[出典] "The Origins of SARS-CoV-2: A Critical Review" Holmes EC [..] Rambaut A. Cell. 2021-08 -18.[Journal Pre-proof]/2021-09-16 https://doi.org/10.1016/j.cell.2021.08.017
 Edward Holmes (University of Sydney教授; 復旦大学名誉教授) [*1]とAndrew Rambaut (University of Edinburgh教授) [*2]が率いるオーストラリア,英国,米国,カナダ,ニュージーランド,中国,およびオーストリアの国際共同研究グループによるレビュー (本文 1~12ページ; 参考文献リスト 13~20ページ)
[*1] Edward Holmes (Wikipedia https://en.wikipedia.org/wiki/Edward_C._Holmes); Scopusに基づく国際共同研究動向 https://covid19.elsevierpure.com/en/persons/edward-c-holmes-2)
[*2] Andrew Rambaut (Wikipedia https://en.wikipedia.org/wiki/Andrew_Rambaut; Scopusに基づく国際共同研究動向 https://covid19.elsevierpure.com/ja/persons/andrew-rambaut)

前書き
 2019年12月に中国の武漢で新型のSARS様コロナウイルスが初めて報告されて以来,SARS-CoV-2がどのようにしてヒト集団に出現したのかを理解することに強い関心が寄せられている.最近の議論は、実験室から漏れたとする考えと,動物由来の感染源からヒトへ移行 (人獣共通感染症)したとする考え,の2つの競合する考えに集約される.本稿は,SARS-CoV-2の起源を明らかにするのに役立つと思われる最新の科学的証拠を紹介する.

レビューの構成
  • SARS-CoV-2の人獣共通感染症由来を裏付ける証拠
  • SARS-CoV-2は実験室から逃げ出したのではないか?
  • SARS-CoV-2のゲノム構造と進行中の進化から得られた証拠
結論
 SARS-CoV-2の起源は,大多数のヒト由来のウイルスと同様に,人獣共通感染症であると考えるのが最もシンプル (the most parsimonious explanation)であろう.
  1. SARS-CoV-2の疫学的記録に基づいてSARS-CoV-2の武漢の市場での発生を追跡したところ,SARS-CoV-1の広東省の市場における初期の感染拡大に,驚くほど類似していた.
  2. 武漢の動物市場との明確な疫学的関連性とは対照的に,初期の症例が武漢ウイルス研究所 (WIV)と関連していたという証拠はなく、パンデミック前にWIVがSARS-CoV-2の前駆体を保有していた,あるいは研究していたという証拠もない.
  3. SARS-CoV-2が実験室由来とする疑惑は,コロナウイルスを研究する主要なウイルス研究所がある都市で最初に検出されたという偶然から生まれたものである.武漢は,複数の動物市場を有する中国中部最大の都市であり,旅行や商業の主要な拠点であり,中国国内および海外の他の地域とのつながりも深い.したがって、武漢との関連性は,WIVの存在よりも,病原体が定着するには人口の多い地域が必要であるという事実を反映している可能性が高い.
  4. SARS-CoV-2のリザーバであるコウモリの種類も中間宿主も特定特定されていないが,これは,動物の調査が足りていないこと,そしてまたは,SARS-CoV-2の前駆体の分布が限定的であり,また,動物からヒトへの最初の感染を捉えられていないためと想定できる.
  5. 実験室での事故の可能性は完全に否定することはできないが,未だに野生動物の取引において日常的に多数の人間と動物の接触が繰り返されている現状を考えると,入念に計画された共同研究によって人獣共通感染症の起源を包括的に調査しなければ,新興ウイルス感染症のパンデミックに対して脆弱なままの人間社会が続いていくことになる.
crisp_bio感想
  •  COVID-19 (SARS-CoV-2感染症)が野生動物からヒトへと種を超えて感染したウイルスによる人獣共通感染症を示唆するデータが多数存在し,一方で,武漢ウイルス研究所で作出され漏れ出したデータは存在せず,また,SARS-CoV-2の武漢株と変異株のゲノム解析や研究室でのウイルス培養実験などの観点から人工ウイルスの可能性を否定,と理解した.
  • また,共同研究グループにとっては,「結論の第5項目」が最も主張したかったことではないかと推察した.
  • Cell 誌掲載のレビューとは対照的に,米国共和党の議員が状況証拠を積み上げてSARS-CoV-2を武漢ウイルス研究所由来とする報告書を公開したと報道されている [米議員報告書が示す武漢研究所流出の“圧倒的多数の証拠”とその本当のところ. Yahoo!ニュース. 飯塚真紀子.2021-08-09 09:42 https://news.yahoo.co.jp/byline/iizukamakiko/20210809-00252010]. 
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