(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/01/23)
- [論文] 非対称なDNAドナーを利用すると、CRISPR/Cas9を介したHDRの効率が向上する:Jacob E. Corn (Innovative Genomics Initiative, UC Berkeley)
- バイオレイヤー干渉法(BioLayer Interferometry: BLI)やゲルシフトアッセイを利用してCas9によるdsDNAの切断機序を詳細に観察した結果に基づいて、Cas9とCas9ニッカーゼによるHDR(相同組換え修復)の効率を60%まで向上させ、また、不活性化したCas9(dCas9)についても、標的DNAにおけるバブル構造形成を介して、0.7%までのHDR率をもたらす手法を開発した.本手法は、比較的短い領域の遺伝子修復に有用である.
- [Cas9によるdsDNAの切断機序と新手法] Cas9は、sgRNAに誘導されてdsDNAに結合し、その2つのヌクレアーゼドメインHNHとRuvCによって、それぞれ、sgRNAの標的ストランド(targeted strand, 以下 TS)と非標的ストランド(以下、NTS)を切断する.Cas9がその後dsDNAから遊離する速度は遅く6時間程度かかるが、完全に遊離する前に、PAMから遠い方のNTSの断片だけが先に遊離し始める(Cas9が、PAMに近いNTS側と、切断されたTSの両側に結合している間に).
- 先に遊離し始めるssDNAに相補的な部位を有する適切な長さのドナーDNAを設計する事で、HDR率を大幅に改善することに成功.
- [論文] CRISPR/Cas9とCre/Loxシステムの併用によって、抗ウイルス・ワクチンの開発期間を大幅に短縮 :Qigai He & Gang Cao (華中農業大学)
- 中国において最近アウトブレイクを起こした再興(re-emerging)ブタ仮性狂犬病ウイルス(Pseudorabies virus:PRV)ワクチンを、今回、短期間で開発することができたが、この手法は、HBV, HSVなどのDNAウイルス全般に適用可能であり、また、CRISPR/Cas技術に進歩に拠って、RNAウイルスワクチンの開発にも展開可能である.
- CRISPR/Cas9を介した相同組換え修復(HDR)を利用して、再興したPRV(PRV HNX)の病原性遺伝子2種類、TK とgE 、を同時にそれぞれ、loxNで挟んだmCherryと、loxPで挟んだGFPに置換することで、PRV-HNKから、mCherryとGFPをCreで除去した組換えウイルスPRV-HNK-TK-/gE- を導出.一細胞FACSを利用したウイルス精製の効率化も利用.
- 作出した組換えウイルスのワクチン候補はブタに障害を与えず、また、有効であることをブタ生体で確認できた.
- 従来のワクチン作出手法であれば、2種類の病原遺伝子を削除したワクチン候補を作出するためには、長時間を要するプラーク・アッセイによる精製を20回程度繰り返す必要があった.今回の手法は、CRISPR/Cas9による2遺伝子置換のsテップ、Vre/Loxによるマーカ遺伝子削除のステップ、それに、わずかに4回のプラーク精製を要するだけである.
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