[出典] "Programmable mammalian translational modulators by CRISPR-associated proteins" Kawasaki S, Ono H, Hirosawa M, Kuwabara T, Saito H (京都大学). bioRxiv. 2021-09-17 [プレプリント]. https://doi.org/10.1101/2021.09.17.460758
 合成生物学はDNA, RNA, タンパク質を利用することで,シリコンチップをベースとする電気回路を彷彿とさせる素子や回路を実現してきた.一方で,プログラム可能なRNA誘導性のCRISPR-Casシステムは,人工的なゲノムの編集,転写調節,およびエピゲノム編集を実現し,合成生物学にも応用が広がってきた.京都大学の研究グループは今回,これまでの合成生物学において翻訳後の遺伝子スイッチとして有望で最もよく利用されてきたが利用可能な種類が限られているRNA結合タンパク質 (RBP)を,CRISPR-Cas因子に置き換えることで,合成生物学における翻訳調節のツールボックスを格段に拡張し,CaRTRIDGE (Cas-Responsive Translational Regulation Integratable into Diverse Genomic Engineering)としてbioRxiv に投稿した.
 
[CaRTRIDGE開発に着手した前提]
  • Casタンパク質は, 対応するcrRNAまたはsgRNAによって誘導されることから,mRNAの非翻訳領域 (untranslated region: UTR)に埋め込んだcrRNAまたはsgRNAに結合することで、翻訳制御因子として再利用することができる.
  • 多くのCasタンパクが,哺乳類細胞において高い特異性と低い細胞毒性で対応するRNAに結合し,その触媒活性を発揮することが確認されている.
  • CRISPR-Casシステムは,原核生物の適応型免疫システムに由来し,そのRNA-タンパク質 (RNP)相互作用は,哺乳類細胞における内因性RNP相互作用と直交し独立に機能する可能性がある.
  • より小型でより高性能なCasタンパク質が継続的に発見あるいは作出されており,翻訳調節因子の候補が急速に増加している.
[成果]
  • 25種類のCasタンパク質が5'-UTRにCas結合RNAモチーフを含むmRNAの翻訳を抑制するOFFスイッチとして利用可能なこと,また,翻訳インバーターモジュール [*]を用いることで翻訳活性化因子 (ONスイッチ )としても機能することを実証した [*] "A versatile cis-acting inverter module for synthetic translational switches" Endo K, Hayashi K, Inoue T, Saito H. Nat Commun. 2013-09-03. https://doi.org/10.1038/ncomms33]
  • 続いて,81種類の翻訳OFF/ONスイッチを設計し,その機能的特徴を検証し,これらのスイッチの多くが効率的な翻訳調節因子として機能し、哺乳類細胞において直交性を示すことを確認した.
  • これらのスイッチを相互に接続することで,60個の翻訳用ANDゲートを含む人工回路を設計・構築し,さらに、anti-CRISPR (Acr)タンパク質やスプリットCas9プラットフォームなど,さまざまなCRISPR関連技術を翻訳制御に再利用できることを示した.
  • Casによる翻訳制御は,Casタンパク質による転写制御と互換性があり,より少ない要素で合成回路の複雑性を高めることに貢献する.
  • CaRTRIDGEは,タンパク質応答性のmRNAスイッチを拡充するだけでなく,Casを介したゲノム編集技術と翻訳制御技術の両方の開発にも活用できる.
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