[出典] NEWS "Face mask can help diagnose COVID-19" Browell L. Wyss Institute. 2021-06-28. https://wyss.harvard.edu/news/face-masks-that-can-diagnose-covid-19/; 2021-07-02 0.44.54[論文] "Wearable materials with embedded synthetic biology sensor for biomolecule detection" Nguyen PQ, Soenksen LR [..]  Collins JJ. Nat Biotechnol. 2021-06-28. https://doi.org/10.1038/s41587-021-00950-3 
[crisp_bio注] 本稿は,出典のうち主としてNEWSに準拠して開発の経緯をとりあげた.
 Wyss Institute for Biologically Inspired Engineering (Harvard U & the MIT)の研究グループは超高感度核酸検出システムSHERLOCK [*1]を,排気バルブ付きN95マスクに似た形状のマスク [右図およびYouTubeビデオ$参照]に仕込み,90分の判定時間で,新型コロナウイルス診断法の標準でありRT-PCR検査と同等の判定精度を達成した.
[$] YouTubeビデオ "Beating Back the Coronavirus: COVID 19 detecting face mask" Wyss Institute Channel. 2021-06-29. https://www.youtube.com/watch?v=RyYxoA5KKtI
 この新型コロナウイルス・バイオセンサーは,研究グループが3年にわたり研究開発を続けてきた,ウエアラブル・凍結乾燥・無細胞  (wearable Freeze-Dried Cell-Free, wFDCF) 技術の集大成にあたる.
  •  wFDCF技術は,DNAからのRNAへの転写そしてタンパク質への翻訳の細胞過程を実現する分子機構を取り出して凍結乾燥させたもので,部品は長期間安定しており,水を加えるだけで活性化する.この分子機構を模した人工遺伝子回路 (synthetic genetic circuit) には,標的分子の存在に応答して検出するに十分なレベルのシグナルを生成するバイオセンサーを加えることができる.
  • 研究グループは当初,2015年のジカウイルスのアウトブレイクに対応して,ペーパーをベースとするFDCF技術による診断ツールを開発した.
  • 研究グループは次いで,当時試みられていたウエアラブル診断ツールと異なって,被検者の生細胞をツールに取り込む必要が無い形式のウエアラブル診断ツール開発を目指した.そのために,100種類以上のファブリックについて,wFDCF技術の組み込み可能性の評価を始めていたところに,COVID-19パンデミックが襲ってきた.研究グループはwFDCFのマスクへの組み込みを発想し,2020年5月には開発にとりかかった.
  • 研究グループは,Peng Yin研で開発されていたトーホールドスイッチ [*2]やCollins研とBroad InstituteのZhang研との共同で開発されていたSHERLOCK [*3]を含むWyss Instituteで利用可能なあらゆるツールを評価した.
 新型コロナウイルス・バイオセンサーは3種類の凍結乾燥した反応器で構成されている:
  1. 呼気内のSARS-CoV-2の被膜 (エンベロープ/envelope)を破壊し,ウイルスのRNAゲノムを露出させる.
  2. ウイルスRNAゲノムの中で,スパイクタンパク質をコードする遺伝子の部分の二本鎖のコピーを増幅する.
  3. スパイクタンパク質遺伝子断片で活性化するSHERLOCKを利用して,ラテラルフローアッセイで検出する.
 診断機能を備えたマスク (以下,マスク型検出器)は研究グループにとっては,ある点では,ケーキのお飾り (the icing on the cake)に過ぎない.
  • 実環境で真にウエアラブルなマスク型検出器の実現には,柔軟かつ丈夫なデバイスで液滴を捕捉しつつ蒸発を抑止するなど,さまざまな技術開発が必要であった.できあがったマスク型検出器は,電源と電気部品を必要としないことから工作が容易でコストも低く,また,様々なシステムを容易に組み込め,したがって,応用分野も広い.
  • 例えば.光ケーブルのネットワークを組み込むことで,新型コロナウイルスのゲノムRNAを含む様々な標的分子をwFCDFを介して蛍光に変換し,さらに,スマホのアプリを介してクラウドへ送り出すことで,追跡可能とした.2021-07-02 0.40.24
  • マスク型検出器に組み込んだシステムは,危険物や病原体を研究対象とする科学者の実験着,医師や看護士のスクラブ,病原体や毒素に暴露されるリスクを伴う救急士や軍人のユニフォーム,への組み込みが可能である [右図参照].
 研究グループは,COVID-19パンデミックの間,また,新型コロナウイルス以外の生体分子や環境危険物質の検出を目的として,マスク型検出器の大量生産に関心ある製造業者を探している.

 [図一覧]
 [引用文献とcrisp_bio記事]
  1.  [20200917更新] 新型コロナウイルス: SHERLOCK、唾液からの迅速その場検査も可能な"STOP"へと進化.https://crisp-bio.blog.jp/archives/22844567.html; 2020-02-15 CRISPRによる核酸検出・診断 (DETECTRとSHERLOCK). https://crisp-bio.blog.jp/archives/7449195.html - SHERLOCK初版はCas13aをベースとしていたが,SHERLOCKv2では,LwaCas13a, PsmCas13b, CcaCas13b, AsCas12aの4種類を利用可能なことを示した.
  2. "Toehold Switches: De-Novo-Designed Regulators of Gene Expression" Green AA, Silver PA, Collins JJ, Yin P. Cell. 2014-10-23. https://doi.org/10.1016/j.cell.2014.10.002; Wyss Institute Webサイト https://wyss.harvard.edu/technology/toehold-switches-for-synthetic-biology/
  3. Scientists unveil CRISPR-based diagnostic platform" Wyss Institute. 2017-04-13. https://wyss.harvard.edu/news/scientists-unveil-crispr-based-diagnostic-platform/