2021-07-24 タイトルの誤りを修正
 [誤] COVID療法開発にあたって,CRISPR-Cas9ゲノム編集に...
 [正] CRISPR療法開発にあたって,Cas9ゲノム編集に...
[出典] NEWS "CRISPR therapies march into clinic, but genotoxicity concerns linger" Sheridan C.  Nat Biotechnol. 2021-07-15. https://doi.org/10.1038/d41587-021-00017-3
 Nature Biotechnology が,CRISPR療法の臨床展開が進み始めた [*]ところで,Harvard Medical School, St. Jude Children’s Research Hospital, およびDana-Farber Cancer Instituteの研究グループが2021年4月21日にNature 誌で報告した「CRISPR-Cas9ゲノム編集はクロモスリプシスを引き起こす」[1]について,注意喚起した.
 クロモスリプシス以前にも,CRISPR-Cas9による大規模なDNA欠失や染色体再配列 [2],CRISPR-Cas9によるp53腫瘍抑制タンパク質の活性化 [3],不活性化されたがんの原因となる突然変異の選択 [4],大きな染色体切断(短縮)の誘発 [5]などが報告されてきた。また,Cas9酵素に対する既存の抗体やT細胞が一般の人々の多くに存在することが,安全性の問題ではないが,有効性を損なう可能性が指摘された [6]。これらの基礎研究から投げかけれらたCRISPR-Cas9編集の安全性への懸念は,大げさに報道されることもあったが,臨床試験中にこれらの問題が表面化したことはなく,CRISPR療法の開発研究の勢いを妨げることもなかった.
 クロモスリプシス論文の責任著者の一人Pellmanは,クロモスリプシスは中でも重大なDNA損傷であり,染色体切断を検出し,その頻度を抑制するためのアッセイと手法の開発が必要とした.一方で,クロモスリプシスのリスクは,分裂していない有糸分裂期の細胞を対象としたin vivo 編集では,極めて小さく,また,また,二本鎖DNA切断を必要としない塩基エディティング (BEs)やプライム・エディティングを利用することでもクロモスリプシスのリスクを回避可能と思われる.
 [*] 表1 開発が進んでいるCRISPRをベースとする遺伝子治療
  • CRISPR TherapeuticsとVertex PharmaceuticalsのCTX001
  • Editas MedicineのEDIT-301
  • Editas MedicineとAllerganのEDIT-101
  • Intellia TherapeuticsとNovartisのOTQ923とHIX763
  • Intellia TherapeuticsとRegeneronのNTLA-2001
  • Graphite BioのGPH101
  • UC San Francisco; UC Berkeley; UC Los AngelesのCRISPR_SCD001
 [参考crisp_bio記事]
  1. 1.  crisp_bio 2021-06-16 [N &V] CRISPR-Cas9ゲノム編集はクロモスリプシスのリスクを伴う.https://crisp-bio.blog.jp/archives/26627202.html; crisp_bio 2021-04-16 CRISPR-Cas9ゲノム編集はクロモスリプシスを引き起こす. https://crisp-bio.blog.jp/archives/26097932.html
  2. 2. crisp_bio 2018-07-17 CRISPR-Cas9が誘導するDSBの修復は、ゲノムの大規模な削除と複雑な再編に至る.https://crisp-bio.blog.jp/archives/10621894.html
  3. 3. Cas9の編集効率とp53活性の相反: crisp_bio 2017-08-27 p53を阻害するとCRISPR/Cas9のHDR効率が著しく向上する.https://crisp-bio.blog.jp/archives/3487858.html; crisp_bio 2018-06-12 CRISPR/4.Cas9の編集効率と癌抑制遺伝子p53の活性が相反する - Cas9編集細胞に癌化の可能性.https://crisp-bio.blog.jp/archives/9870707.html
  4. 5. crisp_bio 2-19-03-10 HDRを介した遺伝子修復には、Cas9のDSBよりもCas9nのSSBがお薦め.https://crisp-bio.blog.jp/archives/16180643.html
  5. 6. crisp_bio 2018-01-07 ヒトはSpCas9とSaCas9に対する抗体を帯びている (CRISPRメモ_2018/01/07 第2項) https://crisp-bio.blog.jp/archives/6256270.html
 [CRISPR療法関連crisp_bio記事]