Cell 誌SnapShot; 出生前胎児の便には微生物のシグナルは見られないとするNature Microbiology 論文
1.スナップショット: 「腸マイクロバイオーム - 腸 - 脳」軸

[出典] "SnapShot: The microbiota-gut-brain axis" Agirman G, Hsiao EY. Cell 2021-04-29. https://doi.org/10.1016/j.cell.2021.03.022
[注] UCLA統合生物学・生理学科の研究者によるまとめ.
 Cell 誌にてテーマごとの最新の知見を図表とテキストでコンパクトにまとめるシリーズ"SnapShot"で「腸内菌叢―腸―脳軸」が取り上げられた.
1)腸マイクロバイオームが脳の発達と機能に及ぼす影響
2)マイクロバイオームの多様性の変遷と脳の発達 (出生前 - 新生児 - 幼少期)
3)胎児脳の発生, 脳の構造,血液脳関門,脳免疫,神経発生,行動,神経系シグナル伝達,神経系の恒常性
4)腸マイクロバイオームと脳の間の活発なコミュニケーションをもたらす並列かつ互いに連関している少なくとも3つルート
  • 免疫系 [解説と図解]
  • 内分泌・システム系 [解説, 図解と表 (腸マイクロバイオームが産生するニューロモジュレーター)]
  • 神経系 [解説と図解]
  • 3つのルートの間のクロストーク [解説と表 (腸内微生物による宿主神経系の機能調節)]
5) 将来展望
  • 腸マイクロバイオーム―腸―脳軸は,多重なパスウエイを介してさまざまな時間スケールで発生する「器官システム間の複雑な相互作用」を含んでいる.
  • 次々に発見される新奇な分子と細胞のメディエータは,行動の基盤となる統合的な身体システムの相互作用の基盤と脳と行動の障害の治療標的への洞察をもたらす手掛かりを供する.
  • 健康と疾患における「腸マイクロバイオーム - 腸 - 脳」軸にわたるシグナル伝達の基本原理と精密なメカニズムを明らかにするために,研究を継続していくことが必要である.
2.出生前の胎児の便からは微生物は検出されない
[出典] "Fetal meconium does not have a detectable microbiota before birth" Kennedy KM [..] Sloboda DM, Braun T. Nat Microbiol. 2021-05-10. https://doi.org/10.1038/s41564-021-00904-0; PDF https://rdcu.be/ckjSG
[注] McMaster U, Charité-Universitätsmedizin Berlinに Charité Vivantes GmbHが加わった研究グループからの論文.
 Cell 誌のSnapShotにあるように,近年,ヒト腸マイクロバイオームが宿主の代謝や免疫に影響を与えるエビデンスが蓄積されてきたが,腸内に微生物が定着し始める時期を確定するに至っていない.
  • これまでに多くの研究から,生後数時間から数日後に採取される初回胎便サンプル (first-pass meconium samples)からのバクテリアDNA検出が報告されてきた.
  • 研究グループは今回,陣痛を伴わない選択的逆子帝王切開分娩 (elective breech caesarean deliveries)において抗生物質投与前の直腸スワブ (以下,胎便スワブ; n=20)を採取し,従来の手法による初回胎便スワブ (以下,新生児スワブ; n=5),幼児直腸スワブ (n=25),および陰性コントロールとする"procedural"スワブ (n=5)を,分析・比較した.
  • 16SリボソームRNA遺伝子のシーケンシングの結果,胎便スワブのプロファイルにはコントロール・スワブと同様に,バクテリアからのシグナルは非検出であり,培養実験での代謝産物も評価した結果,新生児スワブのプロファイルに見られる微生物は出生時および出生後に獲得されたと結論した.