1. アルファ変異株とベータ変異株はそれぞれ異なる戦略で抗体を逃避する [出典] "Mutations in two SARS-CoV-2 variants of concern reflect two distinct strategies of antibody escape" Fiedler S [..] Fiegler H, Knowles TPJ. bioRxiv. 2021-07-26 [プレプリント]. https://doi.org/10.1101/2021.07.23.453327
Fluidic Analytics (UK)とUniversity of Cambridgeを主とする研究グループは,スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン (RBD)とヒト細胞受容体ACE2が相互作用する際の解離定数 (KD)を,マイクロ流体拡散サイジング法 [*]によって測定することで,武漢/Wuhan-Hu-1株 (野生株/WT),アルファ (α)変異株,およびベータ (β)変異株の抗体逃避戦略の相違を明らかにした.
[*] Fluidic Analytics LtdとU. Cambridgeの著者らによるポスター "Microfluidic Diffusional Sizing (MDS) – Analysing protein interactions" https://www.fluidic.com/media/uploads/files/Fluidic_Analytics_Poster_for_Fluidity_one-W.pdf
  • ACE2との結合親和性については,RBD-αはRBD-WTの10倍であったが,RBD-βをRBD-WTと同レベルであった.
  • しかし,RBD-WTとRBD-αの双方に低ナノモルのKD値で結合する中和抗体は,RBD-βには結合せず,RBD-βのエピトープが変化していることが示唆された.
  • COVID-19回復者の血清由来RBD結合抗体は,RBD-WT/-α/-βに対して低いナノモルの結合親和性を示したが,驚くべきことに,RBD-βに結合する抗体の濃度はRBD-WT/-αの半分であり,エピトープが大きく変化していることが示唆された.
  • 以上,アルファ変異株とベータ変異株の高い感染性と抗体逃避性の一因が,ACE2に結合し複合体を形成するウイルスの比率が高いことにあると考えられるが,RBD-αはACE2との結合親和性を高めることで,RBD-βはエピトープ改変を介して抗体との結合を回避することで,それを実現していることが示唆された.
2. なぜデルタ株は感染力が強いのか?
[出典] NEWS FEATURE "How the Coronavirus Infects Our Cells - and why Delta is so dangerous" Scudellari M (科学ジャーナリスト). Nature 2021-07-28. https://doi.org/10.1038/d41586-021-02039-y
 著者はSARS-CoV-2のヒト細胞への侵入からヒト細胞からの脱出までのライフサイクルについての最新の知見をまとめた上で,デルタ変異株の高感染性に言及した.
  • SARS-CoV-2を含むコロナウイルスのスパイクタンパク質は,S1サブユニットとS2サブユニットで構成されている.SARS-CoV-2を除く他のコロナウイルスでは,2つのサブユニットが単一のアミノ酸 (アルギニン)で接合されているが,SARS-CoV-2では,プロリン,アルギニン,アルギニン,アラニンおよびアルギニンの5つのアミノ酸 (PRRAR)で接合されており,この部位が肺細胞への侵入に必須である.すなわち,この配列がヒト細胞のタンパク質フリンが認識し切り取ることで,SARS-CoV-2が効率的に肺細胞へ侵入する.
  • このフリン切断部位を欠損したSARS-CoV-2培養株に感染させたモデル動物 (フェレット)が排出するウイルス量が,パンデミック株に感染させたフェレトよりも少なく,また,他の個体への感染が伝播しないことが報告されている.
  • アルファ変異株とベータ変異株では5つのアミノ酸のうちプロリンがヒスチジンに置換され (P681H),デルタ変異株ではアルギニン (P681R)に置換されている.どちらの置換も配列の酸性度を下げるところ,塩基性が高い配列ほどフリンが効率的に認識し切断することから,感染性が高まると考えられている.
  • こうしてフーリンの切断回数が増えると,より多くのスパイクタンパク質がヒト細胞に侵入する傾向を帯びる (primed). SARS-CoV-2ではこのprimedスパイクタンパク質の割合が50%であるが,アルファ変異株では50%を超え,デルタ変異株では75%以上のスパイクタンパク質がprimed状態にあることが判明している.[元記事の挿入図"新型コロナウイルスのライフサイクル模式図"のStage 5 を参照: https://media.nature.com/lw800/magazine-assets/d41586-021-02039-y/d41586-021-02039-y_19394008.png]
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