crisp_bio

科学分野の比較的新しい論文と記事を記録しておくサイト: 主に、CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム編集, エピゲノム編集, 遺伝子治療, 分子診断/代謝工学, 合成生物学/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野) の観点から選択し、時折、タンパク質工学、情報資源・生物資源、新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症、機械学習・AIや研究公正からも選択

[出典] REVIEW "Validation of antibodies: Lessons learned from the Common Fund Protein Capture Reagents Program" Roy AL, Wilder EL, Anderson JM. Sci Adv. 2021-11-10. https://doi.org/10.1126/sciadv.abl7148 [著者所属 Office of Strategic Coordination (NIH)とDivision of Program Coordination, Planning and Strategic Initiatives, Office of the Director (NIH)]

 抗体をはじめとしてタンパク質を捕捉する試薬の大規模生産には依然として技術的な課題が残っているが,生産された抗体の信頼できる検証こそが,重大な課題である.抗体は何十年もの間,生物医学研究や臨床診断に欠かせない試薬であったが,生物医学研究コミュニティはその間,特異性が高く,再現可能で,検証済みの抗体が存在しないことに悩まされてきた.世界的なコンサルティング会社であるFrost & Sullivan社によると,300社以上の企業が研究用に200万個以上の抗体を世界中で販売しており,その市場規模は15億ドルを超えると推定されている.一方で,かなりの数の生物医学研究論文,特に抗体を用いた研究論文において,結果の再現性がないという問題が繰り返されてきた.再現性のなさは、試薬の出所や性質,検証方法,研究者によるプロトコルの違い,一般的な業界標準の欠如など,いくつかの要因によって生じている可能性がある.
 米国FDAが示したバリデーションの定義は「研究室での一定の解析を介して,分析法の性能特性が,意図した分析の目的に適していることを実証するプロセス」であった.また,International Working Group for Antibody Validationは基準として5項目を挙げ,抗体については,最低限3つの項目を満たすべしとした.標的への特異性,アッセイの選択性、そして再現性である.
 ヒトのタンパク質を認識する抗体やその他の試薬が広く強く求められていることから,米国NIHの"Common Fund"では,ヒト転写因子を標的としたProtein Capture Reagents Program (PCRP)を2010年に試験的に開始した.
 このPCRPの試みで,737種類のヒト転写因子に対する1,406種類のマウス・モノクローナル抗体が得られ,市販の抗体の数分の一のコストで研究者に提供され,さらに、数百種類のリコンビナント抗体も作成されたが,抗体の情報を公開しているポータルへのアクセスはわずかであった.これは,普及活動が機能しなかったことを示唆しているのかもしれないが,研究コミュニティーから「バリデーションに採用された手法が,転写因子研究に利用す抗体に適切ではなかった」というフィードバックがあった.2021-11-22 20.10.14PCRPでは,親和性または特異性のハイスループットでのスクリーンに合格した組み換え抗体 (rAb)とモノクローナル抗体 (mAb)を,IP, spiked IPそしてまたはウエスタンブロッティングでスクリーンしたが,転写因子研究コミュニティーでは,ChIPによる検証が必須だったのである [Fig. 1引用右図参照].
 この「利用目的に対応したバリデーションの選択」に加えて,閾値の設定もバリデーションの課題である.閾値の設定次第で「有効判定」される抗体の数が左右されるが,そのこと自体以上に,あるアッセイで閾値を満たさなかった抗体が,他の目的には有効という可能性がある.また,タンパク質が想定した特性を示さなかった場合の解釈も課題である.例えば,捉えた転写因子が想定外の配列と相互作用した場合,それが,抗体の非特異的結合に由来するのか,その転写因子の新奇機能の発見なのか,見極める必要がある.
 バリデーションについてもう一つ重要なことは,その報告にあたっては,実験条件を詳細に記述することであり,また,バリデーションの情報を共有可能とするポータルサイトも重要である.ポータルサイトは,開発されたバリデーションの手法に対して,広範な研究者がそれぞれの目的に利用した結果をフィードバックされてその情報が共有されることによって,さまざまなバリデーションからより的確にしかるべき手法を選択することが可能になり、また,各手法の性能の向上や,新たな手法の開発が促されるからである.

 [抗体の品質に関するcrisp_bio記事]
このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

コメントフォーム
評価する
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット