crisp_bio

論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

2023-10-02 2023-10-02 Katalin Karikó博士とDrew Weissman博士がガードナー賞受賞と同じく、サーズウイルス2/COVID-19に対するワクチンのワープスピードでの開発を可能にした「RNAの塩基ウリジンをシュードウリジンに置換することで、RNAをヒト体内で安定化する技術」を発明したことが受賞理由。

 これで、ペンシルベニア大学のコピー室での、 Karikó博士とWeissman教授の出会いが伝説になる (2022-03-06 [論説] 新型コロナウイルス mRNAワクチン開発の舞台裏から,研究助成のあり方を考える参照)

2021-09-11 ブレークスルー賞受賞に関する初稿
[出典] "COVID advances win US$3-million Breakthrough prizes" Merali Z (サイエンスライター). Nature 2021-09-09.  https://doi.org/10.1038/d41586-021-02449-y

 Breakthrough prizesは科学界では最高額(1件あたり300万ドル)の学術賞として2012年に創設され,現在,基礎物理学,生命科学,および数学の三部門が設けられている.2013年から始められた生命科学ブレイクスルー賞はこれまで,日本から山中伸弥氏 (2013年),大隈正典氏 (2017年),および森 和俊氏 (2018年)が受賞してきた.
 
 2021年9月9日,300万ドルの生命科学ブレイクスルー賞は,mRNAワクチンの基礎技術を開発したKatalin Karikó  とDrew Weissman,および,新型コロナウイルス変異株の迅速追跡を可能にした次世代シーケンシング (NGS)技術を開発したShankar Balasubramanian, David Klenerman, ならびにPascal Mayer (Alphanosos)に授与された.
 
 mRNAワクチンは何十年にもわたり,体内に入ったmRNAはヒトの免疫反応によってすぐに分解されることから実現不可能と考えられていた.今回の受賞者であるビオンテック社とペンシルベニア大学 (UPenn)のカタリン・カリコーと,同じくUPenn校のドリュー・ワイスマンは,2000年代半ばに,mRNAに含まれるウリジンをウリジンのC-グリコシド異性体プソイドウリジン (Ψ)に置き換えることで,この免疫反応を回避できることを実証した.
 
 カリコーは1990年代,その研究を懐疑的に見られ,助成金の提案や投稿論文が何度も却下され,大学での降格や減給を受けていた.受賞にあたってカリコーは「確かにワープスピードではありませんでした (It was certainly not ‘warp speed)」,「新型コロナウイルスmRNAワクチンに貢献した一人になれたことを嬉しく思います.しかし,このワクチン実現に,さまざまな分野におけるどれほどの進歩が必要であったかと思うと,気が遠くなります」,「賞金の一部を,将来のmRNAワクチンや治療法の研究に充てようと考えています」と述べた.
 
 英ケンブリッジ大学のシャンカール・バラスブラマニアンとデビッド・クレナーマン,およびフランスの研究会社 (research firm) Alphanososのパスカル・メイヤーは,2000年代半ばにシーエンシングを1,000倍に高速化する技術を開発していた.
[注1] 生命科学ブレイクスルー賞の選考委員会構成はコチラ 
[注2] 2021年基礎物理学ブレイクスルー賞を東京大学/理研の香取秀俊氏がアメリカ国立標準技術研究所のJun Ye氏と,光格子時計の発明で共同受賞し,数学ブレイクスルー賞を京都大学の望月拓郎氏が受賞した.
[注3] mRNAワクチン開発関連crisp_bio記事など

このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

コメントフォーム
評価する
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット