[出典] "Transposon-associated TnpB is a programmable RNA-guided DNA endonuclease" Karvells T [..] Siksnys V. Nature. 2021-10-07. https://doi.org/10.1038/s41586-021-04058-1
Vilnius UniversityのVirginijus SiksnysグループからのNature 論文.
[背景]
挿入配列 (IS)は単純な転移因子 (トランスポゾン)として働く短いDNA配列であり,自然界に広がっている可動遺伝因子 (MGE)のうち,転位とその制御に必要な遺伝子のみを含むものである.その中で,IS200/IS605およびIS607ファミリーのISは,最も単純で最も古いMGEの一つである.
Feng ZhangとEugene V. Kooninらが2021年9月9日にScience 論文にて [*1],IS200/IS605ファミリーのタンパク質の中でIscBが,ノンコーディングRNAをベースとして,DNA二重鎖を切断する再プログラム可能なRNA誘導型ヌクレアーゼであり,ヒトゲノム編集に利用可能なことを示した.また,IS200/605トランスポゾンにコードされたもう一つのタンパク質であり,Cas12エンドヌクレアーゼの祖先と考えられるTnpBのRNA誘導型のヌクレアーゼ活性も明らかにした.
[*1] [20211002更新] トランスポゾンにコードされているIscBタンパク質は,RNAにガイドされてヒトゲノムを切断し,藻類にも存在する.https://crisp-bio.blog.jp/archives/27384402.html; "The widespread IS200/605 transposon family encodes diverse programmable RNA-guided endonucleases" Altae-Tran H, Kannan S [..] Zhang F. Science 2021-09-09. https://doi.org/10.1126/science.abj6856
[Vilnius UniversityからのNature 論文の成果]
[注] Science 論文は2021-09-09に刊行され,Nature 論文は7月30日に投稿され,9月27日に受理された.
IS200/IS605およびIS607ファミリーの挿入配列 (IS)は,最も単純なMGEの一つであり,その転移とその制御に必要な遺伝子のみを含んでいる.IS200/IS605トランスポゾンは,TnpAとTnpBの2種類のタンパク質をコードしている.TnpAは,転移に必須なトランスポザーゼであることが特定されたが,TnpBについては,転移の制御に関与することが示唆され,また,in silico 解析からCRISPR-Cas9/Cas12ヌクレアーゼの前身である可能性が示唆され,その機能が特定されていなかった.
- 研究グループは,Deinococcus radiodurans のISDra2 [*2]のTnpBが,RE由来のRNA (reRNA)に誘導されて,5′TTGATトランスポゾン関連モチーフ (TAM)に隣接するDNAを切断するRNA指向性 (RNA-directed)のヌクレアーゼであることを,in vitro 実験と大腸菌ゲノム切断実験で確認した.[*2] 1,737 bp: LE - tnpA - tnpB - RE; LEとREはISDra2の両端に位置する部分的パリンドローム配列; tnpB上の3箇所 (D191, E278, D361)にRuvCヌクレアーゼ活性候補サイトが存在する.
- 研究グループはまた,TnpBを,HEK293T細胞でDNAの標的部位を切断するように再プログラムできることも明らかにした.
- タンパク質構造予測ソフトウエア (trRosetta,tFOLD,RaptorX,およびAlphaFold2)で予測した構造をPDB登録構造と比較し,TnpBのN-末端領域が,一連のCas12に存在する最小限の共通構造要素に対応し,TnpBのRuvC領域がCas12のRuvCドメインの簡易型に相当することを,見出した.
本研究は,転移におけるTnpBの役割を明らかにすることで,転移の分子機構に関する理解を深めるとともに,TnpBがCRISPR-Casヌクレアーゼの機能的な前駆体であることを実験的に裏付けて,TnpBがゲノム編集のための新しいシステムのプロトタイプであることを示した.
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