CRISPR-Casシステムの臨床応用にあたっては,オンターゲットでの編集活性向上,オフターゲットでの編集活性抑制などとともに,小型化が課題であり,天然の小型Casの探索や改変やgRNAの改変が試みられてきた.2021年の9月2日と3日に相次いで,Nature Biotechnology 誌とMolecular Cell 誌から,アーケア由来で哺乳類細胞ではほとんど活性を示さなかった小型 (422-603 aa)のCas12fをベースとして,さらにコンパクトでかつ哺乳類細胞において高活性を示すCRISPR-Casシステムを実現した論文が発表された.それぞれ,韓国KRIBBのGenome Editing Research Centerのグループ (1/2)dCas9技術を切り拓いてきたスタンフォード大学のLei S. Qiグループ (2/2)の成果である
超小型Cas12f1と人工ガイドRNAをアデノ随伴ウイルス (AAV)で送達することで,効率的CRISPR編集を実現
[出典] "Efficient CRISPR editing with a hypercompact Cas12f1 and engineered guide RNAs delivered by adeno-associated virus" Kim DY, Lee JM  [..] Kim YS. Nat Biotechnol 2021-09-02. https://doi.org/10.1038/s41587-021-01009-z; "CRISPR-Cas12f_GE system: Big things come in small package" Kim YS. A community from natureportfolio. 2021-09-02.https://bioengineeringcommunity.nature.com/posts/big-things-come-in-small-packages
  • アーケア由来のCas12f (Un1Cas12f1)は,これまでに発見された最も小型のCRISPR関連ヌクレアーゼ (Cas)の一つであるが,真核細胞では極めて低い活性しか示さなかった.研究グループは,crRNAの3′末端,sgRNAのスキャフォールド (tracrRNA)の5'末端,tracrRNA-crRNA相補領域,tracrRNA内のペンタウリジニル酸)(UUUUU)配列,tracrRNAのステム2領域の5ヶ所の部位を再設計 [論文Fig. 1参照 https://www.nature.com/articles/s41587-021-01009-z/figures/1]した相乗効果により,indels誘導頻度を867倍へと向上させることに成功した.
  • これは,crRNAの3'末端へのU-リッチな配列結合が活性にプラスに働き,tracrRNAにおけるU-リッチ配列は活性にマイナスに働くという興味深い結果であった.また構造的に無秩序であったステム2領域は,Casとの結合に不要であり,これを削除することで,Cas12f1が安定な二量体を形成する可能性も明らかになった.
  • この5ヶ所の再設計にはgRNAのサイズを大幅に縮小する効用もあった.
  • 最適化Un1Cas12f1システムを,プラスミドベクター,PCRアンプリコ,およびAAVで送達することで,ヒト細胞において効率的かつ特異的ゲノム編集を実現した.
  • Un1Cas12f1システムは,プロトスペーサの外側でDNAを切断することから,dsDNA切断-NHEJ経路の複数回にわたる持続的な切断をサポートし,大規模な欠失を効率的に誘導することも発見した.
  • Un1Cas12f1システムは,SpCas9と同等の効率とAsCas12aと同等の特異性を示した.
  • 本論文でKRIBBなどと共著のGenkOre社は,Cas9の~3分の1のこのシステムを"Hypercompact"なCRISPR/Cas12f-GEとしてプレス発表した.   
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