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[出典] "Evolving threat" Kupferschmidt K. Science. 2021-08-20. https://doi.org/10.1126/science.373.6557.844
 科学ジャーナリストのKai Kupferschmidt https://www.sciencemag.org/author/kai-kupferschmidtが専門家とのインタビューをベースにまとめた記事.
 SARS-CoV-2の新たな変異株が,COCVID-19のパンデミックに劇的な影響を与えている.現在流行しているデルタ株は,多くの国でパンデミック対策戦略の変更を止む無しとするほどに,2019年末に武漢で初めて認識されたウイルスとは大きく異なっている.多くの国がワクチン接種に奔走すると共に,マスクの着用その他の公衆衛生対策の長期化あるいは再導入に躍起になっている.
 SARS-CoV-2はパンデミックの中で突然変異を繰り返しながら,ヒトの中和抗体を逃避するだけでなく,感染力と病原性を増した変異株が生き残り広がってきた.今は,ヒトが本来備えている免疫力およびワクチンによる免疫力と,世界各地で感染者が増え続けていることによる高頻度なウイルスの変異がせめぎあっている状況である.
 ランダムに発生する変異とその影響を予測することは不可能であり,SARS-CoV-2の変化を正確に予測することは一筋縄ではいかないが,進化生物学者は,他のウイルスに関して得てきた知見に基づいて,SARS-CoV-2がどこに向かっているか,どのような要因が進化に影響するか,いくつかの手がかりを得ている.
 ペンシルバニア州立大学の進化生物学者であるAndrew Readは,「このウイルスは1918年のインフルエンザをはじめとする過去のウイルスのように,さらに致命的なものへと進化する可能性もある.また,COVID-19ワクチンはこれまでのところよく持ちこたえているが,歴史的に見ると,ウイルスはさらに進化してワクチンの防御効果を逃れる可能性がある.ただし,別のコロナウイルス (CoV)に関する最近の研究では,それには何年もかかることが示唆されていることから,SARS-CoV-2が変化する脅威にワクチンを適応させるための時間的余裕がある」と考えている.
 SARS-CoV-2のゲノム配列がこれまでに200万本以上インターネット上で公開・共有されており,その間の系統関係や変異の発生を解析・追跡することが可能になっている.これまでに発生した変異の中で,ヒト社会に最も大きな影響を与えたのは,ヒトの間の感染力を強める一連の変異であった.この突然変異は世界中に広まり、現在のウイルスのほとんどがこの突然変異の子孫である.
 SARS-CoV-2はパンデミックの初期に,D614Gと呼ばれる突然変異を獲得し,感染力がやや強くなった.この突然変異は短期間で世界中に広まり,その後のウイルスのほとんどがこの変異株の子孫である.その後、2020年末に英国にて感染力が約50%増したアルファ株が確認されインドで発見されたアルファ株よりもさらに40%から60%感染力が増したデルタ株が今,世界を席巻している.
 N501変異はSARS-CoV-2のヒトACE2受容体への結合力を高め,アルファ株はヒト体内のインターフェロンに対する耐性を強め (したがって,より少ない量でヒトに感染可能になり),デルタ株では,スパイクタンパク質のフーリン切断部位 [*]に位置するP681R変異によって,スパイクタンパク質の切断効率が高まりそれによって,ヒト細胞へより速く侵入しひいてはヒト体内のウイルス粒子がより増加する可能性が示唆され,デルタ株のウイルス量はそれまでの変異株の1,000倍とも言われている[*] 新型コロナウイルス:フーリン阻害剤がウイルスの侵入と増殖を抑制する.https://crisp-bio.blog.jp/archives/24329713.html .
 一般的に,ウイルスは時間の経過ととも病原性を低下させて,宿主が長生きしてウイルスをより広く拡散できる方向へと進化するという考え方があるが,この考えはあまりにも単純すぎる.SARS-CoV-2についてデルタ株感染がアルファ株感染に比べて約2倍の確率で入院するという報告があり,1918-19年のインフルエンザのパンデミックが時間が経つにつれて重症化していったという見方がある.
 記事は,SARS-CoV-2の今後の変異が,感染力,病原性,および免疫逃避能がどのように発達していくか,あるいは,その進化の限界があるのか,といった議論を紹介した上で,最後に,単純な変異の蓄積ではなく異なる変異株の間での組み換えがもたらす新たな変異株のリスクや,膨大な感染者数と慢性感染が新たな変異株の出現を促進するリスクをとりあげ,「(アルファ株とデルタ株では)未だ最悪の事態に至っていないと心得るべし」という趣旨のオックスフォード大学の進化生物学者Aris Katzourakiのコメントで締めくくられている.
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