(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/01/21

  1. [短報] Casilio法:dCas9に基づくゲノム・エピゲノム編集と染色体標識Albert W. ChengHaoyi Wang (JAX)
    • CRISPRi/aをはじめとして、染色体の標的部位に結合するが切断しないdCas9-sgRNAユニットを利用してエフェクタやレポータの標的部位へ誘導する手法が工夫されてきた。
    • Casilioは、dCas9にエフェクタやレポータを直接あるいはRNAアプタマーを介して結合するこれまでの手法に替えて、Pumilio/FBF RNA結合ドメイン(PUFドメイン)を融合したエフェクタ/レポータ(Casilioモジュール)と、sgRNAに融合したPUF結合サイト配列(PUF binding site: PBS)との結合を利用して、Casilioモジュールを標的部位へ誘導するプラットフォームである。Casilioは、"Cas"と"ilio"を組み合わせに由来する。
    • Casilio法 は、複数種類のCasilioモジュールの同時使用、または、sgRNAに接続するPBSを増やす事によって、容易に多重化が可能である (原論文 Figure 1参照)。また、sgRNA-PBSを、特定の化学量論比からなるタンパク質複合体を形成させるRNAスキャホールドとしても利用可能である。
    • Webサイト:Casilio - Nextgen CRISPR-Cas Platform
  2. [論文] 細胞系列特異的レポーターを組み込んだヒトiPS細胞株の作出Radbod Darabi (UTHealth)
    • Cas9ニッカーゼ(Cas9n)を利用したダブルニッキングに伴う相同組換え(HR)を利用して、骨格筋形成を制御する転写因子PAX7に、2A-GFPレポータを、ノックインしたレポータiPS細胞株を作出.
    • 2A-GFPレポーターは標的遺伝子PAX7 の最終エクソンとストップコドンの間に挿入され、indelsは伴わなかった.
    • dCas9-VP160を利用してiPS細胞におけるPAX7の発現を誘導し、GFPレポーターの活性を評価した.
    • 今回作出したPAX7レポーターiPS細胞株は、骨格筋分化の初期過程の研究と化合物スクリーニングに有用である.
  3. [論文] ブタ細胞の多能性をモニター可能にするOct4レポーターシステムを樹立Yangzhi Zeng (Key Laboratory of Banna Mini-pig Inbred Line of Yunnan Province); Liangxue Lai, Qingjian Zou (CAS Key Laboratory of Regenerative Biology)
    • CRISPR/Cas9を介した相同組換えを利用して、Oct4のストップコドンを2A-tdTomatoによって精密に置換することによって、tdTomato(red fluorescent protein: RFP)をノックインしたブタ胎児線維芽細胞(PFF)を作出.このトランスジェニックPFFを体細胞核移植(SCNT)のドナーとし、SCNT胎児の芽細胞と生殖隆起においてのみRFPの強い発現を確認した.また、SCNTによってレポーターを内在する2匹の子ブタを得ることができた.
  4. [論文] Cas1をリコンビナーゼとする自律性DNAトランスポゾンと推定されているcasposonsの移動性検証Mart Krupovic (Institut Pasteur) 
     M. KrupovicとE. V. Koonin等は2014年にcasposonsを提唱.アーケアとバクテリアにおけるCRISPR/Cas獲得免疫システムの起源に関与と主張.
    • 今回、メタノサルキナ属アーケアMethanosarcina mazei の62株の比較ゲノム解析を実行し、casposonsの最近の移動を示す証拠を得た.
    • Casposonsは3種類の遺伝子座を標的とし、また、他の可動遺伝要素(mobile genetic elements)に挿入されるcasposonsも存在し、これをcaposonsの水平移動機構と推定.
    • M. mazei に、これまで知られていなかった逆向き反復配列(terminal inverted repeats)を見出した.これは、明らかにcasposonsに起因するものであり、また、CRISPRシステム進化の中間状態と見る事ができる.
    • さらに、casposonsの挿入とCas1の認識はランダム現象ではなく配列特異的であり、CRISPR/Casシステムの免疫記獲得の原型と見られる.
    • [情報拠点注] Casposon関連ニュースウオッチ記事:CRISPR関連文献メモ_2015/11/22 3. [論文] Aciduliprofundum boonei 由来のcasposon Cas1タンパク質は、標的サイトに重複を生成するDNAインテグラーゼであった: Fred Dyda (National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases)