染爆発の唯一の要因ではないが,この感染拡大は変異株の感染力の強さと,気温が高くても感染が止まらないことを示唆している,とした
 [*3] "The Recent Rise of Indian Covid-19 Cases Display The Dangers Of SARS-CoV-2 Variants" Haseltine WA. Forbes. 2021-04-23. https://www.forbes.com/sites/williamhaseltine/2021/04/23/the-recent-rise-of-indian-covid-19-cases-display-the-dangers-of-sars-cov-2-variants/
  • V382L: RBD内に位置し,ウイルスに中和抗体を逃れる能力を与える可能性がある [crisp_bio注: この変異は,2020年6月3日に米国で発見されているが,この変異が米国からインドへ広がったか,インドで独立に発生したかは不明; "Mutation hot spots in Spike protein of SARS-CoV-2 virus" Begum F, Banerjee AK, Ray U. Preprint. 2020-09-07. https://doi.org/10.20944/preprints202004.0281.v2 - Table 5内の#7]
  • W152L: RBD内ではなくN末端ドメインに位置するが,中和抗体が結合すると想定されている部位に発生した変異で,COVID-19回復者とワクチン接種者の血清 (その中の中和抗体)に対する抵抗性を高める可能性がある.
 最後に,記事タイトルを"インド由来変異株の2重変異または3重変異の作用"からインド由来変異株の2重変異または3重変異とは"へと改訂した..
2021-04-25 B.1.617に対する治験中ワクチンの評価投稿1件を以下に紹介し,RBD変異のACE2への結合親和性に及ぼす効果を評価した論文を[参考]の第5項目に追加した: 開発中のワクチンが,B.1.617に対して有効かもしれない [crisp_bio注]  査読を経ない投稿であり,共著者にワクチン開発会社の研究者が含まれている. [出典] "Neutralization of variant under investigation B.1.617 with sera of BBV152 vaccinees"  Yadav PD, Sapkal GN et al. bioRxiv. 2021-04-23 [プレプリント] https://doi.org/10.1101/2021.04.23.441101
  ICMR-National Institute of Virologyを主とするインドの研究グループの投稿:
  • インドのMaharashtra州で感染者が激増し,各国で懸念されているB.1.617の分離株12株 [*1]を増殖させたVero-CCL81細胞にて,COVID-19患者の回復期血清 (17例)とBharat Biotech, Incが開発したBBV152 (Covaxin)ワクチン [*2] 接種者血清 (28例)のB.1.617株に対する中和効果を判定した.[*1] 無症状者からの7株と有症患者からの5株; [*2] What do we know about India’s Covaxin vaccine? Thiagarajan K. BMJ (British Medical Journal,). 2021-04-20. https://doi.org/10.1136/bmj.n997 ; COVAXIN. Bharat Biotech, Inc. https://www.bharatbiotech.com/covaxin.html 
  • 50%プラーク減少中和試験において,B.1.617感染者由来血清とCovaxiワクチン接種者 (第2相試験)の血清いずれもが,B.1.617を中和することを見出した.
  • B.1.617株の一連の変異と,他のSARS-CoV-2株との系統関係についても報告している. 
2021-04-23 インド由来変異株を新たに55例確認した英国は,インドからの渡航者の入国禁止へ  (これで感染例は計132例に) [ロイター編集. 2021-04-23 05:05. https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-britain-variants-idJPKBN2C92QU]
2021-04-22 初稿
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 2021年4月22日,加藤官房長官が「インド由来変異株感染を日本で5件確認」と発表した [ 時事ドットコムニュース. 2021-04-22 17:55. https://www.jiji.com/jc/article?k=2021042201037].インド由来変異株については,英国と米国でも「監視対象」株とされている.このインド変異株について,米国カリフォルニアでの感染確認を受けてHarvard Mecical SchoolとHarvard School of Public Healthの教授であったWilliam A. Haseltine [https://en.wikipedia.org/wiki/William_A._Haseltine]がForbesに寄稿した記事を以下に引用する.
