2021-11-21 更新 「CRISPR, カスパーゼに出会う」"gRAMP"の論文が,Nature Microbiology 誌のNews & Views記事で取り上げられた:
[出典] NEWS & VIEWS "CRISPR meets caspase" Hochstrasser ML, Nuñez JK. Nat Microbiol. 2021-11-19.  https://doi.org/10.1038/s41564-021-01001-y
 CRISPR-Casシステムは多様であるが,van Beljouwらは今回,RNA切断活性とともに,カスパーゼ様ペプチダーゼと結合して,宿主細胞の細胞死 (自殺)を誘発する可能性があるCRISPRシステムを報告した.
2021-08-28 初稿
[出典] "The gRAMP CRISPR-Cas effector is an RNA endonuclease complexed with a caspase-like peptidase" van Beljouw SPB [..] Brouns SJJ. Science 2021-08-26. https://doi.org/10.1126/science.abk2718
  Delft University of Technology/Kavli Institute of Nanoscienceの研究グループがCandidatus "Scalindua brodae"に由来するIII-Eサブタイプのエフェクター特徴的な組成と機能を明らかにした.
  • タイプIII CRISPR-Casシステムは,RNAとssDNAの双方を標的可能であり,さらに,標的認識を契機として非特異的なRNAも分解することが知られていた [*]が,MskstovaとKooninらは2019年にNature Review Microbiology https://doi.org/10.1038/s41579-019-0299-xにて発表したCRISPR-Casシステムの新たな分類体系において,タイプIIIシステムに新たにサブシステムIII-Eを追加した.
  • III-E型エフェクターは,他のIII型エフェクターと関連しているが 参照タンパク質の構造の点で著しく異なっている [Fig. 1 参照].タイプIIIのその他のサブタイプのエフェクターがCas10をはじめとする複数のサブユニットで構成されているのに対して,III-Eエフェクターは単一ユニットのエフェクターの中で最大のサイズ (約1,300~1,900アミノ酸)で, Repeat Associated Mysterious Protein (RAMP)ドメインが融合したように見えることから,g(iant)RAMPとも呼ばれている.
  • III-EサブタイプのCRISPRアレイに蓄積されているスペーサーは,可動性遺伝要素 (MGE)を標的としており,オープンリーディングフレームのコーディング鎖を標的とする傾向を示す.
  • また,III-E型の遺伝子座の中には,RT (逆転写酵素)-Cas1の融合を帯びたものもあり,RNAからもスペーサーを選択的に選択していることを示唆する.
  • さらに,gRAMPにはIII-AサブタイプやIII-Bサブタイプのように非選択的核酸切断活性を示すヌクレアーゼ遺伝子を帯びていないが,バクテリアの細胞死を制御するカスパーゼ様ペプチドであるTPR-CHATタンパク質をコードする遺伝子を帯びているものが存在し,抗ウイルス活性におけるCRISPR-Casファミリーとカスパーゼファミリーの機能的関係を示唆する.
  • Candidatus "Scalindua brodae"に由来するIII-EサブタイプのエフェクターSb-gRAMPはcrRNAと共に,単一のオープンリーディングフレームにコードされているリボ核タンパク質であった [Fig. 2 参照].
  • CRISPR RNA (crRNA)に依存して標的のssRNAを認識して,6ヌクレオチドの間隔をおいて2ヶ所を切断した [Fig. 3 参照].
  • Sb-gRAMPはまた,TPR-CHATペプチダーゼと物理的に結合してCraspase (CRISPR-guided Caspase)複合体を形成し [Fig. 4 参照],標的RNA認識を契機としてプロテアーゼ活性を呈した.これは,ファージ感染細胞が細胞死することにより,バクテリア集団としてのウイルス免疫を獲得する機構の存在を示唆している.
  • 今回の解析は,III-E型のgRAMPエフェクターが,CRISPR-Casのクラス1 (III型ドメイン,6塩基の切断間隔,PFSのマッチングに依存しないRNAの切断など)とクラス2 (単一タンパク質の構成など)の両方の特徴を備えており,従来のCRISPR-Casの分類の境界を曖昧にする結果も,もたらした.
 [*] 引用crisp_bio記事