[出典] "Bacterial resistance to CRISPR-Cas antimicrobials" Uribe RV, Rathmer C, Jahn LJ [..] Sommer MOA. Sci Rep. 2021-08-26. https://doi.org/10.1038/s41598-021-96735-4
Novo Nordisk Foundation Center for Biosustainability (TUD)の研究グループからの論文.
[背景]
- CRISPR-Cas抗菌薬には特定のバクテリアを菌株レベルで識別して排除できるという利点がある.抗生物質による治療は,マイクロバイオームの変化を伴い,一時的に多様性が減少し,クロストリジウム・ディフィシル感染症などのリスクを高める可能性がある.したがって,病原性バクテリアだけを特異的に標的とするCRISPR-Cas抗菌薬は魅力的である.またCRISPR-Cas抗菌薬は,,標的マイクロバイオームの制御にも利用でき,感染症の治療だけでなく,糖尿病,肥満,癌など,複数のマイクロバイオーム関連疾患の治療にも利用できる可能性がある.
- CRISPR-Cas抗菌剤の開発はすでに進められているが [*1-3],CRISPR-Cas抗菌剤でバクテリアをin vitro で処理すると,内在性および獲得性の耐性が頻繁に見られるため,CRISPR-Cas抗菌剤の殺傷効率を向上させるためには,その根底にある分子機構を理解することが極めて重要である.
[成果]
- 研究グループは,Streptococcus pyogenes 由来のCas9 (SpCas9)を用いて,CRISPR-Cas9抗菌薬の殺傷効率と耐性変異率を調べ、その背景にある遺伝子の変化を明らかにした.
- 殺傷効率の向上と逃避細胞数抑制の戦略を特定するために,様々なgRNAを評価したところ,標的の種類(コード領域と非コード領域;必須遺伝子と非必須遺伝子)や複製起点からの距離との相関が見られなかった.
- また,単一の標的部位と複数の標的部位の効果を評価し,ターゲット部位の数を増やしても殺傷効率は向上しないが,単一標的の場合はターゲット部位の変異をより許容する違いがあった.
- CRISPR-Cas抗菌薬に感受性を示さない株のほとんどで,SpCas9をコードするプラスミドに変異が蓄積され,複製の起点やSpCas9の発現を制御するリボスイッチにも変異が生じていた.その結果,SpCas9の発現低下が一過性の非致死的な耐性状態に寄与していることが判明した.そこで,SpCas9の一定のレベルの発現が必要と判断し,フレッシュなCRISPR-Cas抗菌薬を再導入したところ,逃避細胞を再感作可能なことを確認した.なお,SpCas9の高発現と細胞との生存率との間に有意差を認めなかった.
- 耐性機構として,CRISPR-Cas抗菌薬の送達システム,バクテリア防御システム (例 制限修飾系),抗CRISPRタンパク質 (Acr)遺伝子 [*4]の出現も検討する必要がある.
[*]
- (創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2014/10/19)CRISPR-Casヌクレアーゼを設計して、ゲノム配列特異的に機能し、抗生物質耐性菌にも有効な抗菌剤を創出する. https://crisp-bio.blog.jp/archives/1859390.htm
- (創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2014/02/25)CRISPR/Casシステムを微生物菌叢の編集に応用する. https://crisp-bio.blog.jp/archives/1859362.html
- 2021-03-25 [レビュー] CRISPRシステムによる抗生物質耐性の抑制.https://crisp-bio.blog.jp/archives/25927647.html
- "Anti-CRISPR: discovery, mechanism and function" Pawluk A, Davidson AR, Maxwell K. Nat Rev Microbiol. 2017-10-24. https://doi.org/10.1038/nrmicro.2017.120
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