[出典] "An Indian SARS-CoV-2 Variant Lands In California. More Danger Ahead?". Haseltine WA. Forbes. 2021-04-12 12:55. https://www.forbes.com/sites/williamhaseltine/2021/04/12/an-indian-sars-cov-2-variant-lands-in-california-more-danger-ahead/
 インドでの感染者数は,2月9日の11,012件に対して4月9日には145,384件と,わずか2ヶ月間に10倍増となったが,この急増の一因がB.1.617と命名された変異株によるとされている.
  • B.1.617変異株はユニバーサルになった変異D614G [*1]を帯びているが,ゲノム解析から英国由来B.1.1.7,南ア由来B.1.351,ブラジル由来P.1,ニューヨーク由来B.1.526およびカリフォルニア由来B.1.427/9の変異株とは独立にインドで発生したことが示唆されている.
  • B.1.617変異株で注目すべきは,スパイクタンパク質 [*2]のACE2受容体結合ドメイン (RBD)上の二重変異である:一つは,カリフォルニア由来変異株にも見られるL452R変異 [*3]である.研究室実験によれば,この二種類の変異は,スパイクタンパク質のACE2への結合親和性を高め,モノクローナル抗体を逃れる能力を高める;もう一つは,B.1.351,P.1,およびB.1.526変異株ではグルタミン酸からリジンに変異している484番目の残基(E484K)が,グルタミン酸からグルタミンへと置換されている変異 (E484Q)である.研究室実験では,この変異もL452Rと同様にACE2への結合親和性と抗体回避能を高めるとされている.
  • スパイクタンパク質でRBDを含むS1サブユニット上にはその他に,G142D,E154K,D614G,およびP681Rが存在している.冒頭の二種類は,他の変異体でも多様な変異が発生しているN末端領域に位置し,D614G変異は一連の変異体に共通である.残る一つP681R変異は,S1サブユニットとS2サブユニットの開裂部位近くに位置していることから,細胞への侵入過程であるS1サブユニットとS2サブユニットの開裂に関与することで,三重変異を帯びたインド由来変異株に独特の特性をもたらす可能性がある [2021-04-26 追記: 2021-04-26にツイートを引用したインドの研究者Divta Tej Sowpatiは,L452RとE484QにV382Lを加えたセットを三重変異と呼んでいる]
[参考]
  1. [20210219更新] 新型コロナウイルスのスパイク(S)タンパク質D614G変異体の構造・機能解析https://crisp-bio.blog.jp/archives/23698632.html
  2. [20210120更新] [解説] 新型コロナウイルスのスパイク (S)タンパク質とは?. https://crisp-bio.blog.jp/archives/23213830.html
  3. crisp_bio 2021-04-22 新型コロナウイルスにモノクローナル抗体回避能をもたらすACE2結合ドメイン上の変異を洗い出した. https://crisp-bio.blog.jp/archives/26168686.html  [L452Rを帯びたカリフォルニア由来変異株がイーライリリー社などが開発した抗体を回避することを同定];crisp_bio 2020-07-24 新型コロナウイルス: スパイクの天然変異80種類と26ヶ所のN結合型糖鎖削除が感染性と抗原性をどう変えたか? https://crisp-bio.blog.jp/archives/23636254.html [L452Rが免疫回避能をもたらすことを予測]
  4. crisp_bio 2021-03-15 新型コロナウルス変異株7種類に対するmRNAワクチン接種の効果. https://crisp-bio.blog.jp/archives/25840577.html [インド由来変異株は対象外]
  5. RBDの変異に関する網羅的評価論文 (インド由来変異株発見以前): [20200904訂正] 新型コロナウイルス: Sタンパク質ACE2結合ドメインの全アミノ酸変異誘導実験から分かったこと. https://crisp-bio.blog.jp/archives/24068277.html - ACE2への親和性を低下させる一連の変異と親和性を高める一連の変異を同定;"Comprehensive mapping of mutations in the SARS-CoV-2 receptor-binding domain that affect recognition by polyclonal human plasma antibodies" Greaney AJ et al. Cell Host Microbe 2021-03-10/02-08. https://doi.org/10.1016/j.chom.2021.02.003 - E484の変異に注目すべきことを指摘