2022-07-22 ブログ一記事あたりの文字制限に達したため,"新型コロナウイルス:南アフリカ由来変異株オミクロン (B.1.1.529系統)をめぐる状況 (2)"へと継承

2022-07-21 オミクロン株の (B.1.1.529)感染性と中和抗体回避能に関するJ. A. Doudnaグループからの論文 [出典] "Omicron mutations enhance infectivity and reduce antibody neutralization of SARS-CoV-2 virus-like particles" Syed AM [..] Ott M, Doudna JA. Proc Natl Acad Sci U S A.  2022-07-19. https://doi.org/10.1073/pnas.2200592119
 新型コロナウイルス様粒子 (virus-like particles, VLP)での実験にから,オミクロン変異株 (B.1.1.529)の感染性と中和抗体回避能が祖先株よりも高まっていることを確認した.しかし,mRNAワクチンの3回目接種によってオミクロンに対する中和力価が大幅に上昇すること,また,イライリリー社のベブテロビマブが,デルタ (B.1.617.2)にもオミクロン (B.1.1.529)にも中和活性を示しことを見出した.
 また,デルタとオミクロンの感染性の高さは,主にSとNタンパク質の変異によってもたらされ,MとEの変異はウイルスタンパク質のアッセンブリーを阻害する方向に作用することを見出した.すなわち,MとEの変異の効果が,MとEの抑制効果を上まったと考えられる.[注] 本論文はBA.5などのオミクロンの亜系統は対象としていない.

2022-07-19
オミクロン変異株および亜株に有効な治療用中和抗体の同定に関するプレスリリースと論文:

  • 東大医科研プレスリリース 2022-06-10 "SARS-CoV-2オミクロンBA.2.11, BA2.12.1, BA.4, BA.5株に対する 中和抗体薬の効果の検証"; オミクロン株(B.1.1.529, BA系統)の亜株 BA.2,新たに変異を獲得したオミクロン亜株(BA.2.11, BA2.12.1, BA.4, BA.5株)に対する8種類の治療用中和抗体 (bamlanivimab, bebtelovimab, casirivimab, cilgavimab, etesevimab, imdevimab, sotrovimab及びtixagevimab)の効力を評価し,bebtelovimab (ベブテロビマブ)がB5を含むすべてのオミクロン亜株の感染を強く抑制すると判定(Lancet Infect Dis. 2022-06-09)
  •  "BA.2.12.1, BA.4 and BA.5 escape antibodies elicited by Omicron infection" Can Y, Yisimayi A, Jian F et al. Nature 2022-06-17; ベブテロビマブとcilgavimab (シルガビマブ)が,BA.2.12.1とBA4/BA.5を中和すると判定

2022-07-16 Science 論文に準拠したcrisp_bio記事「オミクロンBA.2およびBA.4/5なども中和する広域中和抗体の可能性」へのリンクを追加https://crisp-bio.blog.jp/archives/29752498.html

2022-07-13 
オミクロンの亜系統BA.5感染拡大の原因と今後の対策は? [出典] OPINION “Op-Ed: New COVID variants like BA.5 are dominating us ― we can do more to prevent this” ERIC J. TOPOL. Los Angel Times. JULY 12, 2022-07-12 3:05 AM PT; このところオミクロン系譜のBA.5変異株の感染拡大に警鐘を鳴らしてきたスクリプス研究所のE. C. Topolの寄稿.以下,原文をやや簡素化した仮訳.
 数多くの新型コロナウイス変異株の中で,ほとんどの国と地域で優勢になる変異株は,アルファ,デルタ,およびオミクロンと3種類であったが,今は,オミクロンの亜変異株BA.5が世界的に優勢になりつつある.BA.5は,南アフリカとポルトガルで出現し,欧州の多くの国々,南米,およびアジア・太平洋地域にひろがってきた.CDCによると米国では,この1週間で,BA.5が優勢になった.BA.5によって新型コロナウイルスの感染と入院患者が増加するが,幸いなことに,感染例に対して死亡例とICUでの治療例が比較的抑制されている.
 BA.5が優勢になるのは,BA.5がヒトの免疫を逃避する (immune escape)特性を備えたからである.しかし,ワクチンやBA.5出現前のウイルス感染がヒトにもたらす免疫がBA.5に対してもある程度有効であるため(交差反応性),重症化が比較的抑制されているものと思われる.一方で,BA.5には免疫逃避能の他に,ヒト細胞に他の新型コロナウイルよりも効率よく侵入する特性を備えているという報告もある.
 BA.5の出現の時期と感染拡大の勢いは,ウイルスの変異が加速していることを示唆する.BA.1が勢いを増したのは2021年11月であり,その後,オクミロン亜変異株が多数出現し,今や,BA.5が優勢になり感染拡大を続けている.この状況は,「ウイルスは進化によってよりマイルドになり消えていく」というのは都市伝説であることを示唆し,今後,免疫逃避能と増殖能がより向上した変異株が出現する可能性があることを意識しておく必要がある.
 それでは,BA.5の感染拡大に対して,何をなすべきであったのか,何をすべきなのか.
 米国CDCは一般社会に,BA.5の感染が拡大する中で,高性能なマスク着用,ソーシャルデイスタンスの維持,換気の励行,空気清浄化,およびブースター・ワクチンを推奨してこなかった.米国では,2回接種の効果がある層のうち4分の3は2回接種を受けておらず,ブースター接種を受ける資格のある層のうち3分の2はブースター接種を受けていない.
 ブースター接種するワクチンは,祖先株(original strain)のスパイクタンパク質のmRNA配列に基づいているが,ヒトの免疫応答を広域化し,種々の変異株に対する防御層もある程度厚くする.高リスクの層がブースター接種を回避すべき理由は何も無い.
 ウイルスの進化に対しては,これまでの対策を徹底することに加えて,新たな戦略も必要である.例えば,変異株にも効果的に奏功するユニバーサルなワクチンの開発や,ウイルスの上気道への侵入を抑制する効果を期待できる鼻にスプレイするタイプのワクチンの開発などを,加速することである.
 COVID19はまだ鎮圧されていない.世界中のどこかで感染が拡大している限り,感染性と病原性が強まった変異株が出現するリスクが続く.ファイザー・ビオンテックとモデルナのmRNAワクチンが,ウイルスのゲノム配列が決定されてから10ヶ月で使用可能になった経験を活かして,次に何をなすべきか学ばねばならない.

2022-06-27 フィナンシャルタイムズの6月17日付記事"Covid hospital admissions rise in Europe as sub-variants fuel new wave"には,ポルトガルと南アフリカでは,オミクロン株の亜系統のBA.5感染者の入院者総数 (デルタ,BA.1およびBA.2感染者を含む)に占める比率が,相対的に顕著に上昇し,英国とオーストリア,フランス,ベルギー,スペイン,ドイツ,デンマークのEU各国および米国にその兆しが見えるとするグラフが掲載されている.

 こうした国々の動向をそのまま日本の今後に当てはめるのは,マスク着用を典型的な例として国と地域の感染対策の違いが明確になってきたことから,安直に過ぎるのかもしれないが,日本におけるBA.5の感染拡大状況が気にはなる.

2022-06-26 オミクロン株の亜系統が関与すると思われる感染拡大に関連するcrisp_bio記事へのリンクを追記:2022-06-23 新型コロナウイルスへの再感染のリスクと再感染がもたらすリスク https://crisp-bio.blog.jp/archives/29547714.html

2022-05-02 21:30 国内由来オミクロン 株BA.2亜系統の初の市中感染事例
[出典] 東京医科歯科大学プレス発表:新型コロナウイルス全ゲノム解析プロジェクト 第13報
「デルタ株の特徴が追加された国内由来オミクロン株BA.2系統の市中感染事例を初めて確認~第6波長期化への懸念~ 」https://www.tmd.ac.jp/press-release/20220502-1/

 2022年1月初旬から2022年4月中旬までのCOVID-19患者116名由来SARS-CoV-2全ゲノム解析の結果,4月初旬からオミクロン 株 (BA.1.1系統)のBA.2系統への置き換わりが進んでいることに加えて,いわゆるBA.2株に,デルタ株の特徴変異部位であるL452に新たな変異 (L452M変異)が加わったBA.2亜系統の市中感染事例を発見した.なお,当該患者はワクチン3回接種済みであり,軽症であった.

 BA.2系統またはその亜系統にL452M変異が加わった新たな亜系統として,今回の報告の他に,BA.2.9.1 (英国とデンマーク),BA.2.13 (ベルギーとオランダ)が知られており,また,L452Q変異が加わったBA.2.12.1 (英国)が報告されている.
 オミクロン株BA.2系統の一連の変異にL452R変異が加わったBA.2亜系統が出現した場合は,PCR検査においてL452R陰性をオミクロン株のスクリーニングに利用する手法を見直す必要が出てくる.

 BA.2系統をめぐる変異株については,日本では空港にてBA.1変異株とBA.2変異株との間で進行した思われる組み換え変異株XEが発見され,また,仙台では,世界的に報告が無かった組み換え変異株が発見されている.

2022-04-12 オミクロン変異株スパイクタンパク質の全長構造から,感染拡大について分かったこと

[出典] "Structural and functional impact by SARS-CoV-2 Omicron spike mutations" Zhang J [..] Xiao T, Chen B. Cell Rep 2022-03-30. https://doi.org/10.1016/j.celrep.2022.110729

 Boston Children's Hospital/Harvard Medical Schoolを主とする研究グループは今回,オミクロン株の全長スパイクタンパク質 (以下,オミクロンS)の構造,機能,および抗原性を,これまで流行していた変異株と比較しながら論じた.

[構造情報] オミクロンSの構造をクライオ電顕法で再構成

EMD-26021  / PDB 7TNWClosed state of pre-fusion SARS-CoV-2 Omicron variant spike protein (3.1 Å)

EMD-26029 / PDB 7TO4 One RBD-up state of pre-fusion SARS-CoV-2 Omicron variant spike protein (3.4 Å) 
[概要] 

 オミクロンSは,その変異によって宿主細胞への融合能が低下しており,細胞への融合・侵入に宿主受容体ACE2を他の変異株の10倍程度必要とする.また,オミクロンSの変異は,そのN末端ドメイン (NTD)の抗原性構造を改変するだけでなく,他の変異体には見られない方法で受容体結合ドメインの表面を変化させ,宿主の免疫を回避し.他の株を標的として開発された従来の中和抗体のほとんどを無力化する.

[考察]

  • SARS-CoV-2は,自然感染やワクチン接種によって宿主の免疫が集団レベルでますます普及し,その選択圧の下で生き残るVOCs (懸念される変異株)が広がる可能性がある.オミクロンが,どのようにして他の過去の変異体よりもはるかに多くの変異を獲得したのかは不明であるが,免疫が低下した感染者や,動物からの由来が示唆されている.
  • 著者および他の研究グループも,オミクロンSにおいてACE2受容体への結合が増加することを見出しているところ,なぜ,オミクロン変異株そのものでも疑似ウイルスのいずれについても一貫して弱い膜融合活性および感染性を示すのかは不可解であった.今回の研究で得られた重要な発見は,オミクロンSが,試験した他のすべての変異株よりも効率的な膜融合のためにはるかに高いレベルのACE2を必要とするという点である.
  • オミクロンS三量体の閉じた ('down')状態から宿主細胞への融合と侵入を可能とするRBDが開いた ('up')状態への移行には,通常,FPPR (fusion peptide proximal region; residues 828 to 853)と630ループ (残基の620から640まで)の構造の秩序から無秩序へのコンフォメーションへの変化を必要とする.オミクロンS三量体の場合は,特定の変異によって,FPPRと630ループのコンフォメーション変化が抑制されるために,膜融合に他の変異株よりも高濃度のACE2が必要とすると考えられる.なお,(著者らは)これまでの安定化された可溶性S三量体構造を用いた過去の多くの構造研究では,FPPRと630ループの構造変化と3つのRBDの'up'と'down'のコンフォメーションの変化に関する情報を得ることができなかったと,認識している.
  • もし,オミクロンSが本当に膜融合性を損なっているとしたら,この変異株が優勢になることをどのように考えればよいのだろうか.オミクロン変異株は,宿主の免疫を回避する能力が極めて高く,ワクチン接種や感染によってオミクロンに対する免疫が再び構築されるまでは,感染連鎖を断ち切ることは困難であろうと思われる.
  • 最近の研究で,オミクロンによる家庭内二次感染が,ワクチン未接種者ではデルタによるものと同程度であるが,完全ワクチン接種者やブースター・ワクチン接種者では大幅に高いことが示されており,オミクロン変異株による急速な拡大は,感染力の高まりよりも,主に免疫回避によるものと推測される.
  • オミクロン感染によるウイルス量は,他の変種と比較して有意に高いとは言えないようであり,また,他の変異株に比べて,オミクロンは酸素吸入や人工呼吸器を必要とする中等症や重症に至ることなく比較的少なくまた無症状の患者が多く,一見「健康」な個人によって伝播が促進される可能性がある.

[本研究の限界]

 本研究はすべてin vitro で行われた.今回のクライオ電顕構造再構成は,精製した全長のオミクロンSタンパク質を用いていることから,今回得られた構造と生体内でのウイルス表面の構造にはまだ微妙な違いがある可能性がある.また,ウイルスの感染性や抗体の中和性を解析するために用いた疑似ウイルス (MLVやHIVを利用)は.オミクロン変異株本来のウイルスの特性をすべて再現しているわけではない可能性がある.
 

2022-03-27 オミクロン株とデルタ株またはオミクロン株の下位系列間の組み換えで発生した新たな変異株について

[出典] crisp_bio "COVID-19感染状況を見て思うこと (11)"の 2022-03-16 20:52と2022-03-17 21:21/2022-03-18 10:21の投稿から転記し,忽那賢志感染症専門医の解説記事へのリンク [Yahoo!ニュース. 2022-03-26 14:37]を追加した.

 時事通信が3月16日に「ブラジルが新たな変異株デルタクロン(deltacron)株の国内感染2例確認した」と報道した [JIJI.COM 2022-03-16  05:30].
 デルタクロン株については3月11日にThe Guardianが短い解説記事を出していた:"GISAID
によるとデルタクロン株は,デルタ株とオミクロン株の組み換えで出現した株であり,フランスのいくつかの地域で確認され,デルタクロン株と同様なゲノム配列を帯びた株がデンマークとオランダでも確認され,
デルタクロン株は2022年初めには発生していたと見られている.また、米国でも検出されたとの報告があり,英国では約30例が検出されたとのことであるが,デルタ株とオミクロン株の異なる部分が組み合わさった複数の種類の組み換え株が発生している可能性がある.いずれにしても,デルタクロン株が確認された症例がまだ少なく,この変異型の重症度や,これに対するワクチンの有効性を判定するにはデータが不足しているが,英国の保健当局 (UK Health Security Agency: UKHSA)は,デルタクロンは懸念しなければならないような拡大(growth rate)を示していないとしている [Davis N. The Guardian 2022-03-11 13:25 GMT]".
 ここで,Imperial College LondonのTom Peacock博士 (@PeacockFlu)のツイートを引用しておく.一連のツイートには,組み換えパターンのモデル図が含まれており[このブログでの表示上は2番目の図],デルタとオミクロンのBA.1とBA.2のゲノムRNAのバーの下に,英国のデルタとBA.1の組み換え,英国のBA.1とBA.2の組み換え,およびフランスのデルタとBA.1の組み換えの模式図が配置されている.なお,デルタクロンはWHOが認めた公式名称ではない.

2022-02-28 BA.2に関する感染症専門医の解説:"国内で拡大が懸念されるオミクロン株"BA.2"について 現時点で分かっていること" 忽那賢志. YAHOOニュース. 2022-02-27 14:54 :BA.2とは?;感染力の強さは?;重症度は?;BA.1に感染した人はBA.2に感染する?;治療薬の有効性は?;ワクチンの効果は?;BA.2に対する今後の国内での対策は?

2022-02-25 オミクロン株はSARS-CoV-2を標的として開発された中和抗体を回避する (Science 誌掲載1報とNature  誌掲載6報)

1.オミクロン変異株の免疫回避と受容体結合の構造基盤

[出典] "Structural basis of SARS-CoV-2 Omicron immune evasion and erceptor engagement" McCallum M, Czudnochowski N [..] Snell G, Veesler D. Science 2022-02-25. https://doi.org/10.1126/science.abn8652

 University of WashingtonとVir Biotechnologyを主とする研究グループが,クライオ電顕法とX線結晶構造解析から得た構造情報をベースにして,オミクロン変異株が広範な体液性免疫 (中和抗体)を回避する分子基盤を明らかにし,SARS-CoV-2のスパイクタンパク質 (S)変異の可塑性と,ワクチンや治療薬の設計・開発において保存されているエピトープを標的とすることが重要であるとした.

 COVID-19のパンデミックから2年が経過し,SARS-CoV-2の感染力や免疫回避性を高めた亜種がいくつか出現している.オミクロン株については,ウイルスの宿主細胞への侵入を担うスパイクタンパク質に37個の変異があることが懸念されている.これらの変異の多くが,中和抗体の主たる標的となる2種類のドメイン,受容体結合ドメイン (RBD)とN末端ドメイン (NTD)に位置している.研究グループは,クライオ電顕法とX線結晶構造解析により,SARS-CoV-2に対する中和活性を維持する治療用抗体であるS309 [*]と結合したウイルススパイクの構造,およびS309とヒトACE2受容体と結合したRBDの構造を発表した.
[*] グラクソスミスクラインとVir Biotechnologyが開発した新型コロナウイルス治療抗体ソトロビマブの親モノクローナル抗体 (parent mAb)であり,2003年のSARS-CoV-1感染から回復した患者のメモリーB細胞から単離された. 

 これらの構造は,オミクロン株が,これまでに開発された種々の治療用抗体との結合を大幅に減少させながら (治療用抗体の中和活性を減じながら),ACE2への高親和性結合を維持する機構を示唆した.
 S309の中和活性は,SARS-CoV-2のWuhan-Hu-1株やWashington-1株と比べて,オミクロン株に対して2分の1から3分の1へと低減するが,他の7種類の臨床段階のモノクローナル抗体 (mAb)やmAbのカクテル抗体の場合は,中和活性が1桁から2桁以上減少した.

EMDB登録データ

三量体のSにおいて,2つの受容体結合ドメイン (RDB)が開き,1つのRBDが閉じた状態

EMD-25993: SARS-CoV-2 S B.1.1.529 Omicron variant + S309 + S2L20 Global Refinement [S2L20: N末端ドメインを標的とする中和抗体]

三量体のSにおいて,2つの受容体結合ドメイン (RDB)が閉じ,1つのRBDが開いた状態

EMD-25992 : SARS-CoV-2 S B.1.1.529 Omicron variant + S309 + S2L20 Global Refinement

EMD-25990 : SARS-CoV-2 S B.1.1.529 Omicron variant (RBD + S309 Local Refinement)

EMD-25991 : SARS-CoV-2 S NTD B.1.1.529 Omicron variant + S309 Local Refinement

PDB IDs:

7TN0 SARS-CoV-2 Omicron RBD in complex with human ACE2 and S304 Fab and S309 Fab [S304 ソトロビマブの親抗体]

7TM0: SARS-CoV-2 S B.1.1.529 Omicron variant + S309 + S2L20 Global Refinement

7TLY: SARS-CoV-2 S B.1.1.529 Omicron variant (RBD + S309 Local Refinement)

7TLZ: SARS-CoV-2 S NTD B.1.1.529 Omicron variant + S309 Local Refinement


2.Nature 誌,オミクロン株と抗体を対象とする6論文を一挙掲載 (オンライン出版は2021年12月)

[出典] Nature Volume 602 Issue 7898 (2022-02-24) https://www.nature.com/nature/volumes/602/issues/7898

 パスツール研究所が撮影したSARS-CoV-2に感染したヒトの気管支細胞の走査型電子顕微鏡像を表紙に採用,表紙の言葉にもあるが,6論文は以下のように集約できそうだ:

  • オミクロンに見られる例外的多い変異が協働して,ヒトの体液性免疫反応 (一連の中和抗体)の多くを回避する.
  • オミクロンに対するワクチンの有効性は低下するが,ある程度は維持され,ブースター注射は感染症や重症化に対する防御を強化する.
  • SARS-CoV-2を含むベータコロナウイルス属サルベコウイルス亜属に分類される一連のウイルスの間で共通に保存されている特徴を標的とする広域中和抗体に希望が持てそうだ.

 [論文リスト]

  1. オミクロン株は既存のSARS-CoV-2中和抗体の大部分を回避する:Cao, Y., Wang, J., Jian, F. et al. Omicron escapes the majority of existing SARS-CoV-2 neutralizing antibodies. Nature 602, 657–663 (2022). https://doi.org/10.1038/s41586-021-04385-3 
  2. 広域中和抗体はSARS-CoV-2オミクロン株の抗原シフトにも対応する:Cameroni, E., Bowen, J.E., Rosen, L.E. et al.  Broadly neutralizing antibodies overcome SARS-CoV-2 Omicron antigenic shift. Nature 602, 664–670 (2022). https://doi.org/10.1038/s41586-021-04386-2
  3. SARS-CoV-2オミクロン株は抗体による中和をかなり回避する:Planas, D., Saunders, N., Maes, P. et al.  Considerable escape of SARS-CoV-2 Omicron to antibody neutralization. Nature 602, 671–675 (2022). https://doi.org/10.1038/s41586-021-04389-z
  4. オミクロン変異株が示す顕著な抗体回避:Liu, L., Iketani, S., Guo, Y. et al.  Striking antibody evasion manifested by the Omicron variant of SARS-CoV-2. Nature 602, 676–681 (2022). https://doi.org/10.1038/s41586-021-04388-0
  5. オミクロン株はファイザー社BNT162b2による中和をかなり回避するがそれは不完全に終わる:Cele, S., Jackson, L., Khoury, D.S. et al.  Omicron extensively but incompletely escapes Pfizer BNT162b2 neutralization. Nature 602, 654–656 (2022). https://doi.org/10.1038/s41586-021-04387-1 (オンライン2021-12-23)
  6. 感染とワクチン接種がもたらすSARS-CoV-2オミクロン株に対する中和活性 (回復期患者,mRNAワクチン2回接種者,mRNAワクチン3回接種者,ワクチンを2回接種した回復期患者,およびワクチン3回接種した回復期患者から得た血清の中和活性を比較): Carreño, J.M., Alshammary, H., Tcheou, J. et al. Activity of convalescent and vaccine serum against SARS-CoV-2 Omicron. Nature 602, 682–688 (2022). https://doi.org/10.1038/s41586-022-04399-5 

