2021-07-16 CureVacのワクチンも,モデルナのmRNA-1273ワクチン同様に,ACE2に融合する前のSタンパク質に安定化するための変異を導入した配列をベースに設計されたことを「今後の展開」の項に追記した.
2021-06-26 初稿
----------------------
[出典] NEWS "CureVac COVID vaccine let-down spotlights mRNA design challenges" Dolgin E. Nature. 2021-06-18. https://doi.org/10.1038/d41586-021-01661-0
 ファイザー/ビオンテック社のBNT162b2とモデルナ社のmRNA-1273に続く第3のmRNAワクチン候補 (CVnCoV)を開発したドイツのCureVac社は6月16日に40,000人規模の臨床試験の結果,有効性が47%に過ぎなかったと発表した.CVnCoVは,BNT162b2とmRNA-1273よりも安価で冷蔵庫でより長期間保存可能であるということで,期待されていた.期待外れの結果に至ったのは何故か?
変異株の影響?
  • CureVac社は,臨床試験を実施した欧州とラテンアメリカで流行していたペルーで最初に発見されたラムダ株を含む変異株の感染者が比較的多数含まれていたことが一因とした.ゲノム解析したCOVID-19の124症例のうち,123例が変異株感染であった.
  • しかし,BNT162b2は,アルファ株,ベータ株およびデルタ株に対してそれぞれ92%, 75%および83%の有効性が報告されていることから,CVnCoV自体に課題があると考えられる.
用量依存性?
  • 第1相試験では,1回あたり2 - 20 μgの用量がテストされ,副反応と忍容性の観点から12 μgについて2回接種後に,ウイルスの細胞侵入を阻害する抗体が誘導されることを確認した.
  • しかし,その中和抗体レベルはCOVID-19回復者に見られるレベルより低く,また,CVnCoVよりも用量が多いBNT162b2とmRNA-1273の接種者のレベルよりもかなり低かった.
  • なぜ高用量で忍容性が失われたのか?3種類のmRNAワクチンはいずれも脂質膜で包んだ脂質ナノ粒子 (LNP)製剤であり,脂質粒子は同一でないにしてもその違いは細胞には判別できないレベルと考えられ,したがって,脂質粒子ではなく,mRNAワクチンそのもに課題があると考えられる.
RNAの修飾?
  • 3種類のmRNAはいずれも,SARS-CoV-2のスパイクタンパク質をコードしている.
  • BNT162b2とmRNA-1273は,化学修飾したRNAをベースとしている.外来mRNAに対する細胞の免疫応答を抑制する [*]と想定されるウリジン (U)のシュードウリジン (Ψ)への変換が施されている [*] "Suppression of RNA recognition by Toll-like receptors: the impact of nucleoside modification and the evolutionary origin of RNA" Karikó K, Buckstein M, Ni H, Weissman D. Immunity. 2005-8-23. https://doi.org/10.1016/j.immuni.2005.06.008].
  • CVnCoVは,この変換を加えず,タンパク質のアミノ酸配列を変えることのない塩基置換 (同義置換)を採用したRNActive®15161718と命名された技術により,細胞の免疫応答回避を試みた [RNActive®15161718].
その他に?
  • CVnCoVが他の2種類のmRNAワクチンよりも有効性と忍容性に劣る原因として,ウイルスのタンパク質をコードしていない領域の非構造領域の違い,比較的高温での保存によるmRNAの一部分解に由来する断片の好ましくない免疫原性,製造過程での不純物混入,なども可能性がある.
今後の展開
 CureVaxはGSKと共同で,CVnCoVと同様に同様にRNActive®15161718をベースとする第2世代のワクチン開発を継続し,ラットでの試験で成果を挙げ,CV2CoVとしてbioRxiv に投稿した.
[出典] "CV2CoV, an enhanced mRNA based SARS-CoV-2 vaccine candidate, supports higher protein expression and improved immunogenecity in rats" Roth N [..] Rauch S. bioRxiv. 2021-05-13 [プレプリント]. https://doi.org/10.1101/2021.05.13.443734
 CureVac社にInstitute of Diagnostic Virology (Friedrich-Loeffer-Instiute)が加わった研究グループの投稿
  • CV2CoV2はCVnCoVと同様にRNActive®15161718をベースとて,シュードウリジンを採用しなかったが,タンパク質をコードするオープンリーディングフレームに隣接する非構造要素、すなわち、5'および3'非翻訳領域 (UTR)と3'テールの部分をCVnCoVから変更した。
  • なお,CVnCoVもCV2CoV2も,スパイクタンパク質をACE2に融合する直前のコンフォメーションに固定化するK986PおよびV987P変異を持つ完全長のタンパク質 [S-2P*]をコードしている。[*] mRNA-based SARS-CoV-2 vaccine candidate CVnCoV induces high levels of virus-neutralising antibodies and mediates protection in rodents. Rauch et al. npj Vaccines 6, 57 (2021). https://doi.org/10.1038/s41541-021-00311-w
  • この変更は,細胞内でのRNAの安定性と翻訳効率を改善するために導入し、タンパク質の発現量レベルと安定性の向上,それによる免疫原性を向上を目的として加えた.
  • その結果,細胞培養実験でCV2CoV2によってCVnCoVよりもタンパク質発現量が向上することを確認できた.
  • また,ラットでの実験で,1回の接種 (用量 ≥2μg)により検出可能で安定した体液性免疫反応が誘導され,また,アルファ変異株 (B.1.1.7)とベータ変異株 (B.1.351)に対する交差反応を確認することができた.