[出典] "Distribution and phasing of sequence motifs that facilitate CRISPR adaptation" Santiago-Frangos A, Buyukyoruk M, Wiegand T, Krishna P, Wiedenheft B. Curr Biol. 2021-06-25. https://doi.org/10.1016/j.cub.2021.05.068; [GRAPHICAL ABSTRACT] https://marlin-prod.literatumonline.com/cms/attachment/ea23895a-a818-45d8-a969-11db30019121/fx1_lrg.jpg

[前置き]
 CRISPR-Casシステムにおける侵入DNAの断片を獲得しCRISPRアレイに組み込むアダプテーション (adaptation)の分子機序については,J. A. Doudnaが率いる研究グループが,生化学的実験と構造解析に基づくモデルを2016年から2017年に提唱していた.
 すなわち,E. coli in vivo において、組込み宿主因子 (integration host factor, IHF) と呼ばれるアクセサリータンパク質が、ATリッチなCRISPRリーダー配列に結合して鋭く折り曲げたところに、侵入DNAの断片 (プレスペーサまたはプロトスペーサと呼ばれる)を捕捉・獲得したCas1-Cas2タンパク質複合体が結合することで,直近に獲得したプロトスペーサーを,スペーサとしてリーダー配列に隣接したリピート配列の直下に組み込み可能とする.
[出典] "CRISPR Immunological Memory Requires a Host Factor for Specificity" Nuñez JK [..] Doudn JA. Mol Cell. 2016-06-16.  https://doi.org/10.1016/j.molcel.2016.04.027; Figure 1参照 https://ars.els-cdn.com/content/image/1-s2.0-S1097276516301034-gr6_lrg.jpg
"Structures of the CRISPR genome integration complex.” Wright AV, Liu JJ, Knott GJ, Doxzen KW, Nogales E, Doudna JA. Science. 2017-09-15. https://doi.org/10.1126/science.aao0679; Fig.S16. Model for repeat recognition and integration by Cas1-Cas2. page 26 in Supplementary Materials. https://science.sciencemag.org/content/sci/suppl/2017/07/19/science.aao0679.DC1/aao0679_Wright_SM.pdf
[PERSPECTIVE] "Crystal-clear memories of a bacterium" Globus R, Qimron U. Science. 2017-09-15. https://doi.org/10.1126/science.aao4929; Figure "The CRISPR memorization process" 参照. https://science.sciencemag.org/content/sci/357/6356/1096/F1.large.jpg

[成果]
 大腸菌 (E. coli K12株)内在のサブタイプI-E CRISPRシステムでは、先頭のリピート配列の6 bp上流から始まる~30 bpの配列モチーフにIHFが結合することが知られていたが,研究グループは,緑膿菌 (P. aeruginosa PA14)内在のサブタイプI-F CRISPRシステムでは,IHFの結合部位が,6 bp上流ではなく14 bp上流に位置していることを見出していた.この差の意味を明らかにすることを目的として研究グループは今回,バクテリアとアーケアのゲノムをCRISPRDetectで解析し,それぞれ,14,095件と1,179件の合計15,274件のCRISPR遺伝子座を同定し,その上流200 bpにおけるIHF結合部位を探索した.
  • 15,274リーダー配列において,8,631件のIHF結合部位候補を同定した.続いて,冗長なリーダ配列を除去し残った6,533件のリーダー配列について,CRISPR-CasサブタイプにわたるIHF結合部位の分布を分析した.
  • IHF結合部位の存在率は,サブタイプのI-C,I-E,I-F,およびII-Cについてそれぞれ,24%, 26&%, 83%,および32%となった.
  • 興味深いことに,サブタイプI-F,I-E,II-CおよびI-Cのリーダー配列のそれぞれ,53%,6%, 6%, および3%が多重なIHF結合部位を帯びていた.
  • 各サブタイプに特有のモチーフが高頻度に見られ,モチーフの配列,間隔,および向きがサブタイプ内およびサブタイプ間で異なり,識別したリーダー構造は~20種類に至った.
  • 近縁種間のリーダー配列の違いは,10~12bp程度の挿入や欠失(インデル)を伴うことが多く,これによってモチーフの位相が保たれていることから,アダプテーションについては,距離そのものよりも位相が重要であることが示唆された [Figure 4. Phase-dependent CRISPR adaptation 参照. https://ars.els-cdn.com/content/image/1-s2.0-S0960982221007958-gr4_lrg.jpg]。
  • さらに,in vitro アダプテーションアッセイを用いて,緑膿菌由来のサブタイプI-F CRISPRシステムのアダプテーションにおいて、リーダーモチーフの配列と位相の両方が重要であることを検証した。
  • 今回のデータは全体として,CRISPRシステムのアダプテーションの分子機構は多様であるが,IHFに依存するシステムはすべて位相依存性であることを支持した.