2022-02-24 オミクロン変異株の下位系列BA.2の病原性は強いのか弱いのか (プレプリント2報から)

 1.BA.2は伝播力だけでなく病原性が高い可能性がある - 配列解析,血清およびモデル動物での中和試験と感染実験から

[出典] "Virological characteristics of SARS-CoV-2 BA.2 variant" Yamasoba D, ... G2P-Japan Consortium, ... Saito A, Irie T, Tanaka S, Matsuno K, Fukuhara T, Ikeda T, Sato K. (bioRxiv 2022-02-15) Cell 誌から論文刊行 Virological characteristics of the SARS-CoV-2 Omicron BA.2 spike” Cell 2022-05-01 https://doi.org/10.1016/j.cell.2022.04.035 

  • 2022年1月の時点で,フィリピン,インド,デンマーク,シンガポール,オーストリア,南アフリカでは,BA.2がBA.1よりも優勢になっていたが,今回,ベイズ・モデルに基づくウイルス配列のデータ解析から,BA.2の伝播力をBA.1の約1.4倍と算定した.スクリーンショット 2022-02-24 14.39.45[右図はOur World in Data Webサイトから引用した各国の人口100万人あたり日別の陽性者数と死者数の7日間移動平均の推移; デンマークは規制を緩和したことでも知られている].
  • モデルナまたはオックスフォード大・アストラゼネカのカワクチン接種者の血清を使った中和試験の結果,BA.2はBA.1と同様に,ワクチンによって誘導される液性免疫 (中和抗体)を無力化することが明らかになった.また,BA.2は,カクテル療法に利用されるカシリビマブとイムデビマブおよびソトロビマブといった治療用抗体をほぼ無力化した.
  • BA.1感染から回復したハムスターまたはBA.1のスパイクタンパク質で免疫したマウスの血清を使った中和試験の結果,BA.1感染によって誘導された免疫に対するBA.2の抵抗性を確認した.
  • BA.2スパイクタンパク質を帯びたシュードウイルスのハムスターへの感染実験は,その病原性が,BA.1よりも高く,また,従来株を上回ることを示した.
  • 研究グループは,BA.2がTMPRSS2依存的にBA.1よりも融合性と複製性が高いことも明らかにした.
  • [*] crisp_bio 2021-12-28 オミクロン株の伝播力はデルタ株の3~5倍あるが,病原性は低い - 細胞とハムスターでの実験から.https://crisp-bio.blog.jp/archives/28259824.html

2.BA.2の入院リスクと重症化のリスクはBA.1と同レベル - 南アフリカにおける感染者のデータから

[出典] "Clinical severity of Omicron sub-lineage BA.2 compared to BA.1 in South Africa" Wolter N, Jassat W, DATCOV-Gen author group, von Gottberg A, Cohen C. medRxiv 2022-02-19 [プレプリンント].  https://doi.org/10.1101/2022.02.17.22271030

 南アフリカの研究グループが,南アフリカにおけるBA.1感染と比較したBA.2感染の重症度を評価することを目的として,(i) 全国のCOVID-19症例データ,(ii) SARS-CoV-2検査データ,(iii) 全国のCOVID-19入院データを統合解析した.

  • TaqPath COVID-19 PCRで同定された症例について,S-gene target failure (SGTF/S遺伝子非検出, BA.1と判定) またはS遺伝子検出 (S遺伝子陽性, BA.2と判定)を識別した.
  • 2021年12月1日から2022年1月20日の間に診断されたSGTF感染者とS遺伝子陽性感染者とを比較する多変量ロジスティック回帰モデルを用いて,疾患の重症度を評価した.
  • 49週目 (2021年12月5日開始)から4週目 (2022年1月29日終了)にかけて,S遺伝子陽性感染の割合は3% (931/31,271)から80% (2,425/3,031)へと増加した.
  • 入院のリスク*は,SGTF (BA.1判定)感染者とS遺伝子陽性 (BA.2判定)感染者の間に差がなかった(* 投稿ではオッズ比で論じられている).
  • 入院患者における重症化のリスクについても,SGTF (BA.1判定)感染者とS遺伝子陽性 (BA.2判定)感染者の間に差がなかった.
  • これらのデータは,BA.2が伝播力ではBA.1よりも優勢になる場合があるが,臨床的プロファイルには差が無いことを示唆した (解析対象がほとんどオミクロン変異株感染者で有り,S遺伝子の有無の判定による他の変異株の影響はほとんど無いと考えられる).
  • 南アフリカは,自然感染後の免疫レベルが高いという点で他の国や地域とは異なる背景があることから,他の国や地域におけるBA.2の重症度を評価するデータが待たれる.

2022-02-13 各国の日別感染者数と日別死者数の7日間移動平均の推移 [右図参照]スクリーンショット 2022-02-13 17.28.13
[出典] https://ourworldindata.org/coronavirus
 2月4日に続いて日本, 米国, 英国, ドイツ, フランス, イスラエル, およびデンマークを比較した.
 2月4日の投稿時は,なんと言っても,ワクチン 第4回接種にも着手していたイスラエルの感染者も死亡例も1月に入ってから急激に増加し,一時は比較対象国の中で最多を記録していたことが印象に残った.もう一点,オミクロン株下位系列のBA2が広がっていたデンマークの感染者数がおさまりそうな感じが見えたことも印象に残った.

 今回の12日までの推移グラフ比較では,はじめに,イスラエルの新規感染者数と死亡例がそれぞれ1月下旬と2月初旬のピークから急激に減少し,BA2系列蔓延のデンマークは,2月4日以後,一時的に新規感染者が減少したのち,感染も死亡例も増加し始めていた.
 新規感染者数と死亡例の推移の関係を見ると,概ね,感染のピークから遅れて死亡例のピークがくるように見えるが,フランスは双方の増加が同時進行しているように見える.
 また,グラフに含めなかったが,南アフリカの人口100万人あたりの新規感染者数は,12月中旬の380人台のピークから減少してこのところ40人台をキープしているが,死亡例は,12月から増加傾向が続き,新規感染者のピークから2ヶ月近くになろとするこの2,3日は英国とほぼ同レベルになっていた.
 なお,今回の推移グラフ比較で一番印象的だったのは,日本の人口100万人あたりの新規感染者数が2月8日に米国を超えていたことを,知ったことである.もう一点,1週間あまりの間に,各国の感染状況が思っていた以上に変動していた.


2022-02-04 各国の日別感染者数と日別死者数の7日間移動平均の推移 [右図参照]スクリーンショット 2022-02-04 18.20.39
[出典] https://ourworldindata.org/coronavirus
 日本, 米国, 英国, ドイツ, フランス, イスラエル, およびデンマークを比較した.

  • 上段の100万人あたりの日別感染者数グラフでは,世界でいち早くワクチンのブースター接種を進めさらに4回目接種を進めているイスラエルが最多になっていたのが意外であった.ただし,イスラエルも含めて,フランス,英国,および米国が一時のピークを超えたように見える.また,オミクロンのBA.2系統の感染が広がったとされているデンマークもピークを超えつつあるように見える.一方で,ドイツ と日本は増加傾向がまだ続きそうに見える.
  • 下段の100万人あたりの日別死者数のグラフでも,意外にもイスラエルが最多である.また,米国と英国では,ピークアウトした後に,日別死者数が増加してきている.一方で,ドイツは日別感染者数が増え続けている中で死者数は抑制傾向にある.日本は,日別死者数もしばらく増え続けそうだ.


2022-01-31 22:20 国立感染症研究所の分析から
[出典] 
SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について (第7報) 2022年1月26日9:00時点
https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/10945-sars-cov-2-b-1-1-529-7.html
から,「ウイルスの性状・臨床像・疫学に関する評価についての知見 -  感染・伝播性」の項を,段落ごとに箇条書きにして以下に引用 (太字はcrisp_bioで施したもの):

  • 海外からオミクロン株流行時には、これまでの流行株と比べてより高い実効再生産数、感染者数の増加率(Growth rate)、倍加時間(Doubling time)の短縮が報告されてきたが、新たに英国からデルタ株と比較して短い発症間隔(Serial interval)や世代時間(Generation time)が報告された。
  • 国内においては、3都県で直近2週間と1週間の倍加時間が2日前後であり、短縮した世代時間を考慮してもデルタ株よりも首都圏および関西圏で高い実効再生産数を示していることからもオミクロン株による流行拡大が続いていると考えられる。国内の積極的疫学調査によれば、ワクチン接種者と非接種者ではウイルス排泄期間に大きな差がないこと、ワクチン接種者では発症ないし診断から10日以降のウイルス排泄の可能性が低いこと、無症候病原体保有者では診断から8日以降のウイルス排泄の可能性が低いことが明らかとなった。
  • 国内の流行初期の多くの事例が従来株やデルタ株と同様の機会(例えば、換気が不十分な屋内飲食の機会等)で起こっていると考えられた。ただし、市中で感染拡大している地域においては、感染の場が児童施設、学校、医療・福祉施設等に広がっている。(第68回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料. 2022年1月20日)
  • 国立感染症研究所の分析では、1月3日時点での首都圏オミクロン株の世代時間(平均2.1日)を用いたRt(実行再生産数)は1.41(95% CI 1.39-1.43)と推定され、デルタ株のRt 1.33(95%CI 1.28-1.33)より大きかった。関西圏でも1.41(95% CI 1.38-1.43)とデルタ株のRt 1.17(95%CI 1.10-1.26)より大きかった。(第68回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料. 2022年1月20日)

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 この引用以外にも,オミクロン変異株の下位系列であるBA1, BA2, およびBA3の情報も含めて,国内外の状況を詳細に述べている.

2022-01-26 09:58 オミクロン株の多様性

 テレ朝が2022年1月24日に,オミクロン株も,ゲノム配列を詳しく比較すると,複数の種類が存在し,そのうちBA.2株が現在主流のBA.1株の2倍の感染力を帯び,「第6波ピークアウトしないかも」と報道した [テレ朝news 2022-01-24 23:30].

 BA.2株については,国立感染症研究所が1月13日9:00時点に発表し, 1月14日,20日,および25日に修正した版で,次のように述べている: 

"(オミクロン株の)下位系統としてBA.1系統、BA.2系統、BA.3系統が位置付けられており、現在の世界的な主流はBA.1系統である。国内での検出もほとんどがBA.1系統であるが、検疫ではインド、フィリピンに渡航歴がある者からBA.2系統が検出されている。国外では、デンマーク、フィリピン、インド等でBA.2系統が占める割合が増加している。BA.2系統は、BA.1系統よりも変異の箇所が少なく、BA.1系統でスパイクタンパク質に見られる欠失箇所(del69/70, del143/145, del212等)がない。一部の国では、これらのスパイクタンパク質の欠失箇所をPCR検査で検出する(S gene target failure (SGTF)と呼ばれる)ことでオミクロン株の代替指標としている場合もある。国内では、PCR検査によるL452R陰性をオミクロン株のスクリーニング方法として用いているが、BA.2もL452R陰性となるため検出可能である。現状では、BA.2の感染例に関する疫学的情報は限定的である。"

 国立感染症研究所の報告で触れられていたデンマークのStatens Serum Institutは2022年1月20日に以下のように発表している

[出典] "Now, an Omicron variant, BA.2, accounts for almost half of all Danish Omicron-cases" Updated 2022-01-20.

  • デンマークでは、BA.2が全COVID-19症例の20%からこの2週間で約45%まで増加し,同じ期間に,BA.1の相対的な頻度は低下した.
  • 他の国 (UK,ノルウェー,スウェーデンなど)でもBA.2症例が増加しているが,今のところデンマークと同じレベルの増加にはなっていないようである
  • BA.1とBA.2は,最も重要な部分においてその変異に多くの違いがある.実際、BA.1とBA.2の違いは,オリジナルの変異体とアルファ株の違いよりも大きい.スクリーンショット 2022-01-26 9.35.50
  • このような違いは,例えば感染性,ワクチンの有効性,重症度に関する特性の違いにつながる可能性があるが,今のところ,BA.1とBA.2が異なる性質を持っているかどうかについては(研究所)では精査中である.
  • 初期分析では入院回数に差はなく,また,BA.2感染時の重症化に対してもワクチンの効果を期待できると考えている.

[crisp_bio注] 右図に,デンマークと,デンマークほどにはBA2系統が蔓延していないUKおよび日本の人口100万人あたりの日別感染者数(7日間移動平均/週平均)の推移をOur World in Dataから引用した.3ヵ国の推移を眺めていると色々なシナリオが思い浮かぶが,今後の英国におけるBA2系統の優勢化の推移と新規感染者数の推移が,日本の今後のモデルとして利用できるかもしれない.
 

20202022-01-24 各社のワクチンはいずれもオミクロン株に対して十分なT細胞反応を誘導する
[出典] 
"SARS-CoV-2 vaccination induces immunological T cell memory able to cross- recognize variants from Alpha to Omicron" Take A, Coelho CH, Zhang Z, Dan JM [..] Crotty S, Grifoni A, Sette A. Cell 2022-01-19. https://doi.org/10.1016/j.cell.2022.01.015

 La Jolla Institute for ImmunologyとUCSDに,Murdoch University, University of GenoaおよびIRCCS Ospedale Policlinico San Martinoが加わった研究グループが,mRNA-1273 (モデルナ),BNT162b2 (ファイザー・ビオンテック), Ad26.COV2.S (ジョンソン・エンド・ジョンソン), および NVX-CoV2373 (ノババックス)の各ワクチンが誘導するT細胞応答が,SARS-CoV-2の一連の変異株  [*] を認識するか否かを検証した.
[*] アルファ (B.1.1.7), ベータ (B.1.351), ガンマ (P.1), B.1.1.519, カッパ (B.1.617.1), デルタ (B.1.617.2), ラムダ (C.37), R.1, ミュー (B.1.621), およびオミクロン (B.1.1.529).

  • 一連の変異株に対して,第1レベルの防御を担うメモリーB細胞および中和抗体は全体的に減少したが,第2レベルの防御を担うT細胞応答はいずれのワクチンでも維持された.
  • ワクチン接種後6ヶ月までの被験者において,メモリーT細胞応答の90% (CD4陽性) と87% (CD8陽性) は,AIMアッセイによると平均して保存され,オミクロン株に対しては84% (CD4陽性) と85% (CD8陽性) 保存された.
  • オミクロン株のスパイクタンパク質の受容体結合ドメイン (RBD)を認識するメモリーB細胞は,他の変異株に比べて,大幅に (42%)減少した.
  • 一方で,T細胞エピトープ・レパートリーを分析したところでは,CD4陽性T細胞およびCD8陽性T細胞が認識するスパイクタンパク質上のエピトープの中央値はそれぞれ11および10であり,オミクロン株での平均保存率は80%を超えた.

 各社のワクチンが誘導するT細胞反応は、多様な変異体に対する第2レベルの防御として重要な役割を果たすと考えられる.


2022-01-23 17:38 オミクロン株感染のピークアウトを,ニューヨーク市とロンドン市に見る.スクリーンショット 2022-01-23 16.01.02
 
2都市がWeb [*]で公開しているグラフの一部を右図に引用した.東京都の人口へと換算すると2都市とも東京都に比べて感染がおさまったというレベルではないが,日々の感染例と入院例は明確にピークアウトし,死亡者例もピークを過ぎつつあるように見える [なお,2都市のグラフは横軸の都合上,ニューヨーク市の感染の上昇と下降がいずれもロンドン市よりも急峻になっているように見える].
 南アフリカでは国レベルでピークアウトしていることから,南アフリカの平均年齢が29.7歳と日本の47.4歳よりも圧倒的に若いことが影響しているとしても,2都市のピークアウトと合わせると,日本のオミクロン株感染もいずれ急速に収束していくことを期待してしまう.日本国内でも沖縄県は,20日頃からピークを超えつつあるように見える [crisp_bio "....思うこと(9)"参照].
[*] 

ニューヨークhttps://www1.nyc.gov/site/doh/covid/covid-19-data-totals.page
ロンドン https://data.london.gov.uk/dataset/coronavirus--covid-19--cases

2022-01-23 13:36 米国CDCが,実社会での大規模なデータ解析に基づいて,mRNAワクチンのブースター接種を推奨

[出典] CDC "Effectiveness of a Third Dose of mRNA Vaccines Against COVID-19–Associated Emergency Department and Urgent Care Encounters and Hospitalizations Among Adults During Periods of Delta and Omicron Variant Predominance" Morbidity and Mortality Weekly Report (MMWR) Early Release 2022-01-21. https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/71/wr/mm7104e3.htm?s_cid=mm7104e3_x

 これまでに,COVID-19 mRNAワクチンのSARS-CoV-2感染に対する効果は,ワクチン接種が誘導する免疫反応の衰えや,変異によりSARS-CoV-2が免疫を回避する能力を獲得するために,低下する可能性があることが明らかになってきた.米国CDCは今回,2021年8月26日から2022年1月5日の間にCOVID-19の症状を有する成人の受診222,772件と入院87,904件を対象として全米10州の合同分析を行った結果を公表した. 

  • 対象期間中のデルタ株優勢期においてもオミクロン株優勢期においても,2 回目の mRNA COVID-19 ワクチンの接種が医療機関受診の180 日以上前の患者のワクチン有効性が,より最近 (180日以内)に接種した患者と比べて有意に低かった.
  • ワクチン有効性は 3 回目の接種後に増加し,デルタ優勢期とオミクロン優勢期の両方で,COVID-19に関連する受診を予防する高い有効性 (それぞれ 94% と 82%)と COVID-19に関連する入院を予防する高い有効性 (それぞれ 94% と 90%)を示した.
  • これまでの知見と今回の分析結果から,ワクチン未接種の人は全て,できるだけ早くワクチン接種を開始すべきであり,COVID-19の1次接種シリーズでmRNAワクチンを接種したすべての成人は,適格であれば第3回接種を受けるべきである.
 なお,CDC報告は,今回得られた知見について留意しておくべき限界7種類も,明らかにしている.例えば,第3回接種に関するワクチン有効性は接種後比較的短期間 (中央値 41-44日)での判定結果であることや,全米50州に中の10州のデータに基づく解析結果であること,などである. 

2022-01-19 ファイザー・ビオンテック,オミクロン株に対する第3回ワクチン接種の効果に関する論文をScience 誌から発表

[出典] "Neutralization of SARS-CoV-2 Omicron by BNT162b2 mRNA vaccine–elicited human sera" Muik A [..] Şahin U. Science. 2022-01-18. https://www.science.org/doi/10.1126/science.abn7591 (https://doi.org/10.1126/science.abn7591 2022-01-19時点ではまだ有効になっていない)

 BioNTechとPfizerの研究グループは今回,SARS-CoV-2ウイルス修飾ウリジンRNAワクチンであるBNT162b2 (Tozinameran/トジナメラン; Comirnaty/コミナティ)を2回または3回接種した51名の血清の,武漢株,ベータ株,デルタ株,オミクロン株のシュードウイルス (比較的安全な水泡口炎ウイルスにそれぞれのスパイク質を発現させたウイルス)と,生のSARS-CoV-2に対する中和活性をそれぞれ測定し,その結果を発表した.

  • 2回接種後の血清は.オミクロン株シュードウイルスに対する幾何平均抗体価 (GMT)が武漢シュードウイルスの22分の1以下に低下していた.一方で,ベータ株とデルタ株のシュードウイルスに対するGMTはそれぞれ武漢株シュードウイルスに対するGMTの6.7分の1と2.2分の1であった.
  • 3回目のワクチン接種後1カ月の時点で,オミクロンに対するGMTが2回接種後の~23倍に上昇し,2回接種後の武漢株に対するGMTに近い値となった.
  • 生のSARS-CoV-2での評価では,2回接種後の血清のオミクロン株に対するGMTは,武漢株の~61分の1となったが,3回接種1ヶ月後の血清のオミクロン株に対するGMTは,2回接種後の血清の武漢株の3.4分の1にまで回復した.

 オミクロン株を効果的に中和するために3回目のワクチン接種が必要であることが,シュードウイルスと生ウイルスの2種類で確認されたが,血清に含まれる中和抗体は,COVID-19に対する適応免疫の第一層である.防御の第2層を担うT細胞応答が,特にCOVID-19の重症化の予防に,重要な役割を果たす.BNT162b2ワクチン接種者のCD8+T細胞応答は多様なエピトープを認識可能なポリエピトープであり,研究グループの解析ではオミクロン株のスパイク糖タンパク質エピトープのCD8+T細胞認識はほぼ維持されていることが示唆された.


[注] 実社会では以前から,ワクチンの2回接種後あるいは3回接種後のオミクロン株の感染が起こること,および重症化が従来のVOCに比べて抑制されていることが,報道されてきており,今回の研究室での実験の結果は,実社会での状況と整合することになった.

 なお,3回接種ワクチンの長期的な有効性について,英国では,2~4週間で65~75%,5~9週間で55~70%に低下し,3回目の投与後10週間以上では55%以下と報告され,イスラエルのように第4回接種を開始する国も現れた.

2020-01-15 オミクロン株が感染株のほとんどを占めるに至った南アフリカ,英国,米国と日本における人口100万人あたりの日別感染者数と日別死亡者数の推移を2021年11月1日から2022年1月13日までの期間について比較してみたスクリーンショット 2022-01-15 14.29.56 [出典 Our World in DataのCoronavirus Pandemic (COVID-19)のセクション]

  • 挿入図左の日別の新規感染者数のグラフから,南アフリカと英国はピークが過ぎ,米国も近くピークを過ぎそうにも見える.報道*によると米国では最初にオミクロン株の感染が拡大した大都市 (クリーブランド, ニューワーク, ワシントン)でピークを超えた [*Smith M, Robertson & Imbler S. New York Times 2022-01-13].
  • オミクロン株は入院や死亡といった重症化が少ないとされているが,挿入図右のグラフからは英国と南アの人口100万人あたりの日別死亡者数が,日別感染者数がピークを過ぎた後,増え続けていることが見て取れる.スクリーンショット 2022-01-15 14.29.41
  • 2番目の挿入図は欧州各国,カナダ,オーストラリア、およびインドを,南アおよび米英と比較したグラフである.南アと英国以外には,ピークが過ぎ去った国は未だないようである.なお,感染数推移グラフの右側は,左側のグラフの各国における感染株に占める変異株の比率をまとめたグラフである.

2022-01-06 ヒトACE2 (hACE2)とオミクロン株およびデルタ株の受容体結合ドメイン (RBD)との複合体構造がそれぞれ解かれた [crisp_bio 2022-01-06参照]

2022-01-0204 Wikipedia上のデータが2022年1月4日付に更新された (カッコ内は2022年1月1日に引用していた数字):133の国と地域で,PANGOLIN ,GISAID,独自集計,および,オミクロン株疑い例がそれぞれ,91,330(56,581), 95,138 (95,138), 373,106(373,463), および 628,739 (628,739)となり, PANGOLINトロく登録数だけが大幅に増えてGISAID登録と同レベルになった.

2022-01-02 英国保健安全保障庁が528,176例のオミクロン感染と573,012例のデルタ感染のデータを分析した結果,デルタ株に比べてオミクロン株に対するワクチンの感染予防効果は低く,また,2回接種も20週を過ぎるとワクチンの効果は10%以下にまで低下するが,入院リスクを予防には効果があると,これまでの種々の報告と整合する結果を公表した [crisp_bio [20220102更新] 新型コロナウイルス:英国の感染状況に学ぶ,参照]: 

2022-01-01 23:16

  • "オミクロン株のヒト細胞への感染は,これまでのSARS-CoV-2株と異なり,TMPRSS2プロテアーゼに依存しない"とする査読前報告が公表された. [crisp_bio 2022-01-01参照]
  •  Wikipedia上のデータが2021年12月31日時点に更新された (カッコ内は2021年12月30日に引用していた数字):113の国と地域で,PANGOLINGISAID,独自集計,および,オミクロン株疑い例がそれぞれ,56,581(13,161),95,138 (58,207),373,463 (173,702),および628,739 (382,176)

2021-12-31 21:25 「オミクロン株は,中和抗体 (液性免疫)を免れるが,T細胞応答 (細胞性免疫)まで免れることはできない」とする2報が,いずれも査読前論文ではあるが,medRxiv から公開された [crisp_bio 2021-12-31参照]

2021-12-30 19:54 Wikipedia上では108の国と地域で,PANGOLIN (22日時点)GISAID (28日時点),独自集計(28日時点),および,オミクロン株疑い例がそれぞれ,13,16158,207および 173,702,および382,176とされ,各国のゲノム解析が進んでいるのかGISAID登録数の伸びが顕著であった.

2021-12-30 21:00 BBC NEWS | JAPAN 2021-12-29によると,フランスで欧州最多の新規感染者が確認された12月28日,イタリア, ポルトガル, ギリシャ, キプロス, イギリスでもそれぞれ,国内最多となる新規感染者を記録した.クリスマス期間中データ処理が遅れていたために,今回,過去最多の感染者数になった可能性があるが,感染力が強いとされるオミクロン株の影響と見られている.
 また,28日のBBC BEWS | Japanによると米国では,オミクロン株の感染拡大に伴ういわゆる濃厚接触者として多数の従業員が自主隔離を求められため,ユナイテッド航空などを中心にフライトのキャンセルが相次ぎ,また,原因は明らかにされていないが中国の航空会社のキャンセルも相次ぎ,その他国々の航空会社も含めて,24日からのクリスマスの週末に全世界で,総便数に比べれば少ないが,8,000便以上がキャンセルされた.
 重症化が比較的少ないとされていても,短期間に感染者が急増すること自体が,現代の社会システムに打撃を与える. 

2021-12-28 12:02 オミクロン株の感染性や病原性などの特性に関する実験結果の公開続く

2021-12-26 19:43 英国では,日別陽性者数が24日に12万人を超え,オミクロン株感染確認数も2万3700人を超えて累計11万4000人に達した.英国内のイングランドでは,23日までにオミクロン株感染後の死亡が29人に達した [NHK NEWS WEB 2021-12-25 11:25].ところで「8割おじさん」で知られた西浦京大教授によると,オミクロン株の実効再生産数はデルタ株の3倍から4.2倍のようだ. [buzzfeed.com 2021-12-24公開]
2021-12-25 20:48 欧米でのオミクロン株の感染拡大の報道 [英国 JIJI.COM. 2021-12-23 07:14米国 FNNプライムオンライン 2021-12-24 18:30]が続いているが,Wikipedia上では104の国と地域で,PANGOLIN GISAID,独自集計,および,オミクロン株疑い例がそれぞれ,8,340,16,559および 173,482および257,848とされ,前回よりも独自集計と疑い例が大きく増加した[20:40確認].国と地域からの報告数からの独自集計の件数が,ゲノム配列登録データベースのPANGOLINとGISAID上の件数を上回っているのは,オミクロン株の全数ゲノム配列決定が遅れ,そしてまたは,データベースへの登録が遅れているためと思われる.

2021-12-24 19:00 感染状況はWikipedia上では103の国と地域で,PANGOLIN GISAID,独自集計,および,オミクロン株疑い例がそれぞれ,8,340,16,559および 80,174および166,840とされている [注: 先日引用と同じ12月22日時点の数字で若干変化している]
 英国,米国,フランスなどオミクロン株の感染拡大が止まらないとする報道が相次いでいるが,南アフリカでは国立伝染病研究所の専門家が,オミクロン株が最初に検出されたハウテン州で,1日当たりの感染者の減少と検査での陽性率低下を確認し,感染が〜1ヶ月でピークを超えたという認識を示した.ただし,南アフリカでは,横這いに留まっている州や,引き続き増加している州がある [ロイター 2021-12-23 02:16].

2021-12-23 10:17 オミクロン株感染者の入院リスクはデルタ株感染者よりも40%低い 

[出典] NEWS "Some reduction in hospitalisation for Omicron v Delta in England: early analysis" van Elsland SL, Head E. Imperial Colledge London. 2021-12-22. ; NEWS "Risk of hospital stay 40% lower with Omicron than Delta, UK data suggests" Sample I, Stewart H. The Guardian 2021-12-22 22:27 GMT 

 英国イングランドのデータ解析によると,オミクロン株感染者 (以下,オミクロン)の病院受診はデルタ株感染者 (以下,デルタ)よりも20〜25%低く,1泊以上の入院リスクは40〜45%低い.

  • COVID-19感染歴が無く,ワクチン未接種のごく一部の人の場合,オミクロンの入院リスクは,デルタよりも約11%低かった.
  • オミクロン株が登場する前に新型コロナウイルスに感染・回復していた場合のオミクロンの入院リスクは,初感染の約50%であった.
  • オミクロンの入院日数も,デルタの0.32日に比べて平均0.22日と短かった.ただし,オミクロンの流行が少ない高齢者層についてはより多くのデータが必要であり,集中治療室への入院や死亡のリスクを評価するのは時期尚早だ.
  • ここまでの報告は,英国インペリアル・カレッジ・ロンドンのアウトブレイク・モデリングチームが,12月1日から14日の間にイングランドでPCR法で確認されたCOVID-19患者全てのワクチン接種と入院の記録を分析した結果に基づいており,対象には,オミクロンの症例56,000件とデルタの症例269,000件が含まれていた.

 英国スコットランドでのデータ解析でも,予備的解析ではあるが,オミクロンの入院リスクはデルタよりも70%程度低いとしている.これは,11月23日から12月19日までの病院データを解析したエジンバラ大学のEAVE II (Early Pandemic Evaluation and Enhanced Surveillance of COVID-19) からの報告であるが,例数が少なく,また,オミクロン株感染者のほとんどが20~30歳と年齢に大きな偏りがあることから,今後,入院リスクの数値は変わる可能性がある.

 このように,イングランドとスコットランドでオミクロンが軽症であることを示唆する結果が得られたが,英国の1日の感染者数が10万人を超える状況では,今後,入院が必要になる感染者数が増え,ひいては重症者も増え (すでに死者が出ている),医療逼迫の状況に至る可能性がある.事実ロンドンでは,12月20日にCOVID-19患者301人が入院したがこの数字は前週比78%増,1日としては2月7日以来最高となった.

2021-12-22 20:15 感染状況はWikipedia上では102の国と地域で,PANGOLIN GISAID,独自集計,および,オミクロン株疑い例がそれぞれ,8,340,16,559および 79,516および166,840となった [12月21日時点].

 イスラエルではベネット首相が60歳以上に4回目のワクチン接種を始める方針を示し,オミクロン 株の登場が国際的なワクチン接種格差をより浮き彫りにすることになった.イスラエルでは,8月からブースター接種を始め人口の44%にあたる417万人が完了したが,11月下旬から感染者数が再拡大し12月19日に新規感染者数が1,000人を超えており,これまでに341人がオミクロン株に感染したと報道 [*]されている [* NHK NEWS WEB 2021-12-22 09:11]

2021-12-22 12:16 ファイザー・ビオンテックは12月8日に,「Comirnatyの3回接種でオミクロン変異株を中和可能,2回接種でも重症化防止の可能性あり」と発表していたが,12月20日,モデルナがmRNA-1273のブースター接種の有効性示す実験データを公表した.

  • これまで接種されてきたmRNA-1273を認可されている量の50μgまたは100μg,多価ワクチン候補のmRNA-1273.211を50μgまたは100μg,あるいは,多価ワクチン候補mRNA-1273.213を100μgをそれぞれ20人の2回接種完了者に接種した.
  • ブースター接種前と29日後に,シュードウイルス中和アッセイ (PsVNT)を行った:いずれの被験者もブースター接種前の中和抗体のレベルは2回接種後から低下していた;mRNA-1273 50 µg接種により,幾何平均抗体価 (GMT)が850 (ブースター接種前の~37倍)へ上昇;mRNA-1273 100 µg接種によりGMT 2,228 (~83倍)へと上昇;多価ワクチン候補もオミクロン株特異的な中和抗体を同レベル誘導.
  • モデルナは,100 µgブースター接種の第2/3相試験からの安全性データ (N=305)も公表した.50 µgのブースター接種よりも副反応の頻度が僅かに高かった (slightly more freqent)が,ブースター接種後7日の間の副反応は,2回接種までと同レベルであった.
  • モデルナは,当面はmRNA-1273のブースター接種に注力しつつ,オミクロン株特異的ワクチン (mRNA-1273.529) の開発を継続する.後者については,2022年早期に臨床試験に入ることを目指している.

