[出典] Previews "The continuing search for the origins of SARS-CoV-2" Karisson EA, Doung V. ( Institut Pasteur du Cambodge) Cell. 2021-08-19. https://doi.org/10.1016/j.cell.2021.07.035
 この展望は,1800年代のロンドンでの感染症の原因がコレラ菌であり,その発端が水ポンプのハンドルであることがJohn Snow博士によって突き止められたが [*1],数十年後に,ハンドルが発端ではなく,工業化と都市化によって水源が病原体で汚染されていたことが原因であるという説が確立され,受け入れたというエピソードを引用し,SARS-CoV-2の起源の特定も一筋縄ではいかないとする段落で始まっている.
 最近の研究では,中国、カンボジア、日本、タイのコウモリ (rhinolophids)からRaTG13/SARS-CoV-2系統に属するウイルスが確認されたが,SARS-CoV-2と完全に一致するウイルスは確認されなかった.Cell 誌のこの号に掲載されたZhouらの論文 [*2]では,2019年から2020年にかけて雲南省の小さな地域に由来するコウモリ411匹のサンプルの塩基配列を決定し,Rhinolophus コウモリに存在する3種類のSARS-CoVと4種類の新しいSARS-CoV-2関連ウイルスを含む24種類の完全長のコロナウイルス (CoV)のゲノムが,報告された.
 SARS-CoV-2の近縁 ("cousins")と考えられる4種類のウイルスは,2つの異なるグループに分類された.
  1. Rhinolophus pusillusウイルスRpYN06が,SARS-CoV-2の最も近縁 (全ゲノムで94.5%の配列同一性)であったが,スパイクタンパク質 (以下,スパイク)の遺伝子の配列は遺伝子系統樹上で分岐しており,スパイクはヒトACE2 (hACE2)に結合できなかった
  2. 他の3種類RmYN04, RmYN05, およびRmYN08はセンザンコウで検出されたウイルスに近縁であったが,RmYN04のスパイクはin vitroでhACE2に弱く結合した.
 さらに、Rhinolophusやその他のコウモリ種から新規なα-CoV 17種類を発見した (注: SARS-CoVとSARS-CoV-2はβCoVに属しており,いわゆる風邪ウイルスがαCoVに属している)。こうして,Zhou論文によって,局所的なコウモリの集団におけるCoVsの多様性が改めて明らかにされた.
 今回もコウモリが帯びているCoVsの中からSARS-CoV-2の直接の祖先にあたるウイルスを同定できなかったが,これまでにコウモリから発見されたSARS-CoV-2関連ウイルスは全て,Rhinolophus sp.コウモリ由来である.Zhou論文では,生態モデルに基づいて,最大で23種類のRhinolophusコウモリが,主としてラオス南部,ベトナムから中国南部に広がって共存していると予測している.こうした多種類のコウモリの生息範囲や行動が相互に絡み合って,ウイルスの感染,拡散,および組み換えを促進していると考えられる.また,ウイルスの多様性と広がりに加えて,高い人口密度と,コウモリ以外のヒトへの橋渡しをする中間宿主の候補が豊富な東南アジアから中国南部が,新興感染症のホットスポットになっていると考えらる.

いずれ「バット・ゼロ」や「ペイシェント・ゼロ」を見つけられるだろうか?
 見つからないだろう.コウモリ自体はおそらく病気ですらなかったのだから.CoVsは,継続的な進化,ゲノムの可塑性,組み換えにより,起源を特定することはますます難しくなってきている.ウイルス自体は単独では存在せず,"quasispecies", 突然変異のクラウドとして存在しており,SARS-CoV-2も例外ではない.遺伝子変異の組み合わせが,適切な時期に適切な場所で、個々のウイルスにとって有利に働くのである.オリジナルのコウモリのウイルスとは別に,SARS-CoV-2は,海鮮市場で最初の症例が発生するずっと前から,人々の中で循環し,適応と変異を繰り返していたと考えられる.

新たなパンデミックがまた発生するだろうか?
 はい,間違い無く.ヒトの疾患の4つに3つは動物由来である.人獣共通感染症が世界の公衆衛生や経済に大きな影響を与えているにもかかわらず,その理解が未だ不十分である.新興感染症が発生するリスクは、都市化や気候変動による環境悪化によって加速されている.

 残念ながら,水ポンプのハンドルは存在せず,水源の場所の手がかりも無い.ほとんど何も分かっていない (We still know next to nothing).しかし,Zhouらのように,我々は答えを求めて体系的な探索を続けていく.世界中の研究者が,パンデミックを起こす可能性のある人獣共通感染症の病原体を探索・評価するとともに,バイオセーフティ,バイオセキュリティおよび保全のレベル向上と環境への負荷を低減することで,新興感染症出現のリスク軽減に努めていく必要がある.

[*1] JOHN SNOW AND THE BROAD STREET PUMP.  Cricket 31 (3), pp. 23-31. Nov. 2003
[*2] "Identification of novel bat coronaviruses sheds light on the evolutionary origins of SARS-CoV-2 and related viruses" Zhou H,Ji J, Chen X, Bi Y [..] Hughes AC, Holmes EC, Shi W. Cell 2021-08-19. https://doi.org/10.1016/j.cell.2021.06.008: 山東省医学科学院山東第一医科大学,中国科学院西双版納熱帯植物園,中国科学院微生物研究所などの中国の研究グループにUniversity of SydneyのEdward C. Holmesが共同責任著者として加わった論文.

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