[出典] SPOTLIGHT "New Type III CRISPR variant and programmable RNA targeting tool: Oh, thank heaven for Cas7-11" Catchpole RJ, Terns MP (U Georgia). Mol Cell. 2021-11-04. https://doi.org/10.1016/j.molcel.2021.10.014
著者らは,CRISPR-Casシステムの基本に続いて,Science 誌とNature 誌にて相次いで発表されたタイプIII CRISPR-Casシステムの中でも特徴ある「サブタイプ III-Eシステム」*の構成と機能を,手際良く解説し,高効率かつ高精度なRNAターゲティングを可能とするシングルエフェクターCRISPR-Casシステムの自然界からの発見に今後も期待するとした.
[*] サブタイプIII-Eシステムは,Makarovaら(Nat Rev Microbiol, 2019)のレビューでCRISPR-Casシステムの分類体系に,III-V, IV-B, およびIV-Cとともに初めて加えられたサブタイプ [Fig. 1参照].
[*] サブタイプIII-Eシステムは,Makarovaら(Nat Rev Microbiol, 2019)のレビューでCRISPR-Casシステムの分類体系に,III-V, IV-B, およびIV-Cとともに初めて加えられたサブタイプ [Fig. 1参照].
[紹介論文]
- "Programmable RNA targeting with the single-protein CRISPR effector Cas7-11" Özcan [..] Abudayyeh OO, Gootenberg JS. Nature. 2021-09-06. https://doi.org/10.1038/s41586-021-03886-5; crisp_bio 2021-09-10 CRISPRサブタイプIII-Eの単一タンパク質CRISPRエフェクターCas7-11によるプログラム可能なRNAターゲッティング.https://crisp-bio.blog.jp/archives/27361700.html
- "The gRAMP CRISPR-Cas effector is an RNA endonuclease complexed with a caspase-like peptidase" van Beljouw SPB [..] Brouns SJJ. Science 2021-08-26. https://doi.org/10.1126/science.abk2718; crisp_bio 2021-08-28 タイプIII-E CRISPR-Casシステムは面白い - クラス1とクラス2の境界を曖昧にする. https://crisp-bio.blog.jp/archives/27275702.html
[タイプIII-E CRISPR-Casシステムの構成] Figure 1 参照
- このシステムのエフェクターは単一のエフェクタータンパク質 "Cas7-11 [1]; gRAMP (giant repeat-associated mysterious protein) [2]"である.
- タイプIII-Eの遺伝子座のほとんどに,スペーサー獲得に関与するcas1 遺伝子が存在し,その多くが逆転写酵素 (RT)を伴っている.
- Cas7-11は,RT-cas1に続くCRISPRアレイの下流に位置している.
- Cas7-11は,4つのCas7ドメイン (1つは大きなインサートを持つ)と1つのCas11ドメインが融合し,これまでに発見された最大の単一エフェクター(1,300~1,900 aa)である.
- Cas7-11は,CRISPRアレイの転写産物を切断して成熟したcrRNAを生成する活性と,crRNAをガイドとして,配列特異的にターゲットRNAの2ヶ所を切断する活性の双方を,帯びている.
- Cas7-11遺伝子の下流に,カスパーゼ様ペプチダーゼ活性が予測されるTPR-CHAT (csx29 )をはじめとして,csx30 , csx31およびrpoEといった謎のアクセサリー遺伝子が隣接しているが,それらの機能は不明である.
[詳細]
Özcanら [1]は,完全ゲノムとメタゲノムの配列データから116億種類のタンパク質配列を探り出し,合計17種類のサブタイプIII-Eシステムを同定した.他のすべてのタイプIIIシステムのエフェクターがクラス1のマルチサブユニット複合体であるのに対し,タイプIII-Eシステムのエフェクターは,タンプIIIシステムのカノニカルなCas7とCas11のサブユニットが単一のポリペプチドに融合したと想定された.このポリペプチドを,ÖzcanらはCas7-11と称し [1],van BeljouwらはgRAMP (giant repeat-associated mysterious protein)と呼んだ [2](以下,ここではCas7-11に統一する).RT-cas1 を伴っていることは,Cas7-11がRNAからスペーサを獲得する (adapitationのステップ)ことが示唆されるが,スペーサー獲得に通常必要とされてきたCas2は,サブタイプIII-Eシステムにはほとんどに見られず (存在を確認できたのは1例だけ),スペーサー獲得の機構には謎が残っている.
大多数のタイプIIIシステムでは,CRISPRアレイの転写産物が,アクセサリータンパク質の一種であるCas6によって成熟したcrRNAへと加工される.一方,サブタイプIII-Eでは,Cas7-11が単独でcrRNAの転写産物をcrRNAへと成熟させる,これは,タイプVのエフェクターCas12とタイプVIのエフェクターCas13を彷彿とさせる.成熟したcrRNAは,ターゲットRNAを認識する約20 ntのガイド要素,14~28 ntの範囲で長さが異なる5′ CRISPRリピートセグメントで構成される.サブタイプIII-Eシステムの間で興味深いことに,直接反復RNAの最後の14ntが極めてよく保存されていることから、14ntのcrRNAの5′タグ要素が,Cas7-11タンパク質との相互作用の認識モチーフであることが示唆された.Özcanらは,さらに一歩進んで,直接反復RNAによって形成されるヘアピンの予測される膨らみが切断部位であると認識した.
Cas7-11のcrRNA生合成活性は,ターゲットRNAの切断活性と独立し,金属イオンに依存せず,ターゲットRNA切断活性が消失する突然変異があっても進行する.一方、ターゲットRNAの切断は金属イオンに依存し,配列特異性が高く,Cas7ドメインによって6 nt離れた2つの部位で行われる.この6ntの間隔は,隣接するCas7サブユニットの物理的な間隔に起因し,標準的なタイプIIIシステムによる切断を彷彿とさせる.このことは,Cas7-11は,遺伝子構成が独特であるが、祖先エフェクター以来の構造的特徴を維持している可能性がある.Cas7-11がターゲットとする2ヶ所の切断部位の内,一方の部位にはCas7度メインに保存されている特定のアスパラギン酸残基が必要なことが示されたが,4種類のCas7ドメインそれぞれの機能解明はこれからである.
これまで知られていたタイプIIIシステムは,アクセサリータンパク質Csm6/Csx1を介して,ターゲットRNA結合時に環状オリゴアデニル酸 (cOA)を二次情報伝達分子として生成しコラテラル活性を示すが,Cas7-11にはcOA産生能が存在しない.サブタイプIII-Eシステムのアクセサリータンパク質については,一部,既知のタンパク質との配列相同性が見られるが,RNAターゲティングには必要ではなく,それぞれの機能解析も,4種類のCas7ドメイン同様,これからである.
Özcanらは,大腸菌と哺乳類細胞において,Cas7-11単独でmRNAを編集可能なことを示した.配列特異的なターゲティングによりノックダウンされ,タンパク質の発現も低下した.さらに,Cas7-11システムの特異性は、ショートヘアピンRNAを用いた古典的なRNAiやCRISPR-Cas13ツールに比べて,哺乳類細胞におけるオフターゲット効果が著しく少ないことを同定し,Cas7-11が優れたRNAノックダウン用ツールになる可能性が示された.ただし,ノックダウン効率は,細胞の種類,ガイドRNA,ターゲットRNAなどによって大きく変動した (25~80%).また,Cas7-11にアデノシンデアミナーゼ (ADAR2)を融合させることで,生体内でRNAの部位特異的なA-to-I変換を実現したが,変換効率は転写産物の2%–8% に留まった.
Cas7-11エフェクターのスペーサ獲得と標的切断の分子機構,アクセサリータンパク質の役割,crRNAの最適化,エフェクタの改変などによる編集効率の向上など,課題がまだまだあるが,今回の2論文は,自然界に存在するゲノムおよびメタゲノムの決定とマイニングが,新たなCRISPR-Casシステムの発見と新たなゲノム編集ツールの発明に重要なことを示した.
[Cas7-11を取り上げた他の記事の一例]
RESEARCH HGILIGHT "Expanding RNA target effectors" Tang L. Nat Methods 2021-11-03. https://doi.org/10.1038/s41592-021-01323-z; crisp_bio 2021-11-10 [ハイライト] RNAを標的とするエフェクターが拡大された.https://crisp-bio.blog.jp/archives/27866315.html
[参考] CRISPR-Casシステムの基本
CRISPR-Casシステムは、原核生物の宿主細胞に適応免疫システムである.
- CRISPR-Casシステムは,侵入してきたウイルスから短いDNA配列を取得し,宿主ゲノム上のCRISPRアレイに「スペーサー」として格納することで機能する。
- CRISPRアレイは転写され,成熟したCRISPR RNA (crRNA)へと加工される.
- CRISPR RNAは,Casタンパク質とエフェクター複合体を形成し,エフェクター複合体を標的となるDNAまたはRNAへと誘導し,エフェクター複合体によるDNA/RNA切断に至る.
CRISPR-Casシステムのクラス1とクラス2
- CRISPR-Casシステムは,エフェクターとなるリボ核タンパク質の構成によって2つのクラスに分類される.
- クラス1は、複数のタンパク質サブユニットが結合して単一のエフェクター複合体を形成するシステムであり,クラス2は単一のエフェクタータンパク質構成されるシステムである
- クラス2システムは構成が単純なことから,バイオテクノロジーへの応用がクラス1に対して圧倒的に広がったが,自然界に存在するCRISPR-Casシステムの約20%を占めるにすぎない.
RNAを標的とするエフェクター
- CRISPR-Casシステムの応用については,DNAを標的とするCRISPR-CasシステムがCRISPR-Casシステム発見当初から一連の強力な遺伝子改変ツールとして大きく発展してきたのに続いて,RNAを標的とするCRISPR-Casシステムの応用が爆発的に広がり始めた.
- RNA標的CRISPR-Casシステムとして,自然界ではクラス1のタイプIIIシステムが大部分を構成しているが,これまで応用に展開されてきたのは,主として,自然界では希少なクラス2のタイプVIエフェクターを構成するCas13タンパク質とcrRNAであった.しかし,crRNA-Cas13複合体による切断は,crRNAが結合したRNA標的に限定されず (コラテラル活性の存在),Cas13ベースのシステムによる重大な毒性やオフターゲット効果が多くの細胞型で指摘されている.
- 一方で,コラテラル活性を利用した超高感度RNA検査キットの開発が進んでいる.
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