2021-12-21 21:10 Wikipediaの各国・地域の報告を総合した数字は日々増減があったが,今回は,PANGOLIN (Phylogenetic Assignment of Named Global Outbreak Lineage)とGISAIDが出している数字 (12月20日時点),個別報告の集計の結果の3種類の数字,それぞれ,8,340,13,945,および 79,346が併記されていたが,いずれも,世界的に感染が広がりつつあることを示した.また,オミクロン株疑い例として,英国 124,954,南ア 19,070,カナダ 3,636などの数字が挙げられていた.
 なお,英国に続いて米国でも急速にオミクロン株の感染が広がり,
CDCによると新規感染者に占めるオミクロン株感染者の割合が11日までの1週間では12.6%であったところ,18日までの1週間で73.2%に達し,また,新型コロナウイルス感染者の総数も増加した.また,テキサス州で,オミクロン株感染者 (ワクチン未接種で重症化リスクあり)の米国で初の死者が出た [合田 緑. 朝日新DIGIDAL. 2021-12-21 10:53]
2021-12-20 17:34 Wikipedia の各国・地域の報告を総合した表では,オミクロン株感染の広がりは国と地域の数が96に,感染例が64,032例へと更新された.オランダが19日にロックダウンに踏み切るなど,英国と欧州各国は規制を強めるようだ [ロイター. 2021-12-20 07:44 JST]
2021-12-19 17:39 
Wikipedia の各国・地域の報告を総合した表において,昨日引用した数字と比べると,国と地域の数が96から92へと,感染例が34,821例から46,211例へと更新された.
 UKでは,
12月17日18:00 GMT(英国時間)に,オミクロンの感染者が24,968人と24時間の間に~10,000人急増し,入院が65例から85例に増え,死者は12月14日に1人であったところ16日には
計7人
に達した,と発表された [Reuters 2021-12-19 12:03 AM JST (日本時間)
].病毒性が低いとしても感染が拡大すれば死者も増えるという専門家の警告が現実になった.

2021-12-18 19:74 Wikipedia の各国・地域の報告を総合した表において,昨日引用した数字と比べると,国と地域の数が97から96へと,感染例が37,985例から34,821例へと'修正'された (19:19時点)

2021-12-18 10:07 南アフリカのオミクロン感染に関するさまざまなデータは,必ずしも,各国にそのまま当てはまらない

[出典] "【解説】 オミクロン株、南アフリカの状況から分かったこと"レイチェル・シュレア、ピーター・ムワイ、BBCリアリティー・チェック(ファクトチェック),BBC NEW | Japan 2021-12-17.

  • オミクロン株は,入院と重症化が比較的少なく入院期間も短いというとデータが出ているが,入院患者の大半が重症化リスクの低い40歳以下である.これには,年齢構成と60歳以上の国民のワクチン接種率が他の年代より高いことが影響した結果かもしれない.南アフリカの国民の年齢中央値は27.6歳と,イギリスの40.4歳,日本の48.4歳に比べてはるかに若い。
  • 子供の入院が多いというデータが出たが,このデータは貧困地域から出ていたため,栄養・衛生状態が影響した可能性があり,また,現在では子供の入院患者の比率が下がってきている.
  • ワクチンの効果については,南アフリカでは,ファイザー・ビオンテックのmRNAワクチンの他に,ジョンソン・エンド・ジョンソンのウイルスベクター型のワクチンも多くの国民が接種していることから,ワクチンの種類と感染者の背景・症状との関係を詳しく見ていく必要がある.

2021-12-17 18:05 Wikipediaの集計によれば,オミクロン株の感染は93の国と地域に拡がり,感染例も37,985人と16日の1.96倍になった [18:00時点]
2021-12-16 18:50 各国・地域の報告を総合した感染状況をまとめているWikipeidaによると [18:15時点],オミクロン株の感染は90の国と地域へと拡がり,感染例も15日20:16時点の2倍を大きく超える19,321人に達した.海外の状況について,日本経済新聞のニュヨークとロンドンからの報道を圧縮して以下に引用した:

1.  オミクロン型の増殖速度「70倍超」: 肺では増えにくく - 香港大研究 (西邨紘子)
日経Webサイト 2021年12月16日 5:07 (2021年12月16日 8:42更新)
 香港大が学術誌査読前の研究成果であるが15日に大学のWebサイトで,「感染から24時間後の時点で,オミクロン型の複製速度が,気管支では他の型の70倍以上であったが,肺ではデルタ型の10分の1以下であった」と公表した. 
 米ハーバード大,MITおよびMGHの共同研究グループは14日,ファイザー・ビオンテック,モデルナおよびJ&Jの3種類のワクチンについて,オミクロン株に対して十分な中和抗体を誘導するにはブースター接種が必須とする研究結果を公表した.
2.英の新規感染者、過去最多7万8000人に: オミクロン急増 (佐竹 実)
日経Webサイト2021年12月16日 4:27 (2021年12月16日 9:17更新)
 英政府は15日,過去最多だった2021年1月8日の約6万8千人を上回る新規感染者が発生したことを公表したが,ロンドンでは感染者の6割がオミクロン型とみており,18歳以上へのワクチンのブースター接種を急いでいる.1月のピーク時は4万人近くの入院患者と1日あたりの死者数1,820人を記録していたが,直近では,それぞれ,が7千人台と100人前後に留まっており,今のところは重症化が抑えられている
 フランス政府によると15日の新規感染者は約6万5700件と20年11月以来の高水準であり,欧州疾病予防管理センター (ECDC)によると,15日時点で27カ国で2629件のオミクロン型の感染を確認されている.

[注] 項目1にあったように肺での増殖速度がデルタ型の10分の1であることが,項目2にあったようにデルタ型に比べて重症化が抑えられている原因かもしれない.しかし,感染が指数関数的に増加すれば,オミクロン株感染が重症化する絶対数も医療逼迫を招くレベルに達する恐れがある.

2021-12-15 20:16 Wikipedia (19:55時点)によれば各国・地域の報告を総合すると,国と地域の数が77へと増え,感染例も8,289例と前回からやや増加した.2021-12-15 8.35.28
2021-12-15 08:40 英国政府のオミクロン株感染状況報告2021-12-14版に [*]によれば,英国 (UK)のオミクロン感染者数は右表に引用したように5,346人となっている.[*]https://www.gov.uk/government/publications/covid-19-omicron-daily-overview

2021-12-14 08:05 英国の感染状況に学ぶ
[注] オミクロン株感染拡大を受けて,11月12日に投稿した「英国の感染状況に学ぶ」の続編を今回投稿することになった.
[出典] "Covid: First UK death recorded with Omicron variant". Morton B & Faulkner D. BBC 2021-12-14 06:58 JST.; "At least one person in UK has died with Omicron, says Boris Johnson" Allegrettti A & MasonR. The Guardian 2021-12-13 13:30 GMT

  • ボリス・ジョンソン首相は13日(月),「オミクロン株感染による死亡者が少なくとも1名」出たと発表した.
  • 英国保健安全保障局 (UKHSA)は,「イングランドではオミクロン株感染者10名が入院が必要になった」と発表した.年齢は18歳から85歳まで,大半がワクチン2回接種済みであった.
  • 英国では月曜日に54,661件の新型コロナウイルス全体の新規感染者を記録し,陽性反応が出てから28日以内に38名の死亡者が出ている.その中で,オミクロン株確定数は,月曜日に新規1,576例 [*]が加わり4,713例となった [*イングランド 1,534人,スコットランドとウエールスがそれぞれ15人,北アイルランドはゼロ].
  • オミクロン株はデルタ株よりも感染力が強く,英国では2~3日ごとに感染者が倍増している.ロンドンでは,オミクロン株感染者がウイルス感染者の44%を超え,今後48時間以内に主流になると見られている.
  • Javid保健相は,入院や死亡が感染よりも約2週間遅れていることから,「今後、数日から数週間の間にこれらの数字が劇的に増加することが予想される」と述べた.
  • UKHSAの調査によると,ワクチンの3回接種で,有症 [**]の感染に対して約70%から75%の予防効果がある [** 無症状の感染を除く].
  • 首相は第3回接種を訴え,接種の支援に~760人規模の軍を動員した. 

2021-12-13 20:00 Wikipedia (19:55時点)によれば各国・地域の報告を総合すると,国と地域の数は前回 (12日付)と同じく70であったが,感染例は8,174例と~1.7倍になった.なお,ウイルスの配列の登録を受け付けて,集積・公開しているGISAIDデータベース上での件数は11日付で2,123件であり,英国が820件と~10%近くを占めている.
 以下に,Our World in Data のWebサイトで公開されている変異株の相対的な広がりを示す2種類のグラフを引用した.いずれもゲノム解析されたSARS-CoV-2株の中での各変異株の比率を示しており,実際に感染が広がっているSARS-CoV-2株における各変異株の比率とは必ずしも一致していない.左下が,オミクロン株の比率高い順に11ヵ国における12月10日時点の比率が,右下に,2020年5月11日から2021年12月10日までの英国における比率 (過去2週間の平均)の推移を示している.

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 英国にとって12月10日まではまだ嵐の前の静けさだったのかもしれない.12日(土)から13日(日)にかかけて急増し,ロンドンではオミクロン株感染者が新型コロナウイルスの感染者の~40%を占め[REUTERS 2021-12-13 18:25 JST],ボリス・ジョンソン首相は「疑う余地はない,オミクロン株の津波がおそってくる」とし,5段階の警戒レベルの中で,レベル3からレベル4へと引き上げた [Gillett F, BBC NEWS 2021-12-13].

2021-12-13 11:11
 

1. オミクロン株は,2回接種者にも3回接種者にも感染し,デルタ株よりも集団感染し易いらしい

[出典] "How Omicron appears to be infecting Britain – despite the vaccine" Pidd H. The Guardian.  2021-12-12 16:19 GMT. https://www.theguardian.com/world/2021/dec/12/how-omicron-appears-to-be-infecting-britain-despite-the-vaccine

  • オスロ:レストランでのパーティーで,二回接種で参加前検査で陰性であった111人の参加者のうち80人が主としてオミクロン株の新型コロナウイルスに感染.
  • ドイツ:観光グループツアーで南アフリカ行った7人が,ブースター接種を受けたにもかかわらずオミクロン株に感染.
  • 英国:病院でオミクロン株感染が発生.
  • 英国:症状確認アプリ「Zoe Covid」のアンケートでは「ワクチン接種が参加条件のイベントの参加者のほぼ全員が新型コロナウイルスに感染し,オミクロン株か否かの判定を待っている」という声.英国では,オミクロン感染を迅速に判定できるのは検査機関の3分の1程度であり,また,検査を受けているのは一部のサンプルだけであることが課題.
     Zoe Covidを運営している英国キングス・カレッジ・ロンドンの遺伝疫学Tim Spector教授は「デルタは,イベントに参加した全員に影響するわけではないようで,ワクチン接種した人の6人に1人がその時に病気になるだけだったが,オミクロン株の場合ば,それが過半数になるかもしれない」とコメント.また,「オミクロン株は感染してから短時間で他に感染可能になるようなので,イベントに参加する場合は前日の検査では不十分で,家を出る数時間前に迅速検査を行うよう」とアドバイス. 

2.オミクロン株の迅速判定は?

