Helmholtz Zentrum Münchenの研究グループからの論文
[出典] "A reporter system for enriching CRISPR/Cas9 knockout cells in technically challenging settings like patient models" Liu WH, Völse K, Senft D. Jeremias I. Sci Rep. 2021-06-16. https://doi.org/10.1038/s41598-021-91760-9
 CRISPR//Cas9遺伝子編集はタンパク質の機能解明の強力なツールとして登場した.しかし,遺伝子編集は細胞集団のごく一部でしか実現しないことが多い.さらに,遺伝子編集が実現しなかった大量の細胞から希少な編集細胞を選択することも簡単では無い.このため,特に患者由来初代細胞やその異種移植 (PDX)細胞などのように形質導入が難しくin vitro での増殖も低調な臨床関連サンプルでは,CRISPR/Cas9による遺伝子のックアウト実験が実用にならないことが多い.
 急性リンパ芽球性白血病 (ALL)は最も一般的な小児癌であり,再発または難治性の疾患は,小児及び成人に最悪な予後をもたらし,新たな治療法が求められている.治療標的の同定と検証には.患者の腫瘍の不均一性を忠実に再現した臨床モデルが必要である.確かにほとんどの白血病で患者から一次サンプルを入手できるが,in vitro 増幅が不可能なために,マウスにて継代することになる.
surrogate system これらの課題を踏まえて,研究グループは,CRISPR/Cas9ノックアウトによるPDXモデル作出を試みた.この目的のために,先行研究で開発されていたサロゲートレポーターシステム [*]を改良した[Figure 1引用右図参照].
[*] REVIEW "Strategies for the Enrichment and Selection of Genetically Modified Cells" Ren C, Xu K, Segal DJ & Zhang Z. Trends Biotechnol. 2018-08-19. https://doi.org/10.1016/j.tibtech.2018.07.017
 その上で,B細胞受容体からのシグナルを仲介し,B-ALLにおいて腫瘍促進に貢献することが示唆されているSRCファミリーキナーゼLYNの解析に利用した.
  • 研究グループが開発したレポータシステムは,遺伝子導入が困難で,in vitro で増殖しない疾患モデル細胞であっても,遺伝子編集が実現した細胞の濃縮を可能とし,遺伝子編集に成功した希少なPDX細胞を80%という高い濃縮率を達成した.
  • その結果,LYNのホモ欠損だけでなくヘテロ欠損によっても,ALL細胞のビンクリスチン(Vincristine, VCR)に対する感受性が上昇することを見出し,LYN遺伝子の欠損がこれまで知られていなかったハプロ不全であることを示すに至った.