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Regeneron Pharmaceuticals, Inc.とTexas Biomedical Research Instituteからの論文
[出典] "The monoclonal antibody combination REGEN-COV protects against SARS-CoV-2 mutational escape in preclinical and human studies" Copin R, Baum A [..] Kyratsous CA. Cell. 2021-06-05. https://doi.org/10.1016/j.cell.2021.06.002
[参考] [20201210更新] トランプ大統領に処方されたリジェネロン社の抗体カクテル療法に緊急使用許可.https://crisp-bio.blog.jp/archives/24386275.html
 他のウイルスと同様、SARS-CoV-2は常に進化する.変異体は,ヒト集団内でのより効率的な拡散や,自然免疫反応やワクチンを介した免疫反応の回避,さらには治療薬の回避,といったフィットネス(適応度)により選択されていく.このため,COVID-19の抗体療法には,抗体を逃避する (抗体療法に対する耐性をもたらす)ウイルス変異体 (以下.エスケープバリアント)の出現を助長しないことが求められる.
 リジェネロン社のREGEN-COV (従来,REGN-COV2)は,SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン (RBD)を標的とする2種類の完全ヒト型中和モノクローナル抗体 (mAbs), casirivimab (REGN10933)とimdevimab (REGN10987),のカクテル療法であり,ウイルスの宿主細胞への侵入を防止する.この2種類のmAbsは,RBD上で互いに重ならないエピトープにそれぞれ同時に結合することで,互いに競合することなく,強力な中和活性を発揮する.
 REGEN-COVは,これまでに組換えウイルス (シュードウイルス)を利用したin vitro での評価で,D614G変異株,B.1.1.7,B.1.351に対しても十分な中和活性を発揮することが報告されてきた.著者らは今回,REGEN-COV療法を施したCOVID-19患者からのSARS-CoV-2の変異解析,単一のmAb,あるいは二重または三重のmAbsを組み合わせたin vitro 前臨床試験,および,REGEN-COVまたは単一のmAbを用いたハムスターin vivo 試験により,REGEN-COVのSARS-CoV-2変異株に対する中和能とエスケープバリアント発生抑止能を検証した.
 
In vitro 実験
  • SARS-CoV-2スパイクタンパク質のRBDを標的とした臨床段階にあるすべてのmAbsについて,単独投与では標的するエピトープやその保存性のいかんにかかわらず,エスケープバリアントが速やかに選択されること,このリスクが2種類の抗体の組み合わせによって軽減され,3種類の抗体を組み合わせるとさらに軽減されることを見出した.
In vivo実験
  • mAbの単独投与では,投与量や治療法のいかんにかかわらず,エスケープバリアントが効率的に選択された.一方で,REGEN-COVはこれを完全に防止した.
ヒト臨床試験
  • 進行中の第1-3相試験 (clinicaltrials.gov NCT04666441, NCT04426695, NCT04452318)において,COVID-19と診断された外来患者または入院患者1,000人から得た4,882検体について,スパイクタンパク質全長の配列多様性を調査した.
  • プラセボおよびREGEN-COV療法を受けた患者のベースラインおよび治療後の配列多様性を比較解析した結果,互いに競合しないmAbsの組み合わせが,エスケープバリアントの選択を防止することが実証された.
変異株図解[対象とした変異株(変異)] [右図はVOCの変異マップ]
  • B.1.1.7 (H69del, V70del, Y145del, N501Y, A570D, D614G, P681H, T716I, S982A, D1118H)
  • B.1.351 (D80Y, D215Y, L241del, L242del, A243del, L242del, K417N, E484K, N501Y, D614G, A701V)
  • P.1 (L18F, T20N, P26S, D138Y, R190S, K417T, E484K, N501Y, D614G, H655Y, T1027I, V1176F)
  • B.1.429  (L452R)
  • B.1.617.1 (L452R/E484Q)
  • B.1.617.2 (L452R/T478K)
  • B.1.526, P.2 & B.1.618 (E484K)
[参考] REGEN-COV単回投与の予防効果 (REGN-COV 2069試験: NCT04452318)
 [出典] ニュースリリース「皮下投与によるcasirivimabとimdevimabの抗体カクテル療法が、予防目的の第III相臨床試験で症候性COVID-19の発症リスクを81%減少」中外製薬.2021-04-16. https://www.chugai-pharm.co.jp/news/detail/20210416160000_1101.html
  • 症候性COVID-19の発症リスクを81%減少
  • 無症候性COVID-19から症候性COVID-19への進行リスク31%減少
  • 症候性COVID-19のウイルス消失と症状回復の早期化 (3週間から1週間へ)
[変異株関連crisp_bio記事]2021-06-04 新型コロナウイルス:これから変異株はギリシャ語で呼ばれることになる.https://crisp-bio.blog.jp/archives/26551487.html

 [crisp_bio注]
  • In vitro 実験で,エスケープバリアント抑制に三重抗体が二重抗体よりも強い効果を示した.これを「まったく別の地平」から見ると,パンデミックが続けば続くほど,二重抗体や三重抗体の賞味期限が切れる時が早まることを,示唆しているように思う.
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