[注] ヒトサイトメガロウイルス: human cytomegalovirus (HCMV)
[出典] "Functional single-cell genomics of human cytomegalovirus infection" Hein MY, Weissman JS. Nat Biotechnol. 2021-10-25. https://doi.org/10.1038/s41587-021-01059-3
Perturb-seq UCSFのHeinとWeissmanは今回,初代ヒト線維芽細胞において,CRISPR-Cas9 KOスクリーンCRISPRiスクリーンに続いて,スクリーン結果から判定した主要なウイルス因子と宿主因子を対象とするPerturb-seq [*] に拠って,一連のウイルス因子と宿主因子に対する摂動がそれぞれウイルスの感染・溶解サイクルに及ぼす影響を,単一細胞レベルで明確にし,ひいては,ウイルス因子と宿主因子の機能を明らかにした. [* Wikipediaから右図に引用した模式図および文末に引用したcrisp_bio記事参照].
 これまでに,HCMVの宿主細胞内での遺伝子発現の波に続く二本鎖DNAゲノムの複製,そしてウイルス子孫の出芽というイベントが連鎖する溶解サイクルにおいて,ウイルスの何百もの因子 (遺伝子)が協働して宿主を操作し宿主の防御を打ち破ることが明らかにされてきたが,それが故に,抗ウイルス剤開発に最適な標的を特定することが困難になっている.
 著者らは始めに,ウイルス因子と宿主因子を対象とするプール型CRISPR KOスクリーンと、プール型CRISPRiスクリーンによって,HCMV感染時の初代ヒト線維芽細胞の生存に影響を与える一連の因子を同定した.続いて,溶解性感染 (lytic infection)が,細胞の生存性からは見えてこない動的な過程であり,また,細胞ごとに不均一と想定されることから,遺伝的摂動が数万個の単一細胞のトランスクリプトームに及ぼす影響を見ることができるPerturb-seqによる解析を行った.
  • その結果,HCMVの溶解サイクルが,ウイルスと宿主の因子への摂動に対して脆弱な決定論的プログラムであることが明らかになった.
  • ウイルスの侵入や感染の初期から後期への進行に対する宿主の制限因子や依存因子が明らかになり,主要なウイルス因子を標的にすると、ウイルスの遺伝子発現プログラムが特定のモードで阻害されることも明らかになった.
  • これらの結果から,ウイルス因子と宿主因子の間の役割分担が明らかになった.ウイルス因子は感染の軌道を決定するだけであり,宿主因子がそのプログラムの実行を可能にする環境を作るのである.
 今回得られた知見は,HCMVに対する抗ウイルス剤の設計や弱毒性ウイルス株の設計に,に有用であり,また,今回Perturb-seqで実現した単一細胞機能ゲノミクスは,HCMV以外のウイルスについても,遺伝的そしてまたは薬理学的な介入に対する脆弱性を明らかにするに有効なツールである.

 [*] Perturb-seqの模式図と関連crisp_bio記事]