2022-03-12スクリーンショット 2022-03-21 7.49.49 Molecular Biomedicine 誌のResearch Highlightで取り上げられた:"Enhancing prime editing via inhibition of mismatch repair pathway" Jiang L, Yao S. Mol Biomed. 2022-02-23. https://doi.org/10.1186/s43556-022-00072-5 解説図に相当するFig. 1を右図に引用

2022-02-10 Medical University of ViennaにETH Zürichが加わった研究グループのbioRxiv 投稿が,Nature Communications 誌から査読付き論文として刊行された: “Prime editing efficiency and fidelity are enhanced in the absence of mismatch repair“ Nat Commun. 2022-02-09. https://doi.org/10.1038/s41467-022-28442-1 [成果については2021-10-07 初稿の項を参照]
 
2021-10-14 Broad Institute (David R Liuら), Princeton UおよびUCSFの研究グループが,細胞内在のミスマッチ修復過程 (MMR)を阻害することで,PEの強化を実現し,Cell 誌から発表した.初稿で取り上げた欧州グループのbioRxiv 投稿は9月30日付であったが,LiuらのCell 論文は,8月のCSHLミーティングで発表した内容をベースにしている.
[出典] "Enhanced prime editing systems by manipulating cellular determinants of editing outcomes" Chen PJ, Haussmann JA [..] Adamson B, Liu DR. Cell. 2021-10-14. https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(21)01065-5 (https://doi.org/10.1016/j.cell.2021.09.018
  • 2021-10-15 10.25.27Repair-seqに準拠したプール型CRISPRiスクリーンにより,DNA修復に関わる476個の遺伝子とその関連プロセスがPEの結果に与える影響を分析し,特定のDNAミスマッチ修復 (MMR)遺伝子が,PEの標的編集を抑制し,望ましくないインデル形成を促進することを発見し,MMRがPEの活性の鍵となるヘテロ二重鎖形成を認識して,これを障害と認識して解消すると,考えられた [グラフィカル・アブストラクト引用右図参照] .
  • そこで,MMRタンパク質の中でMLH1タンパク質のドミナントネガティブ型 (MLH1dn)を一過性に発現させることでMMRを阻害することで,PEの編集効率の向上と望ましくないインデル発生を抑制することに成功した..
  • ヒト患者由来iPSCや初代T細胞を含む6種類のMMR活性を有する細胞において,PE4 (PE2+MLH1dn)およびPE5 (PE3+MLH1dn)が,それぞれ,PE2およびPE3に対して,置換ならびに小規模な挿入と欠失の効率を平均7.7倍および2.0倍向上させ,標的編集/インデル比を3.4倍向上させた.PE4およびPE5のmRNAをエレクトロポレーション法で導入することにより,ヒト初代T細胞およびヒト患者由来のiPS細胞において,高効率かつ高精度のプライムエディットが可能になったことは注目に値する.
  • さらに,GからCへの変換や連続した塩基置換など,MMRによる復帰の影響を受けにくく,より効率的に導入される PEのクラスも特定し,こうした知見を総合して,意図した編集の近くにサイレント変異や良性の変異を戦略的に追加配置し,MLH1dnの一過性発現を組み合わせる事なく,MMRを回避してプライム編集を改善できることを示した.
  • Cas9の変異,核内局在,リンカーの構成およびコドンの使用を最適化することで、改良された「PEmax」プライムエディターのアーキテクチャを設計した。PE4/PE5システム (PE4maxとPE5max)と改変型pegRNA (engineered pegRNA, epegRNA)を併用することで,PEmaxの編集効率飛躍的に高めた。
  • 研究グループは,PE4とPE5, PEmaxおよびepgeRNAの相乗効果により,7種類の哺乳類細胞における20種類の遺伝子座を対象とする191種類の編集の効率と精度を大きく改善できることを示し,疾患モデルの作出および疾患治療のツールボックスの拡大に貢献するに至った.
2021-10-07 初稿
[出典] "Prime Editing Efficiency and Fidelity are Enhanced in the Absence of Mismatch Repair" da Silva JF, Olinveira GP [..] Loizou JI. (bioRxiv. 2021-09-30. https://doi.org/10.1101/2021.09.30.462548Nat Commun. 2022-02-09. https://doi.org/10.1038/s41467-022-28442-1
 Medical University of ViennaにETH Zürichが加わった研究グループの投稿.
 PEはCRISPR-Casをベースとするゲノム編集ツールの中でもPEは強力である.ほぼ任意の遺伝子座における塩基の置換,挿入,および欠失を実現する.一方で,同一のPEであっても,あるいは,同一の標的遺伝子座であっても,編集効率が細胞のコンテクストに大きく変動することが明らかになってきたが,この変動をもたらす経路や因子は不明であった.
 研究グループはこれまでに報告されていた32種類全てのDNA修復因子 (DNA repair factors)を対象とする遺伝的スクリーニングを実施した.
  • 細胞株や編集の種類に依存するが,非相補的な塩基対合を修復するミスマッチ修復 (mismatch repair, MMR)の阻害により,いくつかのヒト細胞株,編集の種類,および遺伝子座で,PE効率が2~17倍上昇することを同定した.
  • 加えて,MMRの主要な因子であるMLH1とMSH2が遺伝子組換え部位に集積することから,MMRが遺伝子組換え制御に直接関与していることを示唆した. 
 [スクリーニングの詳細]
  • Horizon Genomisと共同で,ヒトのほぼ一倍体の細胞株HAP1から,既知のDNA修復パスウエイ関連遺伝子32種類をノックアウトした変異株のライブラリーを構築した.その上で,HEK3 遺伝子座に5-bpの欠失を誘導するPEの効率を,標的遺伝子座のアンプリコン・シーケンシングから判定した.
  • その結果,野生型HAP1の編集効率が1%未満であったところ,MLH1, PSM2, MSH2, EXO1およびMSH3 を欠失したHAP1での編集効率が2.3〜7.9倍まで向上し,MMR遺伝子の中でMSH6 の欠失だけが,効率向上をもたらさなかった.
  • MSH6については,MSH2-MSH6ヘテロ二量体が一塩基ミスマッチと1~3ヌクレオチドの小規模なindelsを認識するのに対して,indelsは通常MSH2-MSH3ヘテロ二量体を認識し,PEの標的を5-bp欠失に設定したことで,MSH6の欠失が編集効率を左右しなかったと想定できる.
 [異なる細胞株での検証]
  • HAP1細胞の野生型と変異型の他に,大腸癌細胞HCT116 (MSHとMLH1欠失),子宮内膜癌細胞株HEC59 (MSH欠失),およびdox誘導性MLH1欠失HEK293T (293T-Lα)においても,望ましくないindelsの誘発を見ることなく,PE2の編集効率が向上することを確認した.
 [異なる編集での検証]
  • 5-bp欠失の他に,トランジッション (G > A),2種類のトランスバージョン (C > GとC > T),1-bp挿入, 3-bp欠失においても,MMRパスウエイがPEの編集を阻害することを確認した.
 [異なるPEsでの検証]
  • PE2, PE3,およびPE3bについて,FANCF 遺伝子座におけるG > T置換を検証し,MMR欠失が全てのPEsの効率を向上すること,その中で,PE3bの向上の度合いが低いこと,を確認した.
 [MLH1がPE編集部位へとリクルートされる]
  • 最後に,可視化技術を利用して,Cas9(H840)-RTとMLH1がpegRNA存在下で共局在することを確認した.