2021-12-19 Cancer Res誌のRESEARCH HIGHLIGHT記事で取り上げられた:"Uncovering Tumorigenesis Circuitry with Combinatorial CRISPR" Fong SH, Munson BP, Ideker T. Cancer Res 2021-12-15. https://doi.org/10.1158/0008-5472.CAN-21-3672
 発癌には複数のドライバー遺伝子変異が関与しているが,どの遺伝子グループの変異が発癌を駆動するかは正確にはよく分かっていない.Zhaoらは,この遺伝子グループを明らかにするため,CRISPR-Cas9システムを用いて腫瘍抑制遺伝子52種類のペアごとの組み合わせをすべてノックアウトし,共同で細胞増殖を促進するグループ特定を試みた.
 培養細胞やマウスの腫瘍形成の複数のモデルにて相互作用のスクリーニングが行い,複数のモデルでNF2 ,PTEN ,およびTP53 の間に明らかな協働関係があることを同定した.
 これらを含む一連の強力な相乗的相互作用を,単一細胞のトランスクリプトームプロファイリングによってさらに特徴付けた.
 この方法論は、単一遺伝子のドライバーを越えて,複雑な遺伝子ネットワークをマップするためのスケーラブルなアプローチを提示している。
[注] 本稿のタイトルを"CROP-seqをベースとするコンビナトリアルCRISPR/Cas9スクリーンにより,乳癌細胞にて腫瘍抑制遺伝子間エピスタティック相互作用を同定"から,"CROP-seqをベースとするコンビナトリアルCRISPR/Cas9スクリーンによる腫瘍形成回路の解明"へと改訂
2021-09-28 初稿
[注] 腫瘍抑制遺伝子 (tumor suppressor genes, TSGs)
[出典] "Combinatorial CRISPR/Cas9 Screening Reveals Epistatic Networks of Interacting Tumor Suppressor Genes and Therapeutic Targets in Human Breast Cancer" Zhao X, Li J, Liu Z, Powers S. Cancer Res. 2021-09-24. https://doi.org/10.1158/0008-5472.CAN-21-2555
 Stony Brook Universityの研究チームが,TSGペアを標的とするsgRNAペアを利用する標題の手法により,TSGsのダブルノックアウト (DKO)によって,ヒト乳腺上皮細胞MCF10の腫瘍性増殖とトランスクリプトームがどのように変化するかを,in vitro および異種移植マウス乳腺脂肪体 in vivo にて系統的に解析することで,ドライバー遺伝子間の癌化における協働関係の同定を試みた.
  • 予想通り,乳腺上皮細胞におけるドライバー遺伝子の変化が,腫瘍形成を誘導するような腫瘍抑制遺伝子の変化のレパートリーに影響を与えた.
  • 驚くべきことに,TSGsの相互作用ネットワークは,多数のクリーク (小集団: 3~4個の遺伝子の集合)で構成され,クリーク内の各TSGは,クリーク内の他のすべての遺伝子と発癌に協働していた.遺伝子相互作用プロファイリングによると,主たる協働的TSGsは、異なる機能や補完的な機能ではなく,重複する機能を共有していた.
  • DKOのscRNA-seqから得られたトランスクリプトームのプロファイルから,協働するTSGsは転写エピスタシスを示し,非協働的TSGsは転写エピスタシスを示さなかった.こうしたエピスタティックな転写変化は,緩衝的なものと相乗的なものの双方があり,CDK4, SRPK1, DNMT1などの発癌性メディエーターや治療標的の発現に影響を与えていた.
  • 重要なことに,この実験においてPTENやTP53などのTSGを二重に不活性化することで生じるエピスタティックな発現変化が,患者の腫瘍でも観察されたことである.乳癌において発現量が有意に変化している遺伝子の50%がエピスタティックな相互作用によって制御されていると見積もられた.
  • 今回の研究は,転写エピスタシスが乳癌の進行に中心的な役割を果たしていることを示唆し,また,他のヒト癌におけるドライバー遺伝子のエピスタシスネットワークを明らかにするための方法論を示した.
 [CROP-seq関連論文, Webサイト, およびcrisp_bio記事]