 東京都はオミクロン株の可能性を検出可能な変異株PCR検査を12月3日から開始した.アルファ株とオミクロン株に共通の変異N501Yに加えてオミクロン株の変異の一つであるE484Aの変異も検出して判定し.陽性判定が出た場合は,ゲノム解析を経て確定する [東京都新型コロナウイルス感染症対策本部報道発表資料 2021-12-03 https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2021/12/03/23.html].こうした技術は迅速に全国の検査機関で共有されるようになっているのだろうか.
 オミクロン株の水際対策の精度と速度を上げるために,成田,羽田,関西の3空港に,全自動PCR検査装置を導入してはどうだろう.某国内企業の全自動PCR検査装置は,7月の時点で,N501Y,E484K, E484QおよびL452Rの変異を同時に検出可能とするマルチプレックスPCR試薬の使用が可能になっており,ひいてはデルタ株検出が実現されていた[*].そのままでも,N501変異検出でアルファ株またはオミクロン株疑いを検出できる.3セットの導入初期費用に試薬などのランニングコストを加えても某事務経費の誤差の範囲内ですむように思う.

[*]プレシジョン・システム・サイエンス株式会社 http://www.pss.co.jp/ir/press/202107063.pdf

2021-12-12 19:09 Wikipedia (19:07時点)によれば,オミクロン感染者数は各国・地域の報告を総合すると70の国と地域で4,738例となった.


2021-12-11 19:57 Wikipedia (19:35時点)によれば,オミクロン感染者数は各国・地域の報告を総合すると66の国と地域で3,315例となった.12月9日の時点で,WHOのアフリカにおける予防接種のコーディネータは,世界のオミクロン感染者の46%がアフリカに分布としていた.日本では,11日に13人と1人増となった.スリランカ滞在歴があり4日入国時の空港検疫では新型コロナウイルス陰性判定で,岐阜県の自宅まで車で移動していたが,その後濃厚接触者と確認され詳しい検査を受けた結果オミクロン感染と判定された.ワクチンは2回接種していた[NHK NEWS WEB 2021-12-11 19-06].機内での濃厚接触者追跡が、今のところ機能しているようだ [参考 crisp_bio [20211006更新]  旅客機内クラスターの発生事例 - 搭乗前陰性判定の乗客からの事例]

2021-12-10 21:20 
Wikipedia (21:11時点)によれば,各国・地域の報告を総合すると61の国と地域で2,303例が報告されている [注 昨日より11人減少しているが元にした報告数に変動があったか,集計上の誤りと思われる].日本では新たに8人判明し,オミクロン感染者は計12人となった.市中感染ではなくいずれも空港検疫とそれに続くゲノム解析で判定された.そのうち2人は空港検疫時には陰性で,先に陽性判定されていた1名の濃厚接触者として隔離されている間に陽性に転換した.なお,新たな8人のうち7人はワクチン接種2回済ませていたとのことである.また,5人は症状はなく3人に発熱などの症状が見られるとのことである [NHK NEWS WEB 2021-12-10 18:57; NHKニュースウオッチ9視聴].

2021-12-09 21:15
 Wikipedia (21:05時点)によれば,各国・地域の報告を総合すると60の国と地域で2,324例が報告されている.

1. ファイザー・ビオンテック「Comirnatyの3回接種でオミクロン変異株を中和可能,2回接種でも重症化防止の可能性あり」と発表 ["Pfizer and Biotech Provide Update on Omicron Variant". businesswire. 2021-12-08 06:54 AM EST ]

  • 実験室での予備的研究 [*]にて,オミクロン変異株に対して2回投与では中和力が著しく低下し,3回投与が中和力を発揮した [*試験方法:Comirnatyを2回接種または3回接種した人由来の血液から構築した血清パネルを対象として,シュードウイルス中和試験によって判定].
  • 3回投与により,オミクロン変異体に対する中和抗体が,2回投与に比べて25倍に増加し,この抗体価は、高い防御レベルを示した野生型ウイルスに対する2回の投与後に観察された抗体価と同等であった.
  • CD8+ T細胞が認識するスパイクタンパク質のエピトープ (抗体が認識する部位)の80%は,オミクロン変異株に見られる変異の影響を受けないことから,2回の投与でも重症化に対する防御効果が得られる可能性がある.
  • オミクロン変異株に特化したワクチンの開発を引き続き進めており,3回接種でも不十分となった場合は,3月までに利用可能とする見込みでいる.

2. 英国ではオミクロン変異株感染拡大が2~3日で2倍のペースである
 英国政府の緊急時科学諮問委員会(Scientific Advisory Group for Emergencies, Sage)のメンバーであり, インペリアル・カレッジ・ロンドンの疾病発生モデリンググループの責任者であるファーガソン教授が,8日(水曜日)にBBCラジオ4にて,個人的見解として「
2~3日で感染者が2倍になってきている.クリスマス前に英国ではオミクロンが主流となる可能性が高い」「現時点では,ロンドンとスコットランドで感染者数が特に多い.ロンドンは外国人観光客が多く,スコットランドの感染拡大は,グラスゴーで開催された気候変動に関するC0P26サミットとの関連が疑われる」と述べた.["Omicron Covid cases ‘doubling every two to three days’ in UK, says scientist" Bland A, The Guardian.  2021-12-08 09:01 GMT. ]

2021-12-08 22:07 
オミクロン株は54の国と地域に広がり,オミクロン確定が1,632例,オミクロン疑いが10か国で57,002例となった [Wikipedia].

2021-12-06 22:07 
オミクロン株は53の国と地域に広がり,オミクロン確定が1,291例,オミクロン疑いが10か国で57,029例となった [Wikipedia].

 各種報道によると,オミクロン 株は感染性が強いが,今のところは重症化はみられない[*]という方向のようだ [* 例えば,米国のファウチ博士のコメント NHK NEWS WEB 2021-12-06 21:26].また,感染してから第三者に感染可能になる日数がデルタ株よりもさらに短いと推定されたことから,英国は訪英にあたり出発前48時間以内の陰性証明 (PCRか迅速抗原検査)を求めることにしたようだ [BBC NEWS | JAPAN 2021-12-05].米国は,外務省のWebサイト,によると,12月6日から,米国への出発前1日以内に取得した陰性証明を求めることにした.ネット検索すると,日本国内にも,検査当日に英文証明書発行可 (3万~4万円)とうたっているクリニックが複数あるようなのだが.

2021-12-06 19:57 
オミクロン株は46の国と地域に広がり,オミクロン確定が939例,オミクロン疑いが55,992例となった [Wikipedia].

 オスロでは,11月26日に行われた企業のクリスマスパーティーの参加者120人のうち、少なくとも13人がオミクロン株に感染し,60人を超えると予想されている.この企業は南アフリカに事業を展開し,参加者のうち少なくとも1人が最近南アフリカから帰国したともされている [JIJI.COM 2021-12-04 17:40].また,シドニーでは,11月27日に屋内クライミングジムを訪れたRegents Park Christian Schoolの生徒13人が新型コロナウイルスに感染し,そのうち5人がオミクロン株感染と判定された [ABC(Australian Broadcasting Corporation)2021-12-05]

2021-12-05 19:57 スクリーンショット 2021-12-05 19.55.32
"SARS-CoV-2_Omicron_variant"から,オミクロン株が,アルファ株,デルタ株,およびガンマ株とは独立に発生したことを示唆する樹状図を,右図に引用した.数多くの変異を帯びたオミクロン株がいつどこでどのように発生したかについていくつかの仮説が出されているが,現時点では確定されていない ["Where did ‘weird’ Omicron come from?" Kupferschmidt K. Science 2021-12-01 19:00. https://doi.org/10.1126/science.acx9754].

 なお,WIkipediaでは,感染が判明した国と地域および感染例は42カ国,789例へと改訂されていた.

2021-12-04 21:36 Wikipediaに"
SARS-CoV-2_Omicron_variant"の項が作られていた.2021年11月25日23:42が初稿ですでに1,000回程度更新されているようだ.変異リストもテキストで入手可能.感染が判明した国と地域は,この投稿時点で,40カ国739例とされていた.

2021-12-04 21:36 Wikipediaに"
SARS-CoV-2_Omicron_variant"の項が作られていた.2021年11月25日23:42が初稿ですでに1,000回程度更新されているようだ.変異リストもテキストで入手可能.感染が判明した国と地域は,この投稿時点で,40カ国739例とされている.

2021-12-03 21:09 オミクロンの変異一覧とアノテーション

2021-12-03 21.04.59[出典]"Omicron mutated positions (according to CoVariants list) and annotates some of the mutations with the effects" Anna Bernasconi*, Pietro Pinoli*, Ruba Al Khalaf, Tommaso Alfonsi, Arif Canakoglu, Luca Cilibrasi, and Stefano Ceri. (Department of Electronics, Information, and Bioengineering, Politecnico di Milano, Milan, Italy) https://virological.org/t/report-on-omicron-spike-mutations-on-epitopes-and-immunological-epidemiological-kinetics-effects-from-literature/770 

 ミラノ・ポリテクニックの研究グループが編集した変異の一覧図を右に引用.出典にはアノテーションの根拠となった参考文献も添えられている.

2021-12-03 18:06

1. 南アフリカの状況 [BBC NEWS | Japan. 2021-12-03 https://www.bbc.com/japanese/59514706]

  • 南アフリカの保健当局は2日、新型コロナウイルスの感染で新たな変異株「オミクロン」が同国で主流となり、感染が急速に拡大していると発表した.
  • 1日当たりの新規感染者が約1万1500人に上り、前日の8,500人から急増した.
  • 11月半ばまでの感染報告数は1日当たり平均200~300件であった.
  • 11月にゲノム解析した新型コロナウイルスの70%がオミクロンであった.
  • 現時点では,ワクチンが重症化を抑えているように見えるが,重症化について判断できるのは3~4週間後と見ている.

2. UCSD Amaro研のLoezo Casalinoがオミクロン株スパイクタンパク質の受容体結合部位のモデル図をツイートした.


  • RBDにみられる15ヶ所の変異について,ACE2およびクラス1, 2, 3, 4の抗体との結合に影響する可能性を見てみた.
  • 10ヶ所はRBD内の受容体結合モチーフ (receptor-binding motif, RBM)に位置し,ACE2とクラス1と2の抗体との結合に影響する (注: RBMは中和抗体の主要な標的とされている)
  • G339D変異はクラス3の抗体の結合に影響する.
  • S371L-S373P-S375Fの変異は,クラス4の抗体の潜在性エピトープ認識を障害する.

2021-12-02 22:10 オミクロン株が確認された国と地域について,NHK WEB NEWSは2日21:30時点で29と報道していたが,22:00からのテレビ朝日の報道ステーションはその冒頭で33と報道した.数え直すたびに増えていく感じがする.

2021-12-01 20:50 
オミクロン株の感染が判明した国と地域が22にまでに増えてきたが,国内ではペルー滞在歴があり27日に帰国していた1人が国内2人目のオミクロン感染であることが判明した [NHK WEB NEWS  2021-12-01 16:48  2021-12-01 17:23 ].国内1人目のジンバブエ外交官も国内2人目もワクチン2回接種済みのようであり,イスラエルでは3回接種済みの医師がオミクロンに感染していたと報道されている [The Times of Israel 2021-11-30 18:44].

 海外では,ナイジェリアが,(南アの11月9日採取検体に先んじる)10月に南アからの旅行者から採取していた検体がオミクロンに感染していた発表した.その他の国でも南アの公式報告以前に採取されていた検体からオミクロンが検出されている [REUTERS 2021-12-01 19:22].

