2022-03-13 記事タイトルを「新型コロナウイルス感染者379人を対象とする感染前後の脳画像の比較から見えてきたこと」から「新型コロナウイルス感染は脳の構造と機能にも影響する - UKバイオバングの脳画像比較解析から」へ改訂し,データの一部を改訂し,テキストの一部を修正
2022-03-12 Nature 誌論文の書誌情報を追記 [medRxiv 投稿から論文タイトル変更]
"SARS-CoV-2 is associated with changes in brain structure in UK Biobank" Douaud G [..] Smith SM. Nature 2022-03-07. https://doi.org/10.1038/s41586-022-04569-5
  以下に,本論文の成果を報道した
BBC News 2022-03-08 (Morelle R)の記事の要約を掲載した.研究成果の詳細は,medRxiv 投稿に準拠した本記事内の2021-07-10の項を参照.
  • [2022-03-13追記] Nature 論文の解析対象はmedRxiv 投稿の解析対象より若干拡大され,Nature 論文の解析対象は,401人の感染者 (そのうち15人が入院)と384人の非感染者 (コントロール) であった.なお,2021年5月31日時点で解析対象が選定されていた
  • 新型コロナウイルス感染者の脳全体の大きさが0.2~2%収縮し,脳のうち,嗅覚をつかさどる領域や,記憶に関する領域の灰白質が減少し,最近になって新型ウイルスの症状から回復した人には,複雑な知的作業にやや難渋する傾向が見られた.
  • 今回の解析対象には,主としてアルファ変異株感染者に,ベータ変異株とガンマ変異株の感染者も含まれていたが,デルタ株感染者はほとんど含まれていなかったおよびそれ以前のSARS-CoV-2系列への染者が対象であったことから,変異株以後の したがって,例数が少なかった変異株およびその後発生した変異株の感染が脳に及ぼす影響の解析は今後の課題である.例えば,2022年に入って世界的に感染が拡大したオミクロン変異株感染には,祖先株やアルファ変異株感染に見られた臭覚異常はほとんど見られない.
  • 脳に備わっている可塑性を介して,脳機能が新型コロナウイルス感染の影響から回復する可能性がある.
2021-07-10 初稿
[出典] "Brain imaging before and after COVID-19 in UK Biobank" Douaud G et al. medRxiv. 2021-06-20. [プレプリント] https://doi.org/10.1101/2021.06.11.21258690
 University of Oxfordに,University College London, NIMH/NI, およびImperial College, Londonが加わった研究グループからのmedRxiv 投稿.
 新型コロナウイルスの後遺症の一つとして,ブレインフォグ (brain fog)と呼ばれる症状が指摘されている.それと共に,新型コロナウイルス (SARS-CoV-2)が肺細胞だけでなく脳神経細胞にも侵襲し [*1],また,新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)後遺症の中に認知機能障害が見られる [*2]というデータが蓄積されてきている.著者らは今回,脳のMRI画像から新型コロナウイルスが脳の構造に影響を及ぼすエビデンスを提示した.
  • SARS-CoV-2は神経向性ウイルスであることを示唆する脳の病理が報告されてきている.
  • これまでの脳画像解析のほとんどは中等症から重症の症例の定性的で肉眼での所見に基づいて主として入院患者を対象として行われてきた.したがって,軽症の段階で定量的かつ自動的な検査が可能かどうか,また,感染拡大の機構解明の手がかりが得られるかは,不明であった.
  • UKバイバンク [*3]では,COVID-19パンデミックが始まるまでに4万人以上の参加者の脳をスキャンしていたことから,2021年になって,数百人の参加者の脳を再度スキャンすることができた (以下,再イメージング研究/re-imaging study).
  • UKバイオバンク COVID-19再イメージング研究では782人の参加を得,そのうち394人がCOVID-19パンデミックの前後2回のスキャンの間にSARS-CoV-2に感染していた
  • この394名のCOVID-19患者と,年齢,性別,民族,およびスキャンの間隔をマッチさせた388名の対照者との間で,脳の構造的および機能的スキャンの結果を比較分析した結果,COVID-19が脳に大きな影響を及ぼすことを見出した.
  • 左海馬傍回,左外側眼窩前頭皮質,および左島皮質で灰白質が減少し,COVID-19の影響は,前帯状皮質,縁上回,および側頭極にまで及んだ.
  • さらに,入院経験のあるCOVID-19患者5人と入院しなかった患者379人を比較し,統計的有意差には至らなかったが,両者の相違として,COVID-19患者と対照群の比較分析から得られたのと同様な傾向が得られた.入院患者において,帯状皮質,扁桃体中心核および海馬アンモン角において灰白質がより減少していた.
  • こうした知見は,一次嗅覚および味覚システムに直接関連する辺縁系皮質領域の灰白質の損失と整合している.
  • 本研究は,感染前の脳画像を利用することで,事後的な症例研究と異なり,感染前から内在していた要因による症状を,感染による影響として誤って解釈するリスクを回避可能なことを示した.
  • ウイルスは嗅覚粘膜や嗅球を介して中枢神経系に侵入する可能性があることから,今回得られた病理的脳画像は,嗅覚・味覚経路を経由した症状そしてまたはウイルス自体の広がりを示す生体内の特徴になる可能性がある.
  • [crisp_bio感想] デルタ株はワクチン接種が遅れている若年層へと感染が広がり,昭和大学病院の相良博典院長は6月14日のテレ朝:「(病床は)20〜40代の比較的若い人が半分を占めて、若年者でも比較的重症度の高い人が増えてきているのが今回の第4波。若い人たちにもワクチン接種ができるような環境作りが必要ではないか」と述べた [**].デルタ株が脳神経系に残す後遺症は,若年者にとって一際危惧される [**] テレ朝news 2021-06-14 19:15 記事内ビデオ 2分45秒経過後からhttps://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000219287.html] 
 [*] 引用crisp_bio記事
  1. [20210117更新] 新型コロナウイルスはマウスとヒトの脳神経細胞にも侵襲する. https://crisp-bio.blog.jp/archives/24277763.html
  2. crisp_bio 2021-06-14 COVID-19後遺症 ( 'long COVID')に課題あり - 日本の備えは? https://crisp-bio.blog.jp/archives/26633542.html
  3. crisp_bio 2019-01-08 英国500,000人のバイオデータ公開のインパクト. https://crisp-bio.blog.jp/archives/14856649.html