2021-09-02 日本の会場でモデルナワクチン接種支援をしていた薬剤師が発見した不純物について,武田薬品からの報告を厚生労働省が広報した: 令和3年9月01日 新型コロナウイルスワクチンの一部ロットにおける異物混入に係る調査結果について (販売名:COVID-19 ワクチンモデルナ筋注) 
  • 異物は、製造機器の組立て時の不具合により製造時に混入した製造機器の破片(ステンレス)である。
  • ステンレスは、心臓の人工弁や金属製のステープルなどの医療機器に使用されており、極めて小さな粒子状の金属が仮に筋肉内に注入された場合でも医療上のリスクが増大する可能性は低い。
  • 当該ロットについては,全国901会場に約162万回分配布済みのところ,9月2日から回収する予定 [3004667; 3004734; 3004956]
2021-08-29 初稿でとりあげたウルム大学からの投稿は,アストラゼネカのワクチンの一部にタンパク質レベルの不純物が混入している質量分析データを示したものであったが,日本では,モデルナのワクチンの複数のバイアルから目視できる不純物が発見され,3つのロットの使用が停止された [*1]
 29日朝7:00からのNHKニュース・おはよう日本によると,3日前に報道されたロットと別のロットのバイアルからも不純物が発見され,また,黒い不純物の他にピンク色の不純物が発見されたとのことである.
 モデルナのワクチンについては,基礎疾患とアレルギー歴のない30代男性二人が接種後3日目に亡くなったことが報道された [*2].ただし,この死亡事例に関連するロットの製品については粒子状異物混入の報告は無かったとのことである.
[*1] 武田薬品ニュースリリース 2021-08-26 "COVID-19ワクチンモデルナ筋注の一部製品の使用見合わせのお知らせ" https://www.takeda.com/ja-jp/announcements/2021/covid-19vaccine-suspension-of-use/
[*2] 武田薬品ニュースリリース "COVID-19ワクチンモデルナ筋注の使用見合わせ対象ロットの接種者に関する 厚生労働省の発表内容について" https://www.takeda.com/ja-jp/announcements/2021/moderna-and-takedas-response-to-the-incidents-announced/ 
2021-06-01 初稿
[出典] NEWS: Impurities in AstraZeneca Vaccine Could Be Linked to Adverse EffectsChemistryViews  2021-05-30. https://www.chemistryviews.org/details/news/11302393/Impurities_in_AstraZeneca_Vaccine_Could_Be_Linked_to_Adverse_Effects.html;
投稿: "Process-related impurities in the ChAdOx1 nCov-19 vaccine" Krutzke L, Roesler R, Wiese S, Kochanek S. Research Square 2021-05-04 [プレプリント]. https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-477964/v1
 NEWSはChemistry Europe (https://chemistry-europe.onlinelibrary.wiley.com)が発行しているChemistryViews の記事であり,ChemistryViews がプレプリント・サーバーのRearch Square から公開されたウルム大学 (ドイツ)のDepartment of Gene TherapyとCore Unit Mass Spectrometry and Proteomicsの研究チームからの投稿を取り上げた.
 アストラゼネカ社のワクチン"ChAdOx1 nCov-19"のように,アデノウイルス・ベクターを使用したCOVID-19のワクチンの中には,クチン誘発性免疫性血栓性血小板減少症 (vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopenia: VTT)を誘発するものもある.この血液凝固の問題は,たとえば,脳静脈洞血栓症を引き起こす可能性があるが,この極めて稀な疾患の原因はまだ調査中である.
2021-06-01 12.47.53 今回.ウルム大学の研究チームが,アストラゼネカのCOVID-19ワクチンの3種類のロットを分析した結果を投稿した.
 研究チームはポリアクリルアミドゲル電気泳動 (SDS-PAGE)を利用して,ワクチンサンプルからタンパク質を分離した後,銀染色を施し,ワクチンサンプル由来のタンパク質のバンドと,精製したアデノウイルスベクターのバンドと比較し,ワクチンがアデノウイルス以外のタンパク質を含んでいることを同定した [Fig.1 引用右図参照].
[ワクチンに含まれるタンパク質の量]
  • ワクチンサンプルはコントロールのアデノウイルス由来タンパク質よりも多種類のタンパク質バンドを示した.
  • また,ワクチン1回分のタンパク質含有量が32 μgと,用量から想定されるアデノウイルスベクターの分子量12.5 μgを大きく超えた.
[ワクチンに含まれるタンパク質の種類]
  • ワクチンタンパク質の組成を質量分析により同定した.3つのロットのうち1つのロットでは,タンパク質の約3分の2がヒト由来,約3分の1がアデノウイルス由来であったのに対して,他の2つのロットでは,ヒト由来とアデノウイルス由来のタンパク質がほぼ同量であった.2021-06-01 12.48.04
  • 質量分析で検出したタンパク質には,新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を帯びたウイルス粒子の構成に必要なアデノウイルスタンパク質以外の非構造的アデノウイルスタンパク質と,ベクターの製造に利用したヒトT-REx-293細胞株に由来するさまざまなヒトタンパク質が含まれていた.特に,免疫反応に影響を及ぼす熱ショックタンパク質 (HSP)と細胞骨格タンパク質が多数含まれていた [Fig. 3引用右図参照].
[結論]
  • こうして検出されたタンパク質の混入が接種後1日または2日目に見られる強い副反応と相関している可能性がある.
  • また,それ以後の期間に自己免疫反応を促進する可能性も否定できず,(認可後の製造過程での)ワクチンの品質管理と精製プロセスの改善が必要である.
[参考] 異なるワクチンを組み合わせる可能性
2021-06-01 10.37.38
[参考] アデノウイルスベクターワクチンの仕組みインフォグラフィックス