2021-12-01  09:33

  1. イタリアのANSAチャネル(2021-11-27)によると,ローマのBaby Jesus Paediatric Hospitalのスクリーンショット 2021-12-01 9.03.44研究グループがオミクロン株とデルタ株のスパイクタンパク質の三次元画像の比較図を公開した [右図参照].オミクロン株に見られるアミノ酸 (残基)変異の多さが一目瞭然である.
  2. BBC NEWSの報道 (2021-11-30)によると,オランダでは28日(日)に南アフリカからの到着便の乗客中の61人が新型コロナウイルスに感染し,そのうち14人がオミクロン株感染と判定されていたが,その後,11月の19日と23日にオランダ採取されていた2検体がオミクロンに感染されていたことが判明した.この2例についてはアフリカ南部への渡航歴があったか否かは現時点では不明.なお,南アフリカにおけるオミコロン株の初の判定は,11月9日に採取された検体であった.
  3. 日本経済新聞の報道 (2021-12-01 05:44更新)によると,日本では感染研でのゲノム解析を経てナミビアから来日したモデルナ製ワクチン接種2回完了のナミビア外交官1人がオミクロン株感染と11月30日に確認された.同行していた家族2名は陰性であったが,同じ飛行機に同乗していた家族2名を含む70名全員を濃厚接触者と認定し,自宅または施設での待機と2日ごとの定期的検査などを求めるとした.[参考: crisp_bio 旅客機内クラスターの発生事例 - 搭乗前陰性判定の乗客からの事例]

2021-11-30 10:47

1. スコットランド,オミクロン株の感染6例を発見し,ワクチン接種の拡大と迅速化へ

 スコットランド自治政府は29日,ラナークシャーで4人、グラスゴー近郊で2人,オミクロン株感染を確認したと発表した.一部の人は外国渡航歴がなく,地元で市中感染した様子としている ["オミクロン株の感染者、英スコットランドでも6人 30日からイングランドで規制強化" BBC MEWS JAPAN 2021-11-29].
 これを受けて,スコットランドでは,18歳以上を対象にブースター接種を開始し,2回目の接種後の待ち時間を6ヶ月から3ヶ月に短縮した.また,12歳から15歳に対しては,第1回接種後3ヶ月後の2回目接種を進めることとした ["Scotland expands vaccine rollout after six Omicron cases found" BBC NEWS 2021-11-30].

2. 南アフリカのラマポーザ大統領日本を批判

 大統領は日本や英国などを名指しし,南アに対する渡航制限を「不当だ」と批判.「新たな変異株を防ぐためにも,先進国は渡航制限でなく,途上国のワクチン接種に協力すべきだ」と主張した (南アフリカでワクチン接種を完了した成人の割合は約35%). [讀賣新聞オンライン 2021-11-29 10:25]

3.中国「アフリカと団結」 ワクチン10億回分提供へ

 29日に開幕した「中国アフリカ協力フォーラム」の閣僚級会議にて、オンライン参加した中国の習近平国家主席は、アフリカ諸国に新型コロナウイルスワクチンを10億回分提供する方針を表明した.6億回分が無償援助で、残りの4億回分は中国企業とアフリカ側が共同生産の形をとる.[三塚聖平 THE SANKEI NEWS 2021-11-29 22:32 ]

 [注] 日本は,入国禁止とセットで,ワクチン提供を申し出る余裕があればよかったのだが. 

2021-11-29 20:45
 オミクロン株への日本政府の対応: 外国人の新規入国を11月30日午前0時から「当面1カ月」禁止とした.日本人についても,帰国してきた国や地域に応じた期間 (10日, 6日, 3日)の指定施設での厳格な隔離措置を実施し,すべての日本人に14日間の待機を求める [REUTERS 2021-11-29 14:15]

2021-11-29 11:15
 国立感染症研究所 (感染研)も28日にオミクロン株をVOCに位置付け

[出典] 感染研 2012-11-28 SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について(第2報)
 感染研は11月26日にオミクロン株をVOI (Variant of Interest/注目すべき変異株)に位置付けたが,国外における情報と国内のリスク評価の更新に基づき,28日にVOC ( Variant of Concern/懸念すべき変異株)に位置付けを変更した [注: WHO以外にも,各国,各地域がそれぞれにVOI, VOCなどの位置付けを判断する].以下は第2報からの抜粋: 

  • 国内でのゲノム配列サーベイランスでは,国内および検疫に由来する検体からはオミクロン株は検出されていない.
  • 南アフリカにおいては,流行株がデルタ株からオミクロン株に急速に置換されオミクロン株の著しい感染・伝播性の高さが懸念される.
  • 香港衛生署衛生防護中心 (Centre for Health Protection, CHP)の発表によると、南アフリカからの帰国者症例がサージカルマスクを着用せずにホテルの部屋のドアを開けた際に、別の1例が感染した可能性があるとしている.
  • オミクロン株の有する変異は、これまでに検出された株の中で最も多様性があり、既存のワクチン効果の著しい低下、及び再感染リスクの増加が強く懸念される
  • 多重変異によるワクチン効果の低下及び再感染の可能性が懸念される
  • 重篤度の変化については、十分な疫学情報がなく不明である
  • オミクロン株の検出は,これまで利用されてきたPCR検査法で可能である.また,アルファ株で見られたS遺伝子が検出されない特徴 (S gene target failure; SGTF)をオミクロン株識別にも利用できる.
  •  [注] 下線はcrisp_bioが施したもの.

 オミクロン株の南アフリカ以外の国々での検出例について,REUTERSは2021-11-29 8:02 AM JSTに,オーストラリア,ベルギー,ボツワナ,英国,デンマーク,ドイツ,香港,イスラエル,イタリア,オランダ (13人確定),フランス,およびカナダと報道した.同時に,「南アフリカで初めて新たな変異株の出現に気付いた医師の1人が,『症状は軽い (mild)』とコメントした」と報道した.

  オミクロン株の命名によって,これまでに命名されたアルファからミューに続く,ニューとクサイの2つが飛ばされたことになるが,「WHOの報道官が『前者は英語の"new"と紛らわしいこと,後者 (Xi)は"一般的な姓である"ことから回避した』と強調した」と報道されている [SANKEI NEWS 2021-11-28 20:54].ギリシャ語のアルファベットはオメガで打ち止めになるが,それまでにVOCが打ち止めになるだろうか.

2021-11-28 19:51
 この週末の間に,英国や欧州各国に続いてオーストラリアでも水際で2名 (アフリカ南部からのドーハ経由便でシドニー到着)の感染が確認された.2名ともにワクチン完全接種済みで無症状であり,27日にSARS-CoV-2陽性判定,ゲノムシーケンシングを経て28日にオミクロン感染が確定した.2名は施設,
その他12名もホテル,にて14日間隔離,残る乗客とクルー (~260名)も随時検査と自主隔離を求められた[*] [REUTERS 2021-11-28 16:54 JST]

[*] 参考: crisp_bio 旅客機内クラスターの発生事例 - 搭乗前陰性判定の乗客からの事例

2021-11-28 15:31 
SARS-CoV-2 B.1.1.529変異株 (オミクロン)の変異の特徴 [*]と,26日から28日にかけての欧州での感染判明事例 [*]出典: 国立感染症研究所「SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統について(第1報)」2021-11-26. 
 国立感染症研究所 (感染研)のWebサイトから「B.1.1.529系統について」の第1項の全文を箇条書きにして以下に引用:

  • B.1.1.529系統は、スパイクタンパク質に32か所の変異を有している。
  • それらの変異のうち、H655Y、N679K、P681HはS1/S2フーリン開裂部位近傍の変異であり、細胞への侵入しやすさに関連する可能性がある
  • nsp6 における 105-107 欠失はアルファ株、ベータ株、ガンマ株、ラムダ株にも存在する変異であり、免疫逃避に寄与する可能性や感染・伝播性を高める可能性がある
  • ヌクレオカプシドタ ンパク質における R203K、G204R 変異はアルファ株、ガンマ株、ラムダ株にも存在し、感染・伝播性 を高める可能性がある
  •  [注] 下線はcrisp_bioが施したもの.

 なお,感染研のWebサイトでは,上記「変異の特徴」に加えて「海外での流行状況と評価」, 「国内での検出状況」および「(オミクロンの)評価」も述べられており,根拠とした「参考文献」のリストも用意されている.

 オミクロンの欧州での感染者事例については,報道によると,26日の欧州初のベルギー (トルコ経由でエジプト旅行) での1名[ロイター 2021-11-27 01:18] に続いて,英国 (南アから) 2名 [BBC NEWS | Japan 2021-11-28],ドイツ (南アから) 2名,イタリア (モザンビークから) 1名,およびチェコ (ナミビアから南ア,ドバイ経由) 1名の感染が判明し[JIJI.COM 2021-11-28 07:46],また,オランダでは,27日の南ア便の乗客600人のうち61人の新型コロナウイルス感染が判明しオミクロン株の可能性が疑われている [JIJI.COM 2021-11-27 20:53].これも報道によると,それぞれ隔離され (自主隔離を含む),行動の追跡調査や立ち寄り先の重点的検査なども進められ,各国内で感染拡大防止措置が取られているようだ.

2021-11-27
 
WHOが南アフリカ初出のB.1.1.529変異株をVOCに指定しオミクロンと命名した 

2021-11-30 10.58.08[右下図のVOC一覧表参照]

 2021年11月26日,WHOのSARS-CoV-2ウイルスの進化に関する技術諮問グループ (Technical Advisory Group on SARS-CoV-2 Virus Evolution, TAG-VE)はSARS-CoV-2 B.1.1.529をVOCに指定すべきと結論し,その助言を受けたWHO は B.1.1.529 をオミクロンと名付けてVOCに指定した [出典 WHO "Tracking SARS-CoV-2 variants" 2021-11-26 更新].

  • B.1.1.529は,2021年11月24日に南アフリカからWHOに初めて報告された.南アフリカではデルタ変異株が優勢であったが,最近の数週間,B.1.1.529の検出に伴って感染者が急増してきた.(南アフリカでB.1.1.529の感染が初めて確認されたのは2021年11月9日に採取された検体であった).
  • B.1.1.529は多数の変異を帯び,その中に懸念される変異が含まれている.予備的ではあるが,他のVOCと比較して再感染のリスクが高まることが示唆されており,南アフリカのほぼすべての州で,B.1.1.529の感染者数が増加しているようである.
  • 現在の SARS-CoV-2 PCR 診断法によってB.1.1.529が検出されているが,いくつかの研究機関から,S遺伝子が検出されないことをマーカーとして使用できるとの報告があった(シークエンシングによる確認待ち).この方法によると,これまでの感染の急増に比べて,B.1.1.529が早いペースで検出されており,増殖に有利である可能性が示唆されている. 

[注1] [注] 本記事は,「新型コロナウイルス:変異株ギリシャ語アルファベット表記の一覧」の記事に書き込んでいたオミクロン変異株に関する一連の投稿を切り出して移行した上で,11月30日から追記し始めた記事となります
[注2] 南アフリカ由来のもうひとつのVOCであるベータ株 (B.1.351系統)については,「crisp_bio 新型コロナウイルス: 南アフリカ由来変異株B.1.351」の記事参照