2021-06-30 PCSK9を標的とする塩基エディターABEを,脂質ナノ粒子 (LNP)によってカニクイザルの肝臓にデリバリーし,PCSK9 のノックアウトを介して.血中コレステロール値を下げることに成功した互いに独立な研究論文がNature Biotechnology誌のNew & Viewsで取り上げられた.
家族性高コレステロール血症の患者に対しては,スタチン, RNA干渉 (RNAi)治療薬, PCSK9を標的とする抗体が処方されてきた。しかし、これらの治療法は一過性であり、生涯にわたって頻繁に服用sる必要があり,薬剤耐性発生率も高い。肝臓を構成する主たる細胞である肝細胞はターンオーバーが遅く分裂する特徴を帯びている.したがって,肝臓におけるPCSK9の機能を恒久的に阻害する今回の手法は単回処方で数十年にわたって効果を発揮し、QOLの向上と医療費の削減に貢献する可能性を帯びている.
[出典] NEWS &VIEWS "CRISPR base editing lowers cholesterol in monkeys" van Kampen SJ, van Rooij E. Nat Biotechnol. 2021-06-24. https://doi.org/10.1038/s41587-021-00975-8
家族性高コレステロール血症の患者に対しては,スタチン, RNA干渉 (RNAi)治療薬, PCSK9を標的とする抗体が処方されてきた。しかし、これらの治療法は一過性であり、生涯にわたって頻繁に服用sる必要があり,薬剤耐性発生率も高い。肝臓を構成する主たる細胞である肝細胞はターンオーバーが遅く分裂する特徴を帯びている.したがって,肝臓におけるPCSK9の機能を恒久的に阻害する今回の手法は単回処方で数十年にわたって効果を発揮し、QOLの向上と医療費の削減に貢献する可能性を帯びている.
[出典] NEWS &VIEWS "CRISPR base editing lowers cholesterol in monkeys" van Kampen SJ, van Rooij E. Nat Biotechnol. 2021-06-24. https://doi.org/10.1038/s41587-021-00975-8
2021-05-29 初稿
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[出典] RESEARCH HIGHLIGHT "Base editing takes a shot at disease in non-human primates" Koch L. Nat Rev Genet 2021-05-27. https://doi.org/10.1038/s41576-021-00382-4
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[出典] RESEARCH HIGHLIGHT "Base editing takes a shot at disease in non-human primates" Koch L. Nat Rev Genet 2021-05-27. https://doi.org/10.1038/s41576-021-00382-4
高 LDL コレステロール血症治療法の標的とされているPCSK9 (proprotein convertase subtilisin/kexin type 9)を標的とするABEの効用をカニクイザル (Macaca fascicularis)で実証した2論文をハイライト:
- U Pennsylvania, Verve Theratpeutics, Acuitas Therapeutics, およびBeam Therapeuticからの論文 (以下,Musunuru論文): "In vivo CRISPR base editing of PCSK9 durably lowers cholesterol in primates" Musunuru K, Chadwick AC [..] Kathiresan S. Nature. 2021-05-20. https://doi.org/10.1038/s41586-021-03534-y
- U Zhurich, U Pennsylvania, Acuitas Therapeutics, Synthego Corporationなどからの論文 (以下,Rothgangl論文): "In vivo adenine base editing of PCSK9 in macaques reduces LDL cholesterol levels" Rothgangl T, Dennis MK […] Semple SC, Schwank G. Nat Biotechnol. 2021-05-19. https://doi.org/10.1038/s41587-021-00933-4
Musunuru論文
- ABE8.8を脂質ナノ粒子にて単回注入することで,肝臓にてPCSK9の発現がほぼ完全にノックダウンされ,用量0.5mg/kg,1.0mg/kg,および1.5mg/kgいずれについても,2週間後には塩基編集率が50%を超した.
- 用量3.0mg/kgの長期投与実験では,肝生検サンプルから得られた2週間後の平均基本編集率が66%であり、PCSK9の血中濃度が約90%,LDLコレステロールが約60%低下し,これが少なくとも8ヶ月間維持された.また,血中リポタンパク質(a)濃度は,8ヶ月後に35%低下した.
- 詳細:crisp_bio記事 塩基エディター (ABE)を介してカニクイザルにてLDLコレステロールとトリグリセライドを抑制. https://crisp-bio.blog.jp/archives/23442432.html
Rothgangl論文
- ABE7.10 (用量0.75mg/kgまたは1.5mg/kg)を脂質ナノ粒子に封入して,1回または2回投与し,29日後に安楽死させた上で分析した.
- 高用量を注入したモデルでは,編集効率24%を達成し,それに伴って,血清PCSK9濃度が単回投与群で26%, 39%, 血清LDL濃度が単回投与群で9%,反復投与群で19%低下した。
副作用
- オフターゲット編集については,Musunuru論文はシーケンシングをベースとした解析から発生しなかったとし,Rothgangl論文は評価しなかった.
- いずれの論文も,ABEと脂質ナノ粒子がいずれも速やかに除去され,有害事象は見られなかったとした.
[補足]
ABEについて
- "E. coli tRNAアデノシン脱アミノ化酵素(TadA)を出発酵素として選択し、研究室内進化を経て、DNAの(A)を脱アミノ化することが可能な酵素(以下、TadA*)を創出した。その上で、ABE1.2(TadA* - XTENリンカー - Cas9ニッカーゼ(nCas9) - 核移行シグナル(NLS)のコンストラクト)を構築し、低効率ではあるが、A:T→G:C変換が起こることを確認した。 .....
- ABE1.2からさらに7段階の進化を経たABE7.10によって、HEK293T細胞において、6箇所のサイトについて、平均〜50%(34〜68%)のA:T→G:C変換効率を達成した。
- [この項の出典: " crisp_bio 2017-10-26 D. R. LiuのDNA1塩基編集法 "ABE" とF. ZhangのRNA1塩基編集法 "REPAIR". https://crisp-bio.blog.jp/archives/4665637.html]
- "PCSK9は, LDL 受容体の分解を促進するタンパク質である。PCSK9 阻害薬は肝細胞の LDL 受容体を増加させることで血中 LDL コレステロール(LDL-C)を強力に低下させる.本薬剤は主に家族性高コレステロール血症(FH)および冠動脈疾患二次予防などの、心血管 イベントの発現リスクの高コレステロール血症において、スタチン(HMG-CoA 還元 酵素阻害剤)を含む他剤では十分に LDL-C が低下できない場合(スタチン不耐も含む)に 非常に有効な治療薬である"
- [この項の出典: PCSK9 阻害薬の継続使用に関する指針. 日本動脈硬化学会 PCSK9 阻害薬適正使用声明文作成 WG. 2021-04-06. https://www.j-athero.org/jp/pcsk9阻害薬の継続使用に関する指針について/]。
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