crisp_bio

論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

2021-10-31 05:56/16:36 最終更新:記事タイトルを「ゲノム編集ツールボックスの資源がまだまだ自然界に眠っている」へと改訂 (旧タイトルは「ゲノム編集ツールボックスは,まだまだ,広大な可能性を秘めている」)
[出典] RESEARCH HIGHLIGHT "A vast potential genome editor toolbox" Otto G. Nat Rev Genet. 2021-10-25. https://doi.org/10.1038/s41576-021-00429-6
 CRISPR-Casシステムは,トランスポザーゼ,推定ヌクレアーゼ,またはその双方をコードしているIS200およびIS605ファミリーのトランスポゾンから進化したと考えられている.今回,この推定ヌクレアーゼが,CRISPR-Casエフェクタータンパク質と同様に,RNAにガイドされるプログラム可能なエンドヌクレアーゼであることを,Broad InstituteのFeng Zhangが率いる研究グループと,Vilnius UniversityのVirginijus Siksnysが率いる研究グループが,それぞれScience 掲載論文 [1]とNature 掲載論文 [2]で発表した.
[注] crisp_bioでは,それぞれを別記事で紹介済みであったが,今回,両者をすっきりとまとめたあったNat Rev Genet. のRESEACH HIGHLIGHTに準拠して,再度,取り上げた.

 [Science 論文が対象とした推定ヌクレアーゼはIscB, IsrB, およびTpnB]
  • In silico 解析により,iscB 遺伝子のいくつかが,CRISPRアレイに隣接しているかまたはncRNAをコードすると推定される上流の保存配列と関連していることを発見し,5'末端にヌクレアーゼをガイドするRNA配列が存在する可能性があるこの保存配列を,ωRNAと命名した.
  • Ktedonobacter racemifer 由来のリコンビナントIscB (KraIscB)のin vitro でのプラスミド切断アッセイから,切断にはωRNAが必須であり,また,切断部位が"ATAAA"配列に隣接することを見出した.そこで,この配列モチーフを,CRISPR-Cas9のPAM (protospacer-adjacent motif)に倣ってTAM (target-adjacent motif)と命名した.実際,KraIscBは,異なるガイド配列を利用することで,標的を変えられることから,IscBがプログラム可能なRNAガイド・エンドヌクレアーゼであることが示唆された.
  • 次に,IscBの生化学的解析から,Allochromatium warmingii 由来の組換えIscB (AwaIscB)が,Cas9と同様に,HNHおよびRuvCヌクレアーゼドメインを用いて,in vitro で二本鎖DNA (dsDNA)の標的鎖と非標的鎖それぞれを非対称に切断し,5′オーバーハングを生成することを見出した.
  • 再びin silicon 解析から,IscBとCas9は共にIscB様タンパク質の大規模なファミリーに属し,IscBのホモログが,単細胞の緑藻 Ignatius tetrasporus などの真核生物にも存在することが明らかになった.
  • 一方で,IS200/IS605トランスポゾンの多くは,Cas12ヌクレアーゼの祖先とされているTnpBファミリーのRuvC様エンドヌクレアーゼをコードしているが,研究グループは,tnpB 遺伝子座の3′に潜在的なガイド配列を発見した.In vitro 実験の結果、Alicyclobacillus macrosporangiidus 由来の組み換えTnpBは,ωRNAをガイドとして標的配列とTAM依存的にdsDNAを切断するが,一本鎖DNA (ssDNA)の切断にはTAMは不要であることが明らかになった.バクテリアやアーケアのゲノムには,TnpBをコードするtnpB遺伝子座が100万個以上存在し,ゲノム編集のベースとなる膨大なヌクレアーゼがまだま眠っていることが示唆された.
  • 研究グループは,in vitro での切断活性に加えて,生体内での切断活性も検証した.HEK293FT細胞に,6種類のIscBタンパク質と12種類の遺伝子座のガイド配列を形質転換し,そのうちの1つ,OgeuIscBが,CRISPR-Cas9と同程度の効率でindelsを生成した.OgeuIscBは,ヒトゲノムの46ヶ所の標的部位のうち28ヶ所でindelsを生成し,IscBのホモログが真核生物のゲノム編集に利用可能なことを示唆した.
 [Nature 論文が対象とした推定ヌクレアーゼはTnpB]
  • Deinococcus radiodurans のISDra2トランスポゾンにコードされているTnpBタンパク質のヌクレアーゼ活性を評価した.
  • 大腸菌でtnpBとISDra2を共発現させたところ,TnpBはISDra2の3′末端に由来するncRNAとRNPを形成した.研究グループはこのncRNAを"right element RNA"に因んでreRNAと命名した.
  • In vitro でのプラスミド切断アッセイから,TnpBが,"TTGAT"配列に隣接する標的配列を切断することが明らかになった.この配列は,トランスポゾンの除去と組み込みに必要な配列エレメントであることから,トランスポゾン相関モチーフ (transposon associated motif, TAM)と命名した.
  • TnpBの機能を生体内で評価するために,TnpB複合体RNPと,標的配列およびTAM配列を含む抗生物質耐性プラスミドを大腸菌で共発現させたところ,このプラスミドが切断され,TnpBの生体内でのDNA干渉活性が明らかになった.
  • ヒトのHEK293T細胞に,TnpBをコードするプラスミドと,TTGAT TAM配列に挟まれた5つのゲノム部位の標的配列を導入し,TnpBが2つのゲノム部位に,CRISPR-Cas9やCRISPR-Cas12と同様に,10~20%の頻度で変異を誘発した.
 臨床応用に向けて特に,小型で高活性かつ高精度なCRISPR-Casエフェクターが求められている.IscBおよびTnpBタンパク質は,Cas9タンパク質の〜3分の1程度の大きさで,また,バクテリアやアーケアに豊富に存在することから、新たなRNA誘導型ゲノム編集ツールを発見するための有望なリソースである.

 [ハイライトの対象となった論文とcrisp_bio記事]
1. Science 論文
2. Nature 論文
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