[注] VLP (virus-like particle/ウイルス様粒子)    
[出典] "Rapid assessment of SARS-CoV-2 evolved variants using virus-like particles" Syed AM, Taha TY, Tabata T [..] Ott M, Doudna JA. (bioRxiv 2021-08-05) Science. 2021-11-04. https://www.science.org/doi/10.1126/science.abl6184
 Innovative Genomics Institute (IGI)のJennifer A. Doudna研究室とMelanie Ott研究室が共同で,細胞内でSARS-CoV-2の4種類の構造タンパク質 (S, N, E, M)を全て備え,かつ,レポータータンパク質を発現するVLP (SC2-VLP),を開発することで,N (ヌクレオカプシド)タンパク質の変異がウイルスの感染力に大きな影響を及ぼすことを発見した [SC2-VLPの設計と特性について原論文Fig.1 参照]. 
  • VLPは一般に,ウイルスと同様な外部構造をしながら,ウイルスの遺伝子情報を帯びていないことから,COVID-19に対しても,安全かつ有効なウイルスワクチン候補として臨床試験が行われている [参考: crisp_bio 新型コロナウイルス: ワクチンに関する雑感と専門家からの情報の"2021-10-01 植物由来ワクチンとは?"の項].
  • 新型コロナウイルスの特性解析において,これまでS (スパイク)タンパク質に注目が集まってきたが,流行してきた変異体に見られる変異の多くがSタンパク質外に存在している.中でも,WHOが定義した懸念すべき/注目すべき変異体 (VOC/VOI)の半数以上で,Nタンパク質内の7アミノ酸の範囲 (199から205)に少なくとも一つの変異を帯びている.
  • Nタンパク質にはこのように変異のホットスポットがあり,また,Nタンパク質がウイルスのライフサイクルにおいて重要な機能を担っていることも知られている.しかし,Nタンパク質へのアクセスが,Sタンパク質の解析には有用であったシュードタイプウイルスのプラットフォームでは不可能であり,また,生化学的解析も細胞内で不安定なこともあり困難であった.
  • ウイルスの生産,出芽,侵入の可視化を可能にしたSC2-VLPの開発のポイントは,SARS-CoV-2のパッケージング・シグナルが,非構造タンパク質15 (nsp15)およびnsp16をコードする"T20"に存在することを同定し,T20を含むレポーター転写産物を組み込んだところにある.T20の効果は,ACE2/TMPRSS2を発現させた293T細胞およびVero E6細胞で検証した.
  • SC2-VLPは,4種類の構造タンパク質における変異がウイルスの特性に及ぼす影響を,ウイルスのライフサイクルの複数のステップで解析可能にした.
  • SC2-VLPによって,より伝播性の高い変異体に共通して見られる4種類のNタンパク質変異が,それぞれ独立してmRNAの導入と発現を約10倍増加させ,逆遺伝学モデルにおいて,S202RとR203Mがそれぞれ50倍以上のウイルスを生成することを同定した.
  • ウイルスRNAのパッケージングと複製が促進されるという結果は,N (R203M)を含むデルタ株が患者の体内で1000倍のレベルのウイルスRNAを生成するという最近のプレプリント投稿と矛盾しない[Li B et al, medRxiv 2021].
 SC2-VLPは,バイオセーフティレベル3の研究環境を必要としないウイルス変異体の迅速検査を可能とするプラットフォームを提供し,また,ワクチンや治療薬開発のプラットフォームとしも有用である.