crisp_bio

論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

出典] "Miniature type V-F CRISPR-Cas nucleases enable targeted DNA modification in cells" Bigelyte G, Young JK, Karvelis T [..] Siksnys V. Nat Commun. 2021-10-26. https://doi.org/10.1038/s41467-021-26469-4
[背景]
 臨床応用で必要とされている生体内のゲノム編集実現に向けて,コンパクトなCRISPR-Casシステムの探索と開発が続いている.10月26日には,Mammoth BiosciencesとVertex Pharmaceuticalsが,Mammoth Biosciencesが保有している"ultra-small"なCas14 [1-6]とCasΦ (Cas12j) [7-8]の技術をベースとして,2種類の遺伝病 (具体名は非公開)に対する生体内遺伝子編集治療法の開発を目指す新たなパートナーシップを発表した [9]
 今回紹介するのは,Cas14ファミリーに属するCas12f (Cas14a)の解析を続けていたSiksnys [5]が率いるVilnius UniversityとCorteva Agriscience™にLeipzig Universityが加わった研究グループによるCas12fによるヒト細胞 と植物細胞のゲノム編集が可能なことを実証した論文である.
 Cas12fは,クラス2 タイプV-F CRISPR-Casヌクレアーゼ一種である.クラス2のCRISPRシステムはすべて,RuvC様ヌクレアーゼ・ドメインを含む単一のエフェクター・タンパク質Casヌクレアーゼを共有しているが,そのサイズは,Cas14からCas12aやCas9まで,400ー700 aaから1,000 aaを超える (FnCas12 1,400 aa; SpyCas9 1,368 aa)まで幅広い.
 
[成果]
  SpCas12f1 and AsCas12f1研究グループは.Syntrophomonas palmitatica (Sp)とAcidibacillus sulfuroxidans (As) に由来するCas12f (497aa, 5'-TTC-3' PAM)とAsCas12f (422 aa, 5'-YTTN-3' PAM)の生化学的解析を進めた [システムの構成についてFig. 1 引用右図参照].Cas12fのゲノム編集活性は大腸菌で実証されていたが,真核生物ゲノム編集はこれまで実証されてこなかった.
 今回,至適温度が37℃のヒトHEK293T細胞と,短時間であれば45℃までの温度に耐えられるトウモロコシの細胞で実証実験を行ない2種類のCas12fに共通な特徴を同定した:
(i) 冒頭から明らかにされているが,小型である.
(ii) 非常に長いtracrRNAを伴う.
(iii) 高温域 (45~55℃)が最適温度で,dsDNAに結合して切断する.
(iv) ターゲット結合時に,ssDNAを無差別に分解する.
(v) 1コピーのgRNAが結合すると2量体化する.
 これらの特性の中には,他のクラス2エフェクターと共通するもの (第3, 4項)の他に,Cas12f独特のものもあり(第1, 2, 5項),Cas12fが,CRISPR-Casのツールボックスを拡充することを期待できる.
 例えば,小型でdsDNAのターゲッティングが温度に依存し無差別なssDNAヌクレアーゼ活性を帯びていることから,Cas12aバイオセンサーに優るワンポット反応のバイオセンサーのベースとなる可能性がある.さらに、温度感受性を利用して,高温に耐性あるいは順応する植物のdsDNA編集への応用も考えられる.また,Cas12f1のサイズが小さいこととgRNAを介した自己二量化は,ウイルスベクターによるデリバリーに有利である.

[関連crisp_bio記事]
  1. 2020-12-17 529-aaと小型なCas12f(Cas14a)の三者複合体構造.https://crisp-bio.blog.jp/archives/25052278.html
  2. 2021-09-07 コンパクトなCas12f (Cas14)から,哺乳類細胞でゲノム編集活性を示す超小型システムを導出 (1/2).https://crisp-bio.blog.jp/archives/27337111.html
  3. 2021-09-07 コンパクトなCas12f (Cas14)から,哺乳類細胞でゲノム編集活性を示す超小型システムを導出 (2/2).https://crisp-bio.blog.jp/archives/27357385.html
  4. 2021-04-02 CRISPR–Cas12f (Cas14)の基質認識と切断の構造基盤.https://crisp-bio.blog.jp/archives/25993483.html
  5. CRISPRメモ_2020/04/10 [第1項] CRISPR-Cas12fファミリー10種類. https://crisp-bio.blog.jp/archives/22540589.html
  6. 2018-10-19 メタゲノムからssDNAをトランス切断するCas14ファミリーを発見しDETECTRへ展開.https://crisp-bio.blog.jp/archives/12977892.html
  7. 2020-07-17 巨大なファージが最小のDNAエディターを提供する.https://crisp-bio.blog.jp/archives/23626388.html
  8. 2021-08-17 コンパクトなCRISPR–CasΦ (Cas12j)が標的DNAを切断する構造基盤が明らかに.https://crisp-bio.blog.jp/archives/27157616.html
  9. "Vertex and Mammoth Biosciences Announce Collaboration to Develop In Vivo Gene-Editing Therapies for Serious Diseases" Business Wire. 2021-10-26. https://www.businesswire.com/news/home/20211026005322/en/Vertex-and-Mammoth-Biosciences-Announce-Collaboration-to-Develop-In-Vivo-Gene-Editing-Therapies-for-Serious-Diseases 
このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

コメントフォーム
評価する
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット