各国,特に英国で,マスク着用などの感染対策を緩和した結果が,ワクチン頼みの限界を示している
2022-01-02 英国保健安全保障庁 (UK Health Security Agency, UKHSA)が,2021年12月31日にオミクロン株による入院とワクチンの有効性に関するデータ解析の結果を公表した.
[出典] News story "COVID-19 variants identified in the UK" https://www.gov.uk/government/news/covid-19-variants-identified-in-the-uk - Latest updates in SARS-CoV-2 variants detected in the UK. From: UK Health Security Agency. Published 1 Octobre 2021. Last Update 31 December 2021 [注 更新は不定期; 12月中は1, 2, 3, 4, 8, 10, 13, 18, 23, 31日に更新があった]
 UKHSAはケンブリッジ大学MRC生物統計学ユニットと共同で,11月22日から12月26日の間に528,176例のオミクロン感染と573,012例のデルタ感染を分析し,イングランドにおけるオミクロン検査陽性後の入院のリスクを評価した.その結果,オミクロン (症候性または無症候性感染)による救急医療への受診または入院のリスクはデルタの約半分,入院リスクはデルタの約3分の1であることが判明した.また,ワクチン2回および3回接種後の症候性または無症候性感染のオミクロン症例では,ワクチン未接種のオミクロン症例と比較して,入院リスクが81%(95%信頼区間77~85%)減少することが判明した.

[詳細]

入院リスクに対する予防効果は良好
  • 入院リスクは,ワクチン1回接種で35%減; 2回接種後24週間 67%減,25週間過ぎると51%減; 3回接種で68%減 (52~82%)
  • 入院リスクと症候性感染リスクに対するワクチンの有効性: 1回目接種後 52%,2回目接種の2〜24週間は 72%を維持し,25週間過ぎると52%へと低下するが,ブースター接種後の 2週間は88%へと回復した.
症候性感染に対するワクチンの効果は,全期間において,オミクロン株に対してデルタ株よりも低い
  • アストラゼネカ:2回接種20週間後からはオミクロンに対する効果がない
  • ファイザー・ビオンテックまたはモデルナ: 2回目接種後20週まで65〜70%程度あった効果がその後10%程度へ低下した; ブースター接種後2〜4週間 約65〜75%へと効果が回復するが,5〜9週後 55~70%,10週過ぎると 40~50%へと時間とともに低下傾向を示した.
 
2021-11-12 初稿
 [出典] "Scientists Worldwide Watch UK COVID Infections" Taylor L. Nature 2021-11-02.  https://doi.org/10.1038/d41586-021-03003-6
 振り返ってみれば,英国のCOVID-19パンデミックは,他の地域のパンデミックを予見させるものであった.感染力の強いアルファ株の蔓延しかり,さらに感染力の強いデルタ株の蔓延しかり,最近の,感染再拡大しかり,であった.
 英国は,世界で最も早くワクチンが導入された西欧の中で,感染予防の規制をほぼ全て解除した最初の地域であり,SARS-CoV-2の感染再拡大を防止するために,比較的高いワクチン接種率と(ロックダウンのような規制ではなく) 個人を信頼することにかけた最初の国であり,モデルになっている.Nature 誌は,各国の科学者に「英国から何を学びたいのか」インタビューした上で,「世界の科学者が英国のCOVID感染を注視している」と題する解説記事を発表した.

ワクチンだけで感染爆発を防げるのか?
  • 英国では,2021年10月31日の時点で12歳以上の79.5%が2回のワクチン接種を受けていたが,2021年7月から10月にかけて,2020年末のロックダウン状態にあった時に匹敵する300万人の感染者が出た.
  • この感染者急増は,ワクチンだけではウイルスを封じ込められないことを示しており,専門家は,再度の封鎖を避けるために,「ソフト」な公衆衛生対策を求めている.
最近の急増は,個人の行動が原因だったのか?
  • 研究者は,感染拡大が継続しているのは,人の交流が徐々に増えてきた結果であり,各人が警戒心を突然無くした結果ではない,としている.
  • 例えば,混雑した屋内でのリスクの高いイベントが許可されている間は,COVID-19迅速検査の無料提供などの対策を講じても,感染を食い止めることはできない,と見ている.
ワクチンの有効性が低下してるのか?
  • 英国でCOVID-19ワクチンが初めて接種されたのは今から10ヶ月前であり,これまでに,中和抗体が減少する時間があった.英国とイスラエルからは,感染予防に対するワクチンの効果が,特に高齢者において,6ヵ月後にはかなり低下する,と報告されていた.事実,英国の統計によると,中和抗体のレベルが,5月に一旦停滞し,その後,低下し始めていた.(ただし,中和抗体レベルが低下しても,記憶免疫細胞の働きによって,SARS-CoV-2に対する免疫機能はある程度維持される)
  • 一方で,ワクチンの入院と死亡に対する防御効果は維持される.事実,英国において,感染者数が同レベルであっても,ワクチン接種開始前とワクチン接種が進んだ後では,入院例が,~18.5万人から~7.5万人に減少した.
ブースター接種で今後の感染急増を防げるのか?
  • 英国が50歳以上の住民と高リスクグループの人々を対象にブースター接種を開始したのは9月16日であり,ブースター接種の効果を正確に判定するに至っていないが,イスラエルのワイツマン研究所は,ファイザー・ビオンテック社のワクチンを3回目接種した場合,重症化のリスクが20分の1に,また,感染リスクが10分の1になるとしている.
  • 英国政府のためにCOVID-19感染症モデルを作成しているMarc Baguelin (Imperial College London)は,「寒さのために人々がウイルス粒子が浮遊・滞留しやすい屋内に閉じこもることで,ウイルスが循環しやすくなり,また,免疫力が低下していく状況では,ワクチンの効果が僅かに強まるだけでも,重症化や死亡の予防に大きな効果を与える.今は、すべてがブースター接種にかかっている」と,述べた。